71話、ミトの解体屋に行こう
俺達が砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]に来て、あっと言う間に半日が過ぎていく。他の嫁ちゃん達も合流する約束になっていたようで、転送陣の設置された人気のない路地裏の一角に移動する。
「しかし、まあ、皆でよく話し合ってるんだな?」
俺の発言にベリーとフライちゃんの2人が顔を見合わせてから、ため息を吐いた。
「当然じゃないのよ、皆で生活してるのよ?」
「そうですよ、一夫多妻制は大変なんですよ?」
ベリーとフライちゃんに言われて改めて考えるが、本当にすごいんだよな……
「キンザンさん、いま、他人事みたいな顔してるけど、旦那はキンザンさんなのよ」
「きんざんさんは、そんな人じゃないですよ、ちゃんと私達のことを考えてくれてますよ!」
俺を間に挟んで始まった軽い口論になりそうだったので、ストップを掛けつつ、別行動の嫁ちゃん達の合流を待っていく。
最初に合流したのはペコとグーの2人だった。
何をしていたか分からないが、2人ともガントレットと盾を装備しており、僅かに血の香りがするため、狩りをしてたことが容易く想像できた。
「「遅くなりました。主様、フライ様、可愛いです。ベリー様もすごく似合ってますね」」
2人が俺ににっこり笑いながら、挨拶を済ませるとその後ろからミア達も次々に姿を現していく。
「お、オッサン格好いいじゃんか。似合ってるな」
「本当にゃ、フライ達も可愛いニャ〜」
そんな会話が始まるとやはり女子だと改めて感じるような服の話で盛り上がっていく嫁ちゃん達。
一気に10人行動になったせいか、少し目立ちすぎるので、やむ無しと先程、挨拶をして出たばかりの爺さんの店舗に逆戻りとなった。
鈴の音と共に、爺さんがまた顔を出して俺を見る。
「買い忘れかね?」
「実は、また服を買いたくて……」
爺さんが軽く首を傾げたので、俺は合流した嫁ちゃん達を呼んでいく。
「なんじゃ、おまえさん……たらしじゃなぁ?」
「ははは、爺さん、とりあえず、人数分買うからさ、サイズ合わせだけ頼むわ」
「うむ。わかった。決まったら呼んどくれ」
そこから、嫁ちゃん達の好みの服が次々と選ばれていき、最初は悩んでいた様子だったが、最後は全員がほしい服を買う形で笑顔になっていた。
「お前さん、随分、甘いのぅ……流石にワシも欲しがる服を本当に全部買う奴は初めてみたよ、長生きはするもんじゃなあぁ」
「まあ、俺みたいなオッサンにできることは全部してやりたいだけですよ。それにあんな風に喜ぶ顔を見たら悪くないっていうか」
視線の先で互いに笑い合う嫁ちゃん達は本当に楽しそうで純粋に俺は今を幸せだと感じていた。
「貢ぐだけの男なら、忠告の一つもしてやろうと思ったが、違うみたいでホッとしたわい。さて、お前さんらは、なにをしに来たんじゃ」
爺さんからの質問に軽く悩むが、目的らしい目的などないのだ。
「実は、なんとなくきてまして、ははは……」
「なんとなくか、ははは、肌の色を見たら分かるが、日焼けもしとらんような奴らが、目的もなく来たのか、本当に変わった客人じゃな」
「逆になんか、オススメなんかはありますかね?」
「オススメか、ふむ……そうさなぁ、と言っても珍しいモンなんてあまり無いからのぉ」
「なら、オススメの飯屋とか、珍しい食材を扱う店なんかはないですか?」
「なんじゃ、食いもんに興味があるのか?」
「まぁ、これでも料理人なんで」
軽く笑みを浮かべながら頭を搔く。
「それなら、市場よりも食材の方がよいかもしれんな……『ミトの解体屋』って店があるから言ってみ、色んな肉を扱っとるからな」
色々な肉と聞き、珍しい食材があるかもしれないとワクワクする。
「ありがとうございます。後で早速行ってみます」
「よいよ。こんだけ買ってもらったんじゃ、むしろ礼を言うのはこちらじゃよ」
そんな長々とした会話を終わらせてから俺と嫁ちゃん達は店を後にした。
外に出てから、街を歩くと最初ほどじゃないがやはり視線を集めてしまう。
幼さが残るとはいっても、ミアやニア、ドーナにフライちゃんは美人だからな、顔もそうだが、一人一人が美少女なのだ。
そこにスタイル抜群なベリーやナギ、すらっとしたポワゾンやペコ、グーがいるのだから、どんな奴らの視線も集めちまうよな。
