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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
5章 砂漠の街オアシス都市 [ガルド・ゼデール]上

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90話、料理人の目線、キンザンの閃き

 叫ばれる悲鳴、しかし、それは俺やメフィスに向けられたものでも、ドゥム子爵に向けられたものでもなかった。


 民衆の叫び声が向けられた先へ俺とメフィスが視線を向ける。


 海の先に突如として空を覆うように広がる黒雲、俺は黒雲の下に眩い光を放つ球体が海面から見えていることに気づく。

 光を放つ球体を取り囲むように無数の魚型の魔物達が飛び跳ねながら群れを成している。


 俺は自分の目を疑い、再度、海を凝視する。

 メフィスも同様に、ドゥム子爵よりも海に現れた謎の存在に対して興味が湧いたのか、振り上げたバトルアックスを海に向ける。


「なんですかねぇ……これほどまでに予定を狂わせられる日はいつぶりでしょうかねぇ……ドゥム子爵の処分は保留としましょう──今はあの身の程知らずの有象無象を処分すると致しましょうかッ!」


 煮え切らない怒りの矛先を海に向けるようにしてメフィスが睨みつける。


 そんな異常事態に嫁ちゃん達が俺の傍に駆け寄り、メフィスから俺の身体を遠ざける。


「オッサン、大丈夫か!」

「キンザン〜心配したにゃ〜!」


 俺はいきなり飛びついてきた嫁ちゃん達の勢いに驚きながらも、緊張感が途切れたようにホッとした気持ちに包まれた。


 そんな俺の表情を見て、メフィスが軽く声を掛けてきた。


「先程までの顔が嘘みたいに緩んでおりますなぁ……勝利を祝う美しい光景ですが、悪いですなぁ……アレを相手したいのでこの場から立ち去っていただいてもらって構わないでしょうか?」


 

 メフィスはそう呟きながら、自身の部下に指示を出していく。


「何を突っ立っているのですかぁ! 民を避難させなさい! 砂浜から海岸に掛けて民を遠ざけなさい、絶対に近づけないように、すぐに動きなさい!」


 咄嗟のことに俺も慌てて立ち上がるとすぐにメフィスから声を掛けられた。


「なにをしているのですかねぇ? 貴方も愛する者を連れてすぐに退避しなさい。ここからは民を護る軍人の仕事であり、即ち貴族の務めなのですからねぇ」


 嫁ちゃん達に視線を向ける。しかし、嫁ちゃん達は強い瞳で俺を見つめていた。


 何となく俺の考えがわかるんだろうな。


「俺の名前はキンザンだ……」


「ん? なんですかねぇ、今、貴方の名前を知る意味が分かりませんなぁ? くだらない会話は時間が惜しいので、早々に退避しなさい」


「メフィスさん、アンタ、魚を捕まえたり捌いたことあるか?」


 突然の質問に呆れたような視線を向けてくるメフィス。


「時間の無駄ですなぁ……これ以上、邪魔をすれば、反逆者扱いで罰を与えねばならなくなりますなぁ、理解したなら指示に従いなさい!」


 俺の話を聞かず、避難誘導を終わらせた兵を連れて海の魔物に対して攻撃を仕掛けるために海岸に横並びとなり魔法を行使する。


 風魔法であろう、カマイタチのような鋭い風の刃が光る球体に目掛けて発動されていく。


 黒雲の下まで、空気の歪みが伸びた瞬間、魚型の魔物達が球体を中心に大きな渦を作るように高速で回転すると海水が壁を形成するように渦に合わせて迫り上がっていく。


「生意気ですねぇ、ただ、その程度で我輩の攻撃をすべて防ぐのは不可能ですなァ!」


 メフィスの凄まじい風の刃が連続して、海水の防壁を突き破りながら球体に向かって打ち出されていく。

 しかし、俺は防壁を突破したにもかかわらず、球体に何のダメージも与えられていない事実に違和感を感じ、すぐに調理用ゴーグルを付けて、防壁の内側に目を凝らす。


 海水の防壁の内側には無数の魚型モンスター達がおり、水鉄砲のように海水を勢いよく発射している。

 

