69話、嫁と久しぶりのデートです2
ミアとニアと楽しい時間を過ごし夜になる。俺は再度、日にちが代わってから、深夜の地下室へと向かって歩いていく。
説明は不要だろうが今日の分の食材を[カエルム]の『フライデー2号店』に届けるためだ。
あちらは週に5回営業するため、この食材運びを忘れると大変なことになる。
なのであちら側の時間で俺が来なければ、転送陣を使って俺を起こすことになっているが、嫁ちゃん達もいるため、そうならないように気合いを入れて起きている。
「ふぁ、さすがに連日、夜中に起きるのはしんどいな。まぁ慣れたら大丈夫なんだろうけどさ」
そんな独り言を呟きながら、転送陣のある地下室の扉を開く。
開いた先を見て俺は驚きで声を上げそうになった。
小さな椅子にクッションを枕がわりにして、タオルケットをかけて仲良く寝ているドーナとポワゾンの姿があったからだ。
「えっと、二人は……な、なにしてんだ?」
俺の存在に気づいたポワゾンが眠そうな眼を擦りながら、立ち上がり頭を下げてきた。
「おはようございます。ご主人様。ドーナ様、起きてください、来られましたよ」
「うーん、おはようなの〜ふぁ〜」
やけに眠そうなドーナの姿、2人から、とりあえず、話を聞くことにした。
「はい、ドーナ様から、ご主人様と遊ぶ時間が少ないと、その泣きつ……いえ、相談を受けまして、そのため、くじ引きを提案して、結果的に私達の番になりましたので、お待ちしておりました」
丁寧な説明ありがとうな……つまり、遊ぶ時間が欲しいから、くじ引きで遊ぶ相手を割り振ったわけね……
「まあ、理由はわかったけど、ドーナはまだ寝てるじゃないか」
そう、ドーナは普段の黒いナース服を思わせるコスチュームから、黒のリボンがワンポイントの白く可愛いパジャマに着替えた状態で眠りについていた。
その指摘にポワゾンは悩むことなく、寝たままのドーナの衣服を丁寧かつスピーディーに脱がせていく。
「待て、ストップ! だから……さすがに待てって!」
俺の言葉にポワゾンは軽く口角を上げる。
「相変わらず、ヘタレですね。もう、ドーナ様も妻の一人なのですから、覚悟を決めてくださいませ。ご主人様」
凄まじいドヤ顔とニヤけた口元に、イラッとしたので、頭に軽くチョップを食らわせつつ、ドーナを起こしていく。
「いいか、ポワゾン。嫁とか妻とか以前に女の子を脱がすのは良くないことなんだよ。ましてや男の前でそれは本当にダメだ!」
「かしこまりました。では……ぷぷっ、次からは……ふふっふ、ご主人様が直接脱がせてあげて……クスクス……くださいませ」
なにを笑ってんだ、ポワゾンのやつ?
正面を向くとドーナが恥ずかしそうな顔で視線を斜め下にむけながら赤らめた表情をしていた。
「マスター、イヤーンなの?」
なんで最後に『?』なんだ、それとなんでそんな言葉を知ってるんだ。
「お前か、ポワゾン……俺と遊びたくて仕方ないらしいな……いいだろう、やってやるよ!」
「なんの話でしょうか? ワタシは別にクスクス、何も……フフ、知りませんよ……ククク」
明らかになんか知ってんじゃねぇか!
そんな俺とポワゾンの悪ふざけで始まった睨み合いは、ドーナの不意の一言で終わりを迎える。
「マスター、メッ! 仲良くなの。じゃないと悲しいの……マスターとポワちゃんとお出かけだと思ったのに、せっかくベリーちゃんから、マスターのために大人の決めゼリフ教えてもらったのに悲しいの……」
この展開はまずい、頑張ったドーナの気持ちを無視した最低な旦那さんになっちまう……
「ド、ドーナ、セクシーだったぞ、惚れ直したよ」
かなりぎこちないが、今の俺の全力なので届いてほしい。
「マスター、本当なの? ドーナは決めゼリフできてたの?」
「ああ、完璧だったよ。それより着替えてくれないかな、2号店の皆が待ってるだろうし、ドーナもパジャマだと出かけられないだろ?」
ドーナが、“ハッ!”とした顔をすると恥ずかしそうに俺に向かって語りかけた。
「マ、マスター、着替えるから見ちゃダメなの、あっちを向いてるの」
これで通常運転になるな、本当に朝から焦らされるわな。
ドーナがいつもの黒ナース服のコスチュームに着替えてから、決めポーズを俺に披露すると、やっと[カエルム]に向かうことができた。
時間は掛かったが、まだ余裕があったので本当に助かった。
ポワゾンはドーナが起きたら何をするかわかってたから、笑ってたんだな……腹黒毒メイドが!
