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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
10章 バッカス大陸に吹く風

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266話、手に掴んだ幸せ

 絶望の夕陽、全てが闇に飲まれようとした時、俺はどんな表情を浮かべていたんだろうか……


 今まで歩んできた日々が溶け出して行くような、

 砂の城が波にさらわれるような、紡いだ繋がりがすべて切断されてしまうような、どんなに考えても嫁達の笑顔と過ごしてきた幸せな時間が流れ出してくる。


 そんな大切な嫁達が失われようとしている。大切な仲間達が、友が、優しい人達が皆いなくなるなんて……


「パパ……あたしが、何とかする……諦めないで」

「ナズナちゃん、うん、パパのためにやろう」


 突然だった。俺の頭の中に念話が響き渡る。


〘私が貴方の力になります。最初で最後の力になるでしょう……私は忘れません。私の欠片を頼みます。そして、許してください。戻せる時は事実のままに数時間……貴方様に真なる女神の祝福があらんことを〙


 それは俺の知らない声だった。ただ、欠片を頼むと言われた瞬間、静かに“名も無き神”だと頭が理解した。


 それはまるで砂時計がひっくり返されたような、すべての流れが落下しながら、逆回転するようなあり得ない感覚だった。


 それはこの場の全員がその感覚を感じ、それが現実の形を成した瞬間、空はまだ青く雲が流れていた。


「これはいったい!」


「なんだこれは! 何が、何が起きている……宰相、応えよ!」


 突然のことに俺の言葉を消し去るほどの叫びがアルノ・マーレの口から発せられ、宰相も慌てたように目を見開いていた。


「えぇい、何度でも同じだ! どんな魔法やスキルがあろうとも、何も変わらぬ! 宰相、再度、魔導具を次は二つ同時に使え! 慈悲すら捨てよ!」


「は、はい! どんなスキルであろうが、幻想ならば、変わらぬ! “死線の首飾り”と“真意の呪縛”の力を知るがいい!」


 だが、二つの魔導具が発動することはなかった。光すら出ず、静寂だけが流れる。


「な、なぜだっ! 人の闇を呼び起こす魔導具が、闇がない人間などいるわけがあってたまるか!」


 宰相の言葉に俺は返事をするように声を出す。


「闇ってのは、克服できる場合があるんだよ!」


 その言葉を合図にヴェルデ、アクティ、デジールが一斉に駆け出していた。


 宰相が慌てて後ずさるが、当然逃げることはできず、ヴェルデが宰相の顎に向けて、取り戻した扇を炸裂させる。

 吹き飛ばされた宰相が意識を失うと同時にヴェルデがダメ押しの顔面蹴りをかましていたのはさすがに引いた。


 いや、今までの行動を考えれば、問題ないんだが、気を失った相手にさらに蹴りは何とも言えないな。


 そして、最後に王座を睨みつける。

 1人座っているアルノ・マーレは手を額に、静かに笑っていた。


「まさに悪夢か……神よ、なぜです……我らは主に全てを捧げ、神々のための大陸を、神々のための大地を……なぜ、こんな残酷な試練をォォォ!」


 最後には叫び出し、発狂する姿は哀れでしかなかった。


 神に本気で選ばれたと思ったからこその行動だったのか、何がアルノ・マーレをここまで暴走させたのか、俺には分からなかった。


 アルノ・マーレの最後は、ドーナによる拘束によって、呆気なく幕を閉じた。


 ドーナの影が、指に嵌めていた真っ赤な魔石が付いた指輪を砕くと霧散していく。


 それがアルノ・マーレの使っていた禁忌の魔導具“真実の宝珠”だったらしく、呆気ないほどあっさりとコロシアムを包み込んでいた真っ赤な球体はヒビ割れるように亀裂が走ると静かに消えていった。


 球体の中に閉じ込められていた人々は解放と同時にコロシアムの外へと駆け出し、その騒ぎには、街で警備と裏切り者の貴族を捕縛していた警備兵団が誘導と各自の体調などを調べていたと後々聞かされる。


