25話、完成祝いは天ぷらで・嫁ちゃん達のくじ引き?
俺達はその日の朝、店舗の前に集まっていた。
頼んでいた店舗を繋ぐ為の増築工事が終わりを迎えた。
まぁ、歩けば済む話だったんだが、やはり店舗型の家って店をやる側からすれば、メリットがあるしな。
大工の頭領さんをはじめ、大工さん達の粋な許らいでただの通路を頼んだが、二階部分まで作って貰った。
通路から伸びる階段の先に作られた二階部分は倉庫としても使える為、本当にグッジョブだ。
「頭領、ありがとうございます。すごい立派で驚きました」
「おう、ウチは最高の品を作るのが仕事だからな」
腕を組みながら、頭領は楽しそうに建物を眺める。
「なら、俺も気持ちをしっかり返したいんで、少し時間をください」
前もって仕込んでいた食材を【ストレージ】から取り出し、使えるようになった調理場で調理を開始する。
今回は魚介類だ。
イカに海老といった、此方では珍しく、市場でも見ないような品だが、祝いなら問題ないだろう。
「ベリー、少し手伝ってくれ」
「わかったけど、何を作るのよ?」
「そりゃ、祝いの品は天ぷらと寿司だろう?」
そんな俺の言葉にベリーが驚いて、少し引きつった笑みを浮かべる。
「キンザンさん、お寿司も握れたわけ?」
「寿司はなんちゃってなら出来るが、今回は寿司は寿司でも、いなり寿司だ」
俺は夜中に仕込んでいた油揚げの入った鍋と、米が炊かれた状態で入った寿司桶を取りだし、ベリーに見せる。
「しっかり煮込んで甘さも十分だな、ベリーも味見をするか?」
頷いたベリーに油揚げを1枚取ると小皿にのせて、食べさせる。
「おいひいィィ! 本当にいなり寿司の油揚げだわ!」
ベリーの声がかなり大きく、外から頭領達が店内を覗き込み、ミア達、他の嫁ちゃん達も一気に集まってくる。
「オッサン、なんだこれ? 茶色いし、薄いし……」
「でも美味しそうにゃ〜、甘い香りがするにゃ〜」
いつも通り、ミアとニアが大騒ぎだったので、味見をさせる。
ドーナとポワゾンは気にしてるみたいだが「我慢します(なの)」と頑張って我慢しているので、急いで調理に取り掛かる。
ベリーは作り方が分かっている為、油揚げを綺麗に開いては、胡麻の混ざった酢飯を寿司桶から適量を握り、詰めていく。
綺麗な形のいなり寿司が出来上がる。
「オッ、オッサン! ボクもやりたい」
「ニアもニアもにゃ!」
「ドーナも、やりたいなの……」
「ワタシは、食べたくなりました」
やっぱり、ポワゾンだけ少し違うが……
「なら、みんなで手伝ってくれ。ベリーに作り方をちゃんと聞くんだぞ」
「「「はーい(なの)!」」」
「いなり寿司は任せて大丈夫だな、俺は天ぷらを揚げていくか」
昨晩に“買い物袋”から買った天ぷら粉と炭酸水、卵を混ぜたバッター液の入ったボールに食材をつけて揚げていく。
イカに海老、シソにカボチャ、シシトウにシイタケ、鶏肉にレンコンと、色とりどりの食材を使っていく。
更にかき揚げ、ハムの天ぷらを作っていく。
外から覗いていた頭領達も、見慣れない食材と揚げ物ならではのパチパチっと言う特有の音と香りに視線が釘付けになっていた。
俺は手早く、天ぷらを揚げながら、油切りを行うと、ある事に気づき、慌ててベリーを呼ぶ。
「ベリー、頼みがある!」
「いきなりなによ?」
「うどんを茹でてくれないか!」
「え、うどん?」
そう、俺が頼んだのはうどんだ。
蕎麦か、うどんで悩んだが、やはり、確実に此方にある素材を考えた際に、うどんがベストだと思う。
天ぷらを揚げる手を止めて、“買い物袋”から即席うどんの袋を大量に取り出して、大鍋をベリーに託す。
急遽、天ぷらを見ていて、作りたくなったうどんがベリーによって、あっという間に湯がかれていく。
1食分に分けられて、大皿に並べられていく1口うどん。
人数分の麺つゆと天つゆを用意していくと、我慢の限界だったのだろう、頭領達が店内の席に慌てて座っていく。
既に腹の虫が鳴り出しているのだろうか、落ち着かないのが、厨房の俺から見てわかる。
「みんな、悪い、出来た天ぷらといなり寿司、うどんを運んでくれ」
食べたい気持ちを必死に我慢している嫁ちゃん達に申し訳ない気持ちを持ちつつ、料理を運んでもらう。
テーブル事に並べられた料理に歓声があがり、酒なども用意したので、乾杯の挨拶をあっさり済ませると、無礼講の食事会が開始される。
「お、おい、これはどうやって食べたらいいんだい?」
「白い紐? さっぱりだな、教えてくれ」
頭領達は早速困っていたので、とりあえず食べ方を教えていく。
「ベリー、悪いが、うどんの食べ方を教えてやってくれるか」
「わかったわ、ついでに天つゆの使い方も教えるわね」
