262話、防衛戦を突破しろ、キンザンの秘策1
「姐さん、どうするんですか……あの数はマズいですぜ」
「そうっすよ、こっちはせいぜい300ってとこですよ、しかも、素人が半数以上ですし……」
さすがのBランク冒険者達も、数の暴力で突破してきたせいか、逆に圧倒的数の前に萎縮してるなぁ……
「はぁ、この腰抜けが! アンタら、男だろうが! なに冒険者の大の男が泣き言を言ってんだい! 一発かまして、デカイ花咲かせてきな!」
「そんなぁー、さすがにヴェルデ姐さんの命令でも、ありゃ無理ですって」
破竹の勢いも、完全に失われちまった……せっかくここまで、上手くいったのに……
「う、ここまで来て……全部水の泡かよ……畜生が」
俺の言葉のせいだろう、ナズナとリーフが俺の足に抱きつき「パパ大丈夫?」「……ナズナ達……いるよ」と心配そうにその小さな瞳で見上げてきた。
「そうだな、皆がいれば何とかなるよな……悪かったな、2人ともありがとうな」
俺の言葉に小さく頷く2人の頭を撫でてやる。
それからすぐに、別行動していたウルグ達が合流する。
俺は今、目で見える範囲の敵である大軍勢に対して、何もできなくなってしまった事実を伝えていく。
「主殿でも、悩むことってあるんだねぇ? アタシはてっきり、また予想外にバーンって[カエルム]の時みたいにやっちゃうと思ってたよ」
「そんな、力は俺にはないよ──あ、それだよ! ウルグ! 大手柄かもしれないぞ」
「え、アタシ? あ? え、なんで?」
俺はすぐに【ストレージ】の中に入れてある“クリスタル”を取り出していく。
その場の視線がクリスタルに集まると、ヴェルデが気になったのか、質問を口にする。
「なんだい、そのクリスタルは? 大魔法でも封じられてるのかい?」
そんな魔法を封じるアイテムがあるのか! もし、そんなものを買えてたら、悩んだりしなかったんだがな……
「これは、ある意味、秘密兵器だな……」
手を伸ばし、クリスタルを目の前に流れる水路へとつけていく。
以前の水源の時にもらったクリスタルだ、頼むから来てくれ!
水路なら流れが存在する。だから、間違いなく“来てくれる”はずだ。
すぐに水の流れに変化が生まれ、渦が巻き上がる。
そして、期待した声が俺の耳に響いた。
「やぁやぁ! お兄ちゃん〜どうしたのさ、僕に会いたくて、ついつい、呼んでくれたのかなぁ〜照れちゃ……うなぁ? あれ、誰?」
ノリノリで渦から顔を出したのは水神のロゼ君だ。
「ロゼ、久しぶりだな」
「あ、お兄ちゃん、やほ! てか、なになに、この仰々しい感じ? お祭りって感じには見えないし? 何があったの?」
頭を左右にキョロキョロしながら、首を傾げるロゼ君に、フライちゃんやメフィスが、敵の“真実の宝珠”と呼ばれるものに閉じ込められた事実を伝える。
「えぇ! メフィ君とフライ様が! いやいや、あり得ないでしょ、あの2人を捕まえるなんて、どこのおバカちゃんなんだよ! 怖いもの知らずにも程があるよ!」
「それには同意見だな、ただ、他にも大勢の人質も取られてるし、ドーナと娘達以外の嫁達も囚われてるんでな、頼む……力を貸してくれないか」
「わかったよ! 僕に任せてよ! 全部バンってやってあげるよ!」
そんな言葉をロゼが口にした瞬間、突然、ロゼ君の背後から手が頭を掴むように伸ばされ、ガシッと掴まれる。
「何が……バンなのかしら? さすがにダメでしょ? 水神のロゼさん……」
声の主はエトランジュだった。軽く顳かみをピクピクさせる姿に怒りがひしひしと伝わる。
「え、エトちゃん! なんでいるのさ!」
「エトちゃん? じゃないわよ! 何を人の争いに介入しようとしてるのよ! 少しは自重しなさいよ」
2人が言い合う最中、俺はロゼ君を、デジールはエトランジュを止めに入る。
