92話、マグロもどき解体、限界のキンザン
巨大アンコウの血抜きまで終わらせてから、周りに浮かぶ大量のマグロもどき(魚型の魔物)を【食材鑑定】してから、次々に締めて、【ストレージ】に放り込んでいく。
このマグロもどきのサイズもかなり大きく、一匹、一匹が軽自動車かと言いたくなるサイズを前に、俺は深いため息を吐いた。
「ふぅ、すごい数だな……みんな、大丈夫か?」
当然だが、俺一人で全てを行うのは不可能だ。そのため、【ストレージ】に収納して一度、海上に作られた足場までマグロもどきを運び、締めていらない部位(内臓類全て)をカットして“リサイクル袋”に入れていく作業を嫁ちゃん達と行う。
「ニア、凄いな、ボクはこの尻尾を切るのが、なかなか上手くいかないんだけど」
「にゃっふふ〜ん! ニアは、こういう作業が得意にゃ、それより凄いのはミトだにゃ」
ミトは容赦なく、解体の応用でマグロもどきの尾ビレを切断してはナギが俺の元に運んできてくれていた。
そんな作業に[カエルム]の漁師達の参戦があり、全体の八割の作業が終わりマグロもどきもなんとか収納できた頃、俺は凄まじい睡魔に襲われていた。
夕陽に照らされた視界が微かに途切れ始め、足がフラついていく。
やばいな、よくよく考えたら、俺……寝ずに[カエルム]に来たんだった……
俺の意識は突然ブラックアウトする。その寸前に聞こえてきたのは嫁ちゃん達の驚きと叫び声だった。
次に目覚めた時、俺は2号店でもレイラホテルでもない見たことない部屋のベッドの上だった。
目覚めてすぐに周囲を見渡すと、ここが広い部屋だとすぐに理解できた。
物音がして振り向くと、入り口付近にいた人物が俺が目覚めたことに気づいたのか、途端に慌てて部屋から退出したのが分かった。
状況が分からないまま、すぐに俺も出ていった人物が走って行った方向に足を進める。
よくよく部屋を見渡すとあまり趣味のいい部屋とは言えない成金趣味の装飾品が壁にかけられている。
「よくわかんないけど、センスはあんまり感じないな……」
俺が扉に手を伸ばすと同時にドアノブが回され、ゆっくりと扉が開く。
開いた扉の先にはメフィスとその部下達の姿があり、メフィスは笑うでも怒るでもなく、真顔で少し冷たい視線を俺に向けてきていた。
10秒にも満たない沈黙が気まずさを感じさせる。
そんな胃がキリキリしてしまいそうな沈黙を破ったのはメフィスの部下だった。
「メ、メフィス様、なにか言ってさしあげねば……相手も困っているかと……」
「わかっています。ただ、なにから聞くべきかを悩んでいただけです」
俺の目の前で平然と語られる内容に俺は笑っていいのか分からず、必死に堪えることになった。
メフィスに淡々と注意するような部下と本音を全て話すメフィスのやり取りは本当に面白かった。
「はぁ、待たせましたねぇ、まずは魔物討伐において、貴方は褒美を国王陛下の名のもとに贈られることになります」
突然始まった報告に俺がポカンとしていると、メフィスの口角がピクピクと動き出す。
「それと、貴方が討伐した魔物は本来はもっと甚大な被害を与える存在だったことも調べがついています。それに関しても、国王陛下より、感謝のお言葉があるのですよ!」
話を聞いても実感が持てず、少し困った表情を浮かべていた俺にメフィスが我慢の限界だったのか、笑いながら苛立ちを顕にする。
「貴方……わかってないのですかねぇ……偉大なる国王陛下が、平民であり、無名の冒険者である貴方に、直接、感謝したいと言っておられるのです……」
「そうなんだな……でも、俺には似合わないから、遠慮するよ」
俺がそう言い終わった瞬間、メフィスが本気で俺に対して殺意を向けてきているのが理解できた。
「あ、貴方という方は……普通に考えて、いえ、考えるまでもなく分かりますよね! いえ、分からなくてはならないんですよ!」
メフィスの様子を見ていた部下達が慌てて駆け寄り、抑さえながら一斉に声を上げる。
「メフィス様、落ち着いてください!」
「ダメですよ、メフィス様、抑えてください!」
「おい! アンタも考えて発言してくれ! メフィス様、ダメです! お願いしますから!」
「離しなさぁぁぁぁい! さすがに赦せません! 我輩が直接、国王陛下について教えるしかないでしょうがァッ!」
「メフィス様、発言に対して、手に集めてる魔力量が合ってませんよ! そんな魔力込めて、なにする気ですか!」
「決まっているでしょう! こいつに教育的指導をするんですよ! 国王陛下の偉大さをその身にしっかりと分からせるのですよ!」
メフィスの部下達が必死に止めてくれたおかげでなんとか怒りが収まったが、あのままだったら、俺がメフィスの手で三枚におろされていたかもしれないと思うと笑えないな。
一旦、メフィスを部下の皆さんに落ち着かせてもらい、俺はその間に他の部下さんになにがあったのかを確認していく。
「悪いんだが、俺が気絶してからの話を聞かせてもらえないか?」
「は! キンザン殿が気を失って、すぐにメフィス様が、指示を出しまして、この屋敷に運ばせていただきました!」
