45話、闇の世界に麻婆豆腐を
大丈夫と言いながらもフライちゃんはその後、気を失い眠りについてしまった。
「みんな、悪い! 直ぐにフライちゃんを運ぶぞ」
嫁ちゃん達も直ぐに2階に移動すると客室の扉を開けて、フライちゃんがすぐ寝かせられるよう、最善の動きをしてくれた。
女神だからって、無茶させちまったな……
普通に考えたら、転送陣なんて凄い代物だろうに……なんで俺は止めなかったんだよ。
後悔を表情に出しながら、リビングでフライちゃんが目覚めるのを待つことになった。
ベリーとポワゾンの2名がフライちゃんの看病をして、ミアとニアが部屋の前で見張り役となっている。
俺を含めた4人が次の見張りとなるため、それまでに嫁ちゃん達、全員の料理を作っていく。
料理と言っても、こんな状態なので、とりあえずは、おにぎりを大量に作っている。
具材は無しにしてシンプルに“買い物袋”から、ふりかけを数点選び混ぜ合わせただけのものだが、ふりかけも立派な食材だし、見た目も色とりどりでいい感じになっている。
交代前に、明日の分の米も【ストレージ】へと入れてから、見張りと看病をしてくれている嫁ちゃん達に渡しにいく。
「ん? オッサン、その皿に並んでる米はなんだよ? なんか凄い色が違うじゃんか」
「にゃにゃにゃ? なんか小さな石みたいなのが沢山ツイてるにゃ?」
不思議そうに皿に並べられたおにぎりを見つめる二人に1つずつ手渡していく。
「食べたら分かるから、食べて見てくれ」
ミアとニアは顔を見合わせてから、頷くと言われるがまま、おにぎりをその小さな口に運んでいく。
おにぎりが小さく噛まれた瞬間、ミアの表情が明るくなったのがわかった。
「オ、オッサン! これ、訳わかんない味がするぞ! 甘いのに塩っぱいし! 魚の味も野菜の味もするし!」
「にゃ! 玉子の味がするにゃ……にゃにゃにゃ?」
俺の料理で慣れてる二人も流石に分からないといった表情を浮かべながら、既に最初の1つを食べ終わっている。
そのまま、別の皿を【ストレージ】から取り出して二人分のおにぎりを置いてから、フライちゃんの眠る部屋の扉をノックする。
扉越しに「飯、簡単で悪いが……よかったら食べてくれ」一旦、声をかけて返事を待つ。
すぐにベリーが扉を開く。室内ではスヤスヤとベッドに横になるフライちゃんの姿があった。
ポワゾンはそんなフライちゃんを心配そうに見つめていた。
「ポワゾンも食べてくれ、皆に任せっきりで悪いな……」
「構いません。ご主人様の女神様ですので。当然です……グッ……」
親指の位置を変えてくれ……ったく、こんな時までか……
「二人ともいい加減にしなさい。それより、フライ様が目覚めないのよね……なんか寧ろ、起きたくないようにすら感じる寝顔よね……」
その言葉に俺はフライちゃんの言葉を思い出していた。
「もう少ししたら交代だから、また来るよ。本当にありがとうな」
俺は静かに扉を閉めて、ミアとニアにも感謝の言葉を掛けてから、別室へと向かう。
一人、別室に入り置いてある椅子に腰掛ける。
いつものように目を瞑り、フライちゃんのことを考えながら、意識を集中していく。
いつもと違う空間だった。美しく白い世界は黒く濁った闇に姿を変え、その中心に体育座りのようなポーズで俯くフライちゃんの姿があった。
ただ、この空間で見るフライちゃんは、神々しく美しい姿ではなく、現実世界で見た容姿そのままだった。
幼さを残した中学か高校くらいになってしまったフライちゃんの姿がそこにあった。
静かに歩み寄り、俺は無言で横に座る。
「なぁ、フライちゃん。大丈夫か?」
「……なんで来たんですか」
「来たかったから……かな?」
「相変わらずですね……」
「そういや、起きないみたいだけど、腹とか空かないか? 前も腹空かせてたしな」
少し恥ずかしそうにフライちゃんは、小さく頷くのを確認して俺も小さく笑みを浮かべる。
「フライちゃん、ピリ辛は食べられるか?」
「ピリ辛なら、大丈夫ですね、辛過ぎるのは食べたことないのですわかりませんが……」
「なら、麻婆豆腐にするかな」
今回は時間をかけないで調理ができる麻婆豆腐に決めて、調理を開始する。
麻婆豆腐と言っても、本場のお隣さんが作る辛い麻婆豆腐はノーサンキューだ。
子供から女性まで、辛いのが苦手な人でも食べられる麻婆豆腐にしたい。
最初は野菜だな。【ストレージ】に入れていた玉ねぎや、ネギに人参、挽き肉などを取り出して、カセットコンロと大きなフライパンを用意する。
甘さを出すために玉ねぎをしっかりと油多めのフライパンで炒めていく。
