52話、『肉と欲望のバッカーン』にて・3
騒ぎを聞いて、[癒しの街・カエルム]の警備兵達が集まり出す。
警備兵達に取り囲まれる形になった。当然だが、獣人や亜人達が俺を守ろうと警備兵の前に構えようとする。
そんな亜人達を止めてから、俺は警備兵側に話しかける。
「皆、待て──あっちも仕事なんだ。争う必要はないさ。大丈夫だから待ってろって、悪いがそっちの隊長さんと話がしたいんだが?」
警備兵からしても、予想外の言葉だったんだろう。
困惑した表情を浮かべていたが、その背後から、服装が異なる男が警備兵を掻き分けながら、俺達の前にやってきた。
俺を見て、不思議そうに首を傾げると口を開く。
「わからんな、何回か、この店には連れてきてもらったから言えるが、何故、店で働く獣人達がそちら側に味方しているんだ?」
「まぁ、色々ありまして……貴方は?」
「オレはブルーノ。この警備兵団の隊長をしている者だ。それにオレはその色々を聞いているんだがな?」
隊長であるブルーノと名乗った男は困ったような表情を浮かべ、明らかに疑いの眼差しを向けている。
色々考えて口にしようとしているのか、話が纏まらないのか、数回、首を左右に振ってみせる。
さすがに話し合いで済むとは思ってなかったが異世界で前科持ちになるのは勘弁してほしいな。
頭の中に悪い考えが次々に過ぎっていく。
不安そうに俺を見つめる視線が背中に突き刺さる感覚に罪悪感が全身に駆け巡るのを感じた。
罪の意識なのか、こんな感覚に悩む日がくるなんてな。
「話す話さないは、そちら側の問題だが、どちらにしてもこのままという訳にはいかないのは理解してるんだろう?」
「ああ、そちらの指示に従うよ。ただ、ブルーノさん、頼みがあるんだ。この場にいる奴隷達の安全を約束してくれないか? 頼む。あと不正な差別的労働があったことも公開して欲しいんだ」
「差別的か……それが本当なら、アナタの拘束より、店側の人間に話を聞かないとならないな」
俺の頼みが受け入れられたと思った瞬間、警備兵達に再度緊張が走ったのが目に見えてわかった。
「残念な知らせだな、話が厄介になりそうだ」
「どういうことだ? 何かあるのか。ブルーノさん、教えてくれ」
「“シッ”今は喋るな」
言われた言葉に従い、声を出さないようにして、状況を見守ることにする。
警備兵達が一斉に敬礼する先からゆっくりとした歩みで1人の恰幅のいい男性がこちらへとやってくる。
俺を見るなり、“フン、余所者が!”と吐き捨てると、ゴミを見るように向けられた視線が俺から『肉と欲望のバッカーン』へと移り歩いていく。
店内から、ボロボロになった痩せ男が片足を引きづりながら、俺に悪態をついて歩いてくるのが分かる。
男は必死に足を引きづり歩いてこちらへとやってくると、警備兵団の男に向かって、怒りを顕にするように手を大きく動かして怒鳴っている。
「おい、その男を拘束しろ、罪状は殺人罪、強盗、破壊行為、他にも多数あるが、死罪は確定だ。早くしろ」
俺に向けられた言葉に自身の耳を疑った。百歩譲って、破壊行為は結果としてあったがそれを止めたのは俺だよな?
