77話、砂漠の街の名物 レクダ肉を食べていく。
ミトとバルガスの解体場を含め、広場すべての解体場を手に入れた俺は、まず元々の解体場を開いていた人達を探すことから始める。
既に[ガルド・ゼデール]を旅立った職人もいたが数名に話をすることができた。
話を聞いてくれたがその反応はあまり芳しいものではなかった。
話の返答を要約すれば、既に解体屋は引退したので、戻る気はないといったものであり、既に新しい仕事を開始している人ばかりだった。
残念な思いもあったが、本人達が決めたなら仕方ないと思い諦めることにした。
「ふぅ、さて、全滅だな」
俺はミトから教えてもらった借用書の本来の持ち主を書き出したリストを見ながら、名前に横線を入れていく。
まさか、全滅なんてな……それにどこか恐れてるような表情もあった気がする。
だとすれば、やっぱり問題はグリド商会なのだろう。
ただ、問題点が分かってもそれ以上の方法がないのも事実なのだ。
一旦、冷静になるため、煙草に火をつけて、頭を悩ませていく。
解体場の有効活用法など本当にあるのかと内心答えが出ないまま、ゆっくりと煙草が灰になっていく。
無い頭をフル回転させて、思いついたのはプロの視点を借りることだった。
「不動産屋の姉さんに話を聞いてみるか……あの人やり手だしな」
俺はそう決めてから、嫁ちゃん達と空き倉庫となった解体場を見て回ることにした。
解体場の中は最近まで使われていただけあって綺麗なものだった。
そのうちの1つの倉庫で俺は足を止めた。
「こいつは……生簀じゃないか!」
俺の声にミア達が不思議そうに俺を見ていた。
「オッサン、いけすって、なんだよ」
「いけすってなんにゃ! 教えるにゃ!」
ミア、ニアのコンビに質問されたので、説明を簡単にしていく。
「生簀ってのは、魚を生きたまま保管する方法に必要な設備だ。生きた魚なんかを長持ちさせる方法でもあるな」
よく分からないといった様子の表情を浮かべていたので、とりあえず解体場に作られた生簀を起動させることにした。
最初に濁りきっていた水が動き出し、排水されると、新しい水がパイプから補充されていく。
「こいつはすごいな、歯車と仕掛けだけでよくできてるな、水も歯車が回転して、補充される際に僅かに排出される仕組みかよ!」
一人で納得しながら、眺めていると嫁ちゃん達が俺に質問をする。
「すごいのはわかったけどさ、これでなにをする気なんだよオッサン?」
「なんか、ぐるぐるしてるだけで意味が分からないにゃ?」
「ミアとニアには、分からないかもだが、これは面白いことなんだよ」
すぐに俺は[バリオン]に戻ると、その足で『建築ギルド』へと向かう。
「頭領、いますか?」
「あ? お、フライデーの兄ちゃんじゃねぇか?」
以前に屋敷の改築をお願いした頭領を見つけるとすぐに依頼について話をしたいと願い出る。
「依頼? また屋敷をいじるのか」
「いえ、今回は転送陣を使って[ガルド・ゼデール]で作業をお願いしたいんです」
俺が転送陣と言った途端、親方は驚くと同時に疑うように質問をしてきた。
「いやいや、幾ら、フライデーのキンザンさんでも人が悪いぜ、転送陣なんか使ったら経費が幾ら掛かるかわかったもんじゃねぇぞ?」
さすがと言うべきか、しっかりとそこら辺を理解しているからこそ、やっぱり依頼したいと再確認ができたので、その件も踏まえて依頼を再度お願いしていく。
「とりあえず、頭領、自分で見て決めて欲しいんだ。移動の人数分はなんとかするからさ」
俺の言葉に押し切られて、頭領は数人の大工を選ぶと荷物を手に移動することを了承してくれた。
「荷物の中身は寸法用ですか?」
「当たり前よぅ! ただ行って、目で見るだけじゃ、仕事を受ける時に二度手間だからな」
仕事に真剣な頭領に感謝しつつ、俺は教会ではなく[バリオン]の端にある小さな空き地に向かう。
頭領達は訝しげな表情を浮かべていたが、空き地の隅に作られた石の祠を目指して進んでいく。
この祠はわざわざ、俺が“買い物袋”から買った庭園用の安物であり、ブラック企業時代の無茶な雰囲気作りのために買った飾りの祠だ。
