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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
5章 砂漠の街オアシス都市 [ガルド・ゼデール]上

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86話、[カエルム]の危機、キンザンの覚悟

 [バリオン]での一日が終わりを迎え、俺は片付けを手早く済ませると、嫁ちゃん達の様子を確認する。


 疲れ果てて眠っている姿に軽く微笑み、砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]に向かうのは明日にしようと決めた。


 皆が眠る姿を見ながら、少し離れた位置で煙草に火をつける。

 小窓を僅かに開き、煙を吐き出していく。


「小さな幸せが大きくなったな……」そんな黄昏にも似た時間を楽しんでいると、地下からガタンと音がしたことに気づき、慌てて地下室に向かう。


 そこには[カエルム]の2号店を任せていた狐人族のコンと兎人族のミミの姿があった。


「何事だ、なんで2人がいるんだ? 何があったんだ?」


 慌てた様子で俺に掴みかかるコンとミミ。


「大変なんすよ! [カエルム]に嵐が来て」

「そうそう、大変なんです、だからきたんです」


「わかったから、とりあえずいっぺんに喋るなって!」


 そこからはコンが説明をしてくれた。


「最初はただの嵐だったんっすよ、それが次第に勢いが増して、海岸沿いは酷い被害で……」


「話はわかったが、何のために来たんだ、怪我人が出たのか? なんか足りないのか」


「はい、申し訳ないっす……本来、オーナーに頼むのは違うのはわかってるんですが、街の貴族達が動いてくれないんっすよ……」


 コンが下を向いて拳をぐっと握る。


「わかったよ。まずは現状を知りたいから、見に行くぞ。悪いがミミは嫁ちゃん達が起きたら連れて来てくれるか」


 いきなり言われた俺の言葉に自分を指さすミミ。


「え、アタシが!」


「悪いっすが頼むっすよ。すみません。オーナー、行くっす」


 ミミに嫁ちゃん達のことを任せて、俺は急ぎコンと[カエルム]に向かう。


 店に到着すると、凄まじい突風が顔を直撃する。


「うわ、なんだこれ!」


 視線の先には必死に壊れた扉を押さえるダインの姿があり、俺はすぐに加勢に向かう。


 扉を動かないようにダインの足元に転がる(かんぬき)を持ち上げる。


「ダインっ! 一気に扉を押し込め!」

「オ、オーナー! わ、わかっただ!」


 ダインの必死のひと押しに俺が(かんぬき)をかける。

 歪んではいるが、扉が押さえられることで僅かな落ち着きが店内に広がっていく。


「ハアハア、ダイン、ガルダ達はどこだ……姿が見えないが」


「あ、へい、三ツ目族の3人はクランハウスに先に帰らせてます。ガルダは止めたんだども、孤児院に向かっちまいました」


 マジかよ……こんな悪天候に──はぁ、しゃあない、覚悟決めるか……


「悪い、今から木材を出すから、そいつを窓に打ちつけといてくれ」


「え、どういうことですかい? あ、キンザンオーナー!」


 窓を開き、突風が吹き込む中、俺は外に飛び出していく。

 外に出た俺はすぐに【ストレージ】から竜切り包丁を取り出し、さらに“買い物袋”から調理用ゴーグルを取り出していく。

 ゴーグルを装備してからしっかりと竜切り包丁を握り、手と竜切り包丁をグッと縄で縛り、身体にあまった縄を巻き付けてキツく結びつける。


 竜切り包丁は何百キロもある普通じゃ使えないような代物であり、俺も【調理器具マスター】がなければ操ることができない。


 だが、今はそのお陰で突風すら余裕で進んでいける。

 そして、【調理器具マスター】の力で調理用ゴーグルが俺の視界をクリアにしてくれている。


 準備を済ませてから、急ぎ孤児院を目指して進む。

 風の強さを考えると孤児院そのものが心配になっちまうな。


 絶望的な想像が頭を過ぎる最中、次第に見えてくる孤児院は屋根が吹き飛びそうになっている。

 今にも建物が倒壊するんじゃないかと心配になるほどだった。


「くそ、みんな無事か!」


 俺が辿り着いた時、玄関の扉が吹き飛ばされており、奥の調理場に震えながらガルダとシスターフィーネに抱きついているサチ達の姿が見えた。


 すぐに俺は皆の元に駆け寄る。

 ギシギシと床が軋む音がするが、今回は気にしてられない。


「ガルダ! みんなも無事か」

「ダ、ダンナ! なんで」


「おじちゃん、うわぁぁぁん」

「泣くなよ、サチ、皆も大丈夫だからな。よく頑張ったな」


「キンザンさん、来てくださったことには感謝しますが、さすがに、どうしようもないですよ」


 シスターフィーネが諦めたような表情を浮かべながら外を見つめる。


 俺は本来は使いたくなかった最終手段を使うことを決める。


「俺に考えがある……ただ、本当に危険な賭けになるから、覚悟してくれ」


 俺の言葉にシスターフィーネは残った方がいいのではないかと意見を口にしたが、既に屋根も建物も限界を迎えているため、却下させてもらった。


 そして、俺は外に出ると“買い物袋”から巨大なキッチンカーを取り出していく。


 遠い昔の夢、キッチンカー──こいつで店をしながら走るのが、俺の夢だった。


「なんすか、その化け物!」