出鼻をくじかれた形になったが、無事に転送陣を潜り抜けて目的を果たすと、俺達は2号店を後にした。
「マスター! [カエルム]の街から外に行ってみるの!」
いきなりのドーナの提案に驚いたが、ポワゾンが反対しない所を見ると大丈夫なのだろうと判断してその提案を受け入れた。
当然だが、出入りには通行料が掛かり、[バリオン]が銀貨だったのに対して[カエルム]は、まさかの金貨を払わされた。
やはりと言うかなんと言うか、高級リゾートのある街とは全てが高くなるんだなと再確認する結果となった。
そこから余り離れない程度に街の外を散策していく。
驚いたのは海側以外を囲む壁の向こうにも市場やテント、小さな家などがあちらこちらに作られており、壁の内側よりも賑わいがあったことだった。
「なんか、こっちも一つの街みたいだな」
「ご主人様、それは当然かと……皆が皆、壁の中に住めるわけではありませんから」
ポワゾンの説明では、中に入るには通行料が掛かり、それは出る際にもかかる。商人すら簡単に出入りはしないそうだ。
なら、なぜ、外に集まっているかを問いかけたら、内側の商人が必要な物資を買うからだそうだ。
つまりは運んできた荷物を買ってもらうために小さな商人達が群がり、必要な物を買う商人がいる。
運び手と買い手という構図ができているようだった。
そんな巨大な市場と化した外の町を歩きながら珍しい品が無いかを3人で見ていく。
タコのような足の生えた魚や、フグのような真ん丸な貝など、見ててびっくりする海産物もあれば、人の形をした大根や、人の顔を思わせる模様の果実など、本当に売れるのか怪しい品も数多く存在した。
「最初はなんか、大変なんだなと思ったが、皆、生き生きしてるな」
「そうでしょうね……[カエルム]から出れた者はまた戻ってきて商売をするようですから、出れない者と出れた者の差も大きいのでしょうね……」
そんな会話をしながら、歩いているとドーナが退屈したのか、俺目掛けて飛びついて来た。
「難しい話はおしまいなの! 今日はドーナと遊ぶ日なの!」
普段より強い語尾に苦笑いをしながら、肩車をしてやる。
「高いの〜ポワちゃんが小さいの〜」
「違います、ドーナ様がご主人様と合体されたため、デカいのですよ……ふふ」
わかってて、言葉遊びしてやがる……
「わーい、マスターと合体なの!」
ドーナは無邪気に楽しんでるから、まぁいいとして、ポワゾンに関しては、最近マシになってたと思ったらこれかまったく、しゃあないな。
ある程度、店などを見てから、ほしいものが無いかと二人に聞いたが、特に無いようで俺自身も面白いものは、数点見れたが、これといったものはなかった。
金貨を払って収穫ゼロは少し残念だが、これもあるあるなのだから仕方ない。
「あれ、主様じゃん? なにしてんだい」と女性から声を掛けられ振り向く。
そこには、奴隷だった狼人族の女三人組のウルグ、フェイ、ファンの3人が立っていた。
「お久しぶりです。主殿」
「何してるの! 主?」
元気に質問してくる姿をみて、上手くやってるんだなと少し安心した。
「お前達こそ、なにしてるんだ?」
その問にウルグが答える。
「なにって、アタシ達はこの町を守ってるのさ、タダ飯とタダ酒が報酬だから、金は堪らないけどね」
「そうなのか、俺達はまあ、成り行きだな」
「ふーん、てっきり、外で息ぬきに来たのかと思ったよ。まぁ違うなら次にでも来なよ。楽しい狩場を教えるよ主様」
「そいつはありがとうな。その際は寄らせてもらうよ」
「ああ、その時はゆっくりおいでなぁ、しっかりサポートしてあげるからさぁ」
3人は挨拶を終えてその場から立ち去っていく。
なぜかポワゾンが険しい顔をしている。
「どうした? 怖い顔してるぞ」
「あれは、メス犬です! 絶対にだめですからね。ご主人様!」
釘を刺された俺はとりあえず、3人で壁の内側に戻り、[バリオン]へと帰還する。
[カエルム]から[バリオン]に戻ると夜明け寸前の朝がやってきていた。
気持ちを切り替えて、俺達3人は朝日に照らされながら、[森の入口]から中に入り、以前に訪れた川で魚釣りや水遊びを楽しみ、昼頃に疲れて眠るドーナを背負い屋敷へと戻った。
風呂に入り、一服を終わらせて俺も昼寝を楽しむことにした。




