267話、王都に鍋の温もりを
本来なら、大会の授与式をするはずだった長い一日が、完全に夕暮れを失い月夜に染まる。
嫁ちゃん達との再会を喜び、娘達がナギの腕に抱かれて眠りについている。
すごく疲れたよな。ナズナとリーフがいなかったら、きっと俺も心が折れちまっただろう、だからこそ、心から感謝しかないよな。
「家族団欒とやらのタイミングにすまぬ、ただ、急ぎ、礼を言いたくてな、無粋な余を許してもらえれば嬉しいのだが」
声の主は紛れもなく、ルフレ殿下だ。
今回のクーデターの標的、ただ、この幼い見た目をした少女の王様だったからこそ、国民は殿下を見捨てなかったし、今までの貢献を奪還のために全振りしてくれたんだ。
「ルフレ殿下、無事で何よりですね。本当に良かったです」
「キンザンよ! そんな他人行儀な言葉はやめよ……余が、本来は余が、護らねばならなかったのじゃ、情けなき愚王にその様な言葉使いをバッカスの英雄にさせる訳には──」
“パン!”と、不敬罪覚悟で俺は両手を重ねるように鳴らす。
「わかったから、素直になってください。あと、俺は英雄じゃないし、ただの嫁ラブな子持ちのオッサンだからな」
そう口にした瞬間、ルフレ殿下は呆気に取られたような、いや、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。
まぁ、一般的な感覚なら、誰もが“俺スゲェ”って感じになるもんな。
「それより、街はどうなったんだ?」
「あ、うむ。今はメフィスに各所への確認をしてもらっている。まぁ、警備兵団の者らが必死に守ってくれた功績に感謝しかないがな」
「なら、美味いもんを半年くらい食えるような報酬をやってあげてください」
「自身の報酬よりも、他の者を優先か、お前はぶれぬな、逆に驚かされた、いや安心したぞ」
会話をしていると、メフィスが家々の屋根を足場にこちらへと飛んでくるのが見えた。
「お、メフィス。無事だったか」
「メフィスよ! 各所の様子はどうか!」
「キンザン、此度は感謝いたします。我輩やフライでも破壊できない壁には本当に焦りましたがなぁ」
俺に礼を口にしてすぐ、ルフレ殿下に頭を下げたメフィスは、今の王都の状況を報告している。
王都全体を見れば、反旗を翻した貴族達は警備兵団と国民、冒険者の連合によって、大半が屋敷や街中で拘束され、僅かに逃げ延びた貴族達もいたが、王都から出るための門を開くことができず、門の前で捕えられる形になっていたらしい。
「ただ、問題がありますなぁ、残念ながら、貴族達は食糧を対象に新国家だと、接収し……あろうことか、自身が捕まる際に発動する火魔法を仕掛けてまして」
「え、それって……まさか」
「えぇ、キンザンさん、貴方の予想した通りかと……今の王都で食糧は、かなり限られたものになってしまいました。教会が破壊されたため、転送陣も使えません。近い街々に真相を伝え、使者を送るか迷っている最中と言った感じですなぁ」
メフィスがわざわざ確認をすると口にした理由は単純だろう。
弱った国を狙う輩は、内側にも少なくないだろう。つまりは、手傷が少なくない状況で敵味方を区別するのが難しいって話だろうな。
味方だと思ってて、迎え入れたら偽装した兵隊や冒険者なんて笑えないだろうしな。
まぁ、王都には、冒険者ギルドのヴェルデ組がいるから、自分のシマを荒らされるなんて許すとは思えないがな……
「ふむ、メフィスよ……王城の国庫はどうか、食糧の蓄えはあるであろう」
「殿下、それを使えば、今は何とかなりますが、此度の騒動は遅かれ早かれ、王都の状況は知られるでしょうなぁ……そうなれば、税としての収穫物にも影響があるでしょう……」
「わかっておる! わかっていても、今の状況を考えよ! 王城は兎も角、街は酷く荒れておる、家を失った者や怪我人を考えれば、今動かねばならぬのは明白な事実であろう!」
