55話、まさかの真実、2日の時間差
フライちゃん立て篭り事件は無事に解決した。
何とか日常に戻れた気がしたが大切なことを忘れていた。
そうなのだ。揚げもん屋『フライデー』の仕込みをしなければならない。
たが、今回は俺のせいで皆との楽しい時間を台無しにしてしまった事実があったので、嫁ちゃん達には、このまま休日を過ごしてもらいたいと思っている。
屋敷からフライちゃん、ペコとグーを連れて俺とナギは教会に向かった。
しかし、教会から既にベリー達は『レイラホテル』に戻っており、俺達も神父さんから話を聞いてすぐにホテルへと向かうことにした。
ホテルの中に入るとフロントからすぐに頭を悩ませた表情のレイラが俺に気づくと足早に目の前まで歩いてくる。
「キンちゃんさ、いきなり2日も消えたと思ったら、大勢の亜人奴隷を連れてくるって……さすがに引くわぁ、色欲強すぎでしょ」
「まてまて、色々と誤解があるようだから、言っとくがな! 俺は色欲が強いわけじゃないぞ」
「はいはい、ヤロウは皆、そういう設定するの好きだよね。それよりも宿代はしっかりもらうからね?」
「当たり前だろ、さすがにこんだけ迷惑かけて知りませんには、絶対しないから安心してくれ」
そんな俺の言葉に不安そうな表情を向けるレイラ。信用問題なんだろうが、露骨すぎるんだよなぁ。
「そんなに不安なら今すぐに払うから、待ってくれ」
「いや、大丈夫だよ。どんどん追加されて、さらに支払いが増えるだろうからさ、とりあえずの確認みたいなもんだからさ」
支払いが増える? 仮奴隷達もたしかに大勢連れてきてしまったが、これ以上増える予定なんてないんだがな?
そんなことを考えていると食堂側から従業員が慌ててこちらに向かって走ってくる。
「オーナー・レイラ! 大変、厨房、大混乱、皆、疲労ピーク、洗い場混乱、提供速度低下!」
「落ち着けってば、今いくから……はぁ、キンちゃんが元を言えば原因なんだから、一緒に来て! ほら早く」
食堂に続く通路を走っていくレイラの後ろを言われるがままについて行く。
食堂は昼ピークの飲食店のように騒がしく、食べ終わった皿が次々に運ばれて行くのがわかった。
視線を皿が運ばれてきたテーブルに向けると奴隷立場が料理を次々に平らげているのが見て分かった。
「なんだよこれ、ベリー達はどうしたんだ」
奴隷達を任せたはずのベリー達の姿はなく、何が起きているか、まったく理解できない状態に俺が困惑していると厨房から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ほら、次の料理出すよ! どんどん運んで!」
元気な声と料理の炒められる音の先に見慣れた銀髪のボブヘアーが見える。
紛れもなく『調理師ギルド』のマスターであるルンダさんだった。
「な、ルンダ? 何してるんだよ!」
「お、キンザン殿、心配で教会の転送陣を使って来たら、こちらの教会にいないから焦ったぞ。まぁ、神父殿に場所を聞いて寄らせてもらったんだ」
「それはいいんだが……なんで厨房に?」
俺が質問を投げ掛けたと同時に声が重なるように叫ばれる。
「あ、オッサン! 帰ってきたんなら、助けてくれよ!」
「急がないと、食材がヤバイにゃ!」
騒ぎ出すミアとニアの後ろから、ベリーの声が叫ばれる。
「こっちの料理上がるわよ、ドーナちゃん、ポワゾン、運べるかしら?」
「わかったの!」
「すぐに運びますね」
厨房内からも嫁ちゃん達の声が聞こえてくる。
声のする方向に向かえば、料理人達に混じった嫁ちゃん達の姿がそこにあった。
「なにやってんだ……みんな揃って」
その場で一瞬、フリーズしてしまった。
「何を固まってんだよ! オッサンも手伝ってくれよ!」
「そうにゃ! 手伝うにゃ~」
「ペコ、グー、2人も手伝ってください。アナタ達が入れば手が回りますから、ご主人様も無理なくお願いします」
「ペコちゃんとグーちゃんも、一緒に運ぶなの!」
元気な声に俺も病み上がりながらも【ストレージ】から自分用のエプロンを取り出して身につけていく。
「よし、なら、やるとするか……ふぅ」
本来は仕込みを急ぎたかったが、乗りかけた船ってやつだ。きっちりやっていくしかないな。
「ナギ、悪いが倒れそうになったら後ろから支えてくれ、回復ポーションでも足のふらつきなんかは治せないらしくてな」
「わかった。マイマスターを支える」
倒れる心配がなくなったら、食材のカットになる。
愛用のバトルナイフを【ストレージ】から取り出して、フライちゃんに頼んで食材を洗ってもらう。
「フライちゃん、まずは葉野菜を頼む、そこの白菜を洗ってくれ、あとコレも頼むよ」
「わかったのです。洗いますね」
洗われた野菜を次々にカットしていき、ボウルに入れていく。
野菜のカットを素早く終わらせてから、ブロック肉を“買い物袋”から取り出して、食べやすい薄さにカットしていく。
