60話、フライデー2号店とまさかの真実
朝早くからレイラに挨拶を済ませて、俺達は長くお世話になった『レイラホテル』を後にした。
「また顔出しなよ。いつでもキンちゃん達なら大歓迎だからね」
「ああ、どちらにしても、黒砂糖とメンソールが必要になったら[カエルム]の『フライデー2号店』に伝言をしてくれ。そうしてくれたら届けに来るからさ」
「わかったよ。お互いにぼちぼち頑張ろうじゃないか」
レイラに見送られたその足で『フライデー2号店』へと向かっていく。
2号店に到着すると既に屋根から伸びる煙突から、白い煙が上がり美味そうな肉料理と魚料理の香りが周囲に広がっていた。
店内に入ると、昨日までまだ残っていた残骸が一箇所に全て集められており、使えるテーブルと椅子は綺麗に清掃されていた。
「おぉ、すごいなピカピカじゃないか」
「本当だな? オッサンが言う通り、あんなに残骸まみれだったのにな、凄いな」
そんな会話をミアとしていると、奥から慌てて、三ツ目族の三姉妹がこちらに駆け寄ってきた。
「オーナー、出迎えもできずにすみません」っと、長女のドドが息を切らせて謝罪してきたので、落ち着かせていく。
「いや、いきなり来たのは俺達だから、気にすんなよ」
「そう言ってもらえたら助かります。オーナー、それでどうされたのでしょうか?」
目的について聞かれたので、俺はその内容を話していく。
「今回来たのは、この店舗に転送陣を作るためなんだ。奥の使わない部屋に転送陣を作って、なんかあれば、俺達が互いに行き来できるようにしたいんだ」
ドドだけでは、判断できないという顔をしていたので、とりあえず、2号店にいるメンバーを全員集めてもらう。
ダイン達はやはり料理の試作をしていたようで、完成まで待つことにした。
その間に三ツ目族の三姉妹(メメ)(キキ)と狼獣人のガルダが先に席に着いた。
ガルダは買い出しに行っていたようで、俺が店内にいるのを見て驚いていたが、目的を話すと少し心配したような顔をされた。
「ダンナ、それは危なくないですか? もし、もしもですよ。ウチら側の店舗が襲われた際に、ダンナ側にも襲った奴が行っちまうかもしれねぇ?」
「ああ、それに関しては問題ないな。フライちゃんにクラン登録したメンバー以外は通れないようにしてもらうからな」
俺の説明にガルダだけでなく、三姉妹もぽかんっと口を開けたままになってしまった。
そんな話が途切れた瞬間にダイン、ミミ、コンの3人が俺達の座るテーブルへとやってきた。
軽く3人とも挨拶を交わし、本題へと入る。単刀直入に他のメンバーに話した内容を伝えるとダイン達は互いの顔を見合わせた後に頷くと俺の提案を受け入れた。
誤解がないように断ることも許してからの会話だったため、理解してくれて本当に助かった。
もし、店舗に転送陣は置きたくないと言われたら追加で近場に転送陣用の物件を購入しようと思ってたからな……いや、するか!
「フライちゃん、転送陣を2つ、同じ敷地内に作れたりする?」
「え、いきなりなんですか? できますけど」
確認が取れたので、奥にある元オーナー部屋の要らない物を全て【ストレージ】に収納していく。
悪趣味な絵や置物などは“リサイクル袋”に入れても多分、無価値だろうからだ。
広くなった部屋に“買い物袋”からキャスター付きの衝立を購入して設置していく。
キャスター付きのため、折り畳み可能な衝立を2枚並べれば、扉のようになるので2つの転送陣を隠すことが可能になる。
そこまでしてから、片方には俺達の屋敷に繋がる転送陣をフライちゃんに作ってもらい、俺は『ニコニコ不動産』へと向かっていく。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょうか」
ニコニコ顔のお姉さんに出迎えられて、俺はすぐに『フライデー2号店』の傍にある空き家を確認していく。
丁度いい、古い宿屋を見つけて話を聞いていくことにする。
「この物件について知りたいんだけど?」
「はい、そちらの物件ですね。少し前まで経営されていた宿屋でしたが、宿屋の主人が突然、物件を売りに出されたんですよね」
突然、物件を売りに出すなんてあるのか? 宿屋で稼いでたんだよな?
