78話、嫁の気持ちと旦那としての威厳
夕食が終わってから、頭領達を[バリオン]へと送る。
石の祠の前に転送した頭領達から再度、驚いたような声が上がり、軽く雑談を交えつつ、これからについて話していく。
頭領達の考えを改めて確認すると、やはり[ガルド・ゼデール]に一時的な拠点を借りて、作業するのが経費的にもいいだろうという結論に至ったらしい。
その話を聞いて、俺はある提案をする。
「なら、使ってない解体場の倉庫を使ってもらっても大丈夫ですよ」
「あ? キンザンさん、他の倉庫もアンタのなのかい?」
「あはは、なんか流れでそうなってしまいまして」
俺が頭を軽く掻きながらそう語ると、さすがの頭領も、なんとも言えない複雑な顔をしていた。
「キンザンさん、アンタは本当によく分からねぇが、すげぇ人だなぁ?」
軽い会話が終わり、次の日、早朝から集まった頭領と集められた泊まり込みで働ける大工数名に改めて、御守りを渡してから[ガルド・ゼデール]へと荷馬車とともに転送陣で移動する。
朝から賑やかな材木を削る音と鉄が打ち付けられる音色が解体広場を通して街中に響いていく。
そんな音色が響く最中、俺は解体場について嫁ちゃん達に聞かれたため、改めて説明をしていく。
俺が考えたのは、使わない解体場を連結するように加工と増築を行い、生簀に使われていた水のルートを繋げることにあった。
そう、俺は屋内型の流れるプールを作る予定なのだ。
よくよく考えれば水浴びなんかをするための水浴び場は存在するがプールみたいな場所は存在していない。
湖なんかはあるんだろうが、街で遊ぶ場所を考えれば限界があるのだ。
なので、今回はこの生簀をヒントに流れるプールを作って、有効活用をしようというわけだ。
水は水路から補充されて、また水路に流される仕組みのようで、頭領が驚いていたのは、水の排出口に“クリーンの魔導具”が使われていて、排水する際に水を清潔なものにして吐き出している事実だった。
俺はそれと同じ魔導具を頭領に頼み仕入れてもらい、水路から引っ張った水も清潔な状態にすることにした。
これで水の汚染問題が一気に解決して、安全なプールを楽しむことに一歩近づいた気がする。
そんなワクワクを全身で感じながら、頭領と笑いながら話していると嫁ちゃん達がつまらないと言わんばかりに俺と頭領の元にやってきた。
「頭領、悪い。少し席を外させてもらってもいいかな?」
「構わねぇよ。キンザンさんは嫁が多くて賑やかだからな、ははは」
頭領に笑われながら、俺は席を外して、嫁ちゃん達の元に移動していく。
「どうしたんだ、みんな揃って?」
小さく頬を膨らませたドーナが足をポカポカと叩き、それに合わせるようにミアも片足をポカポカと叩いてくる。
「軽く痛いからな、はっきり言ってくれって」
痛くはないが、そう言わないと収まりそうになかったのでノリに合わせてしっかりと痛がるフリをしていく。
「むぅ、マスターは意地悪さんなのッ! 遊ばないのは悪い人なの〜!」
ドーナの我慢が限界を迎えたらしく、駄々っ子モードになっているようで、それに便乗したニアも同じように駄々を捏ねて笑っている。
「わかったよ、2人とも悪かったな、みんなもごめんな」
そうなのだ、俺達は本来バカンスに来ているわけで……本来はこんな大事になるはずじゃなかったんだよな。
そんな考えが表情に出ていたのか、嫁ちゃん達に混じったミトが申し訳なさそうに俺を見ていた。
あちゃあ、やっちまったな……少し気まずい空気になりそうな雰囲気だったが、そんなことは関係ないと言わんばかりにナギが容赦なくぶち壊す一言を告げる。
「マイマスター、お腹空いた……」
「ははは……そういえば、朝からバタバタでまともな飯を食べてなかったな……なら、頭領達にも声をかけてみんなで『星降る砂漠亭』に飯を食べに行くか」