最初こそ、うどんや、いなり寿司に抵抗があったようだが、ベリーが食べ方を見せると頭領も真似して食べていく。
「なんだこりゃ、ツルっといけるぞ!」
一掴みを一気に流し込み、次のうどんにフォークを突き刺して、麺つゆにつけてはすすって行く。
日本生まれとしては、箸を使って欲しいが箸の使い方を今教えるのは、なんか違うからな、これでいいな。
天つゆについても、ベリーが説明しようとしたが、そこにミアとニアが立ち上がる。
「天つゆについては、ボク達が教えてあげよう!」
「そうにゃ〜天つゆは薄い方のおつゆにゃ〜」
2人が自分の天つゆを用意して、天ぷらを箸で掴み、つゆに浸して食べていく。
サクサクの衣が僅かに天つゆをすい、柔らかくなった瞬間をガブリッと美味しそうに頬張る姿に頭領達も真似をする。
「かぁ、こいつは美味いじゃねぇか!」
「食ったことないモンばかりだけど、うまい!」
「こりゃ、頭領についてきて正解だわ」
そんな食事風景にコチラも気分が上がっていく。
俺は皆が満足するように追加で次々に天ぷらを揚げていく。
嫁ちゃん達も、俺を手伝いつつ、代わり代わり、いなり寿司や、うどんと天ぷらを食べては幸せそうな表情を浮かべていた。
短い時間であったが、頭領達に労いの気持ちと増築の代金を支払い、夕暮れ前には解散となった。
△△△
「いやぁ、凄い食いっぷりだったなぁ」
「キンザンさんは呑気ね、普通にあの料理を出して良かったの?」
厨房で洗い物をしていると、手伝いに残っていたベリーが心配そうな口調で確認してくる。
「まあ、大丈夫だろうさ、それよりどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないわよ……本当になんでいつも、相談なしに、料理をするのよ、私達だって最初から知ってたら、もっと準備を手伝えたのよ?」
「なんか、わるいなぁ……ははは」
「まったく、妻を信じたり、頼るのも夫の、その……とにかく! 信用してくださいね」
そう言われ、俺は少し考えさせられた。
よく考えれば、嫁ちゃん達のことを本当によく知らないんだよなぁ……これってマズイよなぁ
昨晩、フライちゃんが現れた際にこの世界に来て“28日”しか過ぎてない事実をド直球に言われちまったしな。
片付けを軽く済ませて、嫁ちゃん達が先に屋敷側に戻り、俺は店側の戸締りを確認してから、煙草タイムに入る。
嫁ちゃん達からしたら、俺の何がよくて、何処に惚れてくれたんだかなぁ!
ハッキリ言うが、俺、オッサンだしな……
「悩んでも仕方ないか……よし、分からないなら、1人1人と向き合って見るかな」
厨房の灯りを消してから、俺も屋敷側へと移動する。
通路の先に灯りが灯され、屋敷側の扉を開いて中に入ると何故か、悔しそうにむくれたニアとドーナの姿があり、他の嫁ちゃん3人が真剣な表情で睨み合っていた。
「……まさか、ワタシが……これは何かの間違いです」
「往生際が悪いわよ、ポワゾン。諦めなさい」
ポワゾンもむくれだし、ニアとドーナと座っている。
「さて、最後ね、怨みっこ無しよ!」
「わかってるよ。まぁ、ボクが勝つけどね」
「「ハァァァァァッ!」」
2人がテーブルに置かれた花瓶から割り箸を一気に引くと、ベリー側にバツ印が刻まれているのが見えた。
「う、嘘よ……なんで」
「ひっひっひっ、決着だね! 今日はボクで明日がベリーだね」
どうやら、何かの順番を決めてたみたいだな?
「おーい、何してんだよ?」
俺の声に嫁達が一斉に驚き、体を震わせた。
「な、なんでもないよな、なぁ、ベリー?」
「そ、そうね」
明らかに怪しいが、女同士で色々あるのかもな?
それよりも今日はもう1つ素晴らしい事がある。それは……風呂だ!
屋敷の通路を増築する際、頭領に何となく相談した結果、魔石で風呂が何とかなる事がわかった。
元々、屋敷には脱衣所があり、風呂のような空間があったが、魔石が外されており、使えなくなっていた。
その為、嫁ちゃん達に内緒で風呂の修理も頼んでいた。
素材として浴槽にもヒノキを“買い物袋”から取り出し使って貰っている為、直してもらう前の状態が石を使った浴槽とは思えないくらい素晴らしいものに仕上がっている。
こだわりは身を滅ぼすと、昔に聞いた事があるが、風呂へのこだわりは、やはり捨てられない。
嫁ちゃん達にも話そうと思っていたんだが、なんか、そんな雰囲気じゃないんだよな……
ニアとドーナはポワゾンに連れられて、先に寝にいっちまったし、ベリーもなんか、悔しそうにして移動してったな……
ミアと俺だけがリビングに残されちまったな……
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