しかし、そうなるとお約束の展開が襲ってくるのも、当然のお約束なんだよな。
はぁ、ほら来たよ。
「なぁ、アンタ? 随分と羽振りが良さそうだな」
「それにいい女も連れてるじゃねぇか?」
「お姉ちゃん達もこんなオッサンより、オレらと酒でも飲もうや」
見るからに柄の悪いチャラ男と筋肉ムキムキの黒肌コンガリマッチョ、顔から欲望丸出し性欲魔人みたいな3人組が絡んできて、俺はため息を軽く吐き出した。
「そういうの間に合ってるから、他をあたってくれないか?」
ダルそうにそう言ってしまった俺にも非があるかもしれないが、いきなりキレだした筋肉ムキムキ黒肌コンガリマッチョが俺の胸ぐらを掴みかかってきた。
「お前に話してねぇんだよ、オッサン!」
軽く首元の服を上に持ち上げられて、身体が僅かに浮かされたので少し考えたが、正当防衛だなっと確信してから、俺は【身体強化】を発動してコンガリマッチョの小指を片手で握り、下に向けて力を加える。
「いてで! ぎゅあ、離しやがれ、折れる、折れるから、離せ!」
コンガリマッチョの言葉に力を入れすぎたかと、慌てて手を離してやる。
片膝をつく形になったコンガリマッチョが顔を真っ赤に赤黒くすると再度立ち上がり、俺を睨みつけてくる。
「反省って概念とかないかな?」
見た目と態度で分かってはいたが、確認してみる。
その間、嫁ちゃん達はどうしてるかと視線を向けると、退屈なものを見るような視線を相手に向けながら雑談をしていた。
「見慣れてんだよな……正直、オッサンが自覚ないだけで、オッサン強いからな」
「キンザンは、自信がついたら暴走するタイプだから、今くらいが一番にゃ〜」
「そうね、キンザンさんが自信つけたら、料理みたいに手を抜かなくなるから、危ないわね」
ミア、ニア、ベリーの会話が軽く聞こえるが、目の前のコンガリマッチョがなんか言っててよく聞こえなかった。
ただ「自覚がない」とか、「危ない」とか、心配してくれてるんだな、心配かけたらダメだよな。
「悪いが、嫁ちゃん達が心配してるみたいなんでな、少しズルをさせてもらうぞ」
【ストレージ】から以前、手に入れたペンライトを取り出すとしっかりと握りしめる。
「なんだそりゃ! 武器でも出すかと思えば、変なもん出しやがって!」
はい、ピカッ!
「うわ、眩しい!」
いきなり目に向けて光が向けられたら、そうなるよな!
ペンライトの先端をしっかり親指で抑えて、手からはみ出した後ろ側を鳩尾へと力強く押し込む。
早い話が、鳩尾にペンライトを突き刺した感じだ。
「ぐあ、いだぁ、な、ぐぁぁぁぁ! いでぇ!」
ムキムキのマッチョでも、格闘家じゃない限りは耐えるための鍛錬なんかしてないだろうから、かなり痛いはずだ。
ゆっくり近づいて、のたうち回るコンガリマッチョを睨みつける。
「分かったら、絡むのやめてもらえるかな?」
「わ、わがりまじた……」
コンガリマッチョの反応に他の2人も首を縦に動かしたので、警備兵を呼ぶのはやめて見逃してやることにした。
「ペンは剣より強しか、昔の偉人は偉大だな」
俺は手に握ったペンライトを見てそんな風に言うとベリーから声がかけられる。
「何が、ペンは剣より強しよ! 意味が違うわよキンザンさん。エドワード・ブルワー・リットンと慶應義塾を作った福澤諭吉に謝ってきなさいよ、まったく」
「え、福澤諭吉と誰?」
「いえ、いいわ……まったく、どこで、そんないい加減なペンは剣より強しを身につけたのよ、はぁ」
なぜか壮大なため息を吐くベリーとは対照的にミア達は目を輝かせていた。
「オッサン、竜切り包丁なしでも戦えたんだな!」
「キンザン、カッコイイにゃ! 凄かったにゃ〜」
「なの! ペンは剣より強しなの!」
俺が苦笑いしながら、発言を後悔しながらも服屋の爺さんから教えてもらった『ミトの解体屋』を目指して歩いていく。
そこまで騒いだつもりはなかったが、俺と嫁ちゃん達に絡んでこようってやつはそれから現れなかったので、ホッとしている。
さて、どんな食材と出会えるか楽しみだな。まだまだ、日が高いこともあり、期待が膨らんでいく。
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