 そうして、俺は娘2人を連れて走っている。


 ヴェルデとアクティの2人がその場に残り笑いかけてくる。


「この場はアタシに任せて、家族に会いに行きな! 妻を抱き締めるのは旦那だけの仕事だからねぇ!」


「ヴェルデの意見に賛成です。オーナーとお嬢様方は、奥様の側へ、この場は任せてください。デジールも向かって構わない」


「なんか、私にだけ扱い雑じゃない! まぁいいけどさ、感謝するわ! 先に行くわね」


 そうして、デジールは俺達より先に、多分、ミトロ・ジーア大司教の元に向かったんだろうな。


 移動する王都にはミクロ・フォーノの声が響いていた。


「まさに大勝利ィィィッ! だァァァッ! 国を奪おうとした逆賊がいた! だが、我々は勝ったのだ! 民の力が! 国を愛する戦士達が! バッカスの勝利だァァァッ!」


 はは、アイツ、大盛り上がりだな。


「パパ! あの人……間違えてる……よね?」

「そうだよ! パパが勝ったんだよ」


 両脇に抱えられた娘達がそんな反応をする。


「いや、皆で勝ったんだ。だからあれが正解だ。何より、ナズナとリーフが奇跡を起こしたんだ。だから、パパだけじゃ、絶対に上手くいかなかったんだ」


「そんなこと……」

「ないない! だって、リーフとナズナちゃんは、お願いしただけだもん!」


「お願い?」


 俺は走りながら、素直に話を聞いている。


「「うん!」」


「誰か分からないけど?」

「あたしも……でも、懐かしい感じがした……」


 懐かしいか……きっと2人には“名も無き神”様の存在はないんだろうな……


「ナズナとリーフが娘でパパは幸せだァァ! さぁ、ママ達を抱きしめに行くぞ!」


「わーい!」

「は、早い……」


 必死に走る。転ばないように気をつけながら、走りながら「大将! 信じてたぜ!」「ダンナ!」など、無駄に賑やかに声をかけられる。


 正直、目立つのは、昔からガラじゃないんだが……でも、今回は仕方ないよな。


「あ、リーダーサーン! 今度飲みに来てねぇ〜」

「サービスするわよ〜!」


 綺麗な声援なら、ありがたいが……


「パ、パパ……ドレスを着たオジサン達が手を振ってる」

「パパは、モテモテだね!」


「ナズナ、あれはお仕事の服なんだよ! リーフ、モテてないからな! ママ達には絶対に言ったらダメだからな」


 娘の教育によくない声援までもらいながら、コロシアムまでの道を進んでいく。


 そうして、見えてきたコロシアム……俺は視界が次第に霞んでいた。


 娘を抱えたまま、目から流れ出す涙が拭えないから仕方ないし、だからって、止まりたくないからだ。


 視界の先に見える複数の人影を見た瞬間、娘達が俺より先に声を上げた。


「あ、ママ達だ!」

「うん……ママ達いた」


「「ママ〜!」」


 それと同時に、走ってくる嫁ちゃん達


「キンザンさん! ナズナちゃん、リーフちゃん!」

「オッサン! ナズナ! リーフ!」

「「主様!」」

「ご主人様、2人とも無事だったのですね」

「マイマスター!」

「きんざんさん、3人ともご無事だったのですね」

「キンザン、リーフ、ナズニャ〜無事かにゃ!」


 感動の再会になったと思った瞬間、俺の影に入っていたドーナが背中にしがみつく。


「マスターの役に立ったのは! ドーナなの!」と姿を現し、結果的に賑やかなやり取りが再開してしまった。


「な! ドーナ、いないと思ったら! オッサンといたのかよ!」

「ニャニャニャ! ニア達が置いてきぼりだったのにズルいニャ!」


 賑やかに雰囲気が戻ってきた事実に俺は再度、涙を浮かべてしまった。


 笑う家族のありがたさ、わかってるつもりだったからこそ、失うと思った瞬間の恐怖を本気で感じた。

 ただ、俺は今回、しっかりと幸せを掴んだんだ。

読んでくださり感謝いたします。

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