64話、孤児院のみんなを元気にしたいだけ
孤児院の扉を数回ノックすると、扉の奥側から“ゴホッ……ゴホ……”と咳をしながら歩いてくる足音が聞こえてくる。
それと同じくして、パタパタと、数人の子供達が走る足音が聞こえてきた。
扉の先から、今にも消えてしまいそうな、弱々しい若い女性の声が聞こえる。
「はい、何方でしょうか?」
「こんな時間に申し訳ありません。俺……いえ、私は街の飲食店のオーナーをしております、キンザンと申します。少し話がありまして」
なるべく丁寧に威圧しないような声で話していく。
「話の内容が、分からないのですが? いったい──」
そんな言葉に子供達の声が割り込んでくる。
「違うんだ、シスターは悪くない。全部ボク達が悪いんだ」
「ごめんなさい……誰もいないって聞いてたから、それで、うわぁぁぁん、ゴベンナザイ!」
「アタシも、アタシもいきました……ごめんなさい……うぅぅぅ」
扉越しに聞こえてきた声に混ざる泣き声と必死な訴え、明らかに動揺する様子がこちらにも伝わる。
聞いてるだけで罪悪感が半端ないんだが……
「えっと、とりあえず開けてもらえませんか?」
俺の問いかけに慌ただしく鍵が開かれる音がして、すぐに扉が開かれる。
「た、大変、申し訳ありませんでした」
扉が開かれたと同時に俺に向けて深々と頭を下げる痩せた女性。その後ろに隠れて涙を浮かべる数人の幼い子供達。
他人から見たら、俺は借金取りにしか見えないな……
「おい、オッサン。なんか言ってやれよ、このままだと可哀想だろうが?」
同行してきたミアに言われて、慌てて頭を上げるように伝える。
「あ、あの、頭を上げてください。それと話をしたいので、とりあえず、中にあがっても大丈夫でしょうか……」
何とか、孤児院の中に入れてもらった。シスターであろう女性から話を聞くことにする。
「大変失礼致しました。私はシスターフィーネと申します」
「シスターフィーネさんですね。改めてキンザンです。失礼ですが、食事はちゃんと食べられていますか?」
シスターフィーネは首を力無く左右に小さく動かした。
「私が食べる分があれば、未来のある……あの子達に食べさせてあげたくて」
手もかなり細いし、歩いていた姿も弱々しくて見てられなかったしな。
「はぁ、先に言っとくが、アンタの考えを否定するつもりはないが、こんなやり方をしてたら、シスターフィーネ。アンタが倒れるだろう。そうなったら、ここのガキ達はどうするつもりなんだ?」
その発言に、ニアが何かを言おうとした瞬間、ミアがそれを止めた。
「それは……」とシスターフィーネが、消えそうな声を必死に絞り出そうとして、手に拳を握りしめたのが見えた。
「だから、アンタも食べないとダメだ。厨房を借りますよ」
廊下から心配そうに覗いている子供達の姿が見え、目があった瞬間に走って逃げていったが、1人の少女が転んだので、慌てて駆け寄る。
「大丈夫かい、走ると危ないぞ?」
「あ、あの、勝手にお店に入ってごめんなさい……」
少女が小さく怯えながら、そう口にしたので、起き上がらせてから俺は“買い物袋”に手を入れて、箱に入ったキャラメルを取り出す。包み紙を剥がしてから、少女に手渡す。
「食べ物だ。甘いから食べてみて、包みを外して食べるんだ、甘い物は好きかな?」
「あ、はい」
キャラメルを口に入れた少女は嬉しそうに笑顔になっていた。
「悪いんだけど、お嬢ちゃん。厨房の場所を教えてもらえるかな?」
「うん、お嬢ちゃんじゃないよ。サチだよ?」
「なら、サチ。お願いできるかな」
「うん、あっちだよ!」
サチに手を握られて、厨房まで引っ張られていく。案内された先は何もない厨房だった。
いや、厨房と言うよりは調理場と言うべきか悩むレベルに殺風景な状況だった。
例えて言うなら、家庭科室の調理台のような感じだった。そんな生活感のない調理場を見て、素直に感じた感想だ。
「ありがとうな。サチ、そしたら、もう1つ教えて欲しいんだが、皆って、何人いるのかな?」
「えっとね、1……2、3……4、5人、あ、サチを入れたら6人で、えっと、シスターもいて、だから7人?」
必死に指で数を数える姿に頭を撫でてから、キャラメルの箱を手渡す。
「1箱に6個入ってるから、皆で食べるんだよ。シスターフィーネの分はオジサンが用意するからね」
「うん、わかった。ありがとう、おじちゃん」
手を振りながら走っていくサチに手を振り、俺は使われていなかったであろう、厨房改め、調理場に視線を向ける。
「とりあえず、水は出……ないな。魔石もなさそうだからな、とりあえずは、2リットルペットボトルを何本か取り出すか」
既に調理場にある設備で調理は無理だと判断したので、久々にガスコンロを取り出していく。
本来は窯で料理をと考えていたが、窯すら使えるか不安になるくらい手入れがされていない。
まずは、湯を沸かして、[カエルム]の市場で見つけた出汁の出る海藻を煮込んでいく。
形は違うが、昆布のような出汁と魚から取ったような出汁を合わせたような味の出汁が取れる優れものだ。
1本から取れる出汁は僅かだが、タイミングは【食材鑑定】を使えば問題なしだ。
むしろ、このスーパーな海藻があまり使われず、安い理由は煮すぎると苦味とエグミが出るからだろう。
「ここだな」と、俺は素早く海藻を引き上げて、次の海藻を入れていく。
僅かでも苦味が出たら全て台無しになってしまうこともあり、海藻とのにらめっこに集中する。
そうして、出汁が取れたら、次に炊けた状態の米を出汁に加えていく。
本来は生米から、水を吸わせて炊いてやる方が旨みも艶も出てくれるんだろうが、今回は雑炊にする予定だから、そこらへんは無視だな。
たっぷりの出汁に米を煮込んでいき、柔らかくクタクタになったら、中火にして、溶き卵を加えていき、卵が固まるのを待っていく。
溶き卵が形を保てる程度に固くなってから、軽く味見をして、醤油をどれくらい入れるかを決めていく。
本来なら醤油小さじ2~3がオススメになるかな、ただ、今回は体力的にかなり弱ってることもあるので、小さじ1にして、あとから本人の意思で足してもらうことにする。
そして、さらに必要なモノを用意していく。
大根の薄切りに梅肉を和えた物と小松菜を煮てから鰹節と和えてから、細かく叩いてみじん切りにした小鉢を用意する。
この2つは身体に吸収されやすいのでオススメだな。大根と梅には食欲増進を期待しているし、小松菜は栄養価も高く消化もしやすい優しい食材と言えるだろう。
肉や魚も出してやりたいが……合う合わないがあるので悩むな……とりあえず、シラスにするかな?
