271話、王都に小さな温もりを“シンク風呂”を作ります
外からの賑わいは次第に王都へと広がり、新たな風が吹いた瞬間、命を奏でるかのように多くの人々の声と工具から鳴り出す音色が街を彩っていくようだった。
「なあ、フライちゃん。俺さ、人の優しさがこんなに暖かいんだって、改めて感じるよ」
「これは、きんざんさんが繋いできた縁ですよ。普通はこんなに早く、人は動きませんよ」
「それなら、尚更、暖かいな」
「そうですね、さあ、わたし達ももうひと踏ん張りですよ」
そうして、動き出せば、街中には猫人族が動き回り、細かい残骸などを運び出している。
大きい瓦礫は、沼と自然の土地[マーシュマレ]から来てくれたパピィさん達と蛇人族の皆が力を貸してくれた。
「新たなる息子よ! 我の群れは力を貸しに来たぞォォォッ!」
「「「「ヴォオオオォォーーッ!」」」」
「新たな群れの長のために!」
「「「「新たな長のためにィッ!」」」」
蛇人族の雄叫びがこだますると、それに続いて、ウルグ率いる狼人族も遠吠えを上げる。
「蛇人族に負けるんじゃないよ! 主殿のために!」
「「「ウルグの姐さんと主殿のためにッ!」」」
空気を振動させる声、そうなれば、一気に作業が加速していく。
そうして、瓦礫や残骸が街から消えていけば、次はいよいよ、住宅の復旧作業が開始される。
頭領達の腕の見せ所だろう。レイラの【アシスタントワーカー】と建築ギルドが手を組めば、かなりの速度で家屋が完成するのは言うまでもない。
職人って人種の凄さは見た目じゃなく、手を見れば明らかだからな。
さらに、家具などは王都の職人さん達に加えて、鉱山の街[ボルドール]から救援に来てくれた冒険者ギルドのキールとナタリーが仲間と街の職人さん達を連れてきてくれた。
「よう、キンザンさん。手助けが必要って聞いたから、ギルマスに許可もらって飛んできたぜ! って、足が生えてるじゃないか!」
「色々とな、女神に愛されてるから、足も生えてきたんだよ。なんてな」
「おいおい、マジに足があるから、なんも言えないが、本当に愛されてるなら、羨ましいねぇ」
キールには、俺が“癒しの滴”で回復したことを言ってなかったため、かなり驚かれた。
そんな驚きも合わせて、再会を喜んだ俺達は互いに握手をすると、キール達は家具の作成と修繕へと向かってくれた。
鉱山の街と呼ばれる[ボルドール]だが、中身を開けてみれば職人の街だからな、魔導具のスペシャリスト達に家具を作らせるのは悪い気がするが、ありがたくやってもらおう。
そうして、午後からは賑やかで大胆な王都修復作業が開始され、俺や嫁ちゃん達もできる限りの働きをした。
時間があっという間に過ぎる中、頭領達は、長屋タイプの家をシンプルながらに作り上げてくれていた。
空き地だった土地を勝手に使うことになり、一旦、ルフレ殿下に話を通すことにする。
完全な事後処理になってしまったことは言うまでもないが、ルフレ殿下は逆に同行してくれた頭領にも頭を下げてくれた。
「すまぬな。バリオンからの助け、本当に感謝する。余が不甲斐ないばかりに迷惑をかけるな」
「いや、殿下。あっしらは、助けるために腕を振るわせてもらってるだけですから、それに生意気を言うようですが、助けたいから助ける。それだけです」
「ふむ、その言葉、何よりも余の胸に響いたぞ。しっかりと金は払わせてもらうつもりじゃ、気にせずに言うてくれ」
「大丈夫でさ、旦那からは色々ともらいましたし、何より、持ち込んだ具材も旦那から出てる金で調達したモンばかりですから」
ルフレ殿下が俺に視線を向ける。
「キンザンよ、おぬしという男は……余は其方に恩ばかりで、返しきれるか不安すら感じてしまうぞ」
「あはは、まぁ、ルフレ殿下が民を守りたいように、俺はルフレ殿下の守りたいって思いに応えたいだけですから、嫁ちゃん達も集まった皆も多分、同じ気持ちですよ」
「余は良き友と、良き民を持った。これほどに嬉しく感じた日はないぞ。心から感謝するぞ」
ルフレ殿下と話し合いを終わらせて、王城から王都に戻る。
既に夕暮れが迫る中、俺はメフィスと話をする時間をもらい頼み事をしている真っ最中だ。
「頼む。メフィス、この場所にいくつかの穴を作ってくれないか」
「何故、穴なのですか? 我輩にわかるように説明してください!」
「わかったから、理由を話したら頼めるか?」
俺は瓦礫を排除した一角にメフィスとやってきていた。
そこは街外れの無人エリアで、古い家屋が放置された場所で、天井のない家や壁が綺麗に腐っている家など、人が住むことが困難な場所だった。
頭領も最初はこの場所の家を直して使えないかと考えていたみたいだが、支柱まで腐っているため、新しく建てた方が早いと諦めたエリアになっている。
そんな場所の使用許可は既にルフレ殿下との話し合いでもらっているため、後はメフィスに協力してもらうだけの状況になっている。
俺の指示でメフィスが古い家屋を風魔法で解体し、一箇所に廃材を集め、俺が“リサイクル袋”で片付けていけば、あっという間に広い空き地ができ上がる。
そこにメフィスの土魔法が加わり、長方形の巨大なくぼみができ上がり、地盤を固めていく。
「はぁはぁ、我輩の魔力だと思って、荒い使い方をしてくれますなぁ、こんな窪みがなんになるというのですか!」
「悪いな、まぁ見ててくれよ」
俺はそこに、調理場用の巨大シンクを複数“買い物袋”から取り出していく。
縦、80cm。
横、120cm。
シンクの深さ、60cm。
海外サイズのシンクを無数に取り出していく。
「なんですか、この四角い入れ物は?」
メフィスがそう聞いてきたので、俺は悩まずに答える。
「これを風呂として使おうと思ってな」
そう、広い空き地に作った窪みに単管パイプを並べて、その上にシンクを置いて水を入れ、外側から火炎魔法を伸ばした単管に当てて湯を沸かす。
異世界だからできる方法だってやつなんだが、普通にやってたら、燃料代がバカにならないだろうからな。
縦に伸ばしたパイプの上にシンクを並べ、シンク横の隙間には簀子を並べていく。
「しかし、まぁ、なんでこんな? 貴方のいう木の板ですが、なぜ、重ねる必要があるのですかなぁ、さっぱり分かりませんなぁ」
「隙間があった方が歩く際に直接、熱が伝わらないし、普通の板を置いたら、逆に熱くなりすぎて歩いて渡れないからだよ。シンクの底にも板を入れるから」
俺が作ろうとしているのはシンク型の五右衛門風呂だ。
釜やドラム缶があれば、良かったんだが、さすがの俺もブラック企業時代にドラム缶は発注したことはないな。
そんなこんなで、並べれば一回に50人くらいが入れる個別五右衛門風呂の完成になる。
これを二箇所、つまりは一度に100人、男女別で入れるようにして完成になる。
女湯にはデジール。
男湯にはロゼ君。
この2人に水魔法を使って管理をお願いすることになる。
いくつかの列に分けてあるため、5人ほどが浸かったら、俺がシンクのお湯を“リサイクル袋”に回収して、新しい湯を沸かすことになるだろう。
仕切りの板も用意したし、脱衣場と身体を拭くスペースも確保してあるため、ストレスも少なく済めばいいんだがなぁ、とりあえずは入ってもらってからの話になるかな。
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