「おい!アン──」(おい! アンタ)っと俺が声を出す前にブルーノさんが俺よりも大きな声で団長さんに向かって進言する。
「ギリナス団長、それは些か判断を急ぎ過ぎかと、状況から暴れたのは奴隷であり、奴隷に命令をできるのは所有者のみです。そう考えたならば、主であるイヤーノ氏が自分の奴隷に自身の店を襲撃させたことになるかと」
あの店の嫌味な奴、名前がイヤーノっていうのか、名前そのままの性格かよ。
ブルーノさんの言葉にギリナスと呼ばれた団長が不快そうな視線を此方に向けてくる。
「奴隷を奪われたと言っているのだ、犯人はそこの男で間違いないであろう? それとも何かね? その男が無罪である証拠でもあるのかね?」
ブルーノさんは押し黙って、奥歯を噛み締めているのが俺からは理解できた。
言われっぱなしだと、多分まずいな。なら、俺も自分と嫁ちゃん達と仮の奴隷達のために動かないとな。
「今から俺は女神フライの名の元にこの場の全てが真実のみを語る事を誓う。アンタらも誓えるよな?」
立ち上がり、声にした誓い。これは女神の名を借りて、真実のみを語る誓いであり、誓いを破れば女神からの天罰により、粛清されることを意味している。
そう、念書に俺が書いてもらったから間違いない。
「くだらんな! 誓ったとして、嘘偽りなど関係ない。貴様1人が全ての元凶であり、貴様を死罪とすれば済む話であろう! そうすれば、またイヤーノから金を頂くだけだからな、な、なんだこれは!」
「な、何を言ってるんですか、ギリナス様! そんなことを話したら、私とギリナス様の取引が全てバレてしまうじゃないですか! え?」
俺もブルーノも耳を疑ったように互いを見てから、再度ギリナスとイヤーノに視線を移す。
視線の先では未だに訳が分からないと言った感じで、言い争いをしている二人の姿があった。
「このままでは不味いですよ! ギリナス様、早く帳簿を処分しないと、アナタとの取引がバレてしまいます!」
「イヤーノ、もう喋るな! それ以上バレたら不味い!」
痺れを切らしたブルーノが声をあげた。
「聞いたな──ギリナスとイヤーノを拘束しろっ! 店内にいる奴らの手下も構わないから拘束、その後『肉と欲望のバッカーン』を調査するぞ!」
「な、馬鹿な命令をするな、ブルーノ、キサマ! 殺されたいのか!」
「大丈夫ですよ。ギリナス様、帳簿は地下室のさらに地下にある保管庫の中ですから、あれ、違う! くない。ぎゃあああ!」
真実しか語れない念書と誓いは今日から禁止だな。危険すぎる……マジにダメだな。
「おい、アンタ? 名前はなんて言うんだ?」
ブルーノさんは俺を見て質問をしてきたので、素直に答える。
「俺はキンザンだ。[バリオン]の冒険者で『フライデー』のリーダー兼『揚げもん屋フライデー』の店主だ」
「なんでそんな奴が、こんな離れた[カエルム]の街で問題を起こしてんだよ……訳わかんねぇな? ただ、キンザン、アンタにも一旦ついてきてもらうからな」
「まあ、そうなるよな。わかったよ」
俺が連れてかれる話が進む最中、ブルーノさんの前に嫁ちゃん達と奴隷となった亜人達が立ち塞がる。
「おいおい、さすがに女と戦う気は、ないんだがな?」
「オッサンを連れてくなら、こっちには争う理由ができるぞ」
「そうニャ……キンザンを連れてくやつは許さないニャ!」
「マスターはあげないの……マスターはドーナ達のマスターなの……邪魔するなら消すの──」
「対人戦は不本意ですが……ご主人様のためなら、仕方ありません」
「血の気が多いわね。でもキンザンさんを連れてかれるのを冷静に見てる気はないわ」
「「主様は居場所を、愛をくれた、奪わせない……私達はそれを許さない!」」
ベリーは止める側かと思ってたが、まさか、全員そっち側かよ。こんな時に、まったく嬉しくなる展開だけどさ……
奴隷達もナギさんを戦闘に獣化してるのが分かるな、戦闘モード全開ってやつか、マジにマズイな。
「ハァ、皆さん、落ち着きなさぁぁぁぁぁぁいッ!」
鼓膜が破けるような巨大な声に、ニアや亜人達といった耳の良い奴らが一瞬で気絶し、他の皆も両手で耳を押さえたまま、その場にしゃがみ込んでいた。
俺も咄嗟に耳を塞いだが、“キーン”っという耳鳴りが未だに鳴り止んでいない。
ただ、1つ分かるのは、声を出したのが、酔っ払い女神のフライちゃんだということだ。
念書を作ってもらった後、寝ていたはずのフライちゃんはワインボトルを片手に怒りに満ちた表情で俺に向かって歩いて来ているのが分かる。
そんなフライちゃんに向かって、ブルーノが剣を抜き、構えを取る。
何を言ってるか分からないが、必死に声を出しているのが口の動きから理解できた。
ただ、やはり聞こえない。
次第に近づくフライちゃんにブルーノが今にも走り出そうとしているのか、一歩踏み出そうとした瞬間、俺は立ち上がり、勢いのまま走り出していた。
思うままに走り、ブルーノの前に移動すると両手を大きく広げた。
未だに耳は聞こえないし、最悪な状況だった。
それでもフライちゃんに剣を向けられて見てるだけなんて、男として、できないだろうが!
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