275話、模擬戦は刺激的に
学生達が集まり、校庭は瞬く間に人で溢れていく。あわや学園祭かと言いたくなる光景に俺は苦笑してしまった。
「いきなり、すみませんね、ミルト学園長。約束通り、壊さないように気をつけますので」
俺は集まった学園の生徒とフライちゃんをバカにした学生を含め、全員を一度見てから話し始める。
「この中には、大会に対して気になることや疑いもあるだろう、だから、分かりやすく説明したくてな」
そこまで話すと俺はフライちゃんを目の前に呼び、話を続ける。
「フライちゃん、一撃耐えてもらっていいかな?」
「構いませんよ。反撃は今回無しにしますか?」
「いや、反撃ありで構わないよ」
生徒からすれば、今校庭に居るのは、大会の優勝者と3位の俺だ。理解してもらうなら、これが一番だろう。
互いに笑い合う。まぁ、俺はヘルムを被ってるから、顔は見せられないんだけどな。
フライちゃんは笑顔のまま、何もない空間から錫杖を取り出してみせると、学生からは声が上がる。
「どこから出したんだ?」
「あれって、空間魔法?」
「いや、作成系の魔法か錬金術の一種じゃないか?」
そんな会話を聞きながら、俺も【ストレージ】から竜切り包丁を取り出していく。
「あっちもだ!」
「あんなのどうやって……」
「あれ持てるか? 俺なら無理だな」
巨大な竜切り包丁のインパクトは、学生の常識を壊しちまったかな? まぁ、いいか。
「さあ、始めようか」
「そうですね。先手は譲りますよ」
フライちゃんの言葉に頷き、俺は【身体強化】と【リミットカット】を発動して、高速で斬り掛かる。
俺の動きに笑みを浮かべたまま、フライちゃんは錫杖を操り、竜切り包丁の軌道を逸らされてしまう。
無数の斬撃が軽くあしらわれている。本気の斬り込みもフライちゃんからすると、お遊戯くらいに感じられてるのかと思うと悲しくなるな。
「浮かない顔ですね? どうしたんですか」
「いや、余裕だなってさ、こっちは必死なんだけどな!」
「いえいえ、錫杖で防いでますが、素晴らしい斬撃だと思いますよ。わたしが相手じゃなければ、かなりいい感じに思いますし」
「涼しい顔で言われてもなぁ」
俺が一歩後退した瞬間、フライちゃんが踏み込み錫杖を振り払う。
回避が間に合わずに掠った瞬間、衝撃と共に吹き飛ばされ、その後に粉塵が追いかけてくる。
マジか、風が後から追ってくるって、改めて、チートだな。
ただ、フライちゃんは追い討ちを掛ける気はないらしい。
結果的に距離を手に入れたのはありがたい。
悩まずに駆け出し、【身体強化】を発動したまま、高く飛び上がる。
太陽を背にして、俺はフライちゃんに向けて、竜切り包丁を投げ放つ。
ある程度の落下から竜切り包丁の【調理器具マスター】を解除すると一瞬で本来の重量が戻った竜切り包丁が轟音を放ち、フライちゃんへと落下する。
回避は容易いだろうが、フライちゃんはそんなことはしないだろう。力量の差が明らかで、竜切り包丁の直撃も問題ないだろう、女神なんだもんな。
「付け焼き刃ですね!」
フライちゃんはそう口にして、錫杖を竜切り包丁に合わせて振り払う。
竜切り包丁が弾かれると校庭に落下する。その瞬間、校庭が地響きが鳴り、土煙が舞い上がる。
その瞬間、俺は魔物包丁を【ストレージ】から取り出して、両手で握る。
全力を込めて、両手に握った魔物包丁を叩きつける。
山をダイナマイトで吹き飛ばした時のような、振動と爆音が響き渡った瞬間、俺も含めて、その場にいた全員が勝者を見つめていた。
「本当に酷い人ですね……愛する嫁に向かって放つ一撃とは思えないですよ? もしかして、ストレスでもありますか?」
「ストレスはないな、むしろ、夫婦喧嘩になったら、手加減を頼むよ」
我ながら、情けない発言だが、本心から出た言葉がこれなんだから、本当に敵わないな。
俺が放った一撃は、あっさりと身体を逸らされることで回避された。
さらに言えば、手に握られた錫杖は、触れないギリギリを捉えたまま、俺の首に添えるオマケ付きだ。
フライちゃんにその気があれば、首がいくつあっても足りなくなるだろうな……。
勝敗が決した瞬間、拍手が鳴り、失神者が運ばれ、身を震わせ、目を輝かせる学生と色々な反応が返ってきた。
学生側の興奮が収まらないままだが、教員達が慌てて、教室に誘導していき、次第に賑わいが消えていく。
残されたミルト学園長だが、目が点になっていて、口も開いたままに固まっていた。
その視線の先には、大きくエグれた地面と複数の穴、少し前まで、学生が魔法の練習をしていた校庭とは、別世界が広がっていたため、俺は改めて謝罪をすることになった。
ここまでやると、フライちゃんの実力を疑う学生は皆無であり、校庭はメフィスにより、綺麗に修繕してもらい事なきを得る。
そうして、校庭でのパフォーマンスを終わらせ、学園長室まで案内される。
ただ、最初に足を踏み入れた時より、廊下で向けられる視線に熱量が増えていたことには触れないでおこう。
そうして、本来の目的であるシンク風呂の話をするため、学園長室で話し合いが開始される。
学園長室で話し合いが始まってすぐ、部屋の扉がノックされる。
返事が返され、部屋に入ってきたのは朝に出会った学園の生徒の1人、カリーノだった。
「学園長先生、お呼びでしょうか?」
「いきなり、悪いわね。話を一緒に聞いて頂戴、あなたには、Gクラスへの説明係としても話を聞いてほしいの」
ミルト学園長はカリーノを自分側に呼び、席に座らせる。
そうして、話し合いが開始されると、すぐに俺が朝の段階で話した火魔法の苦手な人材についての話題が出る。
「つまり、火魔法が苦手じゃないとダメだと?」
ミルト学園長からすれば、魔法とは得意なら得意なほど、いいという基本的な部分が真逆になる話に首を傾げていた。
そして、もう一つの目的である“オループ”を見せてもらった。
見た目は水草のようで、ハスやスイレンといった植物に似ている。
違うのは、サイズが小さく、花の部分と葉っぱが真下にある球体と繋がっていることくらいだろう。
「学園長。直接、その植物の吸収力を見せてもらえますか?」
俺の言葉にミルト学園長が頷くと水魔法を使い水の玉を作り出し“オループ”の入った木箱の中に入れていく。
すぐに水が吸収され、驚かされたが、逆に俺はもう1つの疑問を口にした。
「湯は吸収できるのか?」
そんな質問にはカリーノが小さく手を上げ、答えてくれた。
「お湯に関してですが、水魔法と風魔法で熱を飛ばすことで問題ないと思います……」
そこまで聞いて、俺はゆっくりと首を縦に振ってみせた。
「わかった。なら、シンク風呂の管理はお任せします。この件は、王国側と学園側にあとはお任せしますので、決まったら教えてください」
「なにぃ!」
「えぇ!」
ルフレ殿下とミルト学園長の声が室内に響いた。
まぁ、権利の完全放棄だから、そうなるよな? でも、風呂屋をやる気ないし、俺の本職は揚げもん屋だからなぁ……まぁ、問題ないだろうな。
「何を問題ないみたいな顔してるのよ! 大ありよ! はぁ、その話は私が引き継ぐわ」
あ、やっぱり、ダメだったか……
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




