72話、腹ごしらえは『星降る砂漠亭』で
砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]について、いきなりの門前払いから始まった休日。
変な奴らに絡まれたりとイベント盛りだくさんだが、街そのものは悪くない。
服屋の爺さんから教えてもらった『ミトの解体屋』を楽しみにしながら、俺達は観光を楽しみながら歩いている。
噴水のある広場では子供達が熱い太陽の下で水遊びを楽しみ、露天商では果実やナッツ類が並び、商人も客側も賑わっている。
麦も豊富なのかパンの香りもチラホラと至る方向から鼻をくすぐっていく。
よくよく考えれば、飯を食べないまま合流していたため、一度、嫁ちゃん達に昼食を食べたかを確認していく。
昼食を食べていたのはミアとニア、ペコとグーの4人だった。
ミアとニアは軽くステーキ肉を食べていたらしく、ペコとグーは、渡されたお小遣いを使わないように考えたらしく、なぜか魔物を狩れる場所を聞いてから取れたてを焼いて食べたらしい。
ペコとグーに関しては、本当に逞しくなったと思う。むしろ逞し過ぎるまであるな……
腹が空いたら狩りをして食べるって、たしかに普通なのかもしれないが……前まであんなにオドオドしてたのになぁ、これもある意味での成長だな。
少し申し訳なさそうに身を縮めている2人の頭を優しく撫でてやる。
「よしよし、よく2人で狩りを頑張ったな、でもなんかあったら大変だから、次からは一言かけてくれ、それができない時はお小遣いを使うんだぜ、いいな」
「「は、はい」」
「わかった、約束するよ主様」
「グーも約束します主様」
2人を撫でつつ、どこかで飯にしようと提案する。勿論、食べた4人も含めて全員に向けての提案だ。
なので、軽食からガッツリしたメニューまで、なんでもありそうな賑わっている飲食店に入ることに決めた。
見つけた飲食店には『星降る砂漠亭』と大きな看板がかけられ、色合いからも年季を感じる。
大人数の為、入れるか心配したが、奥にある厨房から元気な女将さんの声が響いた。
「いらっしゃい、奥のテーブルを使っとくれ、メニューは後で渡しに行かせるからさ」
厨房からはリズミカルな調理音が聞こえ、俺は心地いい音に耳を傾けつつ、言われた席に腰掛けることにした。
すぐに若い蜥蜴人だろう、亜人の女の子がメニューを持ってきてくれた。顔は普通の人と変わらないが青い尻尾と鱗のある肌はインパクトがあり、にっこりと笑う顔は可愛らしい。爬虫類好きにはたまらないハイブリッドな子だった。
渡されたメニューには絵などは描かれていないため、商品名を見るがやはり想像できなかった。
なので「オススメ」と「オマカセ」と伝えてもらうことにした。
注文を聞いて頷くと笑顔で去っていく蜥蜴人の女の子を見送る。
その直後、突然腹部にずっしりした感覚が巻きついてくる。
俺に向けて、ナギの尻尾が突然ぐるぐると勢いよく腹部に巻きつけられる。
「マイマスター、ダメ、爬虫類系はナギがいる」
ナギなりのヤキモチなのか、少しマジな表情で目を見つめられると、そう言われてしまった。
「そうですよご主人様。この[ガルド・ゼデール]でも種馬的、ケダモノ本能を剥き出しにする気ですか?」
「ポワゾン、誰が種馬で、ケダモノなんだよ!」
「ご主人様、お言葉ですが? ワタシ達の中に手を出していない嫁はいらっしゃいますか?」
その一言に俺は静かに黙り、席に座り直す。途中からナギも離してくれていたため、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまった。
「ご主人様、皆、口には出しませんが不安なのです。もし、自分が不要になったら、もし代わりが現れたら、もし同じ種族が現れたら、同じような存在だったらと……お察しください」
その言葉にミア達まで複雑な顔をしてるのがわかった。
しかし、その雰囲気をベリーの手がパンっと打ち合わされてから、終わりを迎える。
「はい、そこまで、早い話がキンザンさんがいやらしく視線を向けなければ良いだけの話よ。それに私達はキンザンっていう男に惚れたんだから、それでいいじゃない?」
ベリーの言葉にニアが手を上げる。
「そうにゃ、キンザンは強い雄だから大好きにゃ〜」
「だな、オッサンの1番になるって決めた日からずっと1番大好きな存在だしな……マジにさ」
口々にそんなことを言われていくと、最後にポワゾンが深く頭を下げてきた。
「先程は大変失礼致しました──」