「ストップだ! エトランジュ、頼む! 落ち着いてくれ」
「はぁはぁ、まったく、アナタもアナタよ! キンザンさん、なんでいきなり、水神を呼び出すなんて、常識知らずなことをするのよ! アンタ、ぶっ飛びすぎなのよ!」
ツインテールがガシガシと俺にぶつかる感じ、本当になんなんだ。
「取り敢えず、何がダメか教えてくれ!」
「当たり前でしょ! ロゼさんが介入したら、神が加担する形になっちゃうでしょ! そんなこと、管理者として認められないわよ!」
エトランジュの言葉に俺は納得しなかった。普段なら、納得するが、今は絶対に納得できない。
「言いたいことってそれだけか?」
普段なら出さないような、冷たいトーン、俺の表情は多分かなり、恨みがましいものになってると思うが、今は関係ない。
「な、なによ!」
「嫁の命と神への冒涜ってやつを天秤にかけて、俺がエトランジュの言葉を聞くなんて思ってるのか?」
「本気で言ってるワケ? いくら、フライさんの旦那でも、それを許すほど、甘くないわよ?」
「逆だ。本気だから、ここまでやって、悩んで、神にも縋って……嫁を見殺しにしろってんなら、悪魔にでも魂を売ってやるって、言ってんだよ!」
「あ、アンタ、お、落ち着きなさいよ! この世界に悪魔だなんて、言葉はダメなのよ!」
「悪いが本気だ。メフィスがいるなら、悪魔も間違いなくいるんだろうが!」
「あぁ! わかったわよ! ただし、ロゼさんの力を使うのは一回だけよ! わかったわね、それが妥協点なんだからね!」
「わかったよ。悪いな……ただ、これだけはわかってくれ、俺は家族に、嫁達に救われたんだ。だから頼む」
「ふん、今回だけよ。わかったわね! ロゼさんも絶対ですよ! 約束破ったら許しませんからね!」
そう言うと、俺達の前からエトランジュは消えてしまった。
正直、女神相手に悪魔をとかは言い過ぎたが、今回は許して欲しい。
「さて、女神様の御墨付きももらったなら、遠慮はいらないな……」
1人、満足してる場合じゃないな……
俺はいくつか、策を考えたが俺の中でさすがに振り切れないでいた。
一つ目は、酸化カルシウムを使う方法だった。つまりは、石灰だ。
こいつは、水と反応して熱を作るが、危ないだけじゃなく、後々、後遺症や失明なんてのも起こる……幾らなんでも使えない。
そして、二つ目は、大量の水を使って押し流すやり方だが、これをやるには、さすがに水が足りな過ぎる。
確かに城壕には水はあるが、見た目よりも濠そのものが小さいこと、水を一度集める段階で警戒される可能性があるわけだしな。
「やっぱり、三番目か……」
俺はウィルへと視線を向け、考えを説明する。説明の最後に一番必要な質問をしていく。
「なぁ、ウィル、アンタって手加減はできるか?」
「なに? この場で手加減だと、そんな必要があるか!」
さすがにそうなるだろうが、はっきり言わないとな……
「俺達は殺し合いをするんじゃなくて、人質にされた皆を助けるのが目的だ! なにより、俺は人を殺めて、手に入れた平和に本当の未来があるなんて思えないんだ」
「甘いな……その考えがいつか、お前の大切な者を本当の意味で連れ去る時に同じことが言えるのか!」
「……多分、言えない……だろうな、でも、頼む……」
俺が頭を下げるとウィルは、俺の横を歩いていく。
「今回は助けられた借りがある。お前の提案にしっかりと応えてやる。ただ、甘すぎることを忘れるな……守る者が増えれば、一つの甘さからすべてを失うぞ」
「恩に着る……ロゼにも作戦を伝えるから、少し待ってくれ」
ウィルの協力を得られることで俺は三つ目の考えを実行しようとしていた。
派手になるが死人は出ないだろう。たぶんな……
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