268話、鍋の温もりは人の中に
夜空に上がる白い湯気、異世界には似合わない巨大鍋、誰がこんな馬鹿みたいなサイズの鍋を作るって話だが。
「見てみて! 凄いよ」
「怪物煮?」
「違うみたいよ、アンコウナァビーって言うみたい」
でき上がった鍋の煙がコロシアムから上がり、濃厚な香りは風に運ばれて街を駆け巡る。
その結果、人々は声掛け前から集まってくれている。
こんな馬鹿でかい鍋でも、王都の人間全員に振る舞うと考えれば足りないだろう。
なので、鍋の盛り付けは、ルフレ殿下に頼み、兵士の皆さんに協力してもらいながら、俺達は料理ができる兵士さん達と調理作業を継続していた。
「ベリー、悪い、鍋の出汁を上げてってくれ、ミアとニアは上がった鍋に野菜を入れてくれ!」
「わかったわ! 奥から上げてくわよ。取り出した昆布はどうするの?」
「それは、【ストレージ】に入れるよ。ふりかけとか、佃煮、何にでもなるからな」
「オッサン? 野菜だけ煮るのかよ」
「そうにゃ、野菜のスープは寂しいにゃ!」
「大丈夫だ。野菜と一緒に肉も入れるし、他にも、ねぎま鍋にもするから」
そう、俺は大量のカセットコンロと土鍋を“買い物袋”から取り出して、大量鍋を一気に用意している真っ最中だ。
巨大アンコウ鍋を1人一杯になるとしても、かなりの人数に配れるだろう。俺達つまり『フライデー』としては、腹いっぱい食べてほしいし、安心して飯が食える事実を皆で感じてもらいたい。
だから、寄せ鍋、ねぎま鍋、うどんすき、すき焼きの四種類を追加で作っている。
ちなみに、ねぎま鍋はマグロもどきが大量にまだあるため、しっかり使おうと考えて追加した感じだな。
とにかく、今は鍋、鍋、鍋だ!
「キンザンよ、やはり、余は、お前が友として、王城に欲しいぞ! どうじゃ、宰相の座をやっても、今の働きなら、誰にも文句なぞ、言わさぬぞ」
「ルフレ殿下、やめてくださいよ? それより、早く並ばないと、アンコウ鍋食べ損ないますよ?」
「ぬぁ、そうであった! 余も、並ばねば、食べれぬのであった! キンザンよ! 余は本気じゃからな」
ルフレ殿下が慌てて駆けて行く背中を見送るが、メフィスは俺の横に立っている。
「なんだ? メフィスは鍋を食べないのか? 味見したが、むちゃんこ美味いぞ?」
「お構いなく、殿下に内緒で我輩は先に持ってきておりますからなぁ」
「……」
「……確かに美味ですなぁ、濃厚ですねぇ」
「おぅ、いいのかそれで……」
「ふぅふぅ……はい。今回は殿下自らが、“自ら並んだ者が食べれる”と言いましたからなぁ」
確かに、鍋を不当に食べる人はいないだろうが、鍋は直接取りに行くようにと最初に宣言していたしな。
ただ、怪我人らは前段階で警備兵団と王国騎士団により、把握されているため、食べられないって人は出ないだろう。
鍋をもらいにきた際に手に“落ちないスタンプ”を押させてもらうことになっている。
「それよりもです。我輩も貴殿の宰相としての起用には賛成なのですが? 本当にやる気はないのですか」
「ないない。わかるだろ? 俺の居場所は厨房なんだよ。今は野外だがな」
「本当に、欲が無さすぎるのは、嫌味にすら感じますなぁ、もう少し扱い易いなら、手はいくらでもありますのに」
そんな会話をしていれば、嫁ちゃん達から声がかかる。
「ご主人様、ベリー様からすべての鍋の火が入り、余熱にするとのことです。提供時に再度沸騰させると伝えてほしいと言われました」
「ポワゾン、ありがとうな。よし、みんなにも食事をするように伝えてくれ、俺はもう少しやりたいことがあるからさ」
「やりたいことですか?」
「ああ、やっぱり、鍋だけだと、食い足りないやつもいるだろうからな、焼き物とか、揚げ物も出したいし、カレーなんかも」
「はぁ、ご主人様……ならば、全員で交代でやりますよ。1人で決めないと、約束ですからね」
ポワゾンの笑顔に俺は優しく頷いた。
