63話、海と言えば美人もいいが……焼きそばと言いたい!
ビーチにやって来て、最初に気づいたのは、本当に青い海と砂浜以外は何もないことだった。
「てか、着替えるための場所も、海の家みたいなのも無いんだな?」
素直な感想が口から漏れるとベリーから呆れたように返事が返ってきた。
「当然でしょ、だって、川とかで普通に服を脱いじゃうのよ? わざわざ着替えるような人は貴族様くらいよ」
「なら、ベリー達もここで着替えたのか?」
その瞬間、真っ赤になったベリーがポカポカと俺の腕を叩きだした。
「そんな訳ないでしょうが! フライちゃんに外から見えなくなる結界を作ってもらったのよ。その中で着替えたの」
そんなやり取りをしていると、海で遊んでいた嫁ちゃん達が慌ててこちらに走って来るのが見えた。
「キンザン! お腹空いたにゃ〜」
「ドーナもペコペコなの〜」
「「主様、そのすみません、私達も……」」
ありゃ、遊んで腹が空いて戻ってきたパターンか……
海と言えば、BBQ……いや、焼きそばだろ!
「少し待ってろよ!」
“買い物袋”にお約束の金貨を数枚、叩き込み、屋台用の鉄板のみを出して、キャンプ用の焚き火式BBQコンロを2つ並べて火をつけていく。
着火剤もしっかり使ったのでいい感じに燃えてくれてるな。
鉄板に油を引いて、次に『カット野菜のパック』と定番のオーク肉の細切りを【ストレージ】から取り出して一気に炒めていく。
屋台の定番はこの鉄ヘラだろう、食材のカットから炒めるまでを完璧にこなす鉄板の神器だな。
「いい感じに香りも出てきたな!」
白い煙と共に火が通る肉と野菜に塩コショウを振り掛けてから、手で軽く揉みほぐした焼きそば麺を入れていく。
掻き回すようにしっかりと混ぜながら、秘密兵器、プチビール缶のタブを開き、少量を焼きそばに加えていく。
「ちょ、キンザンさん、なんでそんなことするのよ! 勿体ないわよ」
「残った分は飲んでいいぞ? 少しだけ、隠し味にほしかっただけだからな」
ベリーにプチ缶を渡してから『福の神のオラふくソース』をかけて手早く混ぜ合わせていく。
ソースと野菜の香りに焼けた肉の香ばしさが合わさり、周囲に芳醇な香りが溢れ出していく。
周囲からの視線がかなり集まってしまっているが、それを気にしたら、鉄板なんて使えない!
あっという間に焼きそばを作り、イベント用の使い捨てトレーに盛っていく。
紙皿だと、ふにゃふにゃになって落としてしまうため、あえてトレーを選択したのがこだわりだな。
割り箸や使い捨てフォークをベリーに頼んで皆に渡してもらう。
これで完了だなと思った時、ナギが俺の手を軽く引っ張ったので振り向くと、周囲に小さなキッズ達が集まって来ていた。
「マイマスター、この子達も、空腹みたい」
いや、わかるが、勝手に食べさせるのは、如何せん、どうなんだろうか?
悩む俺の耳に小さな“ぐ〜”っという腹の虫が聞こえてしまい、悩むのを辞めた。
「鉄板の火を消してなくて良かったな。ったく、やるか!」
カット野菜を取り出して、炒めていき、今回はウインナーをチョイスする。
端でフランクを焼きながら、中央で麺をほぐして最初同様に焼いていく。ただし、プチ缶はなしだな。
甘辛の『福の神のオラふくソース』を加えて、一気に完成させていき、次を待つ子達には焼いたフランクを渡してやる。
マスタードはまだ早いから、ササッとケチャップを掛けてやれば完成だ。
流石はお子様と言うべきか、食べたことのない料理も偏見なく食べてるな。
さらにフランクとトウモロコシも追加して、どんどん焼いていけば、俺の周囲は人で溢れており、気づけば嫁ちゃん達が列を作るように誘導していた。
「フライデー出張2号店ですよ〜食べてみてくださいね」
「美味しいにゃよ〜」
ベリーとニアは、宣伝までしてるのか?
