74話、食材を解体しよう。食材はロックドラゴン。
少し考えてから、俺は一度[バリオン]に戻ることに決めた。
「なあ、ミト、少し頼みがあるんだ。あのロックドラゴンを銅貨1枚で売るって言ってくれないか?」
「あ?意味わかんねぇ! あんなもん好きにしろよ、どうせ、解体なんかできねぇんだからよ! やけだから売ってやるよ」
完全に諦めているが、たしかに交渉が成立した。
俺は銅貨1枚をミトに受け取ってもらう。
「ありがとう、その言葉が聞きたかったんだ」
そう言い、俺はロックドラゴンに触れる。これで準備は整ったな。
「ミト、みんなも少し待っててくれ、フライちゃん、少し頼みがあるんだ」
他の嫁ちゃん達には悪いが、フライちゃんに頼み、2人で急ぎ[バリオン]へと戻ることにした。
他の嫁ちゃん達からは少し残念な顔をされてしまったが、今は仕方ないと諦めてもらった。
戻ってからすぐに『調理師ギルド』へと向かう。
いつものように受付嬢のお姉さんに挨拶を済ませて、ギルドマスターであるルンダの元へと向かう。
ルンダは俺達を歓迎してくれたので目的を早々に伝えることにした。
「いきなり来て申し訳ないな、実はルンダさんに頼みがあってさ」
「ああ、構わないさ。キンザン殿とならいつでも有意義な時間になるからね。そちらのお嬢さんもよろしくね。ただ、キンザン殿が“さん”をつけて呼ぶときは厄介事の匂いしかしないな」
フライちゃんとは面識がなかったため、互いに挨拶をしつつ、話を進めていく。
俺はロックドラゴンを解体したい旨を伝えてからルンダの顔が若干険しくなったのが分かった。
「はぁ……なんでまた、そんな食材を選ぶんだい、アタシからしたら、普通に面倒な食材だしワイバーンとかよりも難易度が高いよ?」
「やっぱり難しいのか?」
「まぁ当然だね。ロックドラゴンはタートル系の魔物の中でかなり硬い甲羅を持つ魔物なんだよ。しかも肉が繊細だから、1度のミスで肉が台無しになっちゃうオマケ付きなんだよ」
「まぁそうだよな。だから、ルンダさんに手伝ってほしいんだ。頼めないか?」
俺の言葉にルンダが申し訳なさそうにため息を吐いた。
「すまないがロックドラゴンの解体なんて、10体捌いて、1体でも成功すればいい程度の確率だよ。流石に無理だろうねぇ」
「時間はどれくらい掛かるんだ?」
「解体時間か、1体あたり、2時間くらいはかかるだろうさ、なんせ、甲羅が厄介だからね」
その言葉に俺はフライちゃんに着いてきてもらって、本当に正解だったと確信した。
「時間があれば、手伝ってくれるって認識でいいんだな?」
「え、まぁ、たださすがにそこまでの時間はアタシにもないんだ。すまないキンザン殿」
頭を下げて、申し訳無さそうにするルンダに俺も頭を下げる。
「大丈夫だ。時間はなんとかするから」
お互いが頭を上げて、視線が重なった瞬間にそう呟く。
フライちゃんが空気をしっかりと読んで、結界が発動していく。
結界外の流れから逸脱した空間が作り出されていく。
「な、これって!」
「ルンダさん、ここなら時間は1日分あるから気にしないで大丈夫ですよ。さぁ、約束だからお願いしますね」
混乱するルンダに、結界について分かりやすく説明をしてから、俺達は『調理師ギルド』にある前回使ったドラゴン肉用の部屋に向かい、ロックドラゴンを取り出していく。
「本当にロックドラゴンじゃないか! しかも、かなり巨大な個体だねぇ、立派じゃないか」
予想より大きかったのか、ロックドラゴンをマジマジと見ていくルンダ。
サイズで言うなら、車のハイエースくらいの大きさの亀でゴツゴツした甲羅が印象的と言うべきだろう。
普通の亀と違うのは、手足や顔に尻尾の部分まで中に収納されて、穴の部分にも蓋がされている。硬さも甲羅と同じ感じで、完全に隙間が塞がれている。
亀やスッポンなんかを普通にイメージするなら、頭を落として、甲羅を剥がすって作業になるがこいつはそうはいかないらしい。
そこからは本当に大変な作業になった。
最初の難関は、完全に閉じている甲羅の扉外しだった。
竜切り包丁でもビクともしないため、いきなり躓いてしまったが、ルンダが先端が鋭く細い棒のような物を持ってくると甲羅の蓋を叩きだす。
「なんだそれ?」
「これかい? まぁ本来は化け物サイズの貝類をこじ開けるための魔導具なんだよ」
使い方は僅かな隙間を見つけて先端を突き刺して、僅かな振動を起こしながら、ゆっくりと閉じた貝を開かせる調理用魔導具のようだ。
それを手に、僅かな隙間がないかをゆっくりと探していく。
「お、あったぞ。空気穴だ。キンザン殿」
それは本当に小さな傷みたいな物であり、普通に見ていたら見落としてしまうであろう、小さな穴だった。
「この空気穴に、こいつを刺して、肉を傷つけないように振動させる。本当に神経を使う作業だよ。まったく」
「悪いな、ルンダさん無理な頼みをしちまって」
「構わないよ、それにこんな解体を時間を気にせずにできるなんて中々ないからね」
少し楽しそうに語るルンダの姿に俺は複雑な気持ちで笑みを浮かべる。
「しかし、亀ってのが複雑なんだよな」
「ん? キンザン殿、亀は嫌いかい? 美味いんだがな」