そう決まると、ベリーとペコ、グーがすぐに屋台を組み立て出し、鉄板を温め、ミトが石を並べて巨大なフライパンをドーナの影から取り出していく。
「おい! お人好し野郎! 肉はいつでも焼けるぞ。だから、ウチとドーナに任せな!」
「ふふ、こちらもお好み焼きを焼くわ。焼きソバは、ペコ、グーに任せるわよ」
「「はい!」」
「みんな悪い、頼む!」
「オッサン、食材運びはボクとミアがやるよ。任せて」
「やるにゃ!」
賑やかな感じになれば、ナギの手で寝ていたナズナとリーフも起き出し、こちらにやってくる。
「パパ、ごめんね。寝ちゃった。だからお手伝い!」
「ごめん……なさい……ナズナもお手伝いしたい……」
「マイマスター! ナギもやりたい」
娘2人と一緒に目をキラキラさせるナギには、笑ってしまった。
「なら、みんなで派手に頑張るか! 3人も頼んだぞ」
そうして、各自が調理を再開する中、フライちゃんは俺の横で食材を刻み、別の油で揚げるかき揚げの用意をしてくれている。
「本当に賑やかになりましたね。最初はハラハラでしたが」
「そうだな、なんかあっという間だよな」
「自覚が足りませんねぇ?」
手際良く下準備をする中で俺達は笑っていた。
そうして、最大の食事会と変化したこの日、王都には笑顔が溢れていく。
本来なら、恐怖と悲しみが支配していたかもしれない。偶然が繋がり続けた結果があっさりと解決したクーデター。
もしも、これが次世代の地球なら、街が兵器で占領され、一般人は抵抗できず、銃などが無慈悲な形で放たれ、死人が出るんだろう……
そんな恐ろしいはずの一日が、こんな形で終わるなんて、ご都合主義って言葉が頭に浮かんでしまうよな。
まぁ、明日からのことを考えたら、今ぐらいはその言葉も許してもらいたいよな。
「キンザンさん、心に対して失礼ですが……ご都合主義なら、今頃、キンザンは王様になってますよ。むしろ、甘すぎて、現実が見えてませんね」
「え、いきなりだな、フライちゃん……手厳しいな……」
「はぁ、これだけ椀飯振舞して、英雄の座も、地位も望まない様なお人好しさんが、自分に厳し過ぎるから、辛口ですよ」
「はは、耳が痛いなぁ」
「当たり前ですよ。キンザンさんは胸を張るべきですからね。わたしなら、胸を張りながら、麻婆豆腐を毎日要求しちゃいますよ!」
フライちゃんが笑ってそう言ってくれることが本当に嬉しいな。
賑やかな宴に変化した夜に響く、笑い声と勝利を讃えるような歌声。
食べた人達が笑いながら、湯気が夜空に広がる雰囲気は俺の心も暖かくしてくれた。
俺達が夕食にありつけたのは、だいぶ後になった。
俺達の晩御飯は、まぁ鍋だから、雑炊を作ることになる。
鍋の汁が残っていたから、良かったが、なければ、お茶漬けになるかなと、覚悟してたから、ある意味良かった。
俺達は空腹と疲労感に加えて、最高の雑炊を食べて幸せを噛み締めていく。
「パパ、美味しいね」
「リーフちゃん……お鍋もたくさん食べてた……よね?」
「ナ、ナズナちゃん! しーだよ、しー!」
和やかな会話に俺も笑ってしまった。
「リーフ、美味しかったか?」
「あ、うん! 魚のやつと、白いヒモのやつが好き」
白いヒモか、なんか頭領に初めて、商業都市[バリオン]で、うどんを食べてもらった時のことを思い出すな。
「なら、うどんも出すか?」
その言葉に娘2人とニア、ドーナが大賛成したので、袋麺のうどんを“買い物袋”から取り出して、軽く茹で、かき揚げや白身フライの天ぷらを揚げた鍋にえび天を入れていく。
「天ぷらうどんだな、熱いから気をつけて食べろよ」
結局、最後まで賑やかだな。俺もありがたくいただこう。
明日からは色々と忙しくなるだろうから、しっかり食べとかないとな。
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