28話、2人の名前と辛い過去のバツ印
扉の先には、中学生くらいの髪が長くボロボロな服を着た2人の男女が立っていた。
悪い例え方になるが、日本なら、ネグレクトにでもあっているんじゃないかと心配になるレベルの見た目をしている。
茶色い髪の2人、前髪で顔が隠れていて、多分男女かな、程度にしか分からないが、俺を見てからずっと無言なんだよな……
扉を開いた瞬間から、すごく震えているので、言葉に困ってしまった。
「ど、どうしたんだ?」
少しマヌケな質問だが、シンプルに聞くのが1番だよな。
「あ、あ、あの……こ、これで、残飯でいいから、食べ物をください」
「あ、えっと、お願いします……」
最初に女の子だろうと思う、身長の低い方が頭を下げて、次に背の高い方が言葉を発した時に気づいたが、両方とも女の子だわ。
「とりあえず、ウチはもう完売して捨てる商品はないんだ」
俺の言葉に、下を向いてしまった2人が再度、頭を下げてから、立ち去ろうとしたので、思わず声を掛けてしまった。
「まぁ待てって、とりあえず話を聞かせてくれ、立ち話もなんだから、中に入ってくれ」
少し悩んだように顔を向き合わせる2人、それから互いに頷くと俺に続いて店の中に入ってくる。
ミア達は奥で休んでいる為、静かな店内は少し寂しくも感じる。
とりあえず、他に客が来ても困るので、『オープン』と書かれた札を外して、鍵を閉める。
この子達が出る時に開けるのは少し面倒だが他の客が来ても厄介だからな。
「それで、話なんだが……」
俺が鍵を閉めて振り向くと、震えながら、上半身の服を脱いで立っている2人の姿があり、慌てて後ろを向く。
「な、何してんだ! 早く服をきなさい!」
「え?」
「でも、中に呼ばれたから……」
中に呼ばれたからってなんなんだよ!
「いいから、服を着ろって」
「やっぱり、汚いからですか……水を浴びてきたら、いいですか?」
泣きそうな声で語りかけられるが、どっちの声か分からない。
「お、お願いします……ずっと食べてないの、ずっとお姉ちゃんだけ、我慢してて、だから、お願いします……」
その言葉を俺は聞いて、“はっ!”とした。
俺は自分の行動を考え直す。
腹がすいた女の子2人を飯はないといいながら、店に誘って、鍵を閉める……しかも、カーテンで外から中が見えない誰も居ない店舗……
完全にそっち目的だと思われるじゃねぇかぁぁぁッ!
とりあえず、振り向いて、全力で頭を下げる。
「悪かった、誤解させちまった。許してくれ」
急に謝った俺に、2人はどうしたらいいか分からないのか、アタフタしているのが、何となくわかった。
頭を下げたまま再度「服を着てくれ、話はそれからする」と告げると床に置かれた服が拾われるのが見えた。
微かに服を着る音が聞こえ、それが終わると同時に声がする。
「えっと、着ました……」
力無く、諦めたような、弱々しい声を聞いて頭をあげる。
「まずは、誤解させて悪かったな、2人を呼び止めたのは、本当に困ってそうに見えたからだ」
俺の言葉に下を向いたまま、微動だにしない2人、ただ、微かに震えていた。
「追い出したりしないし、怖いこともしないから、安心しろ。ただ、少し待てるか?」
「待つですか?」と不思議そうに質問されたので、軽く頷く。
「順番になるが、待ってくれたら美味いもんを作ってやるからさ」
その言葉に2人は再度向かい合うと、首を縦に振った。
「よし、なら待っててくれ」
俺は手早く、まな板に白菜を置くと、包丁でザク切りにする。
そこに薄く切ったオーク肉を取り出し一口サイズにしていき、人参、椎茸、タケノコの水煮、むきエビパック、うずらの卵缶ずめを“買い物袋”から出していく。
油を引いた中華鍋に肉を入れて炒めてから、エビを入れていき、別の鍋で油通しを行った野菜を中華鍋に加える、ある程度炒めてから調味料を足していく。
醤油に味醂とまぁ、味付けは好みが別れるかな?