俺のいた世界では、スッポンは食べるが、亀を食べるってのはあまり無いんだよな……
「キンザン殿、もうすぐだぞ!」
その声に、緊張が全身を駆け巡る。
カコッと、僅かにズレるような音がなり、ルンダの表情にも力が入る。
小さなミス1つで今までのすべてが無駄になる緊張感に、横にいるだけの俺も息を飲み、ただ静かに見守っていた。
そして、頭の部分にあたる蓋がゆっくりと外される。
そこからは内側の繋ぎ部分を慎重に削りながら、ゆっくりと作業を進めていく。
二時間が過ぎた頃、甲羅を繋ぐ部分の解体がすべて終了して、ゆっくり3人がかりで甲羅を外していく。
「ここまできたら、あと少しだぞ。キンザン殿」
そこから作業の再確認が行われ、最初に神経が繋がっていた部分のみを残す形で皮から順に肉をギリギリで削ぎ落とす作業になる。
削ぎ落とす際も骨に触れてはならないと念を押される。
「生命活動を止めてる個体の骨を傷つけると骨から神経毒が出るから、絶対に傷つけたらダメだからね」
生きてる際はそれを中和する成分を体内に流すようだが生命活動を終了している場合は蓄積されている神経毒のみが出るらしい。本当に厄介なやつだと思う。
そこから、予定時間をオーバーしての解体作業が続き、俺達は最後の難関である胆のうの部分まで解体を進めていく。
この胆のうは苦玉ってやつで、傷つけてしまうと中身が流れ出した際には他の部分の肉や臓器が食べれなくなるため、本当に慎重な作業になる。
だが、俺はそこで気づいてしまった……【ストレージ】にしまったら早いような?
真剣な表情で提案した瞬間、ルンダさんの表情が切り替わる。
「もっと早く言ってくれよ……今も手が震えてたんだからな、キンザン殿」
マジに申し訳ない気持ちになるが、提案を受け入れてくれたため、ロックドラゴンの胆のう(苦玉)を【ストレージ】に収納してみる。
「無事に成功したな……ついでに、骨と神経毒を収納できるか試したいんだが最後に試してもいいか?」
「構わないが、先に臓器を取ろう、神経毒が出たら食べれなくなるからね」
最後まで解体してから最後に残された骨と僅かな肉に視線を向ける。
「いくか、やるぞ」
俺達は最後の瞬間を緊張と不安を混ぜ合わせたような感覚の中、【ストレージ】を発動させる。
対象は最初に神経毒を選択して、それから次に骨を選択する。
骨までがすべて【ストレージ】に入り残された骨周りに付いていた肉を【食材鑑定】を使い、肉質や状態を確認していく。
肉質は問題なく上質な状態で『食用可』となっていた。
「や、やった成功だぞ!」
「はは、本当かい? それは凄すぎる事実だよ。成功したんだよね。ホッとしたよ」
「きんざんさん、おめでとうございます。やりましたね。嬉しいですよ!」
その場で安堵するルンダさんと嬉しそうに飛び跳ねるフライちゃんの姿に俺も嬉しさを感じてホッと息を吐いた。
「なぁ、キンザン殿、次からは楽に解体ができるな、本当に良かったな」
「そうだな、だが、解体までの作業が大変だな」
課題は山積みだと感じたが、先ずは2体目の解体に取り掛かる。
既に必要な素材をすべて手に入れているため、悩むことなく作業を開始する。
最初に苦戦した蓋の部分だが、試しに【ストレージ】に入るかやってみるとあっさりと収納できてしまった。
「え? キンザン殿……」
「なんか、できたな、あはは」
少しガックリとした様子のルンダさんに申し訳ない気持ちを感じながらもそのまま作業を続けていき、最初に苦戦した繋ぎ目の解体をしっかりとルンダさんの指示で行う。
この作業だけは、【ストレージ】が使えないので俺自身も集中して作業を進めていく。
甲羅を外し終わり【ストレージ】に収納して、次はそのまま、神経毒と骨を収納していく。
「上手くいったな、次に胆のう(苦玉)を収納っと……よし」
2回目の解体は最初の半分で完了することができた。
「ルンダさん。本当にありがとう。助かったよ」
「いやいや、本当にいい経験になったよありがとうね」
「礼もあるし、この解体した2体目はルンダさんに差し上げますよ」
「いや、さすがに!」
俺の言葉に驚き両手を前に出して、首を左右に振るルンダさん。
「いらないんですか? 勿体ないですよ? いいんですか?」
そんなフライちゃんの言葉にルンダさんの表情が悩んでいく。
そして、最後はルンダさんが受け取る流れになった。
とにかく、今回はロックドラゴンの解体を理解出来たのは大きな収穫だった。
さらに言えば、コカトリスの卵についても情報を教えてもらうことができた。とりあえず、問題解決の糸口ができた瞬間だった。
あとは『グリド商会』が問題だな。少なくとも、いい商会じゃないのはわかってるからな、首を突っ込んだ以上、しっかりとやりきらないとな。
今回、【解体】を使うと細かい作業まで頭に入らないため、ミトに説明する際は自分自身の腕だけで行うことにした。本当に大変だったが知識として新しい経験を積むことができたので、素晴らしい時間だったと思うことにした。
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