66話、仕込みの時間、『錬金ギルド』のやばい奴
長かった全ての段取りを終わらせて、俺と嫁ちゃん達は[バリオン]へと帰宅した。
長いバカンス気分を切り替えて、明日のために仕込みを開始する。
大量の食材が並ぶ中に[カエルム]で仕入れた魚介類も並べていく。
魚に関してはニアよりも捌くのが早いやつを俺は未だに知らない。なので仕込みの際も助けてもらっていた。
「キンザン、ニアの魚捌きをしっかりと見るのにゃ!」
なぜか決めポーズまで決めたニアに俺は苦笑いをしつつ、その無駄のない動きには毎度ながら感心してしまう。
『アジャフライ』をどこでも出していきたいからだろう、その気持ちに拍車が掛かり、俺の仕込みの速さも普段よりも格段に上がっていくのを感じる。
『オーカツ』の仕込みに関しては既にミアが筋切りを完璧にこなしてくれているため、心配はない。
俺は『オーコロ』のためにジャガイモを湯がき、ミンチにしたオーク肉を使って、しっかりと種を作っていく。
作り方は以前と変わらないので割愛させてもらうが、色々と手順があるので手抜きはできない。
『ラビカラ』は先にドーナ達に1口サイズより少し大きめにカットしてもらう。コチラも揚げた際にサイズが小さくなるため、ギリギリの大きさにしてある。
新メニューも『アジャフライ』と『いかフライ』を加える予定だ。
そして、付け合せのソースの一つとして『揚げもん屋フライデー印のタルタルソース』を売り出す予定だ。
「キンザンさん、本当にタルタルソースを売るつもりなの?」
「なんだベリーは反対か?」
「反対とかじゃないけど、この大スプーン2杯分で大銅貨1枚(100リコ)なのよね?」
「やっぱり高いよな? それはわかるんだがな」
「逆よ! こんだけ卵色してて、刻んだ卵に野菜も入ってるのよ! 早い話がマヨネーズなんて卵の塊じゃない」
「ま、まぁ落ち着けよ……とりあえず試しだからさ」
タルタルソースに関しては卵を使っているせいで、逆に少し高めに値段設定をしないとならない。
少し厄介だがそこは致し方ないので基本をプチサイズとして、気持ち味を楽しめるくらいの量にするつもりだ。
久々の大量の仕込みに俺は額を輝かせつつも、しっかりと作っていき、基本の決まった個数を次々に油へと流し込み揚げていく。
揚げもんの音を聞きながら、色合いと共にベストタイミングであげていく。
「よし、いい感じの色だな。サクサクのジュワジュワ音が聞こえてきたし、今だな!」
完璧な黄金色、自画自賛になるが、文句なしの仕上がりだな。
銀色の巨大油切りトレーが次々に黄金色の揚げもんでいっぱいになると次の銀トレーと入れ替えて同じように並べていく。
厨房側の揚げもんスペースは真夏もびっくりな温度になっているだろう、シャツが肌に張り付く感じが本当にやばいと思ってしまう。
そんな作業も大詰めとなり、後半も残すところ『ラビカラ』を揚げるだけとなり、俺は次に昼食の支度をしていく。
長かった揚げ物スペースから移動して、額の手ぬぐいを巻き直すと[カエルム]で仕入れた魚達を刺身にしてから、さらに細かく刻む。
寿司桶にシャリを入れてから『酢飯くん』の袋を取り出して、酢飯をササッと作っていく。
この酢飯作りは意外に大変なので、本当にお手軽シリーズには、感謝しかないな。
酢飯ができたら、次に刻み海苔を満遍なくふりかけていき、その上に刻んだ刺身と薄焼きにした錦糸卵、桜でんぶ、イクラ、イカの細切り、エビ、ホタテなどをカットしたものを並べていく。
最後に大葉の刻みを散らせれば、キンザン特製『手抜きな散らし寿司』完成だ。
本当に刻んだ食材を並べるだけだから、錦糸卵もコツを掴むと楽に焼けるしな、片栗粉なんかでなんとかなるが、それはまた別の機会に話せればいいなと思う。
「みんな、昼にしよう。取り分けるから、皿も出していくぞ」
手洗いを済ませた嫁ちゃん達に散らし寿司を綺麗に小分けにした皿を渡していく。
見た目も嬉しいチラシ寿司だからな、本当なら一皿ずつ作ってやれればいいんだが、今回は手抜きと名が付いているため、許してもらう。
「なんか、ピンクのやつがあるにゃ!」
「お、オッサン、小さな赤い目玉はなんだよ……綺麗だけど、おっかねぇぞ」
「あら、ミアはイクラを知らないのね? でも、たしかに港街でもあまり見ないものね」
ポワゾンも知らなかったせいか、ベリーの言葉に頷きながら驚いていた。
「ベリー様は博識ですね。ご主人様の使う食材は不思議な物ばかりですから、本当に驚かされます」
各自が各々に食べる前から感想を言い出していたので、とりあえず食事を開始する。
散らし寿司だけだとあれだったので『松茸だよ松茸!』のお吸い物もお湯を入れて作っていく。
そんな感じに昼飯をスタートさせてから、午後の仕込みについても考えていく。
今回は午前の最後にベリーと相談して、なんとかアイスを保管するためのアイディアがないかを考えている。
本当にこちらの世界は保存に関しては絶望的で、代替案がないため、早急になんとかしたいのが本音だ。
同じ悩みが多分だが『調理師ギルド』でも出たことがあるだろうと思い、午後にでも、ルンダに聞きに行くことも念頭に入れておく。