そう決めた俺は、余った大根を一気にすり下ろしていく。
本来一気にすると辛味成分『アリルイソチオシアネート』っていう、まぁ……辛いやつが出てきてしまうんだが。
なので、円を描くようにしながら、なるべく辛味が出ないようにしていき、すり下ろした後に放置して、辛味を飛ばしていくことにする。
水に晒す方法もあるが、風味も栄養価も吹き飛んでしまうため、オススメはしないな。
そんなことを考えながら、調理をしていたんだが、どうやら自然と【調理器具マスター】が発動していたらしく、すりおろし器を完璧に使い、辛味が無いままに、栄養価抜群の大根おろしを完成させてしまった。
「なんか、これはこれで、腑に落ちねぇな……」
おろしにシラスを和えて混ぜ合わせていく。
雑炊が軽く冷めて食べやすい温度になったのを確認してから、木製の器に入れて残りを【ストレージ】へとしまっていく。
トレーに雑炊、小松菜の刻み和えの小鉢と大根おろしとシラスの醤油和えを乗せ、シスターフィーネとミア、ニア、ダインの待つ部屋へと戻っていく。
時間にしたら10数分程度だが、やはり、いきなりいなくなったことは悪かったと反省だな。
「すみません、勝手なことをしてしまって……まずはシスターフィーネ。アナタは食事をしてください。
アナタが食べてくれたら子供達の食事も出します。少し掃除などの店舗の手伝いはお願いしますが、悪くない話でしょ?」
ニッコリ笑うと、シスターフィーネは何を言われてるか理解できないという、混乱したような表情を浮かべてこちらを見ていた。
「もう一度、言いますね。早い話がシスターフィーネ、アナタがしっかり食事をしてくれたら、俺は飯を子供達に作る。
代わりに店の手伝いをお願いしたりします、条件的には悪くないと思います。どうでしょうか?」
「それは……子供達を働かせて、対価を得るということですか……子供達を利用するような真似はできません」
予想外と言うか、そっち側の考えになっちまうのか……手伝いの代わりに飯を食べさせるって話にしたかったんだがな。どうしたもんか?
話が途切れた瞬間、ドタバタと廊下から足音が聞こえ、室内に子供達が入ってきた。
口をモゴモゴと動かしているので、キャラメルを食べているんだろうな。
「シスター! すごく美味しいのもらったんだぜ」
「うん、サチが食べ方を教えてくれて、オジチャンがくれたって言ってね。お礼をしないと、だからきたの」
数人の子供達が次々に喋り出し、シスターフィーネも困ったように「あらあら」とキョロキョロと子供達に視線を向けていく。
「まぁ、今日は諦めます。ただ、お腹を空かせた子供達に飯を与えるのは簡単ですが、働くことや対価を知ることも大切だと思うんです。
ですので、手伝いの代わりにご飯をと思いましたが、浅はかな思考でした。本当にすみません」
このタイミングで俺は頭を下げるとシスターフィーネと俺を見ていた子供達が急に黙ってしまった。
「シスター、手伝ったらって、なに?」
「おじちゃん、何したらいいの?」
そんな質問にシスターフィーネが困った表情を浮かべてから、口を開き説明を始めた。
内容を聞いた子供達は顔を見合わせてから、笑顔になるとすぐに大喜びで話し出した。
「やった、お手伝いしたら、ご飯が食べれるってよ」
「食べれるの嬉しいけど、お手伝いできるかな?」
「頑張ったら、パンが食べれるかもしれないよ?」
「え、塩と水のスープじゃないの食べられるの?」
楽しそうに話す子供達の笑顔と会話を聞いてから、俺は再度、シスターフィーネと会話して、結果的に、店の掃除や皿洗いなどをしてもらうことで食事を振る舞うことに決まったのだ。
この結果にダインも喜んでくれたので本当に良かった。
とりあえず、話し合いがまとまると、俺達は調理場を再度借りて、子供達のための料理を作り始めていく。
メニューは、オムライスにしたのだが、人数分のオムライスを見て、卵を大量に使っていると知って気絶してしまい、またそれも大変だった。
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