81話、2号店に飯釜を魔導釜とおにぎり
楽しい砂蟹パーティーをみんなで食べつくした次の日、俺は前日に魔導釜を依頼した店に向かって街を歩いていく。
今回は嫁ちゃん達はみんな別行動になっている。
ペコとグーは、また砂蟹を食べたいと言いながら、狩りを行うため、街の外に広がる砂漠へと向かって行った。
今回はポワゾンとドーナも砂漠の狩りに同行している。
二人も砂蟹を美味そうに食べていたので、また狙っているのかもしれないな。
ただ、連日で蟹ってなると有り難みが薄くなるような気がするのは、俺が日本育ちの日本人だからだろうな。
そして、ベリー、フライちゃん、ナギの3人は買い物に行くらしい。買い物メインの二人と違い、ナギは今回、2人の護衛みたいなものだ。
護衛と言っても、買い物を楽しんでくれたら、個人的には嬉しいんだがな……
残るミアとニアの2人は、この砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]の食べ歩きを満喫するらしい。リトの案内でオススメの店と街を散策していく計画らしいな。
結果的に俺は珍しく1人になってしまったというわけだ。
そして、一人寂しく魔導釜を取りに行くはずだったんだが、ミトが俺についてくると言ってくれたので、一緒に行動している。
「ミト、良かったのか?」
「何がだよ?」
「いや、無理に俺に付き合わなくても良かったんだぞ?」
「か、勘違いするなよ! つ、付き合ってやるんだからな! ミト様が付き合うんだ! ヘタレ野郎について行きたい訳じゃねぇからな!」
無茶苦茶言ってるな……言ってることがわけわからなくなってるんだが……
「まぁ、ありがとうな。それじゃ、取りに行くとしよう、もうすぐそこの店だからさ」
俺達は目的の魔導釜を頼んだ店に入り店主に挨拶をする。
「すみません、昨日頼んだ者ですが」
「おぉ、あんちゃんか、それに……解体屋のミト? なんだ、きかん坊のミトと知り合いだったのか」
店主が笑いながら、俺に喋り出すとミトが怒りだした。
「おい、きかん坊じゃねぇ! 変な呼び方すんな魔導具屋! 次、ヘタレ野郎の前で変なこと言ったら許さねぇからな!」
少し勢いが弱まるミトに店主が笑っていた。
話がそれそうなので本題を切り出していく。
「あの、釜の方は?」
その一言に店主は“ハッ”とした表情になり、慌てて俺達を裏に案内してくれた。
見た目は変わった様子はなかったが、ガスホースの接続部分が綺麗に無くなっており、代わりに小さな鉄製の開きが作られている。
確かめるように鉄製の開きを引っ張り中を確認していく。
開いた先には小さな魔石を入れるスペースが設けられているようで、魔改造という言葉を異世界で感じた瞬間だった。
驚く俺の顔に満足そうに店主が悪戯な笑みを作ると自信満々に説明を口にした。
「そこに魔石を入れて、スイッチを入れれば間違いなく使えるはずだ!」
俺は店主に頼んで、その場で米を炊かせてもらうことになり、30人前の米(5キロ)を水で洗い、炊いていく。
蒸らし時間などを考えて“買い物袋”から100円ショップのタイマーを取り出し40分でセットする。
米が炊ける様子を注意しながら確認しつつ、ミトと店主の会話を魔導釜の横で聞いていく。
ミトは昔から暴れん坊の女の子だったようで、よく悪さをしていて親父さんに叱られていたようだ。
「昔のミトは冒険者になるって叫んでよく叱られてたもんな。だはは」
「昔の話だからな! いい加減に忘れろよ、魔導具野郎の昔話野郎が!」
「だはは、いまだに野郎と言い続けてるんだから変わらんな」
俺はふと気になり店主に質問をする。
「なんで、ミトは誰かに“野郎”をつけるんです?」
「お、あんちゃんも気になるよな。だはは、それがな、ガキの頃にな──」
ミトは幼い頃、冒険者になると息巻いていたが、自分が女の子だと自覚してしまい悩んだ時期があったらしく。
そんな時に「男だから冒険者。女は黙って家にいろ」という言葉を吐いた余所者の新米冒険者と喧嘩になったらしい。
ミトは砂鮫の亜人のため、見た目は小さくとも8歳の頃には大の大人よりも筋力が強く、それに加えてスピードもあった。いわば、小さな悪魔扱いだった。
そのため、他所から来た新米冒険者はミトにコテンパンにされてしまった。
「このクソ冒険者野郎! テメェみてぇな、へなちょこ野郎がいる冒険者なんかミト様の方からゴメンなんだよ!」
そう啖呵を切ってしまったらしい。
それからは街中で「カッコよかったぞ!」「ミトちゃん。しびれたよ!」などと持て囃されたらしい。
ずっと悪ガキ扱いだったこともあり、ミトはその日から、相手を“〇〇野郎”っと呼ぶようになり、その癖が今も抜けないらしい。
小さい頃のミトは「親切野郎、ありがとう。明日もくるな!」「大丈夫か、病気野郎、早く良くなれよ? 医者野郎を呼ぶか?」という感じだったらしい。
「へぇ、ミトの小さい頃のその言い方は、本当に可愛らしいですね」
「だろう? だから、今も魔導具野郎なんて呼ばれとるんだよ。だははは!」
終始、ミトは恥ずかしそうに下を向いていたが、俺は少しだが、ミトという少女のことを知って笑っていた。
そんな楽しい時間に終わりを告げるタイマーの音に、店主とミトが体をビクッと震わせた。
