261話、貴族達の甘い汁
俺達を先頭に王都に響く大軍勢の足音、映画の1シーンなら俺も見る側に回りたくなるような迫力があった。
冒険者ギルドからはヴェルデ率いる冒険者軍団、左右には猫人族と狼人族。後ろからは鎧を装備した住民。
そのすべてが王城に向かって移動を開始する。
最初こそ勝てるはずがない人数だった。小さな力は大きな渦に簡単に潰されてしまうように……ただ、こちらが大きな存在になれば、互いにぶつかり合ったとしても、力に蹂躙されるようなことはないだろう。
「呆れたねぇ、まったく、この短時間になんて数の人間を集めてきてるんだい……いっそのこと、冒険者ギルドで働かないかい? やる気なら、即採用なんだけどねぇ」
「勘弁してくださいよ。ヴェルデさん。俺は本来、揚げもん屋なんですから……」
「揚げもん? なんだい、その変な魔物みたいな名前だねぇ」
そんな会話を繰り返しながら、王城へと向かう俺達の前に突然バリケードのように積まれた無数の家具が視界に入ってくる。
「なんだありゃ? 無駄に高く積んであるな」
「ったく、時間が無い時に、邪魔だねぇ、アンタ達! この邪魔なバリケードをどかしな!」
「ヴェルデ、大丈夫なのか?」
「大丈夫さ、ウチの冒険者は屈強だからねぇ……アタシに恥をかかせるような、ケチくさい仕事すんじゃないよ! 気合い入れなァ!」
「「「はい! ヴェルデさん!」」」
なんか、別の◯◯組みたいに思ってしまうような雰囲気を感じるが、案外他の街のギルドはこんなもんなんだろう、うん。そうに違いない!
「行くぞ! Bランクの力を見せんぞ!」
「当たり前だ! 斧スキル【アックスインパクト】で一撃だバカヤロが!」
荒々しいなぁ……すげぇ勢いでバリケードを粉砕してるし……俺なら、【ストレージ】で一瞬なんだが……いや、黙っとこう、今は見守ろう。うん、それがいいな。
次々に冒険者達が武器スキルや攻撃魔法を使い、何重にも作られたバリケードを破壊していき、最後のバリケードまで辿り着いた時だった。
「随分と早い到着だなァ! 驚いたぞ、驚きすぎて、心臓が高鳴り、ダンスを踊りだしてしまいそうだぁぁぁ、ははははッ!」
そんな上から目線のセリフを堂々と語りながら、わけの分からないことを語る男は俺達をバリケードの上から斜めに伸ばした指で指差すように姿を現した。
残念ながら、遠目からもイケメンだが、如何せん、残念なんだよな……
何がって言われたら……ダサい服装に、決まらない髪型、決めポーズに指の角度とすべてだ。
「悪い、俺は残念イケメンに優しくするタイプじゃないんだ。はあ……【ストレージ】収納対象は、バリケードのガラクタと家具……」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる! 平民もギルドのバカ共も、新たなる、“アルノ・マーレ神聖国”に忠誠を誓い、神を崇め、すべてを平和に導くと頭に刻みやがれ!」
残念イケメンが世紀末発言を連発してるため、時間が惜しい! どちらにしても、これ以上の長話は御免被ろう。よし、やるか。
悩まずにガラクタをすべて吸い込んでやる。
バリケードのテッペンで騒いでいた残念イケメンが綺麗に落下してくると同時にガラクタがすべてなくなると、その先で武装した兵士達が土煙に包まれていた。多分、私兵だろう、数十人が慌てて叫び出す。
「ラスティマ様! 貴様ら、卑怯な手を使いおって」
「許せぬ! ラスティマ様になんてことを、生きて帰れると思うなよ!」
酷い土煙にこちらの状況が見えていないんだろうな、口々に物騒な言葉を並べる私兵達は、土煙が消えると途端に黙り出していた。
「アハハ! いいねぇ、ウチのギルドを潰す気みたいだし、やってもらおうじゃないか、アンタ達! 冒険者ギルドが貧弱かどうか、拳でタップリ食らわせてやんな!」
「うおおおおお!」
「いくぞッ!」
「姐さんから許しが出たぞ! 暴れろやァ!」
