50話、『肉と欲望のバッカーン』にて・1
話が纏まって、嫁ちゃん達の誤解が解けたことでやっと部屋に戻ることができた。
超が付く程の大部屋に案内されて本当に驚いた。[バリオン]では夜はランタンの明かりが一般的で金があれば“光石”といった魔力補充で光を放つ魔導具が主流なのだが、この宿というよりVIP御用達の豪華ホテルと言うべきレイラの経営する宿屋にはそれがない。
むしろ、本当に電気でも通ってるんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。
なにより驚いたのは、室内に浴槽が完備されていて、いつでも入浴可能な設備と“自動湯沸かし器”の機能が備わっていたことだ。
「なんて、素晴らしい異世界感を無視した設備なんだ。正直、ドン引きするくらいに快適なんだが」
「またキンザンは考えごとかにゃ〜」
「そう見たいですね。ご主人様は、考えたら長いですから、それより食事はどう致しましょう?」
「大丈夫だ。ちゃんと聞いてるから」
今更だが、こちらに到着した時点で夕暮れだった空は真っ暗に変わっていた。
時間を考えれば既に夕食の時間が過ぎるくらいの時刻だろうか。
「俺のせいで悪かったな。なんか飯でも作るか……にしても、ここだとあれだよな?」
「キンザンさん。この[癒しの街・カエルム]は夜も賑やかなのよ。街に出て外食でもしましょう」
「お、ボクもベリーの意見に賛成だな」
「ニアも賛成だにゃ〜」
「マスター、いくなの!」
「私も賛成ですね。きんざんさんもそれでよろしいですか?」
俺を除いて8人目、俺を入れたら9人がいきなり行って店に入れるのか心配になるが、話が纏まるとすぐに[レイラホテル]から街に向かい移動する。
繁華街に入り、賑やかな店が軒を連ねる姿はまるで大阪や東京をイメージさせるような光景であり、違うとすれば、料理を運ぶのが可愛い獣人や10代から20代の亜人種の若い女性であることだろうか。
そんなウェイトレスの亜人の姉ちゃんが俺にウィンクをして店に誘ってくる。
看板の文字を見れば『肉と欲望のバッカーン』という、とんでもない店名に軽く悪寒が走ったのでウェイトレスちゃんに会釈をして、すぐに立ち去ることにした。
「オッサン、あの店がよかったのか?」
「ミア、どうしたのにゃ?」
「いや、オッサンがさ、さっきの肉料理の店を見てたからさ」
「あぁ『バッカーン』だにゃ〜。高級なお肉屋さんだにゃ〜」
「1回は腹いっぱい食べてみたいよな。[バリオン]にもできたらいいんだけどな。まぁ無理だろうな」
「ミア、ニア、そんなに『バッカーン』は美味いのか?」
「うーん、実際に入ったやつの話しか聞いたことないけど、なんか凄い高いけど肉が口でとろけて無くなるくらい柔らかいらしいんだよな。食べ過ぎて、その日の稼ぎが全部、溶けちまったらしいからな」
なんか、あれか! 『焼肉のジュジュ苑』みたいな感じか? ただ、それは気になってしまうよな。
こっちに来てからを考えると──俺! 屋台しか外食してないじゃねぇか!
嫁ちゃん達がいるのに……大袈裟に言えば一国一城の主なのに、まずい、マズイよな!
「お、オッサン、どうしたんだよ? なんか凄い酸っぱい顔して、青ざめてるしさ、体調悪いのかよ」
「あ、わかったにゃ、きっと皆で『肉と欲望のバッカーン』に、いくのが怖いのにゃ〜」
「なるほどな。オッサン、安心しろよ。流石にこの人数で行けるなんて思ってないからさ」
こ、心に響くんですが、つまり、この人数を食べさせるだけの甲斐性がないって思われてたのか!
それじゃ良くないだろ、男──金山幸大。
流れはどうあれ、惚れた女に悲しい思いをさせるような男になったつもりはない!
そうと決まったら、即実行の即行動だ!
「皆、待ってくれ! やっぱり、さっきの肉料理の『バッカーン』で飯にしよう!」
「え、オッサン、なにいってんだよ?」
「そうよ、キンザンさん。あのお店は高いらしいし、無理しないで大丈夫よ?」
「はにゃ、行けないのかにゃ!」
「マスター、お肉ナイナイなの?」
「「ですよね、でも夢は見れました。主様」」
「大丈夫ですよ。ご主人様は夢だけを見せて終わる方ではありませんからね。頼りになるワタシ達の旦那様ですから……ニク、ジュルリ……」
「わ、私はどこでも、かまいません。きんざんさんと行けるなら何処でも行きます」
嫁ちゃん達7人の言葉とフライちゃんの言葉に俺は再度、宣言した。
「大丈夫だッ! 俺は皆の旦那だからな! 任せて俺に付いてこい」
ドヤ顔になりながら、街中で叫んだ事実に顔から火が出そうになるが、周囲にいた酔っ払いや、通行人から拍手が起こっていた。
「よ、いいぞ。タラシの旦那! 全員と食べてこいよ!」
「女を、はべらせて、贅沢か、羨ましいな〜財産全部使っちまえ!」
「色男のお兄〜さん、アタシ達も連れてって、サービスしてあげるわよ」
酔っ払い共が、綺麗なおネェちゃんには、ありがとうだが、野郎の僻みは、ノーサンキューだ!
