58話、新たなスタート『アジャフライ』を食べていく
『ニコニコ不動産』から出るとミアとニアの2人だけでなく、フライちゃんとペコとグーの3人も合流していた。
「あれ、フライちゃんにペコとグーも? よくこの場所が分かったな」
そんな言葉にナギが口を開いた。
「マイマスター、ミア様から頼まれて、3人呼んできた。ダメだった?」
「いや、ありがとうな。びっくりしただけだ」
「びっくりしたのはこっちですよ。きんざんさん。安静って言葉の意味を知っているんですよね? なんで動いちゃうんですか」
褒められてニコニコのナギと違い、心配そうに俺を見るフライちゃん。申し訳ないな。
「「主様、次からは一声掛けてください。お供しますから」」
「まぁ、確かにな。オッサンはいきなり行動するから、焦るよな」
「本当だにゃ、グレートボアもびっくりなくらいに走ってるにゃ」
散々な言われようだったが、とりあえず店を手に入れたので、良しとしてせっかく皆がいるんだから、軽く[カエルム]の街を見て回ることにした。
よくよく考えれば、初日から色々ありすぎて、街を見ていない。まぁ見る余裕がなかったんだがな。
「少し、街を見たいんだが、皆はどうする?」
そんな言葉に皆が賛成したので、街を歩くことにする。
足も何とか歩くのに慣れてきたし、ちょうどいい感じだ。
[カエルム]の街はやはり、市場に新鮮な魚が並んでおり、さらに活気も凄まじい。
【食材鑑定】をしながら、気になった商品を買っては【ストレージ】へと収納していく。その場で食べられる果物などは買って皆で味見をしていく。
ラ・フランスのような形をしたキュウイのような味のフルーツやドリアンみたいな形のスイカなど、本当に見た目と味の違いのせいで、脳がバグるかと思ってしまった。
初めて見る食材も多く、やはり知らない食材に触れるのはやっぱり面白い。
そして、昼が近づき一度、『レイラホテル』に戻ることにする。
既にホテルには、ベリー達が戻っており、俺達の帰りを待っていてくれた。
「おかえりなさい、キンザンさん。無事に手続きをしてきたわよ」
ベリーからの報告を聞いてから、俺は奴隷というか、未来の従業員達をその場に集めてもらうことにした。
全員が集まるとすぐに移動を開始する。ベリーを初め、ミア達も何処に向かうか分かっていなかったようだが、俺が足を止めた先で呆れたような表情を浮かべるベリーの姿があった。
「説明してくれるかしら、なんで数時間居ないだけで、このお店の鍵をキンザンさんが持ってるのかしら?」
ベリーがミアとニアに視線を向けるが2人は当然、首を左右に振る。
それはフライちゃん達も同様だった。
「まぁ、まずは中に入ろう。説明はそこからだからさ」
店舗の損傷は店内フロア部分だけであり、テーブルを囲っていた仕切りや防音の魔導具は壊れていたが、テーブルや椅子といった物は問題なさそうだった。
壁は僅かに傷があったが、適当な絵でも飾れば問題ないだろう。厨房が無事というのが一番嬉しい事実だった。
「すまない、今から俺は皆の飯を作るから、軽くテーブルとかの清掃を頼めるか?」
俺は“買い物袋”から雑巾にバケツ、ホウキ、ちりとりを取り出して並べていく。
反対する者はいなかったので、掃除を開始するメンバーと厨房で調理を手伝うメンバーに別れて作業を開始していく。
三ツ目族の三姉妹が素早く掃除を開始してからナギも邪魔な残骸や仕切り板を店舗の隅に集めていく。
ミアとニアは椅子を磨いたりと、各自が自分のできることを理解して動いてくれていた。
厨房側の俺はと言うと、ダイン、ミミ、コンの3人と共に厨房を清掃してから調理に取り掛かる。
市場で『アジャ』という魚を見つけて【食材鑑定】をしてすぐに大量買いをしてしまった。
そのため、今日の昼はこの『アジャ』を使った料理になる。
魚の下処理に関しては、ニアとベリーが適任だったので、一旦2人にも厨房に来てもらうことにして、ダイン達に魚の細かい骨抜きや下処理を学んでもらう。
基本、肉を担当していたダイン達はしっかりとニアとベリーの仕事を見つめていた。
下処理が終わると俺は冷たいジュースを人数分注ぎ、ニアとベリーと共にフロアで清掃をしてる皆に持っていく。
フロアも確実に綺麗になっているのが分かり、俺は一旦、隅に集められた残骸を“リサイクル袋”に入れて片付けていく。
そんな様子に驚くナギやガルダだったが、嫁ちゃん達は見慣れているので、いつも通りの表情だった。
「ダ、ダンナ、あんたマジに凄い人なんだな、正直、こっちは驚きっぱなしだ」
「ガルダだったな、他にも色々あるだろうが、改めてよろしくな」
「ああ、お願いしやす。ダンナ」
そんなやり取りをしながら、厨房へと戻ると、ダイン達が、置いてあった魚を丁寧にしかし、スピーディーに捌き、下処理を終わらせていた。
さすがに料理人と言うべきか、あっという間に魚を捌いていく。ただ、まだ雑に見えるのはやはり経験なのだろう。
俺も魚に関して、あまり偉そうなことは言えない。ただ、今から俺の本領発揮だ。
「ここからは、俺の仕事だな。皆にも覚えて欲しいから、よく見ててくれよ」
愛用の油鍋へと、いつも通りに大量の油を入れて一気に熱していく。
