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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
5章 砂漠の街オアシス都市 [ガルド・ゼデール]上

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87話、欲張り貴族とヤバい奴、その名はメフィス

 男はレイラを見てから、鼻で笑うとすぐに本題に入り出した。


「非常事態なのですよ。そのため、貴様のホテルには蓄えがしっかりとある。だからこそ、食材を我々にすべて管理させてほしいのですよ。非常事態の混乱の中で、私的に蓄えるのは混乱を招きかねませんからなぁ」


 その場にいた民衆がざわめく。

 当然だろう、いきなり貴族がやってきて、民間の宿から食糧を奪うなんてありえない話だ。


「これは“保護”です。この場にいる方、全員のためでもあるのですよ?」


 男は堂々と、さも正義であるかのように言い放った。


「公平を期すため、分配の基準は我々で決めさせていただきます。すべての人に、行き渡らせるためにね。

 ……あとは、レイラさんの“善意”次第です。まさか、自分たちだけのために隠すような真似は……されませんよね?」


 男の口元に浮かんだ笑みは、まるで勝利を確信した将のようだった。

 その言葉に、レイラは一瞬だけ眉をひそめる。

 だが、言い返せば信用を失いホテルも守れなくなることを彼女は理解していたように見える。

 悔しそうに唇を噛み締めるレイラ。


 俺はそこまで我慢したが、話を聞いて苛立ちを抑えられずに声をあげた。


「支払いはどうするんだ? まさか、非常事態だから払わずに奪うような真似はしないよな」


「いきなり何だね? 今はホテルのオーナーであるレイラさんと話しているのだがね」


 不快そうな表情を見繕ったような歪な笑みに俺は過去のブラック企業の取引先を思い出し、さらに怒りが増していく。


「聞いてたら、まるで火事場泥棒みたいで、本当に不思議ですね。で、いくらで買い取るんですか?」


「貴様! 非常事態だと何度も!」


「管理ってのは、責任と対価を背負って初めて成り立つもんだ。タダで預かって好きに配るってのは、泥棒の言い訳にしか聞こえねぇな。アンタが管理するなら、すべて買い占めてからやれ」


「不敬な! 貴様、我々は貴族なのだぞ!」


「貴族だからこそ、しっかりしないと信用を失いますよ? そんなことも理解できないのでしょうか?」


「だ、ダメだッ! 父様、あ、あ……」


 ナンパ貴族が声を出した瞬間、俺の身体に僅かな痛みが走った。


 俺の言葉に我慢の限界を迎えたのだろう、男は手にしていた杖で俺を1発殴ったのだ。


 その瞬間、警備兵団のブルーノが到着し、すぐに俺と貴族男の間に割って入る。


「ドゥム子爵、なんてことを……ご自身がなにをされたか、ご理解しているのですか……」


 ブルーノは深刻な表情で震えながら声をかける。


「貴様も無礼な! たかが警備兵風情が、意見する気か!」


「わかってらっしゃらないようですね……クっ、今、あなたが行った行為は、()()()に決闘を申し込んだことに他ならないんですよ!」


「な、馬鹿な……こいつは料理人のはずだ! 一般人に何をしても決闘になどなるか!」


「わかってないようですが、フライデーは冒険者パーティーで、しかも、正式な冒険者クランです! 所属都市[バリオン]に確認していますので間違いありませんよ!」


 慌てる貴族男の反応に俺が不思議な顔をしているとレイラが横にきて説明をしてくれた。


「これは[カエルム]独自の決まりなんだ……富や権力は時として善人すら狂わす、だからこそ、間違った力に対して民も戦えるように制定された[カエルム]の法なんだ」


 貴族と平民なら、なんら問題ない行動だったが、貴族と冒険者になれば話は違ってくる。


 冒険者相手には、口と権力で戦うのが貴族の基本であり、暗黙のルールであった。

 貴族と冒険者の場合、貴族から手を出した場合のみ、決闘が許されている。


 逆にそうでない場合、つまり、冒険者から手を出せば罪になる。しかし、貴族から手を出した場合は貴族が勝つことを前提に動いているため、決闘という形で勝敗をつけることになっている。


