51話、『肉と欲望のバッカーン』にて・2
注文して、すぐに飲み物が運ばれてきた。
「お待たせ致しました。失礼致します」
ナギさんは、注文した飲み物を間違うことなく配っていく。あれだけの注文をしっかり覚えてるのは凄いなと感心しながら、首を軽く動かす。
とりあえず、みんなで乾杯するかな。
「皆、カンパイするとしよう。グラスを持ったらカンパイって言うんだぞ」
「はい、皆でカンパ〜イ!」
「「「カンパ〜イ!(なの!)(にゃ〜!)」」」
そこからは賑やかな食事が開始され、運ばれてくる料理を食べながらさらに盛り上がり、全員で料理をシェアしながら、色んな料理の味を楽しんでいく。
海鮮サラダというメニューには刺身のようにカットされた魚が炙られ綺麗に盛り付けられており、レモの実が使われた塩味のさっぱりとしたドレッシングが掛けられていて、すごく美味しかった。
ベリーの頼んだ『グレートモー』は、やはり牛だった。一口もらって食べた感想としては、A5ランクの肉を思わせる食感、口に入れるとトロける肉のバランスに驚かされる。
一言で言えば、素晴らしい料理に仕上がっていた。
個人的には、牛タタキやステーキにして、わさび醤油で食べたいと感じる味だったため、久々に懐かしさを感じてしまう。
そして、俺とミア達が頼んだ『肉の盛り合わせ特盛りセット』は焼肉のてんこ盛りプレートでセットと書かれていた。
ホルモン焼きや牛タンなどが小分けで複数の皿に乗せられて持ってこられた。
さすがにペコとグーはホルモンと牛タン風の肉は食べれなかったみたいだ。なので俺の肉と交換してあげた。
すごい量になっていたがミアとニア、ペコとグーは止まることなく、焼肉プレートを平らげるように食べ続けていく。
「予想より、早いな、なら追加でなんか頼むか?」
「オッサン、いいのか! なら同じやつ食べたい」
「ニアはベリーが食べてたやつがいいにゃ〜」
そんな感じに2回目の追加注文を頼み、料理が運ばれてくる。
美味しい食事だったし、嫁ちゃん達も満足してくれてる感じがして本当に良かったと感じる。
ただ、俺が求めていたような未開拓な味や、不思議な食材といった類のものはなかったのが、少し残念だった。
まぁ、肉の盛り合わせを頼んだ俺にも落ち度があるから仕方ないな。
ミアとニア、ペコとグーが満腹になり、ドーナが最後の一口を名残惜しそうに口に運び、味わいながら食べ終わると、全員が飲み物を飲み干したのを確認してから、俺達は会計をすることにした。
俺達が幾ら食べたのかを確認するため、ナギさんを呼んで、値段を聞いていく。
「ナギさん、全部で幾らだ?」
「はい、合計が金貨で34枚(680000リコ)になります……」
なんか、すごい震えてるがどうしたんだ?
恐れるように震えるナギさんの姿に俺は違和感を感じながらも伝票を確認して問題がなさそうなので、会計に向かって歩いていく。
「支払いをするから、みんな外で待っててくれるか」
その言葉に嫁ちゃん達が素直に従い、外へと移動する。ベリーとフライちゃんは、かなり追加でお酒を頼んでたなぁ、千鳥足になっていて危なっかしいな。
「悪かったな。たくさん注文したからナギさんも厨房側も大変だっただろ? ほい、これ金貨34枚な」
慌てながら両手を伸ばして左右に動かしたナギさんはどこか、嬉しそうにも見えた。
「ありがとうございました。本当に嬉しかったんです。ナギ達は皆、奴隷の亜人だから、金貨とか貯めて、自分を買い直すのが目的だから……」
「金貨を貯めてか? あと、どれくらいで貯まるんだ?」
「あと金貨、20枚もあれば、貯まります。でも、毎月……何故か支払う額が増えるから終わらない。残念です」
「なら、俺が出してやるよ。その代わり、今すぐに返してきてくれるか?」
「いいの? でも、やっぱりダメ。嘘でも嬉しかった。ありがとう」
そんな会話をしていると、奥側から男がこちらに歩いてくる。
「お客様、長話は営業妨害になりますな?」
そう声を掛けてきた人物は、どこか危ない臭いを全身から感じさせる痩せ型のつり目をした、いかにも危険ですって感じの雰囲気を纏った男だった。
こちらの世界にきて、慣れって奴だろうか地球ならビビり散らかしただろうが、今の俺には恐怖や威圧感は感じられなかった。
「それは悪かった。あとこの子の奴隷証を買い取りたいんだが? 話は、おたくでいいのかな?」
「ほう? 奴隷証ですか、普段は販売しません……ですがどうしてもというなら、そうですね。こやつの権利だと、金貨300(6000000リコ)ですかねぇ?」
話と違い法外な額の提示だった。
その言葉にナギさんが怒りを顕にして、慌てて男に向かって喋りだした。
「話が違う、ナギはあと金貨20枚で解放のはずだ!」
「そうだな、それは働いて稼いだ場合だ。もし誰かに買われそうになったら、違約金の上乗せ価格になるって話だ。
最初の契約に書いてあっただろ? 買うのを辞めても最初からだ……残念だったな。まあ、また金貨50枚を必死に稼いでくれや。ダハハ!」
そう言って立ち去ろうとする男に、俺は待ったをかけた。
「なら、誓約書を作るから、少し待ってろ!」
コイツの言い方も態度も俺の知る最低上司にそっくりだ。クソッタレが!