この際、もう片方に水の入った鍋を置き火に掛けておく。ゆで卵を作る用の鍋だ。
そして、ボウルに溶き卵、小麦粉、パン粉を用意していく。
開いた『アジャ』には塩コショウを軽くまぶしておき、10分ほど、置いておく。
「いいか、ここで10分置くことで下味をつけると後々上手くなるから忘れないようにな」
そこから、10分置いた『アジャ』の開きに小麦粉を両面につけてから、溶き卵を絡めて、最後にパン粉をしっかりと付ける。
あとは油鍋に入れるだけだ。油は170度~180度がいいだろう。
油に入れたら2分~3分の間にひっくり返したりしながら揚げていく。
揚げ時間が短く感じるかもしれないが、余熱で中まで確実に熱が通るので心配ない。
あとはタルタルソース作りになるが、ここはあっさりと手抜きでマヨネーズを“買い物袋”から取り出させて貰い、丸々一本、業務サイズ2キロを巨大なボウルにぶち込んでいく。
刻んだ玉ねぎとゆで卵を用意してからマヨネーズと混ぜていく。砂糖や胡椒などの調味料で味を整えてやれば、揚げ物の強い味方タルタルソースの完成だ。
あっという間に、『アジャフライ』を完成させていき、皿に千切りキャベツ、カットトマト、レモの実のスライスを添えてから、アジャフライを2枚皿にのせていき、ソースとタルタルソースをタップリと掛けてやる。
「よし、あとは米と合わせたら、定食の完成だ。数が多いから気をつけて運ぶぞ」
トレーにご飯、味噌汁、漬物、つけ皿、アジャフライを1セットとして乗せていき、全員で持っていく。
さすがに人数が普段の倍近いので、揚げる側も必死だったが、何とか上手く揚がったので本当に良かった。
だが、問題はここからだった。初めて見る料理という事実もあるが、俺の真横で作業を見ていたダイン達は何から聞くかを相談するくらいには盛り上がっていた。
そのため、質問は食事の後にしてもらうことにした。
問答よりも熱々のアジャフライを皆に食べてもらうことを優先した結果だ。
最初に言っておきたいのは、これが世に言うアジフライだってことだ。【食材鑑定】で生食『可』の文字を見て、味見してみて間違いないってなったら、アジフライを作りたくなってたんだよな。
今回の昼飯は完全に俺の独断と偏見で作ってしまったので、もしも、なにかあれば、すぐに他のメニューも作れるようにとタルタルソースも多めに用意してある。
嫁ちゃん達は慣れた様子で箸を使って食べてるが、フライちゃんやペコとグーはまだスプーンとフォークだ。
新たなメンバーもフォークやスプーンで食べてもらうことにした。
三ツ目族の三姉妹はずっと持ち上げたアジフライを見ながら「三角?」「尻尾がある?」「見たことない?」と口にしている。
ダイン達も作りながら、それが魚だと理解はしているが、自分達が知る調理法と掛け離れ過ぎていて、困惑してるのがよく分かる。
そんな中で、嫁ちゃん達が食べ始めるのと同時にナギが嫁ちゃん達の真似をして、タルタルソースをタップリつけて、アジャフライにかぶりつく。
サクッという気持ちのいい音が鳴り、ナギは無言で一気にアジャフライを1枚平らげていた。
嫁ちゃん達が米を食べる様子を見て、ナギも真似をする。
そして、食事を開始して、初めて口からでた言葉……
「とまらない、とまらない!」だった。
普通は「美味しい」とか「不思議」とか色々あるように感じるんだがな。
それを聞いたミアがクスッと笑い。
「だよな。オッサンの揚げ物は本当に止まらないんだよな」
その一言から次にガルダがアジャフライにかぶりつき、目を輝かせた。尻尾がグワン、グワン、と動かされている様子からも悪くない反応だと思う。
結果的に皆が食べ出すと、嫁ちゃん達は気が抜けたように語り出した。
話を聞いてみれば、食べ方を教えたりするより、本人達の好きなように食べてもらいたかったらしく。
そのため、食事中は、気にしながらも、わざと無言で食べていたらしい。
「タルタルソースとか、ソース無しで全部食べないか、ヒヤヒヤしたわ」とベリーが口にした瞬間、皆が頷き、笑い合っていた。
ただ、やはりと言うか、1人2枚だと足りなかったみたいなので、追加で市場で買った海老や魚を捌いて、刺身にしていく。
しっかり【食材鑑定】をしているので、生でも食べれるし、味も市場で確かめているので問題ないものばかりだ。
ただ、これにはベリー以外の嫁ちゃん達からも、すごい顔をされた。
まぁ、食べたことない食材を刺身として、素材そのままの形で、生食しろと言われたら、受け入れ難いのは何となく理解できる。
なので、皆からのこの反応は想定の範囲内だ。
醤油とワサビを用意して、俺とベリーが最初に刺身を食べていく。
俺が選んだ魚は鯛のような味の魚で、本物の鯛と違い骨が処理しやすく、食べやすいので、大量に仕入れてしまった。
結果的に皆が食べてくれた、やはり食べるまでにかなり勇気がいる様子だったので、メニューとして導入する前に試食してもらう必要があるかもしれないな。
とにかく、今回の昼食に関しては、色々と成果になる結果と手応えがあったので良かった。
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