火が通ったら、次に合挽きミンチを入れたいだけ入れる。
正直、ここは好みが出るだろうが、麻婆豆腐は挽き肉タップリで硬い木綿豆腐にネギと玉ねぎ、豆板醤にニンニク、生姜と、美味いもんの塊だからな、醤油と味醂、七味唐辛子を加えていく。
山椒はお好みで入れるか入れないかで、別れるが今回は無しにした。
ここで俺は深みを出すためとまろやかにするために、牛乳を少量と、マヨネーズを加えて豆腐が崩れないように注意しながら混ぜていく。
とろみ粉を水でといたトロミを回しがけして、更に煮詰めていけば簡単にできあがる。
今回は八角や山椒を抜いてあるので、かなり食べやすいはずだ。
麻婆豆腐は簡単にできるが、こだわるなら豆腐を入れるタイミングや具材を炒める順番など、言い出したらキリがない、個人的な意見になるが、本当に個性が出まくる料理の1つだと言えるな。
「お待たせ、ご飯と水も一緒に置いとくよ」と取り出したテーブルに順に並べていく。
フライちゃんは、調理中からコチラをチラホラと覗いていたので、僅かながら食欲はあると分かった時は正直、ホッとした。
「な、なんか……見た目が、そのかなりマグマなんですけど……真っ赤なんですけど……」
何故、麻婆豆腐を見つめてから泣きそうに俺を見るんだ?
「フライちゃん……麻婆豆腐とかって食べた事ないのか?」
「な、ないです……普段、食べてたのも『一回、一本、食べたら三日は何も要らないよ。ヘビィーメイト』と言う食品を食べてたのです」
なんだよ……『ヘビィーメイト』って……てか、名前長!
「きんざんさんに渡した『非常食詰め合わせ』にも入ってますよ?」
「え、忘れてたけど、そんなん入ってたのか!」
「はい、ですので……あまり食事を取らずに生きてきてましたから、この前のトンカツとか、すごく美味しかったです。だから、今回も信じます……」
静かに震えるスプーンが真っ赤に輝く麻婆豆腐へと伸ばされ、僅かに掬うと、ゆっくりと口へと運ぶフライちゃん。
たかが、麻婆豆腐を食べるだけなのに。ヤバい……見てるこっちまで緊張してきちまう。
「うぅ……」突然、下を向いて、そう口にする姿に俺は慌てて、フライちゃんの食べた麻婆豆腐を一口スプーンで掬うと口に運ぶ。
「ん? 普通に美味いんだが……」
フライちゃんが真っ赤になって、俺を見ている。
「あ、スプーン……ご、ごめん……」
「だ、大丈夫です……それよりもスプーンをもらってもいいでしょうか?」
俺はスプーンをテーブルに置くと直ぐに【ストレージ】から新しいスプーンを取り出し渡そうとした。
「本当に衝撃的な美味しさですぅ!」
俺が置いたスプーンをしっかりと握りしめて、次々と麻婆豆腐を食べ進めるフライちゃん。
「あ、新しいスプーン……いらないか?」
「え、何でですか? 床に落ちた訳でもないですよ?」
うーん、まぁ本人が気にしてないなら、いいか……
「気にする? はぁ、アワワワワ!」
一瞬で、俺を見て真っ赤になっているフライちゃん。
「わ、私、きんざんさんの使ったスプーンを……きんざんさんも私が食べたスプーンを……アワワワワ!」
だよな……女神とはいえ、フライちゃんも女の子だからな……
「わ、悪かった、すぐに新しいのを作るから、許してくれ」
「ゆ、許しません……よ、責任をとって貰わないとダメですね……きんざんさん、女神とは、愛を信じ、偽りを嫌うものなんですよ?」
「え、あの……責任?」
「まさか、私がこんなにボロボロになるまで頑張ったのに、責任すら捨てるんですか……弄ばれたのですね……」
「わかったから、わかった! だから、ゆっくり迫って来るのはストップだ」
俺に向かってジリジリと迫るフライちゃんを何とかストップさせる。
「言質は取れました。これは女神との約束になりますよ。きんざんさん。嘘をついたら……きんざんさんのいた国のやり方で罰が当たりますからね」
「俺のいた国? 日本式って事かい?」
「そうなりますね。百叩きから始まり最後は市中引き回しにしちゃいますからね?」
ん? なんか、なんだろう……かなり、思ってたのと違うんだけど……
「だから、裏切らないでくださいね? 私達はもう……その先は言えないですね」
口に出せないけど……フライちゃん、思考まで幼くなってるような……
「失礼な考えは良くないですよ! 皆さんに負けないようにしないとですね。えへへ」
フライちゃんとは、そうならないと思ってたが……なんか、流れが怖い方になってく気がするな……
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