265話、過去と未来、沈む太陽
誰よりも偉そうで、ムカつくほど、威圧的な視線、相手が誰であれ、ひれ伏せと言いたいような傲慢な表情に俺は不快感しか感じない。
「王の御前だぞ!」その声は王座の真横から聞こえ、声の主に視線を向ける。
「アンタ! 宰相じゃないか」
「覚えていたか、忌々しい……貴様らが大会に参加などしなければ、計画を早めることも無かっただろうにな」
淡々と恨み節を口にする宰相の言葉にアルノ・マーレが口を挟む。
「まぁ、宰相よ。時間が惜しい……前王……ルフレ・イルミネイトの最後の時をゆっくりと眺めたいからなぁ」
「御意、ならば、己が闇と戦って貰うとしましょう!」
宰相が胸元に手を伸ばし、小さなペンダントを取り出し、俺達へと向けて来る。
赤黒い光が嫌に不気味な雰囲気を放ち、それと同時に語られた宰相の「己が闇と戦って貰う」という言葉に身構える。
赤い光が黒い輝きと共に混ざり合い、渦を作り出した瞬間、大量のゴブリン達が姿を現し、棍棒や剣を構えて下卑た表情を浮かべる。
その様子にヴェルデやデジール、宰相やアルノ・マーレまで、その場にいた誰もが言葉を失っていた。
「な、なぜ、ゴブリンのような下級の魔物が! どうなっているのだ宰相! この場にいる者等が対峙した最悪の相手を召喚する魔導具ではないのか!」
「そのはずです……この“死線の首飾り”は、相手が一番苦戦し、最大のダメージを負った相手を呼び出します!」
話を聞けば、なら、間違いなくゴブリンが出るよな……だって、俺……両足切断までされたからな、ただ、あの時とは、状況が違うけどな。
「悪い、あれは俺のトラウマだ!」
「あ? トラウマ? ありゃどう見てもゴブリンだろうに、名前持ちのネームドってことかい」
「あ、いや、ヴェルデの言う通り、普通のゴブリンだな」
ただ、初めて見るゴブリン相手にナズナとリーフが慌てて服の裾を掴み、怖がりながら俺を見る。
「ゴブリン……ママが昨日……言ってた」
「うん、ナズナちゃんと聞いて怖かったやつ」
「パパ……勝てるの?」
「パパは勝つよね?」
2人に視線を下ろしながら、俺はできる限り笑ってやる。
「大丈夫だ。今のパパは負けないからさ」
「はいはい、家族の時間は終わりだよ。まったく緊張感がないねぇ、父親なら、娘にゴブリンなんて見せないで始末しちまいな!」
「そうね。ヴェルデの意見に私も賛成」
「はい、オーナーのためにも、お嬢様方のためにもこのアクティは剣となろう!」
ヴェルデ、デジール、アクティの3人がやる気になると、すぐに動き出し、俺も娘達を庇いながら、竜切り包丁を取り出す。
ゴブリン達との戦闘になった瞬間、あの細身の男が突然立ち上がり、小銭入れのような小さな袋を俺達に向けてくる。
「武器は預からせてもらうぞ!」
突然の言葉と同時にヴェルデの扇やアクティの剣、そして、俺の竜切り包丁が突然、姿を消す。
「な? アタシの扇が、チッ!」
突然、武器が消えたことで一瞬焦ったが、意外にも俺は冷静でいられた。
娘達がいたからだろうか。【ストレージ】から魔物包丁を取り出すと同時に、腰につけた“買い物袋”から剣を二本取り出し、2人に投げていく。
「助かります。オーナー」
「出来る男だねぇ! なら、久々に剣で舞わせてもらおうかねぇ!」
デジールは本来、素手の格闘家スタイルのため、問題なく、剣を渡したヴェルデとアクティは勢いを取り戻したように暴れ出す。
そして、俺は武器を奪った細身の男に向かい魔物包丁を構える。
「大人しく、武器を返して貰おうか?」
「ふざけんな! オレはこの新しい国で好きに生きて、奪って、奪って、奪い続けて勝ち組になるんだよ!」
俺達の武器を奪った小袋に手を入れる男、見えたのは、俺の竜切り包丁の握り部分だった。
