37話、『フライデー』・女神のご飯は揚げたてを
一週間ぶりの、“金の精霊の日”を迎えた。
朝早くから、厨房に立ち、次々に衣を纏わせた揚げ物を揚げては、【ストレージ】へと入れていく。
「ベリー。朝から悪いな、米は間に合うか?」
「予定通り、試作品として作ってるわよ。でも、本当にこれ、無料で配る気なの?」
「そのつもりだ。いつか、カツ丼とか、定食なんかもやりたいからな。そのための前準備みたいなもんだな」
俺は今回、『ミニライスボール』と称して、おにぎりを大量に用意してみた。
サイズは本当に小さな物になるが、揚げ物と米を広めたいし、何より『フライデー』でしか食べられないと言う特別感を出したいからだ。
中身の具材は『ラビカラ』(ウサギ肉の唐揚げ)を細かく刻んでネギ塩ダレで軽く和えた物をチョイスした。
試食がてらに、朝食で嫁ちゃん達に出したら、良い反応だったので、悪い結果にはならないだろう。
「オッサン、そろそろ、店を開かないとだぞ? 大丈夫か」
「おう、油も鍋も全部バッチリだし、かなりの数を用意したからな。いつでもいいぞ」
「わかった。なら、オープンするよ」
ミアが厨房側から扉に向かって走っていき、扉の鍵を開くと同時にオープンと書かれた札を扉にかける。
それを合図にニアやドーナが店のカーテンを全て開けていく。
既に外には行列ができており、オープンと同時に客が流れ込んでくる。
前回同様に注意とルールを説明して、列を作ってもらい、商品の説明を手渡していく。
先着500個の『ミニライスボール』についても軽く説明をしてから、次々に注文を聞いていく。
◇◇◇
・オークのトンカツ、『オーカツ』大銅貨5枚(500リコ)
・魚の骨なしフライ。『魚フライソース付き』大銅貨1枚(100リコ)
・角うさぎの唐揚げ、『ラビカラ4個』大銅貨2枚(200リコ)
・ジャガイモとオーク肉の『オーコロ1個ソース付き』大銅貨1枚(100リコ)
・オークミンチとキャベツの『ミンチカツソース付き』大銅貨2枚(200リコ)
◇◇◇
メニューの値段表をペコとグーに渡して、オーダーを受けて貰い、ポワゾンがそれを紙に書いていく。
領主邸では、できるメイドをやってただけあって、しっかりと注文を書いていく姿は本当に頼りになるな。
「『オーコロ』が2つと、『オーカツ』1つですね。かしこまりました。700リコになります。あちらでお待ちください。注文入ります」
「はい、コチラの『ラビカラ』が4セットの『オーコロ』が4つですね。わ、分かりました。1200リコです。あちらでお待ちください」
次々に入る注文をミア、ニア、ドーナのチビ嫁チームが紙袋に確認しながら入れていき、俺とベリーがスムーズに会計をこなしていく。
「はい、コチラ商品になります。はい、毎度」
「こちら、お釣りになりますね。また来てくださいね」
レジをしながら、揚げ物の様子を見つつ、少なくなったタイミングで厨房に戻り、揚げ物を【ストレージ】から取り出していく。
「悪い、誰か商品を前に運んでくれ!」
「わかった! ボクが運ぶから、待ってて」
俺は取り出した分の商品を新たに揚げていく。
揚げたての揚げ物は熱すぎて、すぐに食べるには厳しいため、余裕を持って作らないとならない。
「なんか、男の職場って感じがするな」
「オッサン、カッコつけてる場合じゃないだろ! それにオッサン以外、皆、女だから、女の職場じゃん」
「いいんだよ、こういう時だけは、男の職場なんだよ!」
「なんでだよ?」
「それが男のロマンだからだよ」
そんな会話の中で「早く2人共働きなさいよ〜」っとベリーの叫びが聞こえて、慌てて作業に戻る。
オマケの『ミニライスボール』500個があっさりと無くなり、その時点で500個の商品が売れたことを理解する。
「500超えたな、どんどん揚げてくが、レジは大丈夫か?」
厨房から確認するとベリーからすぐに「大丈夫よ。任せて」と返事が帰ってきたので、俺は揚げ物に集中していく。
減っていく油の量に俺は客の勢いの凄さに身を震わせる思いだった。
「有り難い震えだな。よしっと、『ミンチカツ』と『魚フライ』揚がったぞ。ソースにつけるから出来たら、持っててくれ」
「わかった!」
「わかったにゃ〜」
そこから、夕暮れまで、客が途切れることはなかった。昼休憩も取れないまま、俺達は閉店時間の夕刻の鐘がなるその瞬間まで戦い抜いたのだ。
最後の客に感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と大きな声で見送り、オープンの札を外して、鍵をかけてからカーテンを全て閉める。
「最後の商品も販売終了ね」
「疲れたにゃ〜」
「なの〜」
全員がクタクタになりながら、その場にへたり込むのを見て、俺もホッと一息入れる。
「皆、お疲れ様だな。これを食べてくれ」
俺は人数分の“ラッキーワンアイスクリーム”のカップを取り出してスプーンを添えて渡していく。