 そのためだろうか、海水に風の刃が威力を削がれ、最後はなにも無かったかのように球体にダメージを与えることができなくなっている。


 俺のゴーグル越しに確認できた魚型の魔物に俺はある考えを思いつく。


 だが、提案してもメフィスは聞かないだろうことは見ていて容易に想像できた。


「忌々しいですなぁ! アナタ達、もっと早く攻撃しなさい! いきますよォッ!」


 メフィスの指示に部下達がさらに魔力を練り込んで詠唱を開始する。

 しかし、俺は別の方法を考えていたため、考えを嫁ちゃん達に話していく。


「何をする気なんだよ! あの不気味野郎の魔法も無駄なのによ?」


「そうなの、すごい威力なのに全然ダメみたいなの!」


 ミトとドーナの言葉に俺も軽く納得しつつ、自分の考えを伝えていく。


「俺は料理人として戦うつもりだ。そのために皆の力を全力で貸してほしいんだ」


 真顔で嫁ちゃん達に頼むとミアが最初に笑いかけてくれた。


「当たり前じゃんかよ。ボク達はオッサンのためならなんだってやれるんだからさ。むしろ、頼れよな」


「そうにゃ! キンザンのためになんでもする覚悟にゃ、それにキンザンを信じて間違えたことないにゃ」


 俺はそんなミアとニアの言葉に感謝と勇気を貰うと悩むことを辞めた。


「今から使うのは増粘剤投入キサンタンガムっていう、料理に使うためのもんなんだが……それをあの黒雲までぶん投げてほしいんだ」


 俺の言葉に分からないと言った表情を浮かべる嫁ちゃん達、俺は現物を“買い物袋”から取り出していく。


「この袋を大量に投げ込んで欲しいんだ」


 俺が取り出した紙袋には真っ白い粉が大量に入っている。


「なんか、小麦粉みたいだにゃ?」


「味見してみるか?」


「食べれるのかにゃ?」


 ニアが興味を示したので、本当にごくわずかな粉を舐めさせる。


「はにゃ! ベロがベタっとするにゃーーー」


 キサンタンガムは、食品にとろみをつけるために使う、片栗粉との違いは、キサンタンガムは冷水にもとろみをつけられる。

 しっかり混ぜないとならないが、あの回転してる魚型の魔物が俺の思う魚と同じ体内構造なら、絶対に止まらないはずだ。


 かなり距離があるため、俺の【身体強化】と【リミットカット】でも数キロを投げ込むのが限界だろうが、俺の嫁ちゃん達は俺よりも身体能力が高い。


 嫁ちゃん達がいれば絶対に上手くいくはずだ!


「悪いな、少し俺のわがままに付き合ってくれ、みんな」


 水に完全に溶かすため、俺は釣りの撒き餌に使う“撒き餌袋”にキサンタンガムを入れる作業を嫁ちゃん達と急ぎ行っていく。


 それを見ていたレイラが話しかけてくる。


「アタシも手伝うよ! アタシのスキルなら、すぐにできるからね。スキル【アシスタントワーカー】発動!」


 レイラのスキルが発動された途端、複数人の人影が現れる。

 レイラホテルの従業員達だとすぐに気づき、さすがに驚いたが、質問をするより先に作業を進めていく。


 大量のキサンタンガムの入った撒き餌袋が完成すると俺達は全力でそれを黒雲にめがけて飛ばしていく。


 ミア、ナギ、ミトの投げた袋が勢いよく海面へと落下していく。


 その光景に、メフィスが俺達に質問してくる。


「何をしているのです! 早く立ち去りなさいと言ったはずです! クっ、本当に思い通りにならない日ですよ、まったく!」


 俺はあることを思い出して、メフィスに質問をする。


「なあ、アンタ! さっきリング作ったみたいに海底から道を作れないか! もしくは足場でもいいんだ!」


「いきなりなんですか! しかも、我輩になんて口の聞き方を!」


「頼む! できるかできないかを教えてくれ!」


 眉間に軽くしわを寄せるメフィスだったが、俺を見てしっかりと「可能ですよ!」と答えた。


「考えがあるんだ! 頼む、足場を作ってくれないか!」


「考えですかぁ? ふん、生意気ですねぇ、ですが、我々も手詰まりでしてなぁ、丁度、直接攻撃を考えていました! いいでしょう、貴方の考えに乗って差し上げましょう」


「アナタ達、時間を稼ぎなさい、攻撃を継続、我輩が再度、攻撃再開までで構いません。できますね」


「はい、お任せください!」


 部下の返事を聞いてからすぐに、メフィスは指先を軽く弾く、砂浜が揺れ、大量の砂が浮かび上がり、巨大な柱のような砂の塊が形成されていく。

 圧縮された砂が巨大な石のようにすら見え、海面に並ぶそれは、まるで海に浮かぶ橋のようだった。


 俺はメフィスに感謝しながら、ナギに無理な願いを口にする。


「ナギ、わりぃ、俺を連れて黒雲近くの足場まで行ってもらえないか!」


「わかった、やる! マイマスター」


 俺は大量のキサンタンガムが入った撒き餌袋を【ストレージ】に入れるとすぐにナギにしがみつくと海上を移動していく。


 メフィスの作り出した足場を使いナギが高速で動き、次第に黒雲に近づくと俺は【身体強化】と【リミットカット】【自己再生】を発動しながらキサンタンガムを入れた撒き餌袋を大量に投げつけていく。


 数十キロのキサンタンガムが海水に投入され、それを魚型の魔物達が泳ぎながら掻き回していく。


 そして、それは起こった。


 海水に粘りが生まれ、まるで水あめのように変化していく。


 俺の考えが成功した瞬間、さらにもう一つの考えも当たっていたことを理解した。


 身体に纏わりつくようになった海水に動きを制限され始めた魚型の魔物達が苦しみだし、次第に動きが弱まり、その場で痙攣し出すのが分かる。


 奴らは“マグロ”だ。姿を見て、すぐにピンッときた。

 マグロは泳ぎ続けないと生きられない魚であり、近くで【食材鑑定】をした結果もマグロとして扱われている。


 とろみのついた海水の中じゃ、息もできないだろうし、身体の構造的にも呼吸はまず無理だろな、可哀想にすら感じるが仕方ないな。


「よし、ナギ! 作戦は成功だ!」


 俺は作戦がうまくいった事実を喜び、ナギに笑いかける。ここからが最後の仕上げだ!

読んでくださり感謝いたします。

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