48話、転送陣で知らない街に行こう。
嫁ちゃん達がリビングに戻り、準備を完了したことを知ると、俺も数本目の煙草の火を消して立ち上がる。
見た感じ服装などに目立った変化はなかった。
女性が出かける準備というと化粧やお気に入りの服など、色々と変化があると思っていたため、普段通りの姿でリビングに現れたのは、少し予想外だった。
だが、楽しそうな期待に満ちたその顔に俺も軽く笑みを浮かべる。
「準備が出来たみたいだな。なら、向かうとしようか」
嫁ちゃん達からの返事が返って来たのを確認してから、ワインセラーのある地下室へと向かう。
少し古臭い雰囲気のある階段を下に向かい降りていく。
色褪せたワインセラーの扉を開き、軽く埃っぽい室内に入っていく。既に描かれた転送陣が微かに光を帯びていく。
フライちゃんの存在を感じ取ったかのように光り出す転送陣の輝きに俺は驚きを顕にしていた。
「さっきまで、光ってなかったのにな? やっぱりフライちゃんは女神なんだな」
「当たり前ですよ。本来は転送陣は女神の許可で発動するんですからね。なぜか、力が少し戻った気がします。不思議です。今ならなんでもできそうです」
その言葉に、自然と首を傾げてしまった。何故かと言えば、もしも、フライちゃんの言葉の通りならば、別に教会等でなくても転送陣さえ描けたら、誰でも使えるんじゃないかと考えてしまったからだ。
「あ、それに関しては、少なからず、信仰心が必要になるからですね。女神像があり、私への信仰心がないと流石に色んな場所に人や物は飛ばせませんからね」
「つまり、条件が整うと可能なんだな?」
「それがですね──神官や神父、司祭なんて方が私に語りかけて初めて気づけるって感じなんですよね。だから誰でも好きに使うというのは難しいんですよ」
つまり、あの成金神父は、フライちゃんへの呼び鈴みたいな役職なんだな。あんな呼び鈴を押したいとは思わないがな。
成金神父の呼び鈴姿を想像すると急に残念な気持ちになるのだから、本当に俺はあの成金神父が嫌いなんだな。
「オッサン! 質問より急がないとだぞ? 目的地の[癒しの街・カエルム]はこっちと少し時間が違うんだからさ」
「時間が違うって、時差でもあるのか?」
「まぁ、キンザンさん。行ってみたら分かるわよ。さぁ、早く行きましょう」
ミアとベリーに急かされながら、嫁ちゃん達に腕を引っ張られて転送陣へと移動する。
全員が乗ったことを確認するとフライちゃんは眼を瞑り、両手を前に祈るようにしてから合わせていた手を大きく広げた。
転送陣が最初よりも強い光を放ち、円の中心に向かって次第に輝きが増していく。
眼を開けていられないほどの眩いフラッシュが起きたかと思った瞬間、普段と違う潮風の香りを感じ、ゆっくりと眼を開いた。
「え、えっと、砂浜?」
「そうだよ。オッサン凄いだろ!」
少し自慢げに語るミア。それを真似するようにニアとドーナが腕を組むとドヤ顔を披露している。
周囲は既に人影はなく。砂浜に波打つ海が夕日に照らされて橙色になっていた。
「確かに時間差があるみたいだな? アメリカみたいな感じか……」
「キンザンさん。ロマンがないわね。なんでそこでアメリカとか、言っちゃうのかしら?」
俺の中でそれしか思い浮かばなかったんだよ。実際に海外旅行すら経験がないんだから、仕方ないだろうに。
時差の存在から、かなり距離がある事だけは理解出来る。俺がアメリカを例えにしたのも、日本との時差が14時間くらいあるからだ。
俺達が屋敷から転送陣で移動した時が日本で言えば朝の9時くらいだ。この[癒しの街・カエルム]が夕暮れ時から考えても妥当な時間だろう。
「ほら、オッサンこっちだから、早く来てくれよ。皆に置いてかれちゃうだろ」
「あ、皆なんか慣れてないか? とりあえず、待ってくれってば」
先に進む嫁ちゃん達について行くことになった俺、知らない街で迷子は本当に勘弁だ。
考えるより、足を動かさなくちゃならない現実に俺の歩みも次第に早くなる。
夕暮れの街並みを次第に明かりが灯していく。どんな仕組みなのか分からないが俺達の住む[バリオン]よりも眩い街に少し感動に似た感情が湧いてくる。
そんな事を考えながら、先頭を進む嫁ちゃん達の後について行く。
しばらく歩くと皆が立派な建物の前で足を止めた。
「ついたぞ、オッサン! 今日の宿だよ」
「ここに泊まるのかよ、まるで宮殿みたいな見た目の建物じゃないか……本当に泊まれるのか?」
「安心しろってば。ベリーがちゃんと話をつけてくれてるからさ」
「え、ベリーが? この街に知り合いでもいるのか、もしそうなら、ベリーって思ったより凄いんじゃないか?」