 無論、決闘を挑む挑まないは冒険者側の選択になり、決闘を選ばれた場合は貴族に拒否権は存在しない。


 俺は話を聞いて、ゆっくりと貴族男に近づいていく。


「話はわかった。なら、全てを賭けてやり合おうじゃないか」


 強気な口調で俺は話していく。ただ、この全てを賭けてって表現は、対象を決めていない事実が一番大切だ。

 相手の思う全てと俺の口にした全ては別物になるだろう。


 早い話、俺が賭けるのは食材だ。ただ、相手がなにを対象に全て賭けるかは、正直分からないがな。


「な、生意気な! だ、誰がそんなものを受けるか!」


 貴族男、ドゥム子爵はそう言い放ったが、ブルーノを始め、レイラや他の民衆の前で始めた行為にそれは許されるはずがなかった。


「そうなりますと、ドゥム子爵……戦わずして、決闘に敗北、さらに相手が求めた全てのものを差し出すことになりますよ……」


 ブルーノが力なく呟いた。


「ふざけるな! こんなものは無効だ!」


 ドゥム子爵が声を上げ、苛立ちを顕にした瞬間、落ち着いた男性の声が俺の背後から聞こえてきた。


「それはいけませんなぁ……仮にも国王陛下から任された土地の絶対の掟を無下にする気ですかな?」


 声の主に対して、ブルーノと部下達が即座に膝をつき、頭を深く下げた。


 そこには大きなシルクハットから見える薄紫色の髪、心の中すら見通してしまうんじゃないかと思わせるような赤黒い瞳、すべてが異様、そんな雰囲気に包まれた長身の男が立っていた。

 真っ黒な軍服に真っ赤なマントを身につけ、胸には無数の勲章を思わせるバッジが付けられている。


 俺も民衆もわけが分からずに声の主に視線を向けようとした瞬間、レイラが俺の後頭部を手で押さえるように上から下に力を込め、片膝をつかされる。


「おい?」

「シー、静かにして……服の紋章、アレは……王国の人間よ……しかも、かなり上のね」


 声の主は、レイラの言葉が聞こえたのか、俺達の前で足を止めた。


「おや、知ってる方がいらっしゃるのですねぇ。警備兵団の皆さんはともかく、こんなお嬢さんにまで知られているとは、嬉しいかぎりですなぁ……さて、本題ですねぇ?」


 軽く手を“パンッ”と叩いた。


 それに対して僅かに頭をあげた瞬間、屈託のない笑みを浮かべた声の主と視線が重なった。


「おやおや、見たがりな方もいるようですなぁ? 好奇心が命を縮めるといった昔話がありましたが……ですが! アナタは当事者だ! ならば、見る権利と知る権利があ〜る!」


 少し演技じみた言い方だったが、それでも圧倒的な威圧感が俺の背筋に冷たい物を感じさせていく。


「ああっと、失礼。我輩としたことが興奮して、自己紹介を忘れてしまっていたねぇ、うっかりにして、失礼の極みでしたなぁ……楽しい場面で我を忘れるのは我輩の悪い癖でしてなぁ」


 ドゥム子爵が自分を無視されている事実に苛立ちを隠せなくなっていく。


 そんなことを気に素振りもなく、声の主による自己紹介が開始されると民衆の視線が一気に集中する。


「──改めて、我輩はメフィス・フェレ、このバッカス大陸を統治する偉大なる国王陛下に仕える特別監査大隊の任を仰せつかっている存在になります。お分かり頂けましたでしょうかねぇ?」


 その場の全てを支配するような異様な緊張感と静まり返った空気、自身の鼓動の音が耳に響く感覚、恐怖と言うよりも狂気を思わせる感覚が押し寄せてくる。


「いやですなぁ、皆さん……そんなに緊張されては、我輩が喋りづらいではないですか……さぁ、本題を語り合い、解決しようじゃないか……そうだろう……ドゥム・ティルキオ子爵?」


 俺を見つめていた首が一瞬でドゥム子爵側に向き、明らかに俺に向けていたものとは異なる視線になっていた。


 蛇と蛙の睨み合いというよりは、完全なる捕食者と手出しすら許されぬ獲物のようにすら見える。


「……ッ! はい、メフィス様のおっしゃるとおりかと、話し合いで解決するのが一番ですな……私側の考えと彼らで、なにか誤解もあるようですし、ははは」


「ほう? 誤解ですか……うーん、不思議ですねぇ……どう見ても、まぁ……いいでしょう、ですが貴族の話し合いは元来、剣による物が好ましい! そうですなぁ、ドゥム・ティルキオ子爵?」


 フルネームを呼ばれるたびに、ドゥム子爵は苦虫を噛み潰したような表情を塗り潰すような笑みを作っている。


 そんな俺の疑問を解決したのは、レイラの呟きだった。


「明らかな、茶番……」

「どういうことだ?」


 なるべく小声で質問していく。


「貴族にも序列があるのよ……上位貴族に……下級貴族が反論できるはずがないのよ……」


 そんな会話に反応したように再度、こちらに視線を戻したメフィスがニッコリと口角をつり上げる。


「本当に物知りですねぇ、実に素晴らしい!」


 両手を広げて喜びを顕にするとメフィスは真剣な眼差しを向けてくる。


「な・の・で・しっかりとやり合ってくださぁぁぁいッ! 決闘は我輩が見届け人を務めてあげようじゃないか……さぁ、構えたまえ、素敵なショータイムです!」

読んでくださり感謝いたします。

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