なんでブロック肉なのかは、焼いた時に厚みが欲しいからだ。
カットした肉に片栗粉をまぶして、中華鍋に油を引いて揚げ焼きにしていく。
その間に野菜の油通しを済ませて、油を切ってから、肉の入った中華鍋に合わせて軽く炒めてから調味料で味付けをしていく。
「シンプルだが、野菜炒め上がったぞ! 提供を頼む」
すぐに次の料理に取り掛かり、同様に肉の下ごしらえを済ませ、揚げ焼きにしてから、皿に移した肉に刻みネギなどの食材と辣油、砂糖などを混ぜたソースを上からしっかりと掛けていく。
「2品目、揚げ豚の辣油掛け、あがったよ」
そんな感じに時短料理を次々に炒めては完成させることになる。
さらに米も追加で“買い物袋”から取り出して、次に余った野菜と肉、海老やイカを一緒に炒めて、醤油、味醂、オイスターソースを加えて、トロミをつけて餡掛けを作っていく。
大量に用意した米を器に盛り、一気に熱々の餡を掛けて最後にうずらの卵を2つ添えてやる。
「どんどん出してくぞ。中華丼だ、皆で運んでくれ!」
「キンザン殿、運ばなくても大丈夫みたいだ! 亜人の皆が取りにきてるみたいだ」
「え? なんでまた」
俺が驚いたように声を出すと、後ろから嫁ちゃん達が集まってきた。
「当たり前じゃんかよ。オッサンが作ってるんだから、奴隷からしたら普通ありえない状況なんだよ」
「キンザンは、常識を知らないからにゃ~」
「まぁ、俺は自分ができることしかしてないだけだ。さて、どんどん作ってこう」
嫁ちゃん達も俺の言葉に頷くと調理に戻っていく。
そこから、麻婆豆腐や唐揚げ等を作っていく。
大量の米と美味いオカズ、単純な話だが、腹は膨れて満腹になれば幸せな気持ちになる。
改めて、料理は素晴らしいと思うな。
結局、俺も加わった厨房で1時間ほど、ガッツリと調理をしてから、仮奴隷達と共に嫁ちゃん達を一旦部屋に戻して、ルンダとレイラの2人と話をするため、別室に移動する。
「いやぁ、悪かったな、なんか迷惑を掛けちまって」
「まぁそれはいいさ、それでキンちゃん? なんで[バリオン]の『調理師ギルド』のマスターさんが同席する流れになるんだい?」
「そうだねぇ、アタシもなんで呼ばれたか分からないんだよね」
「2人に同席してもらったのは、奴隷達についてなんだが、あの奴隷達の中には料理ができるやつや、他にも接客が出来る奴もいるんだが──」
俺は奴隷達を譲渡させた流れなどを説明していく。
そして、解放を考えている事実とその後について、もし働きたいという存在がいた際に相談したい胸の内を話していく。
単純な話で俺の我儘だ。奴隷達が全員故郷に戻るのも自由、冒険者として再スタートするのもありだろう。
ただ、俺は最悪の場合を考えてできるだけの選択肢を用意してやりたいだけなんだ。
「まぁ、キンちゃんの話はわかったよ。もしもの時は助けてやるから安心しな」
「こちらとしてもキンザン殿の頼みを無視する気はないよ。任してくれ」
「2人とも、済まないな。本当に感謝するよ」
感謝を伝えつつ、俺は2人に深く頭を下げて、その場を後にする。
話をするため、まずは嫁ちゃん達の部屋に向かうことにした。
部屋に入ると、疲れた様子の嫁ちゃん達がグダグダと過ごしていた。
「オッサン遅いよ。待ちくたびれたぞ」
「キンザン、褒めるにゃ~ニア達は頑張ったのにゃ!」
「なのなの、ドーナもすごく頑張ったの!」
「はは、本当に悪かったな、それと皆のために頑張ってくれてありがとうな」
3人の頭を軽く撫でながら、俺は本題に入ることにした。
ポワゾンとベリー、ペコとグー、フライちゃんも含めて皆に集まってもらうと本題に入る。
「皆も分かってると思うが、奴隷の皆を解放しようと思ってるんだ」
俺の発言に最初に反応したのはベリーだった。
「話は分かるけど、奴隷を解放してもまた捕まったり、一度奴隷にされた仲間を拒絶する種族だっているのよ? そこら辺は、分かってるのかしら?」
鋭い意見だった。
正直、そんなことがあるなんて考えてもいなかった。俺はその場で悩んでしまった。
「こりゃ、オッサンってば、なんも知らなかった感じかな、まぁ亜人については複雑だからな──で、どうするのさ? まさか見捨てたりしないよな?」
「当たり前だろうが、見捨てるくらいなら、最初から色々動いたりしないさ……ただ、問題がある。明日の仕込みが間に合わないことだな」
そんな俺の発言に嫁ちゃん達が「あら」とか「あちゃー」と言葉を俺に向けてくる。
「キンザンさん、貴方は2日も寝たきりだったのよ? とっくに“金の精霊の日”は過ぎてるわよ──みなみに臨時休業の看板は出してあるから安心していいわよ」
マジか、俺としたことが、やっちまったな。こんなに早く臨時休業することになるなんて、はぁ……
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