うずらの卵を入れてから、一気に炎の勢いを上げるために足踏み式の鞴を使う。
「あ、あのそれはなんですか?」
「え? これは鞴っていって、送風装置みたいなもんだな、早い話が火力をあげる為に風を送るんだ」
そんな話をしながら、片栗粉を解いた水を流し入れて、軽くトロミをつけていく。
米は既に炊いた物を【ストレージ】から取り出して、一人分ずつ、皿に盛り、出来た餡掛けをたっぷりと掛けていく。
完成した物を再度【ストレージ】に入れてから、俺は2人に待つように伝えてから、屋敷側に歩いていく。
屋敷についてから、ベリーとポワゾンにそれとなく、状況を説明しておく。
「と、言うことなんだ……」
「何が、と、言うことなのよ……キンザンさん、貴方は本当に少女ホイホイなの? 日本なら間違いなく両手に花じゃなくて、輪っかになるわよ?」
そう言いながら、軽く頭を抱えたベリーはポワゾンに「お風呂を作ってあげて、頼めるかしら?」とお願いしていた。
「かしこまりました。直ぐに」とポワゾンは浴室へと消えていく。
俺はベリーに連れられて、再度、店舗側へと戻る事になった。
店舗に入ると、正座をした状態の2人が俺を待っていた。
「キンザンさん、正座で待たせてたの? 流石に酷いわよ?」
「ちがうから、正座なんかさせてないから!」
焦る俺を放置して、ベリーが2人を立ち上がらせる。
「貴方達は、誰なのかしら、良かったら名前を教えてくれるかしら?」
「私は、“ゴミ”です……」
「アタシは、“役たたず”です……」
俺達は言葉を失った。とりあえず、話を詳しく聞く為に2人の飯を作る事にする。
その間にベリーが2人を椅子に座らせる。
椅子に座る事を怖がっていたので、ベリーには、かなり大変な役を任せてしまった気がする。
簡単に肉と野菜を炒めて野菜炒めを作ってやり、スプーンとフォーク、ご飯と水を2人の目の前に置いてやる。
無言のまま、食べない……猫舌か?
「なんで食べないんだ、熱いのは苦手か?」
質問に2人が首を振る。
「余り物が出るまで、待ちますので、食べさせてください……」
話をゆっくり聞けば、出された食事を俺達の分と勘違いしたらしい。
「これは、お前達の分だ、ゆっくり食べろ、いいな」
俺とベリーは2人が食べやすいように1度席を外す。
「なぁ、どう思う?」
「うーん、奴隷かしらね……見た感じ、捨てられたのかもしれないわね……」
「見ただけでわかるのか?」
「まぁ、あまりいい話じゃ無いけどね……あの子達の足首にバツ印の焼印があったから……」
俺は気づかなかったが、ベリーは気づいてしまったらしい。
足首にバツ印は、『生娘に非ず』を意味する証だそうだ、奴隷の価値は生娘かで、かなり変わってくるらしい。
なんか、嫌な話だな……異世界に来て、こういう話は本当に理解に苦しむんだよな……
ベリーは更に、女の子達の姿を見て、何らかの理由で解放されたか、捨てられた奴隷だろうと判断した。
どんな理由があっても、納得出来る訳ないよな。
「何を考えてるの! 綺麗事の安請け合いはこっちの世界じゃ救えないの、気持ちはわかるけど……無意味なのよ……沢山いるのよ、あんな子達が」
「ベリー、ありがとうな。でもさ、目の前で、困ってるガキがいたら、助けたくなるんだわ。オッサンは綺麗事が好きだからな」
「もう、本当に馬鹿なんだからぁ!」
ベリーは軽く、むくれた顔になったが、反対はしなかった。
だが、綺麗事だけじゃ救えないか……確かにそうかもな。
俺は凄い勢いでご飯と野菜炒めを食べ終わった2人に水を追加で持って行ってやる。
「ほら、飲みな。ゆっくり食べてよかったんだぞ、水も遠慮すんなよ、食べた後もしっかり飲んどけ」
「あ、ありがとう……ございます」
「ありがとうです……」
水を緊張しながら飲む2人の前に腰掛けて、質問する。
「お前達は、主人はいるのか?」
その質問に身体を“ビクリッ”っとさせたのが分かり、再度優しく質問をすると、2人は首を横に振った。
訳を聞けば、最近まで奴隷として、酷い扱いをされていたそうだ。
だが、急に奴隷から解放されてしまったらしい、理由としては、主人だった男が罪を犯して、財産を全て失った事が原因らしい。
それから2人で残飯を貰ったり、野草を口にしながら、必死に生きていたそうだ。
「酷い話だな……なんて奴なんだ?」
「私達の主だった方は、ガラン伯爵でした」
俺は飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「あ、アイツかよ!」
話をまとめれば、この2人が今の状況になったの俺のせいじゃんか。
「話は聞いたわよ……キンザンさん、仕方ないわよ。2人の身請人になるわよ」
「身請け? いいのか」
「ええ、今日はもう仕方ないし、2人は屋敷の空き部屋を使わせるわ。いいわね?」
ベリーの言葉に頷くと、2人を連れて屋敷側に歩いていく。
そんな2人の小さな会話が耳に入ってきた。
「私達、娼館に売られちゃうのかな……」
「それでも、ご飯が食べれるなら、いいよね……」
なんて、世知辛いんだか……明日は朝から『民間ギルド』だな……また、冷たい目で睨まれそうだが、しゃあないな。
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