「なんでも、どこかの貴族から借りてた借金が貴族の没落でチャラになったらしくて、宿屋の主人さんもかなりの御年齢でしたから、引退したみたいですよ」
「なんか、とんでもない話だな?」
話を聞きながら、出されたお茶に口をつける。
「たしか、貴族の名前がガラン伯爵でしたかね?」
「ブハッ! ゲホゲホ!」
「だ、大丈夫ですか、服にお茶が、大変、こちらに来てください。すぐに拭くものを」
言われるままに、奥の部屋に通されて、タオルで服を拭いていく。
「大丈夫ですか? 内見もご案内したかったんですが、ダメですよね」
少し残念そうな表情を浮かべるお姉さんに、迷惑を掛けた事実もあるので、内見をお願いすることにした。
元宿屋のある場所は少し人通りを避けたような寂しい一角にあり、近くには寂れた雑貨屋なんかが並んでいた。
扉の鍵が開かれて中に通されると「好きに見てくださいね」と言われたので色々と確認していく。
2階を案内された時に「あ、鍵を閉めとかないと誰か入ってきたら大変」と、お姉さんが慌てて、鍵を締めに向かった。
たしかにこの広い宿屋に誰か入られても分からないもんな。
戻ってきたお姉さんに各部屋を見せてもらっている時だった。何故か顔を近づけられた。
「あの……この物件も、買っちゃうんで・す・か?」と悪い笑みを向けられた気がした。
なんか、あれだ、この展開は知ってるが流されたらダメなやつだ。
交渉は冷静に行かないとな。色々なオプションをつけて、宿屋として使うための手直しとか言い出されたら高くつくからな。
「今は、悩んでる感じかな、他にもいい物件があるかもしれないしな」
「決めちゃいましょう。この物件、売れなくて困ってるんで・す・よ・ダメですか?」
距離が近いんですが……獲物を見る野獣みたいな視線が!
とりあえず、お姉さんには落ち着いてもらい、その部屋から移動することにした。
既に入口の施錠がきっちりとされているため、外に出ることができないと悟る。
そこから1時間程、色々と話して、最終的に物件を契約することになった。
ここで、大切なのは、“話し合い”で決めたという事実だ。俺は今回、流されずにすんだのだ。
ちなみにお姉さんが防犯のために鍵をしたと思っていたが、しっかり鍵を閉められた理由は、誰も入れないようにするためだ。勿論、逃げられないようにというオマケ付きだ。
俺は新たに買ってしまった元宿屋を見ながら、お姉さんに手を振られながら『フライデー2号店』へと戻り、フライちゃんに2つの物件を転送陣で繋げてもらうことになった。
その際、ニアからは凄く睨まれ疑いの眼差しを向けられた。
「にゃにゃにゃ! キンザンから無駄に、あの女店員の匂いがするにゃ!」
そんな一言から、結果、俺は嫁ちゃん達に囲まれて誤解を解く形になってしまったが、嫁ちゃん達に素直に話した結果、逆に呆れられてしまった。
「キンザン、それは酷いにゃ?」
「そうよね。女性だからって、誰でもって訳じゃないのよ? キンザンさんは本当に女心が分からないわね」
「まぁ、ボクはボクが1番なら構わないよ。オッサンがいたらいいしさ」
なんか、好き勝手言われて、やることをやれば、ケダモノ扱いで、自重したら酷い男ってなんだかなぁ。
まぁ取り敢えず、新たな物件をダイン達の居住場所、つまりはクランのサブ拠点として使うことにした。
しっかり個室になっているため、プライバシーとかにも配慮できるし、自分の部屋があれば落ち着くだろうしな。
そこからはサブ拠点に転送陣を作る作業になり、出入りの都合もあるので入口横の受付カウンターの後ろ側に転送陣を設置することになった。
鍵に関しては、後々、鍛冶屋に頼んで複製を頼む事に決まり、それまでは鍵閉めと鍵を持つ鍵当番が決められた。
部屋に最低限の設備しかなく、風呂などは当然ないので、また『ニコニコ不動産』で風呂場の増築を依頼しないと思うと不動産屋のお姉さんの顔を思い出してしまうな。
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