ヴェルデの掛け声に冒険者ギルドの連中が駆け出していくと、瞬く間に私兵達がボコられていく、いや、マジに武器を握った私兵に冒険者が拳で殴り掛かり、軽く圧勝していく。
「どこのヤンキーだよ……」
「アハハ、見たかい! ウチのギルドは武闘派でねぇ、冒険者ギルド協会のタヌキ共が品格が無いだの毎年言いやがるから、大会には基本出ないけど、実力なら、どこのクソギルドにも負けないのさ!」
分かる……確かに、これじゃ、大会なんか出せないって言いたい冒険者ギルド協会は間違ってない。
そう思いたくなるくらいには、一方通行の大惨事だった。
残念イケメンが顔をパンパンにした状態で連れてこられたので話を聞けば、どうやら、複数の貴族達(王政反対派)が協力してるようで、王城の周りを守っているらしいな。
そのまま、俺達は移動を開始することになるが、冒険者達を筆頭に複数の民衆を大部隊にした形で各貴族を落とすことになった。
理由としては、裏切り者の貴族が許せないという国民からの声を面白がったヴェルデがやる気になったからに他ならない。
とにかく、街全体で戦闘になることはこれで避けられないな、今更だが、なんで俺みたいな一般ピーポーがこんな事に……
「アンタ、意外にヤバいやつだよね?」とデジールに言われたが、否定できない自分が悲しいな。
そうして、俺達のチームは他Bランク冒険者多数と国民達から複数という形になり、正面突破を開始する。
もちろん、娘達とデジール達、そしてヴェルデも同じチームになっている。
そこでバラけなかった理由としては「Aランクの奴らと違って、Bランクの鼻たれじゃ、心配で仕方ない」とのことだ。
ちなみにAランクの冒険者達とCランク冒険者達は複数にわかれて貴族狩りをするらしい……耳を疑いたくなったが、やる気満々だったので、なんも言わなかった。
そして、王城に向かう道すがら、やはり、聖騎士や騎士と言った連中が邪魔をしてきたが、その度にウィルが本気で怒りをぶつける結果となり、難なく突破に成功している。
聖騎士が相手の時のウィルは怒りと悲しみを剣に載せるように振るっていく。それが今のアルノ・マーレに対する素直な感情なんだろうな。
「パパ……すごいね……ナズナも、役に立てる……かな」
「ナズナちゃん、大丈夫だよ! リーフが一緒です」
「うん……ありがとう、リーフちゃん……ママ達を助けたい」
「うん、助けようね!」
戦場には似合わない優しい会話だな。でも、だからこそ俺も諦めるわけにはいかないし、諦めないって再確認できる。嫁ちゃん達のためにやってやる!
数回の戦闘があったが、俺達は戦力を失うようなことはなかった。
理由としては、相手の熟練度の低さと、戦いを想定していなかったのか、数が明らかに少なかったからだ。
アルノ・マーレに加担した貴族達の中には「約束が違う! 楽に地位をもらえるんじゃ」などと、甘い蜜を吸う気の奴らばっかりで、私兵すら僅かな状態だった。
ただ、時間稼ぎが目的だとすれば、無駄に多かったバリケードや数だけの貴族と私兵も納得だ。
「アルノ・マーレのやつ、マジで夕暮れまで、時間稼ぎするつもりかよ!」
俺はそんな言葉を呟きながら、王城を目の前にしている。
王城の周囲に作られた城壕に繋がる水路、様子を窺うように俺達は城門前を確認していく。
王城の強固な門を守るように配置された数百の騎士と見た感じ百を超える騎兵、槍と弓を構える数千の兵士、つまりは絶望的な守りが固められていた。
「ハハハ、マジかい……イカれてるねぇ、本気で戦争でもするような配置じゃないか!」
ヴェルデの言葉がすべてを物語っていた。
そう、アルノ・マーレは、最初から貴族達を囮に俺達みたいに反抗する勢力を分散させるのが目的だったことにこの瞬間、気づかされた。
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