76話、キンザンの無茶な買い物
朝日に照らされた『ミトの解体屋』
清々しい朝を迎えたはずが、素直にそう言えない目覚めだった。
反省しかないような、乱れた夜になってしまった事実に頭を抱えていた。
何より、問題は色々とミトにもやらかした事実だろうか、途中までは理性を保っていたが途中から理性が無くなる感覚をいまだに覚えている。
「はあ、やらかしたな」
軽く反省しているとミトを含めた嫁ちゃん達がやってくる。
「オッサン……久しぶりにその、凄い素敵だったぞ」
そんな一言に、嫁ちゃん達が次々に顔を赤らめていき、俺まで顔面が真っ赤になっていくようだった。
そんな嫁ちゃん達の中に混ざるミトの姿があり、ミト本人もなにかを言いたげに、チラチラっ俺を見ている。
「どうしたんだよ、ミトまで……」
「あ、あの……な、なんでも、ない」
昨日までの態度が嘘のように、乙女な表情を浮かべるその姿に不覚にも可愛いと感じてしまった。
当然だが、俺の表情を即座に理解したミアやニア、さらにドーナやナギにまで、睨まれることになってしまった。
ただ、少し違うとすれば、その視線は受け入れてるからこそのヤキモチに近い視線であり、ミトも俺からのなにかを期待するように視線を向けてきていた。
「キンザン、もうみんなで話し合ってあるにゃ〜、だから、観念するのにゃ」
「マイマスター、ミトは砂鮫の亜人だから、ナギは反対しない」
「「私達は、主様の決断に従います」」
ニア、ナギ、ペコとグーの4人がすでに後押しをしていることからも理解できる。
なにより、ミトがモジモジと身体を小さく動かしていて、俺からの言葉を待っているのだ。
ミトが俺になにかを言おうと一歩前に踏み出した瞬間、解体場の扉が乱暴に開けられる。
「邪魔するぞい! さぁ、約束の期日だぞい。約束のロックドラゴンを出してもらうのだぞい!」
少し低い声でニヤニヤと笑う真ん丸顔の男の姿があり、普通の人の二倍はあるんじゃないかと疑いたくなるくらい大きな顔で俺達に語りかけていた。
「誰なんだ、あのすごいやつ?」
とりあえず、ミトに質問をする。
返事をする寸前のミトが男に向ける視線は憎しみに満ちた酷く殺伐としたものだった。
「その視線でなんとなく、察した。ロックドラゴンとか言ってるから、あのグリド商会の関係者なんだな」
そう問いかけるとミトはゆっくりと頷いた。
俺とミトのやり取りに苛立ちを我慢ができなくなったのか、真ん丸男がこちらを睨んでくる。
しかし、そんな俺への視線はすぐに別に向けられる。
その視線の先は俺の背後にいた嫁ちゃん達であり、その真ん丸男は舌をペロリとさせている姿に俺をはじめ、皆が身を震わせた。
「気に入ったぞい! 女達もオイラのものにしてやるぞい! おい、ミト、まずは解体したロックドラゴンを見せよ」
そう言いながら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
その表情から、この丸顔の男は、ミトがロックドラゴンの解体に失敗したと考えているようなので、しっかりと解体済みのロックドラゴンを渡してやることにした。
「ほら、これで満足だろ?」
「な、なんだぞい! キサマ!」
予想外にロックドラゴンが解体されていたため、俺を指さす指が震えているのが分かった。
なので、しっかりと言ってやることにした。
「お前に話す必要ないだろ、早く素材を持って帰れよ。鮮度が落ちると味が悪くなるからな」
「な、な、な、キサマ! オイラ様を誰だと思っているんだぞい!」
「いや、知らないから、それより本当に急いだ方がいいぞ? 仮にもロックドラゴンって名前だし、鮮度が命なんだし」
「素材なんぞ、どうでも良いのだぞい! キサマは誰かと聞いてるんだぞい!」
怒り心頭で床に地団駄を踏む姿に俺は軽く呆れながら、仕方なく立ち上がる。
「俺はキンザンだ。アンタが誰かも知らないし、正直言うと、まったく興味もないんだよな」
「生意気な、だが、キサマが誰だろうと関係ないぞい! こっちには借用書がある限り、何度でも同じように解体をさせるのみだぞい!」
真ん丸男が借用書を手にして、見せつけてくるため、内容を確認していく。
内容は貸付金について書かれており、金貨500枚と書かれていたので、悩まずにテーブルに金貨を置いてやることにした。
「ほら、数えてから帰れよ。中身はちゃんとあるからさ」
「な、ば、バカな、キサマ! 何のつもりだ!」
理解できない様子だったが、金貨を渡した以上は借用書は俺のものなのでしっかりと奪わせてもらう。
「な、キサマ!」
ギリギリと、歯ぎしりをする真ん丸男だったが、金貨が問題ないと分かると苛立ちを隠すことなく、隣のバルガスの解体場に向かって行く。
正直、もう関わりたくはないが、見捨てるのもなんか、ミトが目的みたいになるため、よくないよな。
隣から聞こえる真ん丸男の怒り狂った声に対して、ため息を吐きながら隣の解体場に向かっていく。
真っ赤になった真ん丸男がゆで卵に唐辛子をぶちまけたような顔になっている。後ろから借用書の内容を確認する。
