277話、待ち人に温もりを
教室でほうとうを作るという誰もしない行動を魔法学園の歴史に刻み、腹も膨れたため、一度、学園長室に戻る。
戻る前に鎧を着直すのは手間だが、まぁ仕方ないな。
学園長室では、ベリーが声を荒らげ、ルフレ殿下と真っ向から言い争いをしている真っ最中のようだ。
「だから、やるなら! しっかりと作り直さないとダメなのよ!」
「じゃから、いきなり風呂を閉鎖すれば、問題になると言っておろうが!」
内容がわからないが、かなり拗れてんなぁ……。
「あの学園長、何があったんだ?」
「あ、黒騎士様、実は──」
ベリーは、風呂の仕組みを使いやるなら、金を払ってもらうシステムを導入しないとならないと提案したが、ルフレ殿下はそうすれば、民から不満が出て、新たな問題になると譲らないらしい。
確かにシステムの見直しは大切だが、今の段階で金を取るとなれば、入りたいが入れないって人も出るだろう、それが問題だって話も理解できるな。
「2人とも、落ち着いてくれないか? 今回は話し合いだし、冷静になればいい案も出るだろ?」
俺の言葉にベリーとルフレ殿下がこちらに視線を向け、同時に指さしてきた。
「なら、キンザンさんがいい案を出しなさいよ!」
「ならば、其方がよき解決案をこの場で提示せよ!」
完全な飛び火だ! やぶ蛇もびっくりな状態だよ!
「はぁ、なら、有料化は一か月後からで、告知もしっかりして、先に料金表を提示する形にすればいいんじゃないか? 料金はまあ、銅貨数枚とか」
俺の提案にベリーは安すぎると言いながらも、俺が銭湯のイメージだと説明すると仕方ないと納得してくれた。
「しゃが、あのままでは、誰でも横入りが出来てしまうじゃろ、どう管理する気じゃ」
「それなら、ついでに一か月の間にしっかりした風呂の施設を作りましょう。あの仕組みは簡単ですから、新しい施設ができたら、回収しますし」
俺は銭湯のイメージをルフレ殿下に伝え、お湯の循環システムとして、“オループ”を使うための仕組みを説明する。
湯の流れを作り、床の下にパイプを並べ流れ出した湯を裏側に集めるようにする構造を話していく。
集まった湯は自然と冷めてオループに吸い上げられ吐き出される。
吐き出された水を火魔法で温めて、湯として戻すやり方だ。
「ふむ? そんな仕掛けを作れる大工を探すのが大変じゃなぁ」
「殿下、大丈夫ですよ。丁度、王都には商業都市[バリオン]から腕の良い大工が来てくれてます。以前に[ガルド・ゼデール]で似た仕掛けを作ってもらいましたから」
こうして、頭領を知らない間に巻き込んだ話し合いは落とし所を見つけ、丸く収まる結果となった。
そうして、学生側からは生徒の魔法鍛錬を目的とした人材派遣(給金・食事付き)の話がまとまり、施設の所有権は王国側が手に入れた。
そして、作成者という名目で俺には月の売上の20%が入ることになった。
なんか、棚ぼただが、魔石を使わずに、僅かな人材で風呂を大量に沸かす技術はそれだけの価値があるらしく、首を縦に振るまで許してもらえなかった。
長い話し合いが終われば、既に夕暮れに染まる空が俺達を出迎え、俺達は今日一日、作業の手伝いができなかったため、急ぎ、シンク風呂へと向かう。
到着して驚いたが、かなりの人数が並んでいて、慌てて風呂の用意を開始する。
ただ、今日はロゼ君は来てくれていたが、デジールの姿はなかった。
「なあ、ロゼ? デジールはいないのか?」
「あ、お兄ちゃん、あの子なら、今日は教会の仕事があるから、無理だってさ!」
そう言われ、仕方ないと思った俺の後ろから、慌ててやって来たのは、カリーノ達だった。
「あの、私達にも手伝わせてください。学園長先生から、雑用も勉強になると言われて」
息を切らせながら、走って来てくれたカリーノ達に俺は感謝しながら、作業について説明をする。
「今日は“オループ”がないから、俺がお湯は何とかするから、水の管理と熱の調整を頼むよ」
「「「はい!」」」
話が決まれば、シンク風呂は一気に湯気をあげていく。
ただ、やはり、デジールのような熟練の技はないため、たまに水球にしたお湯が落下したり、温度が上がりすぎて冷ましたりと多少の問題は見え隠れしたのも事実だな。
改善ありきのシンク風呂だから、些細な問題だ、特に何かを言う気もない。
ミスを指摘するのも、優しさだろうが、本人達が自分で気づけたミスは自分で改善するのが一番身に付くからな。
俺は基本的に見守りのポジションなので、とりあえず、風呂を待つ人を見てから考える。
長く待つと疲れるよなぁ、しかも待ってるあいだってのは、やれることないしな。
そう考えたら、逆にやることを見つけたくなるのが人ってもんだしな。
1人でできることを考えれば、あやとり、けん玉と本当にどうしようもないくらいアイディアが出てこない。
「うーん、よし、悩むより行動だな」
俺は畑違いの悩みで時間をつぶすとダメになるタイプだから、自分のできることをやればいい。
そうと決まれば、ベリーに相談する。
「ベリー、待ってる人にラビカラとか、暖かい飲み物とか売れないかな?」
俺から珍しく商売の話が出たからなのか、ベリーが速攻で話に食いついてきた。
「珍しいじゃない、キンザンさんが商売の話を持ってくるなんて? でも、悪くないわね。ただ、いきなり始めても今は難しいんじゃない?」
「まぁ、そうだよな……ただ、待ってる人を見てたら、なんか、つまめたりしたらなって思ってな」
「そうね、とりあえず、試すのが大切よね。わかったわ。皆と相談ね」
ベリーはそう言うとすぐに嫁ちゃん達全員で話し合いをしていく。それに混ざるように話を聞いているナズナとリーフも多分理解してないだろうが“うんうん”と頷くのが、可愛いすぎるな。
そうしてる間に俺は新しいお湯を入れ替えるために、“リサイクル袋”を開いていく。
「話が決まったよ。オッサン、とりあえずは注文があれば販売しようってことになったよ」
ミアがそう言うと屋台を組むことになり、ラビカラとホットの烏龍茶を販売することに決まった。
烏龍茶のチョイス理由は夜の揚げ物を考えた時に、黒い烏龍茶を想像した結果だ。
そうして、風呂待ちの人だかりに向けて、香ばしいラビカラの匂いが漂っていく。
五個を小さな紙の入れ物に入れて、コンビニの『唐揚げちゃん』のようにする。
持ち運びや片付けも楽なこととゴミも風呂を使う際に回収しやすいため、これが一番だろう。
待ち時間に突然現れた誘惑は効果抜群だった。ラビカラとホット烏龍茶をセットで大銅貨二枚、パンが1つ、銅貨五枚(50リコ)のため、少し割り高に感じるが、これくらいが露店と考えれば丁度いいと言われた。
忘れそうになるが、こちらの世界は焼き物はあるが、揚げ物はないので、これでも安いのだ。
正直、仕込みを“買い物袋”から買う形で使うため、詐欺みたいで心苦しいが、まぁ仕方ないな。
ちなみにホット烏龍茶はヤカンで煮出したものを大きめの紙コップに入れ、販売することにしてある。
むしろ、ラビカラを頼んでくれた人には無料でつける形のため、そこまでアコギな商売にはならないだろう。
そうして、いきなり始めたラビカラ屋台と烏龍茶は俺の想像の五倍くらい、売れたのには本当にびっくりした。
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