「おうよ! 熱い応援感謝するぞ。嘘がないことを皆に誓ってやる!」
「お、オッサン、なんで盛り上がってんだよ! やめろよ。恥ずかしいだろ!」
「よし、行くぞ!」
「話を聞けよ! オッサン、てばァァァァァァァ!」
テンション爆上がりのアドレナリン出まくりになった俺は『肉と欲望のバッカーン』の扉を開き店内に入る。
外観と違い店内は落ち着いた雰囲気があり、食事スペースが仕切りで分けられており、防音の魔導具が各スペースに置かれている。
最初、こちらの人数を確認してから、心配そうに俺達を見ている亜人の姉ちゃんに声を掛ける。
亜人の姉ちゃんには、足がなく代わりに巨大な蛇の尻尾のような物が生えていて、今まで見たどの亜人や獣人よりも大きな女性だった。
首にはチョーカーのような物が付けられており、黒を基調とした制服姿と相まって、高級感を漂わせている。
そして、俺から「9人で頼む」という声に驚きながら反応したのがわかった。
「きゅ、9名様ですか、恐れながら、当店は1人に対して、最低でも──前菜かスープ、メイン、ドリンクを頼んで頂かねばなりません。これは体のサイズや性別、種族に関係なく適用されるルールになりますが、よろしいですか?」
「親切にありがとう。構わないよ。席に案内を頼むよ」
「分かりました。お客様。お席へと御案内致します。お客様の注文を担当させて頂きます。蛇人族のナギです」
「ああ、頼む」
「お客様、人数が多い為、2席を利用されるか、追加料金になりますが、皆様が御一緒に御食事が可能な大部屋席の2種類から選択できますが、どうなさいますか?」
悩まずに大部屋を選ぶと再度、驚かれたが値段について説明しようとするナギさんに俺は首を横に振った。
「大丈夫です。持ち合わせはありますから。金貨で500程度あるので、安心して案内してください」
少しでもスムーズに話を進められる男はできる男だからな。
これで普段の頼りないイメージも変わるはずだな。
「キンザンさん……どこの世界にご飯を食べに来て、金の話を自慢する人がいるのよ!」
はい。何故かベリーに怒られました。常識が足りなかったと反省だな。
それから再度、深々と頭を下げられる。その際にウェイトレスの制服姿に繋がるスカート部分を両手で横に広げる姿に不覚にもドキッとしてしまった。
案内された大部屋は落ち着いた感じのコテージを思わせる作りになっており、巨大な木から削り出したような長テーブルが中央に置かれており、入口から左右に分かれて通路が作られている。
半々に分かれて座る。俺が全体を見渡せる席に座ることになった。
気分でいえば、誕生日の主役だな、まぁ、とりあえず注文を決めるとするかな。
「メニュー表を見て、注文を決めるぞ」
そんな言葉にミアとニア、ペコとグーが完全に震えている。
「オッサン……値段が……おかしいんだけど」
「メイン料理の、ね、値段が金貨1枚からだにゃ!」
「「主様、私達は今回はお預けで構いません……」」
はぁ、まぁ普通はこうなるよな……
「私は決まったわよ」
「わ、私も決めました」
「ワタシも決まりました」
「ドーナも決めたなの!」
綺麗に分かれたな。まぁ予想はしてたから問題ないな。
「なら先に頼むとするかな。ナギ。注文を頼んでいいかな?」
「はい。伺わせて頂きます」
「なら、俺はこの『ピリ辛野菜サラダ』と『肉の盛り合わせ特盛りセット』で飲み物はレモジュー、いや、レモの酒割りで頼むよ」
「かしこまりました。他の方のご注文はお決まりですか?」
ナギの視線が俺以外の全員に向くと、注文に悩んでいたミアが手を挙げた。
「な、なら、オッサンと同じやつで、飲み物はレモジュースで頼むよ」
「ニアもミアと同じにするにゃ」
「「私達も同じ物で……お願いします」」
全員が俺に合わせてきたな? やっぱり決められなかったんだな。
「あら、キンザンさんが飲むなら、私も飲もうかしら前菜で『海鮮サラダ』とメインに『グレートモーのスペシャル』を飲み物はエールで頼むわ」
「わ、私は『ピリ辛サラダ』と『ガルーダの塩焼き』、ドリンクはハイスペシャルでお願いしますね」
「ワタシも『海鮮サラダ』と『各種1口の炙り盛り合わせ』飲み物は『蜂蜜とハーブ酒』でお願いします」
「ドーナは『肉盛りの肉だけサラダ』と『満足肉のパラダイス』と『蜂蜜ジュース』に決めたの!」
全員の注文が決まると手と尻尾でサラサラと注文を木の板のような物に書いていき、再度確認を済ませるとナギさんは急ぎ注文を厨房へと伝えに向かう。
どんな料理が出てくるか楽しみだな。
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