「オッサン、な、なんだこれ? 冷たいじゃんか」
「甘々な香りだにゃ〜」
「皆、色が違うの〜!」
「不思議ですね?」
「キンザンさん、なんで今まで出さないのよ!」
「「私達にもありがとうございます!」」
7人が一斉に喋り出して、少し戸惑ったがベリーにアイスの説明を丸投げして、俺も煙草を楽しませてもらう。
「はにゃ〜美味しいにゃ〜、そう言えば、キンザン、今日は初めて煙草を吸う姿を見たにゃ?」
「ああ、商品に煙草の臭いがついたら、あれだからな、家族に遠慮はしないが、金を貰う側だから我慢してたんだよ」
「変なこだわりね? でも、なんか、キンザンさんって感じがするわね。ふふっ」
ベリーに茶化されながらも俺は肺に流れ込むヤニとニコチン&タールにホッとしていた。
『健康第一』なんて言ってたら、揚げ物なんて、食えないからな。不健康なくらいで丁度いいんだよ。
〘何を言ってるんですか、まったく?〙
直接頭に流れる声と視界が停止した感覚に俺は目を瞑る。
次の瞬間には女神フライちゃんの白一色の部屋に視界が変わり、微笑む女神の姿があった。
〘お久しぶりです。キンザンさん〙
「久しぶりって、フライちゃん、この前話したばかりだろ?」
〘そうでしたか? 時間軸の関係で少しあやふやなんですよね……〙
「なんか、元気ないな、どうした?」
〘実はですね……〙
「お、おう」
〘女神としての仕事がハードでご飯を食べてなかったもので、へへ〙
「…………」
〘無言にならないでください〜〙
「はぁ、少し待ってくれ」
素早く、調理台とカセットコンロにフライパンを取り出して、【ストレージ】に入れていたバッター液とパン粉に仕込み前のオーク肉を取り出していく。
スジ切りを済ませてから、麺棒で肉を叩いて柔らかくして、塩コショウを振りかけてから力強く押し込んでいく。
下ごしらえを簡単に終わらせてから、衣を纏わせて、油の入ったフライパンの温度が上がったのを確認して、一気に揚げていく。
両面が綺麗に上がってから、バットにあげて、余熱で更にしっかりと中まで熱を通していく。
ご飯に味噌汁は“買い物袋”から和食セットの物を使い、揚がったオークカツを1口サイズにカットして、カラシとソースを小鉢に入れてやる。
「ほら、できたぞ」
〘ふあぁ! 食べていいんですか!〙
「構わないよ。フライちゃんのために作ったからな」
〘い、いただきます!〙
オークカツをソースにつけて、口に入れた瞬間のフライちゃんはとても幸せそうだった。
口から、ソースが垂れているのもお構い無しにパクパクと食べていく姿は本当に作って良かったと感じてしまう。
「次からはしっかり食べてくれよ。倒れたら良くないからな」
〘ふぁい、るぎがら、気をつけます〙
(はい、次から、気をつけます)
「食べながら、喋らない……ほら、ソースが口についてるぞ?」
〘ふぁ、すみません、美味しくて、失礼しました〙
「美味いなら、良かったよ」
〘でも、なんか、御礼しないとですよね〙
「御礼をされる程のことじゃないからな」
当然、現実なら、御礼も有難く頂くが、女神のフライちゃんに飯を食わせたから礼をくれなんて思ってもいない。
〘そ、そうですか……ですよね、私の力だと役に立てないですよね〙
「いやいや、1回くらいは、サービスだから、なら次になんかあったら頼むことにするよ」
〘はい、なら、次に何かあれば私のできることでお返ししますね〙
優しく笑うフライちゃんに俺は本題を聞くことにした。
「それより、なんで俺を呼んだんだ?」
〘あ、そうでした。実は私、女神をクビになるかも知れなくて、その前に挨拶をしたくて呼んだんです〙
「え! 女神がなんでクビなんだよ」
〘私、ダメな女神なんです、転生も転移も落第クラスに上手くいかなくて……今回の仕事も引き継ぎがメインなんです〙
悲しそうに下を向く姿に俺はなんにも言えなくなっていた。
〘転移をしてくださったのはキンザンさんだけでしたから、他の御二人は転生を選ばれましたし、女神の加護を与えられたキンザンさんにだけは話しておきたくて〙
「女神を辞めたらどうなるんだ?」
〘わかりません、過去にそんな落第女神は居なかったので……そろそろ時間ですね、最後にありがとうございました、また会えたら……〙
そう言われて、俺は現実世界へと意識を戻された。
複雑な気持ちだが、きっと大丈夫だろう、女神なんだしな。
その日の売上はベリーが教えてくれたが、心ここに在らずな状態で聞いていたため、なんとも言えなかった。
「ふぅ。よし、皆、飯を今から作るから、待っててくれ」
俺は悩みを吹き飛ばすように、強火でチャーハンをがむしゃらに作ることにした。
簡単な食事になったが、嫁ちゃん達が笑う食事風景に少し癒された夕食だった。
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