すぐに外にいるフライちゃんを店内に呼び戻して、念書を女神の名で作ってもらうことにした。
相手からしたら、神も仏も関係ないようなタイプだろうから、多分乗ってくるだろう。
「ふん、何を書こうが変わらないだろうに、時間の無駄だと思わないか、大人しく帰れば穏便に迷惑料だけで許してやるぞ?」
「それは有り難いですねェ! ただ、金貨300枚を払うからには嘘、偽り、まやかし、すべてが自身に返ってくるという認識をしてくださいね」
男が威圧的に言葉を発しても今の俺は譲らない!
なんでかって、自問自答するなら──
今引き下がったら、いつか嫁ちゃん達に危機が迫った時、逃げる俺になっちまうからだ!
何より、俺は女誑しでも、ケダモノでもない。泣いてる女を見るのが嫌なだけだからな!
そして、男は念書にサインを済ませるとこちらを睨みつけてから口を開いた。
「ふん、なら、約束の金貨300枚を出してもらおうじゃないか!」
「ほらよ。これで文句ないな?」っと、金貨100枚が入った袋を3つ、カウンターへと置いていく。
少し悔しそうな表情をしてから、微かに笑ったのが分かる。悪いやつがしてやったと言った具合の表情だ。
「なら、約束だから、ナギさんは連れていくぞ。奴隷証をもらおうか?」
「おや、奴隷証を? こちらが売ったのは、その蛇女の飼い主の権利であり、奴隷証を売るとは言ってないはずですが?」
はぁ、やっぱりそうなるか……でも、分かってたから、一番下の本当に見えない枠の部分に俺はフライちゃんに頼んで細工をしてもらってある。
地球なら詐欺と言われるだろうが、こっちでは詐欺だからと捕まることはない。
逆に言えば、見えてすらいない文面でもサインをしたなら、それは納得した証明になるからだ。
「その話、後悔するぞ?」
「こちらからすれば、最後まで悪足掻きの好きなお客様と言う印象ですなぁ。
ですが顔を見るのも最後でしょうな? なんせ、今からお客様は当店の迷惑客として出入り禁止になりますからなぁ……」
悔しそうなナギさんが、拳を握る姿、そんな姿を笑う男はそのまま言葉を続けた。
「因みに、その蛇女は奴隷証が此方に有る限り、当店からは、出ることすら叶わないでしょうからなぁ、別れの挨拶を済ませることをオススメしますよ。お客様」
「そうかよ、喧嘩ジョウトーってことか?」
「喧嘩ジョウトー? 聞きなれない言葉ですが、貴方に対して嫌悪を感じてるというなら、たしかに喧嘩ジョウトっということになりますなぁ」
「奴隷証のことも含めてか! ジョウトってことか!」
「しつこいですね! そうだと言っているんだ、邪魔だから早く行け! 迷惑な奴だ!」
「それは全部、俺が責任取ればいいんだな!」
「訳分からない奴だ! あぁ、全部だ! 全部、貴様の責任だ! 金を置いて消えろ! 目障りだ」
「チッ、わかったよ。たしか全部で300枚だったな」
「ああ、全部で300枚だ。それを置いて消えろ! クソ客が!」
ニヤケッちまうな、まさか、上手くいくなんてな。下駄を脱ぐまで分からないなんて言葉があるが、本当に分からないもんだな。
「わかった。しっかりと譲渡してもらうよ。ありがとうな。交渉成立だ」
俺は改めてそう言うと、金貨の袋をニヤケ顔で手にした男の姿を確認する。
「よし、働いてる奴隷の亜人はみんなついて来い! もう働かなくても大丈夫だぞ」
俺の言葉に一瞬、ナギさんは何かを感じたように全身を確認する。こちらをチラッと見た瞬間、俺は優しく微笑んで見せた。
それを合図に、ナギさんが入口へと急ぎ移動を開始する。
「な、何をしてる! 仕事に戻れバカ蛇が!」
しかし、ナギさんは止まることなく、扉を開き外へと飛び出していく。
その瞬間、ナギさんは泣きながら叫び声をあげた。声にならない叫びは、店内へと響き渡る。
そして、ナギさんが店内を再度、見つめると、先程まで可愛く美しかった表情が獣人の面構えへと変貌する。
ナギさんが着ていた制服を破り、首に付いていたチョーカーを強引に引き千切る。
俺は気づいていなかったが、ミアが驚き呟いた声が耳に入る。
「言語補助の魔導具を引き千切るなんて、凄いな……」
どうやら、ナギさんが付けていたチョーカーが“言語補助”の力がある魔導具だったらしい。
ミアとそんな話をしている最中、ナギさんの爪が鋭く伸び、蜷局を巻いていた尻尾が伸ばされ凄まじい速度で店内に戻ると各席に置かれた防音の魔導具を破壊していく。
それに気づいた客達が慌てて店外へと避難する最中、奴隷だった獣人や亜人達が事態を理解していくのがわかった。
さすがの男も、奴隷だったはずの獣人達が命令を聞かない事態に焦りを感じているのだろう。
何度も命令を口にして、慌てている様子が見て取れた。
「何が起きている! 早く奴らを止めろ!」
男の部下達が急ぎ獣人達を止めようと動き出すが、人族と亜人種が準備もなしにぶつかれば、結果は見えている。
力任せに捕まえようとする男の部下達が次々に壁に吹き飛ばされていく。
ある程度、暴れた獣人達に俺は仕方なくストップを掛ける。
「それくらいにして行くぞ!」
そんな声に怒り狂っていた奴隷達は動きを停止したので、俺は全員を連れて嫁ちゃん達の元に戻る。
俺の顔を見て、頭を抱えるベリー達とテンションが上がってるミア達の姿があり、酒が入っていたと言っても、俺は凄まじくやらかした事実を頭で理解した。
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