264話、戦士の覚悟
俺達が進む各階、兵士達が槍を手にして、行く手を阻むように襲ってくる。
そんな力任せの攻撃に対して、デジールとアクティが軽々と切っ先を躱し、容赦ないカウンターから槍をいとも容易く切り裂くと兵士達は怯え出していた。
あっさりとした剣術と拳が兵士達の戦意を粉砕し、逃げ腰になる姿は、なんとも情けないの一言だった。
「なんか、拍子抜けだな? 城を護るための騎士みたいなのもいないしさ」
「デジールさんの言う通りだな、オーナー? これは罠ではないかと」
デジールとアクティの言葉に俺も同意見だが、そこにヴェルデが口を挟む。
「単純に、使える連中があの城門で気絶した連中だったんだろうさ?」
「そうなのか」
俺の言葉にヴェルデが頷く。
「あの貴族共をみたらわかるさ、少なくとも、普段から鍛錬してないのが、丸分かりじゃないか」
確かに言われてみたら、普段から鍛錬なんかしてない俺よりもずっとダメだったしな。
ただ、ここからが本番なんだ。嫁ちゃん達を人質にした事実を絶対に後悔させてやるかんな。
「何を考えてんだい? 速攻で奴らをぶっ飛ばして、ルフレ殿下からもガッポリと礼金をもらわないとだからねぇ」
悪い笑みだ、ヴェルデの言葉と表情はやはりやり手のギルドマスターだと再確認させられる。
「頼むから、詐欺みたいな額の請求はしないでくれよ、マジに頼む」
「わかってるよ、さぁ、先に進もうじゃない? 下の様子も賑やかになってるみたいだしねぇ」
視線の先、先程まで城門だった巨大な扉が無惨に倒れた辺りに視線を向ければ、鎧姿の国民達が雪崩れ込んで来ている真っ最中だった。
普通ならあり得ない光景だった。
過去のテレビで見た関西の福袋を買う人々のようなすごい勢いに素直にドン引きしてしまうな。
階下から聞こえる怒号にも似た国民達の声と数の暴力はヘタレな貴族達の心を完全にへし折っていくのがわかる。
俺達は軽い休憩となったが、そのまま、上を目指して駆け出していく。
そこから出てくる敵騎士達は、貴族達とは違い、熟練の騎士だとわかるような殺気を放っていた。
強者だと一目で理解できる騎士達は、今までの貴族達と違い、言葉を発さず、なんなら、ただ戦うことのみを考えているように見える。
そうして、向かい合った瞬間、デジールが一歩前に出る。
「フェーデ教……貴方もそちら側ですか? 大変に残念ですね」
「……」
返事がないため、デジールは静かに拳を握り、身構えた。
「会話すらする気がないなら、拳で語らせてもらいます!」
フェーデ教と呼ばれた全身鎧の男が槍を構え、駆け出したデジールに突き出して、頬を掠め血が流れ出す。
俺はその場で息を呑んだ。デジールは槍の一撃をくらいながらも、拳を鎧へと叩きつける。
ガン! っと、痛々しい音が鳴り響き、生の拳が触れた胸部が凹むと同時にフェーデ教が兜の隙間から血を吐き出していた。
ただ、決まったと思った瞬間、フェーデ教は槍を片手で振り上げると斜めに振り下ろし、デジールは咄嗟に回避するため、後方に飛ぶ。
「フェーデ教……貴方はなぜ、アルノ・マーレに加担した! 貴方ほどの男が……野心にのまれたか!」
真剣な表情でそう問い掛けるデジールにフェーデ教の背後にある階段に背を預けた若い男がニヤニヤと笑いながら、呟くように声を出す。
「いやぁ、凄いなぁ。普通あり得ないでしょ? 素手で鎧に殴り掛かるとか、本当に面白いなぁ」
嫌味な声、人を小馬鹿にするようなわざとらしい手の仕草、俺達の視線を釘付けにする。
「あ、すみませんねぇ? 皆さんの視線を集めてしまいましたかねぇ? ただ、余所見は危ないですよ、戦闘は僅かな隙が全てを支配するからねぇ……ほら?」
距離を取ったはずのデジールに一瞬で距離を詰めるフェーデ教、鎧を着ているはずの動きとは思えない凄まじい動きだった。