「オッサン、手伝うから、どんどん焼いてくれよ」
「なんでこうなったか分からないが、ミアも張り切ってるな?」
「当然だろ、オッサンの料理が褒められたら嬉しいじゃんか」
ニッコリ笑うミアに俺も笑い返すと、一旦手を止めて、大量のテーブルを取り出していく。
「ミア、ナギ、ガルダ、ダインはこのテーブルをそっちのスペースに並べてくれるか、ペコとグーはこの箱を席の近くに置いてくれゴミ入れだ」
食べる場所を作り、ゴミの回収ができる状態にしてからさらに焼きそばを焼いていき、三ツ目族、三姉妹のドド、メメ、キキに食べに来た人に渡してもらう。
ゴミのポイ捨てが無いかはポワゾンとドーナ、フライちゃんに監視してもらうことにした。
途中からは手が足りなくなり、追加でBBQコンロを出して、ダイン、ミミ、コン、の3人にトウモロコシやフランクを焼いてもらうことになった。
意外にも焼きトウモロコシがフランクより人気でびっくりしたが、休日の海を楽しむ筈がガッツリと仕事をしてしまった感じだな。
結果としては、大放出のお祭り騒ぎ、赤字も赤字の大奮発祭りになっちまった。
「経営者としてみたら、やっぱり俺は向いてないかもな」
やっと終わったと、夕日に照らされた砂浜に寝転ぶ俺。
「そうね、キンザンさんは、経営者側だと駄目な人かもね。でも、私はそういうところも好きよ?」
「ベリーの言う通りだね。オッサンはオッサンらしいから、いいんだしな」
そんなミアとベリーからの言葉を聞きながら、身体を起こして、オレンジ色に染まる海を見る。
「綺麗だな、なんか、すげぇ綺麗だ」
無料で料理を振る舞ってしまうという、ダメダメな結果を反省しながらも、悪くない1日だったと思う俺はそこから鉄板の掃除やゴミを“リサイクル袋”に回収したりと最後までバタバタしてしまった。
夜になり、『フライデー2号店』に戻ると、ダイン達を含む厨房組から頭を下げられた。
「オーナー、オラ達にあのトウモロコシを扱わせてもらえませんでしょうか!」
「おい、落ち着けって、いきなりどうしたんだよ?」
話を聞いてわかったのは、子供達の笑顔にあった。
長く高級志向の商売スタイルを取っていたから、無邪気な笑顔に感動を覚えたらしい。
「すごい理由だな? だけど、嫌いじゃないぞ。わかった。ただ、あれは俺しか今のところ用意できないことも理解してくれるか?」
「へ、へい、分かってます。無理なら諦めますだ……」
すごく悔しそうで辛そうな表情が下を向いてるハズなのに伝わってくるな。本当に食べさせてやりたいんだな。
「だから、子供達に出す時にサービスし過ぎないようにしてくれ。種類がいくつもあるから、調理法を教えるからさ」
「お、オーナー、ありがとうございます。それと、大変図々しい願いなんですが、オラにもらえる給金の話ですが、それを一部、トウモロコシにしてもらえないでしょうか……」
「ん? いや、構わないが、なんでトウモロコシなんだ? 好きなら、普通に昼食に食べるくらいなら咎める気はないぞ?」
「えっと、違うんですだ。実は……」
最近になって、店が閉まったことを知った孤児院の子供達が、店に何かないかと忍び込んだらしく。
その場に居合わせたダイン達と鉢合わせたらしい……
忍び込む孤児院のガキって聞くと危なくも感じるが、話を聞いていけば、少し状況が違うらしい。
孤児院を運営していたシスターが病で倒れて、食べ物が必要だったらしく、ダイン達は悩んだ結果、自分達の食事から子供達に食事を分けていたそうだ。
「なんで、置いといた食材を渡さず、自分達の分から渡したんだ?」
「あ、あの、オラ達の食べる分はオラ達が頂いたと考えまして、食材はキンザンオーナーから預かった物で手を出す訳には……」
「はぁ、話はわかった。今から孤児院に行くぞ! 案内を頼む」
「あ、あの! すべて、オラが悪いんです。だから、どうか子供達は、お願いします」
すごい勢いで頭を下げるダインの声に嫁ちゃん達が慌てて、俺達の話す厨房に走ってきた。
「おいおい、オッサン? なんだよこれ、何があったんだよ?」
ミアの言葉に嫁ちゃん達にも訳を話すことになり、俺が孤児院に向かう話をした部分で、ミアから久しぶりのダメだしをくらった。
「そりゃ、オッサンが悪いよ。ちゃんと言わなかったら、焦るだろ?」
「いや、話を聞きに行かないとわからんだろ?」
「立場を考えろよな、オッサンはダイン達の主人なんだろ? それが話をつけに行くみたいになったら焦るだろうが?」
改めて考えれば、勝手にまかない飯を他人に与えてた事実を雇い主が知って激怒してるように見えなくもないな……
「ダイン、すまなかった!」
俺もダイン同様に土下座で謝るとダイン達がさらに固まってしまったのは、本当に申し訳ない。
そこから、話を聞きに行く目的などを説明していく。
単純に今の孤児院の状況を知りたいのだとはっきりと伝えて時間的には常識外れになるだろうが、すぐに孤児院へと向かうことにした。
大人数で行くと流石に迷惑だということで、今回は俺とダイン、嫁ちゃんからはミアとニアの2人がくじの結果、一緒に向かうことになった。
ダインの案内で向かった先には、ボロボロの寂れた建物があり、廃墟と言われても疑わないレベルのそれがあった。
「酷いな……確かに、飯の1つも分けたくなるな」
そんなボロボロの孤児院に感想を言いつつ、扉をノックする。
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