金額は金貨200枚とミトの解体場よりも半額以下になっており、なぜかお得感に襲われた俺は悩まずに金貨の入った袋をその場に置いていく。
そうして、素早く借用書を回収していく。
さっきまで、怒り狂ったように怒鳴っていた真ん丸男の顔が一瞬で青ざめていくのを確認するとすぐに解体場から、お帰りいただくことにした。
すごい勢いで叫んでいたが、借用書がないため、こちらもまともに聞いてやる義理はない。
一連の流れにバルガスは膝をついて、安堵の表情を浮かべながら俺に感謝を述べていた。
「本当にありがとう、どんだけ感謝しても足りないくらいだ。ありがとうな」
ヒゲモジャのオッサンに手を握られて感謝されても、正直、あれだが、とりあえずは借用書を2人に渡すことにした。
しかし、バルガスは首を左右に振る。
「それはアンタのもんだ。もしアンタがいいなら、解体場を続けさせて欲しい、勿論、金額はしっかり返させてもらうつもりだ!」
俺はその提案を受け入れることにした。正直、金貨を無限に作れる俺からしたら大した問題じゃないが、普通は簡単に出せる金額じゃないのも理解している。
なにより、無償で借用書を渡そうとした後に気づいたが、ベリーやポワゾンの視線が本気でお怒りモードの視線だったので本当にこの提案に救われたと心から思う。
だけど、それからすぐに問題が発生した。
ミトとバルガスの解体場以外の解体場を壊そうと大勢の作業員達が突然目の前の広場に集まり出してきた。
そして、ドデカイ声であの真ん丸男が演説するように説明を開始する。
「いいか、オマエら! 無人の解体場を全て更地にするんだぞい! 容赦なく壊すんだぞい!
オマエらがしっかりと働けば、グリド商会は新たな仕事をくれてやるぞい!」
そう語り終わると、無人になった複数の解体場に作業員達が移動していく。
それを見て泣きそうに下を向くミトは拳をグッと握りしめていた。
「みんな、借用書で土地を押さえられてるから……クソ、悔しい」
俺はベリー達に視線を向ける。
「はぁ、わかったわよ。無駄遣いは普段なら反対だけど、今回はキンザンさんの好きにしていいわよ。しっかり使い方は考えてあげるから」
ベリーがそう言うとミア達もにっこり笑ってくれたため、すぐに俺は外に走っていく。
「解体作業はストーーーォォォップ!」
俺の人生で数回出したことがあるかないかの最大の声に視線が一斉に集まり、俺は真ん丸男へと向かって歩いていく。
「借用書があるんだよな? だから、解体できるんだろ」
「な、またキサマか! しつこいぞい!」
俺はブラック企業で学んだ、無理な交渉でも相手の弱みを見つければ押し切れるを実行する。
「ないなら、どっちにしても解体は無理だろ? 違うか」
「だ、黙れ! オマエがどんなに吠えようと無駄なんだぞい!」
数件の借用書があり、金額にして金貨3800枚(7600万リコ)と、かなりの高額だったが俺は容赦なく、“リサイクル袋”に一人掛けのソファーほどある飾り石を放り込む。
突然の出来事に首を傾げる真ん丸男に向けて“リサイクル袋”の口を向ける。
当然だが、“リサイクル袋”は日本での価値で金貨を吐き出す。
数万枚の金貨が濁流のように吐き出されると、真ん丸男を襲い壁に叩きつけていく。
「ぎゃあぁぁ痛いぞい! ぐあぁ」
当然だが、作業員達は固まり微動だにしない。
すぐに【ストレージ】に金貨を回収してから、1000枚の入った大袋を3つと100枚の入った袋を6つ用意して取り出してやる。
「きっちりあるから、今すぐに数えてくれ」
真ん丸男はいまだに混乱しているようだったので、作業員の指揮をしている男に金貨を数えさせていく。
間違いなく枚数はあるため、時間の無駄なのだが、必要な作業だ。最後まできっちりと数えさせていく。
「3798……3799……3800枚、確かにあります……」と作業員の男が口にした瞬間、借用書を全て【ストレージ】に回収させてもらう。
真ん丸男は、絶望した顔をしていたが、同情する気はサラサラない。
全てが終わった時点で作業員達も困ったように顔を見合わせていたので大声を放つ。
「解体は中止だ! 今からこの場にあるものを壊したり、破損させたら、修理代を請求するからな!」
俺の言葉に作業員達が即座に解体場から離れていき、真ん丸男と消えていく。
「覚えていろよ! グリド商会を敵に回したことを後悔させてやるからな!」
そんな捨て台詞を怒鳴りながらも、作業員達に連れてかれて行った。
正直、見た目のせいか、あまり怖くは感じなかった。
結果だけ言えば、広い解体広場の全ての解体場の所有者になってしまった。
これからどう使うか悩みながらも、煙草に火をつけて、軽く肺にヤニを流し込む。
「無茶な買いもんをしちまったな……どうするかな」
吐き出した煙が夕焼けにかかり消えていく……その日は静かに終わりを迎えたのだった。
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