とにかく、慣れたおかげと、嫁ちゃん達が増えたお陰で今まで1日仕事だった仕込みが半日で終わる結果になった。
「数の有利とか、数の暴力とか、色々あるが、実感する日がきて幸せだな」
昼食が終わり、ミア、ニア、ポワゾンの3人が食べ終わった食器を洗っていく。
今までは俺がやっていたが、仕込みの日は皆がやってくれることになった。
理由は仕込みを一番してるんだから、休みなさい!って、いうことらしい。
そのお陰もあり、俺は早々と着替えを済ませて『調理師ギルド』へと向かうことを決めた。
その際にナギが俺を担ぎあげて、フライちゃんがナギの肩に乗る形で移動が開始する。
「さぁ、ナギ、行きましょう。目指すは『調理師ギルド』ですよ!」
「わかった。フライ、道案内、お願い」
なぜか、かなり仲良くなってた2人に捕まった俺は高速で[バリオン]の繁華街を抜け、時に建物の屋根や壁を飛び跳ねながら、目的地へと運ばれていく。
未だに外へ行く時に心配されている俺って、大切にされすぎな気がするな……などと思っていたが……
「ギャアアア! ぶつかるから、飛ばないでくれ! 地面が、うわぁぁぁ!」
「着いた」
「楽しかったですね。きんざんさんも元気に楽しんでましたし……あ、チビってないですか?」
「そこの心配は大丈夫だよ、フライちゃん。ただ、マジに死ぬかと思った……」
「あ、あのきんざんさん、死んだら、次は転生になるだけですから、大丈夫ですよ?」
「はは、フライちゃん。それはブラックジョークすぎるって」
絶叫系のリアルジェットコースターを安全バーなしに最前列で乗った気分だった。
次は本当に死ぬかもしれないと戦闘以外で命の危機を感じながらもナギの肩から、地面に降りて『調理師ギルド』の中へと歩いていく。
以前に見舞いに来てくれたルンダにもしっかりとお礼をしたいしな。
慣れた感じに受付のお姉さんに挨拶を済ませ、『調理師ギルド』のマスターであるルンダにアポなしで話を通してもらう。
「おお、キンザン殿。具合は大丈夫かい。心配したよ」
「その際は見舞いまでありがとうな。今回は砂糖の追加を持ってきたのと、あと聞きたい話しがあってな」
「聞きたいことねぇ、どんな内容なんだい?」
俺は食材保存に関する質問と普段の管理をどうしているのかを改めて聞いていく。
当然ながら、ルンダもそんな質問がくるとは思って無かったのだろう、保存に関しては首を悩ませていた。
「いや、ほらウチら『調理師ギルド』は必要な素材は転送陣を使って仕入れるからねぇ、保存可能かどうかより、できないものは大量に仕入れないが基本になるんだよ」
「やっぱり、保存や冷蔵に関しては情報がないですか?」
「無くは無いんだけど、多分、『錬金ギルド』がそういう変わったのを作ったりしてたかもね?」
「はあ、『錬金ギルド』ですか?」
「ただ、奴らは、支払いは金貨しか受け付けないし、しかも、素材はそっちで用意しろ、とか、本当に厄介な奴らだからね、オススメはしないよ?」
話が終わり、俺は挨拶を済ませてから『調理師ギルド』を後にする。
その足で『錬金ギルド』に向かおうとしたが、外で待っていたはずのフライちゃんとナギが変な奴らと喧嘩をしていた。
「なんなんですか、アナタ達は!」
「フライ、危ない!」
明らかに戦闘態勢のナギ、その正面には黒いローブの集団がいて、あちらも手をあげてなんか叫んでいる。
「蛇人族の鱗を少し、いや、あるだけ分けてくれ!」
「秘薬の材料じゃ、逃がすなよ!」
「早くせんか、警備兵が来ちまうぞ」
明らかに悪い奴らの会話だな……威嚇するのに竜切り包丁を出すのも違うから、とりあえず、ロング麺棒を【ストレージ】から取り出していく。
【調理器具マスター】の力でまるで麺棒も高速の槍のようだ。
風を切る“シュンッ”という音に黒いローブの集団が俺に視線を向ける。
「俺の嫁になにしてるんですかねぇ? 嫁に手をだすってことは殺られる覚悟もあるんだよなぁ」
インテリヤクザ風な言い方で睨みをきかせていく。映画だと格好良く見えたが、現実は効果があるかは分からないな。
だが、効果はあったらしいな……黒いローブ達が蜘蛛の子を散らすように逃げていき、一番先頭にいた1人がナギにガッツリと両肩を掴まれ持ち上げられている……これ、あれだわ? 映画なら食べられちゃうシーンだな。
「ナギ、先に言っとく、食べるなよ!」と言った俺の一言に黒いローブが体を震わせる。
「そうですよ、生はだめですよ?」とフライちゃんがアシストを決めていき。
「大丈夫、生肉も好き」と、ナギが言った途端に黒いローブはあっさりと気絶した。
「変なやつを捕まえたが、どうするかな」
着ていたローブを見ると『錬金ギルド』の文字があった。
「まじか、こんなやばい奴らだったのか、行くのはパスだな」
一度、足を運んでみようと思っていたが、客として行くのはなしにして、気絶した黒いローブの頭に『迷惑をかけるなよ』と書いたメモ用紙を貼り付けてその場を後にする。
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