話を聞いていれば、メフィスは後々の国を考えた形、ルフレ殿下は今を生きる民のために……。
まったく、こんな奴らを見捨てたくないよな。
そんな考えが顔に出ていたんだろう。突然、肩をベリーにポンと叩かれた。
「キンザンさん、やりたいことは我慢しないでいいのよ?」
「そうだぞ、オッサン? 我慢は身体に毒らしいから、良くないって」
ベリーとミアの声に振り向くと、嫁ちゃん達が満面の笑みを浮かべていた。
「だよな。でも、いいのか? みんなだって、被害者側だろうに」
「キンザンが遠慮してるにゃ〜似合わないにゃ!」
「だな、ウチらに遠慮なんかすんなよ! 旦那様なら、嫁を頼るもんだろう……役に立ちたいしな」
ニアとミトからも背中を押されている。
「なら、やるか。話し中悪いな、メフィス? 頼みがあるんだ」
俺が頼んだのは、メフィスに力を使って巨大な鍋を作ってもらうという、とんでもない頼み事だ。
誰も国の最高魔導師に巨大鍋をスキルで作れなんて言わないよな。
メフィスは風と土のスキルを使うため、形はあっという間に作ってくれた。
ただ、このままだと使えないため、俺は“買い物袋”から過去の黒歴史の一つ“ペタライト”を大量に取り出して砕き、混ぜてもらう。
土というか、粘土にこのペタライトを30%混ぜてやることで立派な土鍋になるだろう。
形が出来たら、ロゼ君に頼んでしっかりと水分を抜き取ってもらい、さらにフライちゃんと共に時間を停止してから、焼きを入れる。
「まさか、鍋を作るためにわたしの力を使うなんて驚きですね」
「ただ、この“あぶり”がないとできないから、許してくれ、それに本焼きは一気に熱くなるしな」
「安心せよ! そのために余がいるのじゃからな!」
今回はフライちゃんだけじゃなく、ルフレ殿下と火炎魔法を使えるベリーを筆頭に水魔法の使い手や王国魔導兵団のスペシャリストにもルフレ殿下の護衛と手伝いで来てもらってる。
二時間ほどゆっくりと手間を掛けて、巨大鍋がピンクになるまで、しっかりと焼く。
「今更だけどさ! フライちゃん」
「なんですか?」
「本焼きって1000度を超えるから、ルフレ殿下の防御スキルと水魔法の耐熱バリア頼りなんだけど、耐熱バリア(水魔法)がダメだと、俺達って、キンザンの蒸し焼きになっちゃうのかな?」
「縁起でもないですね、ただ、丸焼きが正しいんじゃないですかね?」
そんな不適切な発言に水魔法を任された魔導兵団の人達とルフレ殿下が必死にスキルを発動させる。
そうして、できたコロシアムのリングを覆い尽くすサイズの巨大な土鍋が冷めるまで、フライちゃんの結界内で皆と水分補給を済ませてから、次の流れを軽く説明する。
冷めた巨大土鍋に水を入れて、湯を沸かし、以前に[カエルム]で倒した巨大アンコウを軽く煮て、すぐに【ストレージ】へとしまっていく。
空になった状態の巨大土鍋を結界から出すと周囲がざわめき、土鍋へと視線が集まる。
そこに俺は【解体】を使い、バラしたあん肝を入れて、火をつけてもらう。大量の水や調味料を加え、出汁の素を入れていく。
海藻類から出汁を取るには、サイズがデカすぎるため、回収を考えると難しいから許してほしい。
そうして、“買い物袋”から大量の野菜を取り出し、嫁ちゃん達だけでなく、王都中の奥様方に頼んでカットしていく。
数の力で、何百キロもの野菜が鍋に入れられていく。
鍋の野菜は白菜やネギ、水菜、キノコ類と様々だ。
そして、下茹でした巨大アンコウを煮込んでいく。
ここで、味噌も入れてやると俺好みだ。
それに冷えた身体や、疲労にも味噌はありがたいから、俺は悩むことなく加えていく。
こうして、王都に巨大なアンコウ鍋が完成した。
あとは、皆に食べてほしいだけだが、気に入ってもらえたらいいんだけどな。
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