まあ、逆に今は買っといてよかったとすら思っている。
石の祠を中心に転送陣を仕込んであり、フライちゃんの髪の毛が入った御守りを持っていると[ガルド・ゼデール]の転送陣に飛べるようにしてある。
フライちゃん様様なチートだが、これが今回の秘密兵器だ。
「では、この御守りをしっかり握ってください。行きますよ」
御守りを皆に手渡して、俺達は石の祠へと歩いていく。
ゆっくりと吸い込まれる感覚に全身が包まれると解体場の中央にある広場に転送される。
頭領達は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたが、それ以上に自分達の身体が無事かを確かめるように全身を確認していた。
「こいつぁ驚いた、本当に転送陣だったんだな?」
「頭領、大丈夫なんすか、まさか、戻れないとか?」
「馬鹿野郎! キンザンさんがそんなつまらない真似するかよ!」
不安を口にした大工に一喝する頭領を宥めつつ、目的の解体場にある生簀へと案内する。
さすがの頭領も仕掛けを確認すると唖然としていた。
「おいおい、なんだこりゃ! 芸術品かよ、馬鹿野郎が、すげぇじゃねぇか!」
頭領だけでなく、大工達も目の色を輝かせて、歯車の仕掛けを眺めていき、流れや一回の水量を確かめていく。
「こいつぁ、毎日来たり帰ったりなんかしてらんねぇな! おい、今の依頼を若い連中から頭を立てて引き継げ、無理なやつは、延長させてもらえ!」
「へい、すぐに指示します。多分問題ないかと、材料はどうしますか?」
「材料は『建築ギルド』の倉庫から一気に運び出すぞ! 荷馬車もありったけ使うからな!」
頭領の言葉に大工達もすぐに、段取りを決めていき、一度[バリオン]に戻る頃には全ての予定と代理が決められていた。
正直、こんなに勢いよく決まると思っていなかったため、本当に驚いた。
[バリオン]に戻る前に依頼を受けてくれた頭領と大工さんのために晩飯を御馳走することに決める。
頭領達も以前からフライデーの常連になってくれていることもあり、受け入れてくれた。
そんな俺の話を聞いたミトが[ガルド・ゼデール]の名産である“レクダ”の肉を持ってきてくれた。
「これが、ラクダ肉か……」
「ん? 違うぞ。コイツはレクダだ! コブは油なのにしっかりとした味わいで最高に美味いんだからな! 間違えんなよ、早とちり野郎……が、わかったか……」
次第に小さくなる声に違和感を感じながらも有り難く巨大なレクダ肉を使わせてもらい、調理していく。
ただ、問題はラクダなんか調理しようと思ったことがない、どう扱うかに悩んでしまった。
「とりあえずは、【食材鑑定】かな」
レクダ肉を鑑定した結果は『若いレクダ肉』と表示され、普通の部位は焼肉や鍋なんかにするのがいいらしい。
他にもハンバーグのような使い方もできるようだが、今回はシンプルに焼肉にしていこうと思う。
ただ、レクダ肉は臭みがあり、香辛料などもしっかり使わなければならなそうだ。
スパイスをしっかりと揉み込み、串に刺したものと薄く切ってタレにつけた肉を2種類を用意していく。
焼肉にはこの二種類を使い、片方は串焼き風にしていく。
コブは弾力があり、しっかりとした感じの手応えがあったので、食べやすいサイズにして、香味野菜などと炒めていき、さらにコブを使った“つくね”を作っていく。
レクダ尽くしのフルコースになり『星降る砂漠亭』で食べたトルティーヤを自作で焼いていく。
シンプルに小麦粉と塩で作るため、レクダ肉の味を邪魔することもないだろう。
賑やかな夕食が始まり、俺も人生初のレクダ (ラクダ)肉を食べていく。
油が少なく、牛肉に似た感じの肉は本当にザ・肉といった感想と共にサッパリした味わいだった。
しかし、コブつくねに関しては初めての歯触りと独特な味で好き嫌いが分かれるイメージだった。
俺は好きだが、ベリーは苦手なようでコブつくねを避けていたので申し訳ないな。
だが、全体を見れば賑やかで楽しい夕食となり、俺は満足いく結果ににっこりと笑みを浮かべていた。
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