「ここはメフィスの屋敷なのか? それと俺の嫁、いや、妻達はどこにいるか分かるか」
「はい、この屋敷はメフィス様の屋敷ではなく、元ドゥム子爵邸であります! キンザン殿の奥方様方は別室にて待機しております」
嫁ちゃん達は無事だとわかって安堵した俺にそのまま話し続ける部下さん。
「ですが、まだキンザン殿が目覚めた事実は伝えておりません!」
「いや、教えて来てほしいんだが、それにすぐにでも会って、嫁ちゃん達の顔を見たいんだが?」
俺の言葉に困った表情を浮かべた部下さんが必死に説得されているメフィスをチラッと見る。
「申し訳ありません。メフィス様がこれほどに、他人に執着することは珍しく、むしろ、殿下以外に今まで無かったため、我々も困惑していると言いますか……」
軽く同情しながら、俺はメフィスを見ると軽く諦めたような表情が目に入ってきた。
「皆さんも大変なんですね、なんかすみません……」
「いえ、これも仕事ですから……なんとかメフィス様を説得しますので、もうしばらくお待ちください……」
深々と頭を下げられて、俺は再度、その場で待つことになった。
10数分後、メフィスと部下達が俺の元にやってくる。
「はぁ……話が決まりました。とりあえず、貴方の不敬な態度は見逃す形にさせていただきます……ですが、国王陛下への謁見は絶対にしていただきますので、そのつもりでいてください!」
腑に落ちないといった態度だったが、それでも立場を考えての行動なのだろうと思い、俺も曖昧な返事をしていたことを謝罪する。
「いや、俺も悪かったよ。メフィスの立場も考えずに断ったりして悪かったな」
「我輩の立場ですかぁ、そうですねぇ……それが本心なら本当に嬉しいのですが、立場を考えた結果が、その口調ですか?」
メフィスが笑う、笑っているが明らかに残念そうな表情を浮かべていた。
「えっと、大変申し訳ございませんでした。今回の一件に関しては深く感謝しております。メフィス様の恩情と慈悲には感謝の気持ちしかありません」
そう言い頭を深く下げた瞬間、メフィスからいきなり下げた頭を下から手を入れられて上に戻される。
「何ですか、その気持ち悪い態度は? 我輩を怒らせたいのですかぁ、馬鹿にしているのですかぁぁぁぁ?」
メフィスのキレた顔は下手なヤクザよりずっと恐ろしかった。インテリヤクザさんがキレたような表情に冷や汗が流れ出す。
「いいですかぁぁぁぁ! 我輩は貴方という人間が気に入っているからこそ、許せているのですよ! そんな凡人が浅はかに考えたような馬鹿げた言葉など不快以外の何者でもありません!」
メフィスの言葉に改めて自分が浅はかだったことを自覚する。
ただ、少し理不尽だとも感じてしまったのは、俺の心の中にしまって、口にはしない。
口にしたら、さらに事態をややこしくしそうだしな……
「すまなかった。俺の知る一番上の立場の人間に使う言葉を選んだつもりが、逆に不快にさせる結果になっちまったみたいで……ただ、馬鹿にするつもりは無かったんだ」
心から謝罪を口にして頭を下げようとした瞬間、下げる前に額に指があてられ、頭を下げることを止められた。
「わかってます。だからこそ、謝るのではなく、真っ直ぐな言葉で語りなさい!」
「でも、それだと──」
俺が喋り終わる前にメフィスが声を少し大きくして話を続けていく。
「我輩は曖昧な偽善や偽りの感謝なんかよりも、失礼で常識のない言葉を好みます。この意味が分かりますね? 分からないなら、わかるまで頭に叩き込みますが」
俺はメフィスという人間が少し理解できた気がした。
「それで、なんで残念そうな表情をしたか教えてもらってもいいですか?」
「残念そうな表情? はて、そういうことですか……我輩の顔色を見て、あの口調ですか……」
メフィスは一度「はぁ……」とため息を吐くと、説明をしてくれた。
「貴方が国王陛下に謁見すると話してからも態度が変わらないから心配になったのですよ、まさか、我輩にあんな風な口調をするとは……まったく」
俺はメフィスの優しさを知って、軽く笑ってしまった。
その後、改めて嫁ちゃん達に俺が目覚めたことを報告してきてもらい俺は安堵した。
メフィスからは色々と質問をされることになる。
巨大アンコウとマグロもどきをどう倒したのか、どこで倒し方を知ったのかなど、結果的に長々と質問攻めにされることになった。
結局、嫁ちゃん達に再会できたのは目覚めてからだいぶ時間が経ってしまってからのことになり、外を見れば既に夜になってしまっていた。
俺に抱きついて泣き出す嫁ちゃん達に本当に心配をかけたことを謝りながら、全員の頭を撫でていく。
そんな俺の視界にメフィスと話すフライちゃんの姿が入ってくる。
二人は知り合いなのだろうか……少し気になったが、俺は泣きながら心配してくれる嫁ちゃん達を宥めつつ、今できる限りの感謝を伝えることにした。
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