「それ以上いうなよ。心配ばっかりかけて悪いな、これからも俺が気づいていないことがあったら言ってくれよポワゾン」
「あ、はい。かしこまりました」
ポワゾンが落ち着き、席に着くと同時に大量の料理が厨房から運ばれてくる。
今回は土地柄も名物も分からなかったため、全てオマカセとオススメにしたので楽しみだ。
「全く若いね、店中が照れくさくなるじゃないか、色男が」と一緒に料理を運んできた逞しい体つきの女将さんにそう言われて周囲を見る。
女性客はなぜか、こちらを見てニヤニヤと幸せそうな暖かい眼差しを向けていて、男性からは、うんうんっと頷かれていた。
「聞いてて、恥ずかしくなるが、色男に惚れるのは女の喜びでもあるからね、あとはいい加減なダメ男にならないようにね。あはは」
豪快に笑う女将さんに俺は頭を下げつつ、並べられた料理を見ていく。
デカイ魚の煮込みが大皿に乗せられ、野菜の餡掛けが掛けられた料理が真ん中に置かれ、次に真っ赤なトマトベースの匂いをさせた豆の煮込み料理が置かれる。
肉料理は見た目からオークだろう、こちらはチャーシューのような作り方に似ていた。
サラダにも豆類が使われている。
主食はパンではなく、トルティーヤのような薄い生地を焼いたものが重ねられている。
どうやら、豆の煮込みはチリソースのような役割をするようだ。
魚や肉をトルティーヤで巻いて、豆の煮込みをかけて食べるらしい。
これがまた美味い。ピリ辛の豆煮込みが肉の味を引き立てるし、魚は淡白で臭みがない分、餡掛けが濃いめの味付けで、豆煮込みをかけなくてもトルティーヤで巻いて食べられる。
料理の種類は少なく感じるが内容は間違いなく最高だった。
さらに嬉しかったのはチーズに似た発酵食品が存在していたことだ。
臭いはかなりキツいが味は、かなりいい、俺とベリーは問題なく食べれたが他の皆はダメだったみたいだ。
俺達は『星降る砂漠亭』の料理を堪能しながら、ラッシーに似た甘いドリンクを追加で頼み、大満足で店を後にした。
「女将さんご馳走様でした。本当に美味しかったですよ」
「ははは、そう言われたら嬉しいよ。それにアタシからも礼を言うよ」
「え、礼ですか?」
「初見の客は大概あの子 (蜥蜴人の女の子)を毛嫌いしたりするからね。普段はアタシが初回の客は対応するんだが、忙しくてね」
「はあ?」
「アンタが親切に対応してくれたって喜んでたよ。色男は本当に罪だね。あはは」
「いや、普通ですよ」
豪快に笑いながら、嬉しそうに語る女将さんに俺は軽く会釈をする。
話している最中も厨房側の出入口から蜥蜴人の女の子がコチラをチラチラと見ては隠れたりを繰り返している。
「あの子は、両親がもうこの世にいなくてね。アタシが昔のパーティーメンバーだったって流れで引き取ったんだよ。手を出したら許さないよ色男?」
「はは、さすがにしませんって」
「ふふ、ただ蜥蜴人は、女からオスを探す種族だからね、そうなったら恥をかかせても許さないよ色男」
「どっちですか、いきなり、でも本当に楽しい食事になりました。ありがとうございます」
「ははは、また来とくれよ色男さん」
俺が店を出ようとした時、厨房側から蜥蜴人の女の子が走ってくる。
走る途中で転びそうになり、俺達が焦った瞬間、目にも止まらない速度で、ナギの尻尾が蜥蜴人の女の子の身体を支えた。
「危ない、走らなくてもマイマスターは言えば待ってくれる」
ナギの言葉に驚いたように蜥蜴人の女の子が立ち上がる。
「……あ、あり……とう」小さ過ぎる声に驚いたが、何よりナギが助けに入ったことにも驚いた。
「大丈夫、マイマスターはみんなに優しい」
「……でも、リトは……半端だから……かも……だから」
更に小さくなる声、ナギが突然、尻尾で蜥蜴人の女の子を吊し上げると俺の前に連れてくる。
「マイマスター、リト、話、聞いてあげて」
「あ、あの……あ、りがとう、ご……ました、また……来てね」
必死に絞り出した声に俺はにっこりと笑う。
「また来るよ。リトちゃん。今日は沢山ありがとうな」
俺なりに礼を伝えるとリトと言う蜥蜴人の女の子は嬉しそうに笑顔をつくり頷き、厨房に走っていってしまった。
「マイマスター、複雑な気持ち」
「ナギ、大丈夫だから、よしよし。落ち着けよな」
なんだが賑やかで、嫁ちゃん達全員の気持ちが少し理解できた昼食になった。
バタバタとした『星降る砂漠亭』から大通りへと移動していく。
色々と考えながらも、目的の『ミトの解体屋』へと向かっていく。
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