「よく知らないけど、同郷だって言ってたな? だから心配ないって、それにさ、同郷ってことはオッサンとも同じってことだろ?」
「なんとも言えないな。ベリーの過去については、あまり聞いたことないんだよな」
「あぁ、確かにオッサンってさ、皆の過去に話を振らないもんな?」
「まぁな」
なんとも返事がしにくい話だ。実際に話を聞かないのは事実だ。
人の過去を聞くってことは、聞く側も話す覚悟がないとならないのだ。
だが、俺にある過去はブラック企業に人生を賭けた結果、不要な存在として切り捨てられた事実しかない。
アルバイトから始まって安いながらも、楽しく働いてた時は、まだマシだったんだがな。
だからこそ、聞けないし聞かない。正直に言えば、今の俺と過去の俺が違いすぎるんだよな。
過去の俺なら、オークジェネラルやコカトリスなんて奴を相手に戦おうなんて思わなかっただろう。
「悪いな、なかなか勇気が出なくてな」
「勇気ってなんだよ? 話を聞くのに勇気って、ボクにはよく分からないけどさ、生きにくい生き方に聞こえるね」
ミアとそんな会話をしていると背後から突然、ハスキーボイスの女性に声を掛けられた。
「やあやあ、君達がベリーの家族だねぇ、随分と年の離れた家族さんだねぇ、いや? 犯罪者さんというべきかな?」
後ろを振り向くと高身長のボーイッシュギャルが引き攣った笑みを浮かべながら、細めた眼で蔑んだような視線を俺に向けてきていた。
明らかに俺を犯罪者扱いしてる目だよな? 喧嘩を売られたら買うぞって言いたいが……正直、嫁ちゃん達が全員成人してたとしてもずっと言われるんだろうな。
「おい、レイラさん! ボクのオッサンをあんまり虐めんなよな! 意外に傷つきやすいんだからさ」
「そうよ、レイラ! キンザンさんは、かなり凹んじゃうんだから、やめなさいよ。キンザンさん大丈夫?」
ははは、少しどころか完全にクリティカルヒットだよ。ハートブレイクまっしぐらな話だな、こりゃ。
「ダメージ的には、こうかばつぐんって感じだけど、まぁ何を言われても恥じる気はないな」
ここで折れたら本当に凹みそうだからな、全力で大丈夫だよアピールをしとかないとな。
「ふーん? ただのロリ嫁ラブな危ないヤツじゃなさそうだね。まぁ、変態野郎って感じは拭え無いけどさ」
このレイラって奴は本当になんなんだ? 失礼を通り越して、不快まであるぞ。
こんな奴と関わるなんてマジにごめんだからな!
「おいおい、アンタは短気なんだな? 表情に出てんじゃないか、まったく、冗談も通じないなんて」
「そいつはどうも、笑えない冗談は苦手でな」
煙草を取り出し火をつける。
「あ、あーーーッ! や、ヤニだよなそれ! わ、悪かった、謝るからさ、頼むよ。一本くれないか?」
いきなり態度が変わったな、こいつも愛煙者だったのかよ。
そう分かっちまうと、やらない訳にはいかないか。
煙草の入ったボックスから一本を取りやすくスライドさせて吸口を前に向けて渡す。
「ほらよ。ライターもあるから使ってくれ」
「まじかよ、アンタ見た目と違って良い奴じゃんか」
「煙草一本でそんなに評価が変わるなんて、あまりいい気分はしないがな」
そんな会話をしていると見かねた、ベリーにレイラが首根っこを掴まれる。
ざまぁ! っと、思った瞬間、俺の背中にミアとニア、ドーナの3人が飛びついてくると前のめりに勢い良く吸い込まれるようにして押し倒された。
「え、おわァァ!」っと情けない声をあげる俺に背後から「オッサンも反省しろよ?」「反省にゃ!」「楽しいの〜」っと3人の声が聞こえた。
「わかったから、どいてくれーーー!」
話が進まないまま、地べたに倒された俺を見る周囲からの軽く笑い声が起きていたのが本当に悲しい事実だ。
互いに叱られたレイラと俺は再度その場に座り煙草に火を灯した。
「悪かったな! 話で聞いてた以上に好かれてるみたいだね」
「まぁ、俺も悪かったわ。改めてキンザンだ。よろしくな」
「レイラだ。こちらこそ頼むよ。あと、ウチの宿にようこそ。歓迎するよ。キンザン」
「これって、レイラが経営してるのか!」
「そうさ、これも能力チートってやつだね。【想像の具現化】ってやつだね」
「チートって、これスキルなのかよ!」
「そうさ! この力でウチはこの街でのし上がって来たってわけよ!」
再度そんな話を始めようとした俺とレイラの背後から嫁ちゃん達からの『ぐるぐるポカポカアタック』が飛んできたので、レイラと顔を見合わせてから頷く。
ベリー達に引っ張られて、レイラの経営する宿という名の豪華なホテルの中へと向かうことになった。
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