その一言に、足を叩きまくっていたドーナとニアの動きが止まり、ナギも目を輝かせている。
ただ、ミトだけは「行ってきたらいんじゃないか?」と素っ気ない感じの態度をとっていた。
「ミト、素直じゃない……マイマスターを困らせるのよくない」
ナギがミトに威圧するように顔を近づけて睨みつけている。
「あん? 喧嘩売ってんのか、ヘビ野郎!」
「ナギは雌……野郎じゃない」
「──テメェ! 上等だこの野郎! この前の決着つけてやんよ」
「ミトは馬鹿、ナギは雌だから、野郎違う!」
互いに睨み合い、一触即発といった状態だったがポワゾンが間に即座に割って入る。
「ご主人様の前です、さすがに賑やか過ぎます……黙ってください」
容赦ない痺れ毒を巻き放つポワゾンに気づいて、慌てて俺は口を塞ぐ。
「な、か、身体が……」
「ナギも動けない……」
容赦ない問答無用の行動を見て、俺に怯えながら抱きつくドーナとニアにポワゾンが鋭い視線を向ける。
「御二人もご理解できましたか?」
二人が全力で首を縦に振っている。
「お分かり頂き助かります」
ポワゾンは小瓶を太ももにつけたホルダーに仕舞っていく。
少し色っぽく見えるのは、ロックドラゴンの鍋効果がいまだにあるんじゃないかと疑いたくなるが、とりあえず平常心を取り戻しつつ、動けないナギとミトに回復ポーションを飲ませていく。
「大丈夫か?」
「畜生、あのヤバメイド野郎……いつか泣かせてやるかんな……」
「ミト、ダメ、ポワゾン姉様は……容赦ない、危険」
鋭い視線で二人の会話を静かに見つめるポワゾンから微かに薬品の香りが漂いだした瞬間、俺が介抱していた二人が再度、気を失ってしまった。俺はこの状況に頭を悩ませることになった。
「おい、ポワゾン、ちょっとやりすぎだぞ? いったい今日はどうしたんだ?」
なんとも言えない悲しそうな表情を浮かべるポワゾンに俺はなんとなく罪悪感を感じてしまっていた。
「不快にさせたのでしたら、申し訳ありませんでした。以後気をつけますので……」
「本当にどうしたんだ? なんかあるなら、話してくれないかポワゾン」
「──はい、でしたら、ハッキリ言わせて頂きます……ご主人様は威厳が足りません! ご主人様は優しすぎるのです……出過ぎた発言を致しました……申し訳ございませんでした」
深く頭を下げたポワゾンの頭に手をおいて、ガシガシと頭を撫でる。
「ありがとうな、ポワゾン。いつも俺が足りない所をサポートしてくれて本当に感謝してるんだ」
「ご主人様……髪が、乱れてしまいますから……その……恥ずかしいといいますか」
下を向いたまま、いつもよりも低いトーンで語るポワゾンの声に俺は静かに耳を傾ける。
「なんで、いつも……もっと堂々としててください……ワタシ達の旦那様なんですから、諌める時は諌めてください……お願いします、妻として不安になります」
普段、本音を語らないポワゾンが言葉にしたことで、普段から情けない対応をしていた事実を心から反省する。
俺のために、頑張ってくれたポワゾンをゆっくりと優しく抱きしめていく。
「悪かったな。もう少し、しっかりするから」
「は、はい、お願いします……ご主人様」
結果的に三人を諭すように注意しつつ、バタついたが、予定通りに嫁ちゃん達と頭領達全員を連れて『星降る砂漠亭』に向かう。
道中は、少し照れくさそうなポワゾンを見て、ベリー達にクスクスとからかわれたが、それを軽く注意しながら、会話を楽しみつつ『星降る砂漠亭』へ向かって歩いていく。
かなりの大人数になってしまったため、席があるか心配になるが、席がなかったら……まぁ、その時は、また考えるとしよう。
そんなことを考えながら、俺はしっかりとしないとな、心で自分に言い聞かせつつ、気持ちを引き締めた。
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