「ガルダ! 失礼だろうが、こいつはキッチンカーだぞ!」


「いや、マジに分からないんですが……どうしたらいいんですか!」


 俺は急ぎ扉を開けて車内に皆を乗せるように指示を出す。


「急げ、思ったよりやばいぞ!」


 ガルダと共に子供達を次々に車内に乗せ、シスターフィーネとガルダが最後に乗り込むと同時に俺はアクセルを踏み込む。


 それと同時に孤児院の屋根が吹き飛び、引っ張られるように孤児院が倒壊していく。

 その光景は車内からは見えないが、サイドミラーから確認して俺は背筋がゾッとした。


「ダ、ダンナ! すごい揺れますし、かなり危ないというか!」


「悪いな! 俺は運転が下手すぎて、すぐにこいつを手放したんだ! 今は我慢してくれ」


「うんてんってなんなんだ! 操るならもう少し、上手く、うわぁぁぁ、ダンナ!」


「もう少しだから、我慢しろ! 喋ると舌噛むぞ」


 10年ぶりの運転、学生時代からの貯金をはたいて買った過去の夢と、運転技術が無いために儚く散った夢、後悔した時期もあったが、今はありがたいしかない。


「よしゃ! もう少しだ!」


 俺達は無事に2号店まで辿り着くと、すぐに車を2号店の窓横に停車させて、窓をダインに開けさせる。


「ダイン、手伝ってくれ!」


 ダインが子供達を抱えて中に入れていき、俺とガルダ以外の全員が店内に避難することができた。


「ガルダ、俺達も中に入るぞ!」


 その瞬間、凄まじく強い突風が吹き、店の横に生えていた巨大な木がキッチンカーに直撃する。


「なぁぁぁ!」

「な、危ねぇ、ダンナのキッチンカーがなかったら、店に直撃でしたね……ダンナ?」


「ああ、そうだな、とりあえず、あの木とキッチンカーを【ストレージ】に収納するよ」


 久しぶりのキッチンカーは一時間もせずに廃車確定になっちまったが、皆が無事でよかった。そう考えることに決めた。


 俺は涙を雨のせいにしてから、ガルダと共に中に避難する。


 店内は怯える子供達の声で非常にマズイ状態だった。


 しかし、女神は俺達を見捨てなかった。


「きんざんさん。大丈夫ですか!」

 転送陣からフライちゃんが姿を現すとそれに続いて嫁ちゃん達がやってくる。


「みんな、すまん。とんでもない状況なんだ」


「みたいですね。大丈夫ですよ。女神としてこの天候には、大人しくしてもらいます!」


 フライちゃんがすぐに外に向かったので、俺も一緒に外へと向かう。

 酷い突風にフライちゃんの体が吹き飛ばされそうになるのを俺が支え、さらにナギが俺とフライちゃんを尻尾で包み込む。


「ナギ、ありがとうな」

「うん、マイマスターとフライのため、頑張る」


 フライちゃんが空に向けて手を伸ばす。

 光の柱が天に伸びた瞬間、雲が弾け飛び、暗闇に包まれていた空に光が溢れ出す。


「ハアハア、やりました。本当はルール違反ですが、今回は非常事態ですからね、ハア、ハア……」


 凄まじい疲労感を感じ取り、フライちゃんの身体を優しく抱きとめる。


「フライちゃん、ありがとうな。本当に助かったよ」

「私はきんざんさんの妻ですからね、夫が困ってたら助けるのが役目ですから、女神としてはダメなんですけどね」


「それでも、本当に感謝してるよ。ありがとう、フライちゃん」

「はい」っと笑うフライちゃんに再度感謝しつつ、周囲を確認する。


「酷い状況だな……警備兵団のブルーノ達は無事なのか」


 俺は色々と心配しながらも2号店の中にある壊れた家具などを“リサイクル袋”に入れていく。


 ひと段落してから一度、濡れた服を着替えていくことにする。


 残念ながら予備の服は屋敷に置いてあるため、【ストレージ】の中にあった調理の際に使う白の長袖と黒のズボンに着替えていく。


「厨房以外で着ることになるとはな、ただ、入れといて助かったな……レイラのやつも大丈夫か」


 心配になり、一度、レイラホテルにも確認に向かう。

 レイラホテルの周りには凄い人数の人が集まっていることに気づき驚かされた。

 見た感じ、レイラホテルから出てきているようだった。

 そして何より、聞こえてくる声は感謝のものばかりであった。


「本当に助かりました。レイラさんありがとうございます」

「家が吹き飛ばされて……本当にありがとうございました」


 どうやら、避難民を受け入れていたみたいだな、レイラは転生者だからだろうか、やはり日本人だなと感じるな。


 そんなレイラホテルになぜか貴族の馬車が民衆を押しのけて停車する。


「レイラホテルのオーナーレイラだな!」


 レイラを名指しする偉そうな男。その後ろにいる男に見覚えがあった。俺はレイラが反論する前に、男達の前に出る。


「あの時のナンパ貴族だよな?」


「ん? 誰だ……はがっ、あああああ!」


 俺の顔を見て腰を抜かす男、それを見て俺を睨む髭を蓄えた老人。


「貴様は誰だね?」


 威圧するようなトーンの質問に対して、俺は丁寧に低いトーンで返事をする。


「初めまして、[バリオン]のフライデーリーダー、キンザンです」


 以前にブルーノ達からも聞いたが、なぜかフライデーのキンザンは貴族から関わったらダメな奴リストに入ってるらしいので反応を見る。


「そうか、貴様が……だが、今回は貴様と話すつもりはない、用があるのは、レイラホテルのオーナーレイラなのでな」


 男は俺を無視して話を進めていく。

読んでくださり感謝いたします。

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