俺は聞き慣れているが、初めて聞く2人からすれば、凄い音だったんだろうと少し反省しつつ、魔導釜へと向かっていく。
蓋を外してから、魔導釜の中を確認していく。
そこには真白くモチモチとした炊き立ての米が艶を放ちながら湯気に包まれていた。
鼻を擽るような炊きたての甘い香りに俺は静かに唾を飲み込んでいた。
すぐに【ストレージ】から箸を取り出し、一摘みしてから口に運ぶ。
炊きたての熱さを舌に感じながらも口に広がる甘さと香りを楽しみつつ、口いっぱいの幸せを噛み締めていく。
「最高だな。2人も食べないか?」
俺の言葉に顔を見合わせたミトと店主だったが、俺の表情からすぐに食べてみたいと言ってくれたので軽く食べられるように用意をしていく。
米をしゃもじを使い、茶碗に装う。熱いことを告げていく。米だけだと最後まで食べるのは大変かもしれないと感じたので、ふりかけを“買い物袋”から取り出してふりかける。
なぜ、ふりかけなのかといえば、単純に卵を出せば遠慮され、漬け物なんかは、好みが別れる。単純に佃煮なんかも同じ理由で無難なものが、ふりかけだった。
ちなみにふりかけご飯はアッサリと受け入れられて、2杯目のおかわりが入り、次はお茶漬けも試してもらっている真っ最中だ。
お茶漬けも水で食べる水茶漬けにしたため、火傷の心配もなく美味しく食べてくれていた。
俺はここから、店主に料金を支払うことになったが、本体の持ち込みや仕掛けを見せたことから、無料でいいと言われてしまったが、それだと逆に困るので、店主が魔石代として全て合わせて大銀貨1枚(2000リコ)の支払いで話が纏まった。
俺は安堵しつつ、ホッと胸を撫で下ろした。
俺がタダを嫌がり、金を払うと言い続けたことに不思議な表情を浮かべる店主とミトだったが、それ以上、追求されることはなかった。
俺は小さくガッツポーズをしつつ、魔導釜を【ストレージ】へと収納する。
そうして、俺とミトは店主さんに軽く挨拶を済ませてから店を後にした。
「変なやつだな? タダならタダで喜べばいいのによ?」
「タダより怖いものはないし、タダだと俺も店主さんも利益にならないんだよ」
「わかんねぇ話だな? まぁ、お人好し野郎の考えは謎すぎるなぁ」
軽く笑いながら、俺はミトと一旦、解体広場に戻り、時間的には夜遅くになるであろう[カエルム]へと急ぎ向かう。
[カエルム]に辿り着くとすぐに片付け中の2号店メンバーに挨拶をすませてから、俺は“買い物袋”から魔導釜を2つ取り出していく。
相変わらずの巨体を活かした熊の獣人ダインが大鍋をゴシゴシと洗っている最中だった。
「おや、キンザンオーナーじゃねぇですか? どうすたんですかい?」
「いきなり、悪いな。実は新しい魔導具を導入したくてな、悪いが厨房側のコンとミミも呼んで欲しいんだ」
俺の言葉にすぐにダインは表側のメンバーである三ツ目三姉妹のドド、メメ、キキ、狼獣人のガルダも集まり、俺は全員が見てる前で実際に魔導釜を使って見せる。
炊きあがるまでの間に、使い方の説明や米の水分量等を説明し、ダイン達はそれをこと細かにメモしていく。
今の『フライデー2号店』は米も人気な商品になり始めており、俺が持ち込んだ分が完売したら売り切れとなるため、最近は残念がる客もいるそうだ。
なので、今回持ち込んだ魔導釜はある意味、救世主になるだろう。
ダイン達に説明している間にセットしたタイマーが鳴り響き、全員がビクッとして身構える。
本日二回目になるが、先にタイマーについて説明が必要だと改めて感じた瞬間だった。
炊き上がった米を全員で試食してもらう、全員の表情が輝きに満ちていた。
今までは既に炊けた物を持ち込んでいたが、炊きたてという状態の米を初めて食べたその表情は喜びそのものにも感じる。
その場の全員が無邪気な子供のようにすら見えてしまう。
俺は純粋にその笑顔が嬉しかった。そこからは色々な食材をオカズにしたりと楽しい試食会になり、食べ進めていく。
残ったお米はオニギリにして、孤児院に差し入れすることに決めて、店の皆で握っていく。
孤児院に向かうと、顔色が良くなったシスターフィーネが応対してくれた。軽い雑談をしてからオニギリを渡すことにした。
孤児院の2階側からサチがバタバタと走って降りて来ると元気に挨拶をしてくれた。
明るく楽しい会話を楽しみながら、孤児院の子供達と一緒に夜のオニギリを楽しむことになった。
子供達の笑顔を見ながら、ゆっくりと時間は過ぎていき、あっという間に終わりを迎えていく。
「おじちゃん。またね〜! おにきり、ご馳走さま〜」
「オニギリだよ。またな!」
軽く笑いながら、俺は2号店に戻る。
既に店の灯りは消えていたが、店内からはガチャガチャと音がしており、ダイン達が魔導釜を使い、米の硬さなどを確かめているようだった。
俺も米に関しては無駄使いとは思わないし、炊いた米はオニギリにして朝の手伝いにくる孤児院の子達の朝ご飯として食べさせることになっているので、むしろ、お腹いっぱい食べさせてあげてほしいとすら思う。
とにかく、妥協しないダイン達の姿に俺は優しく笑い、予備も含めて大量の米を置いてから俺は2号店を後にした。
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