「ありゃ、おかしいねぇ……普通じゃないね」
ヴェルデの言葉に俺が疑問を持つと、そのまま話を続けていく。
「あの鎧騎士、あんな動きをしていたら、身体が持たないだろうに……正気の沙汰じゃないねぇ」
ヴェルデはそう語るとデジールに視線を向ける。
「あんた! その鎧男の足を早くへし折りな! そんな動きさせてたら、本当に死んじまうよ」
「な! 私だってわかってる! だが……」
「はぁ、話にならないね! 選手交代さ、どきな、甘ちゃんのガキが!」
厳しい言葉だった。ただ、それを否定できないのも事実だし、今のデジールはどこか本気になれないと、顔に書いてあるのを見透かしたような言葉だった。
「いや、大丈夫だ」
「クドいよ! 本気で戦えない相手は他人に譲って、とっとと目的を果たしな! 得意不得意なんてのが人にはあるんだよ!」
そこまで言われ、デジールが悔しそうに奥歯を噛み締めた。それを合図にヴェルデが前に出ると、悩まずに手にしていた扇をフェーデ教の槍を打ち払う。
バギッっと鈍い音が鳴り、槍の切っ先が扇に合わされるとヴェルデはニヤリと笑う。
「あらあらあらあら! 力が足りないのねぇ? アタシみたいな細身の女に防がれる槍だなんて、以前にやり合った時とは違って、紳士的になったこと……虫唾が走るよ!」
さらに扇の速度が上がり、次第に攻撃が激化する。
ヴェルデの攻撃はまるで子供相手の遊技にすら見えてしまうくらい圧倒的だった。
誰が見ても、大人と子供の戦いに見える攻防に、小馬鹿にしていた背後の男が若干の焦りを感じたのか、顔に出ているが、それでも容赦なくヴェルデは笑った。
「さあ、さあさあッ! どうしたよ! アルノ・マーレの爺さんに心まで捧げたってのかい!」
ヴェルデの悪意に満ちた表情が次第に退屈なそれに変わる。
楽しんで課金してたゲームが突然配信終了したような、酷い表情は何とも言えないものだった。
「終わりかい……退屈な男になったねぇ、フェーデ……少し静かに休んでな」
フェーデ教がその場に倒れ込むとヴェルデは背後の男に視線を向けた。
「わかってるだろうが、アタシは怒ってるよ……奥歯から前歯まで全部引き抜いて、二度と無駄口を叩けないようにしてやるからねぇ!」
「おいおい、勘弁してくれよ……チッ、お前ら! 絶対にこいつらを上に通すなよ!」
細身の男が階段を駆け上ると同時に待機していた騎士達が階段を塞ぐように武器を手に構えている。
ただ、この時点で誰よりも早く動いたのは、デジールだった。
階段を塞ぐ騎士達の胸元に潜った瞬間、巨大な水弾が膨れ上がり、複数の騎士達が破裂した水弾によって吹き飛ばされる。
「フェーデ教には恩があるけど、アンタらに手を抜く必要ないから!」
その様子に階段を駆け上がる細身の男が「ヒッ」と声を上げて一気に駆け上がる。
男の後を追って、階段を一気に駆け上がると、そこから先は最上階への一本道となっていた。
俺達が最上階へ辿り着くと、玉座に腰掛ける男がニヤリと笑い、逃げた男がその横で身を震わせている。
「まさか、こんな馬鹿な真似をする奴がいるなんてな、デジール教まで……本当に……わざわざ、ミトロ・ジーアの寿命を縮めてやったというに……」
デジールはアルノ・マーレの言葉を聞いた瞬間に拳を握り、駆け出した。
それと同時にアクティがデジールの足を引っ掛けて、その場に転ばされる。
「デジール、冷静になれ、挑発にのれば、救えるものも救えなくなる」
アクティの言葉にアルノ・マーレがニヤリと笑う。
「実に惜しいな……馬鹿なら今の流れで、終わりだっただろうに……」
これが悪意ってやつなんだろう……今までにも何度か向けられた歪な視線に混ぜられたそれは俺の全身に絡みついてくるようだった。
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