男がニヤリと笑う。
「オレの力をなめんなよ! オレは奪った武器の八割の力を自在に操れる、本来の武器を奪われたお前に勝ち目なんかねぇんだよ!」
八割って、マジかよ。
ただ、八割使えたとして、竜切り包丁は300キロは超えるんだがな……
「なぁ! なんだ、馬鹿重い……」
「馬鹿はお前だよ。竜切り包丁ってのは、軽く100キロくらいあるんだ、そいつは特別製の二本の竜切り包丁を重ねた包丁だ」
「ハァァ! ありえねぇだろ!」
「だよな!」
俺は悩まずに、魔物包丁を男の眼前に振り下ろす。
娘達がいるから、当てないが……細身の男は泡を吹いて気を失ってくれたらしいな。
俺の戦闘が終わり、3人に視線を向けると既に戦闘が終わっていた。
ゴブリン達は無惨な塊になり、退屈そうに欠伸を浮かべるヴェルデの姿があった。
それとは真逆にアルノ・マーレの表情は酷いものだった……常識を裏返されたような、表現できないのは俺の語彙力のなさからだろう。
「パパ、あの人、変な顔してるよ?」
「リーフちゃん……そんなこと言ったらだめ……悩んでる顔だよ……だって、ピクピクしてるし」
うん、ウチの娘達は煽り性能もマスターしたらしいな。
「確かに、変な顔に見えるかもな、でも、あの顔はもっと酷くなるから、あまり見ちゃダメだぜ」
「「わかった」……うん」
さて、本当に終わらせないとな。
「さ、宰相! “真意の呪縛”を使え!」
宰相にアルノ・マーレが再度指示を出すと、次に出されたのは、紫色の鈴であり、その音色が鳴らされた瞬間、俺の前に黒い靄が広がる。
それは俺だけじゃなく、他の全員にも同様に襲い掛かっており、ヴェルデが激昂し、アクティは苛立ち、デジールは恐怖を感じているのがわかった。
娘達も震えながら、頭を抱え「「嫌だ、嫌だ!」」と互いに声を出して泣き出している。
「何が……」俺の呟きと同時に目の前から1人の男が歩いてくる。
嫌味なスーツにネクタイピン、薄く寂しい頭部と軽く膨らむメタボな腹部。
「金山君! いつまで無能が頭上げてんだ! あぁ? 頭を下げるのが仕事だろうが!」
こいつは、間違いなく、嫌味な上司の1人……ハゲ上司じゃねぇ!
「ふん、一丁前に、嫁だ? 娘だっ! ふざけんなよ、金山くん〜? なんなら、接待させてやろう、ワシが嫁や娘達に手とり足と──ぎゃあ!」
俺はただ、消え掛けた頭部に手を伸ばしていた。
我慢のいらない世界に来てまで、なんで、此奴の顔を見ないとならないんだ……
嫁と娘達を手とり足とり? はぁぁ!
「いい度胸してんな! ハゲ上司がぁぁ!」
積年の恨みというやつは、世界を跨いでも消えなかった。
俺の怒りはハゲ上司を掴み上げ、しっかりと顔面ダイブをしてもらうことにした。
結果的にだが、俺が最悪の上司を吹き飛ばして理性が戻った時には、他の全員も同様に闇を払った後だった。
「大丈夫?」
「痛く……ない?」
「「パパ?」」
そんな言葉に笑いかける。
「無事だったみたいだな! 遅いから心配したよ」
「デジールが心配してくれたのか?」
「当たり前でしょ! それより、悪趣味なことばっかりされてイライラしてんだから」
「確かにねぇ、アタシの過去に土足で踏み入ったんだ、しっかりと後悔させてやらないと気が済まないねぇ!」
俺以外の全員も同じように過去の記憶を見せられたらしいな、悪趣味野郎が!
「使えぬか、だが、過去に打ち勝ち、今を手にする様は、まさに今の私と同じか……だが、いい時間潰しになった……もう、誰にも停められんさ」
気づけば、その日が傾き、太陽が沈もうとしていた。
俺達は時間を使い過ぎていた事実をアルノ・マーレの言葉で気づかされた瞬間だった。
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