260話、『鷹』の字と共にバッカスの意思
ギルドが一気に熱気に包まれると、ギルドマスターのヴェルデに呼ばれる。
「賑やかになったねぇ、奥で手っ取り早く話すよ」
奥のマスター室に入り、受付嬢さんが持ってきた茶を飲み、本題に入る。
「それで、どうする気なんだい? アンタみたいなタイプは、考えなしに博打をするタイプじゃないだろう?」
「えぇ、俺と俺の仲間は合わせて70人くらいです、ギルドが協力してくれても、700にもなりません。でも、勝率は格段に上がりました」
「勝ち目がある戦いっていうには、かなり焦げ臭いだろう、火のついた馬車で何をする気なんだい? 内容を話な?」
「俺は、色々な場所を見てきました。色々な問題があり、色々なことがありました。そして、その度に、ルフレ殿下が民を守ろうと兵を動かしている事実がありました」
「色々って言葉が多いねぇ……早く本題に入りなよ、まどろっこしいのは嫌いなんでね」
「はい、ですので、今、いきなり現れた危機に民も危機感を感じてると思うんだ。だから、民の、つまりは、人の動きを利用しようと思ってます」
「一般人を巻き込む気かい?」
「はい、国は民があって成り立ちます。今動ける一番の戦力は俺達でも冒険者ギルドでもなく、国民です」
「ふん、それで? 本気で国民が力を貸すと思うのかい?」
「そのために、俺はギルドに力を借りに来たんで……まずは国民のために暴れてる連中を何とかしてもらえませんか、それが一番の切り札になります」
「わからないねぇ、まぁ、いいよ。話はわかった」
ヴェルデは部屋を出るとすぐにギルドにいる冒険者に向けて、声を出す。
「アンタら! 今から街で暴れてる馬鹿共を片っ端から、叩き潰して連れてきな! いいね、気合い入れて稼ぐんだよ!」
「「「おおぉぉ!」」」
「ヴェルデさん、任せてください!」
「行きやす! 見ててくだせい姐さん!」
「誰が姐さんだよ! マスターって呼びな、馬鹿共が!」
俺達はそこから、ヴェルデを加えて、作戦会議をしていく。
それからすぐに、数人の冒険者が次々に柄の悪い連中を連れてくる。
明らかに顔面がボコボコにされていて、気を失っている。
次々に運ばれた男女が山積みにされているようすに俺は唖然としたが、僅かな時間でこれだけの人数を倒す冒険者は本当に優秀だな。
「なら、今から行かないとな」
俺は外に出る。向かったのは広場だ。
広場にも多くの人が集まっていて、コロシアムの外を守っていた兵士達が民を守るように陣形を取っている。
そんな中に俺は見た目は違うが、見慣れた顔を見つけた。似合わない鎧に槍を手にする男。
「あんた、ミクロだろ?」
「え、あ、あなたは! 誰ですか?」
「あ、そうかも、これでわかるか」
ヘルムを取り出して見えるように手を前に出す。
「あ、あ! 黒騎士選手! 無事だったんですね! 良かった、上位の選手達は全員、コロシアムに閉じ込められたと思ってました!」
「俺は偶然な、それよりなんでアンタが?」
「はい、私は試合中は仕事ですが、試合が終われば普通に王国兵なので」
「そうだったんだな。でも、アンタがいる事実は凄く助かる。頼む、協力してくれ!」
広場の真ん中に鎧を脱ぎ捨てたミクロ・フォーノがマイクを構える。
『ハァ、今まさに! 恐怖に震え、卑怯な行いにより、国民から幸せを奪おうとする存在がいます! そんな今、この瞬間、立ち上がった戦士達、そう、冒険者ギルドの戦士達が立ち上がったんだァァッ!』
ミクロの能力で一気に街中に声が響き渡ると、建物から人々が顔を出して、声を聞こうと顔を出していく。
『我等が王国の王は誰だ! ルフレ殿下の元で過ごした日々が恐怖に支配されていたか! 否だ! 断じて否だッ! 誰もが幸せを願う王を失うことを望むなら、隠れているのもいいだろう』
そこで、ミクロが一気に息を吸い込む。
『子供の夢を託せないような国に未来なんかあるわけがあるか! ないんだよッ! 今立ち上がる者が未来を刻む! 震えて虐げられる存在に未来はない! 立ち上がれ、王は民が選び、未来は民が作る! 此処はどこだ! そう、バッカスダァァァッ!』
ミクロに頼んだ演説が終わると次第に声が聞こえてくる。
「そうだ……」
「オレたちの国なんだ!」
「いきなり、王が変わるなんて、ダメだ!」
「そうだ、そうだ!」
民の声に力が入ると俺達の耳には国民の声が響いてくる。
それと同時に、ウィルが一歩前に出る。
「民の皆よ、教会を代表して、愚かなるアルノ・マーレの行いを謝罪する。本当に済まない、この身はこの戦いで朽ちようとも、冒険者ギルドに協力し、命を賭けて戦うつもりだ! どうか、信じてほしい」
本当に大丈夫か、今の状況だと、ウィルの奴は恨みの対象になるんじゃ……
「ウィル! アンタは昔から真面目だって知ってるぞ!」
「鼻たれ小僧の頃から見とるよ、信じるぞ」
「ウィル様〜素敵ですわ!」
「ウィル!」「ウィル!」「ウィル!」「ウィル!」
無数のウィルコールが湧き上がると俺は驚き、ミクロを見た。
「そりゃ、そうなりますよ。ウィルさんは、聖騎士団の顔ですし、生まれも育ちもこの王都ですし、アルノ・マーレ大司教が聖騎士団を任される前から実力で地位を手に入れた人ですから」
ウィルは国民から愛されてる事実は試合の時から感じてはいた。
そして、ウィルの存在を疎ましく思っていた存在がアルノ・マーレだってことも理解している。
いくつかあった違和感もそうだが、アルノ・マーレはウィルの人気や支持を恐れているように感じていた。
その事実が今、街全体を動かそうとしている。
「ドーナ、頼みがある」
「ん? なんなのマスター?」
「武器が必要だ。とりあえず、槍と剣、鎧、つまり集められる武器を集めてくれ、ただし、悪党からだぞ」
「わかったの! 任せるの〜!」
そうして、すべての火種を巻き散らかした俺は冒険者ギルドに戻ると既に大量の犯罪者と協力を願う民達が集まって来ていた。
俺は自分の心を鬼にする覚悟を決めると集まった人々に向けて“買い物袋”から大量の武器を取り出して並べていく。
武器はドーナが集めてきた武器と防具を俺が買うことで無限に安く揃えることができるため、集まった人々が見た目だけなら、一端の兵士になっている。
そして、敵味方を分かりやすくするため、ドーナから買い取る前に武器や防具には“鷹”の字のステッカーを貼り付けてある。
和柄のカッコイイ“鷹”の字が刻まれた鎧は仲間だと改めて説明すると、一気に大戦力へと変化する。
1人1人に配る訳には、いかないので見張りを警備兵団や冒険者に任せると山積みにした装備品を放置していく。
「渡す条件は城に攻める気がある奴だ! たのむ」
「任せてくれ、アンタ、上手く行けば、王都の英雄になるぞ!」
「柄じゃないって! すまないが任せた」
既に時間でいえば昼の二時くらいだろう、時間が過ぎれば、フライちゃん達だけじゃない、コロシアムに閉じ込められた人達が犠牲になるんだ。
王都の日没は日々を過ごしてきたからこそ、わかっている。体感だが18時半過ぎから19時って感覚だ。
長くて5時間、早ければ4時間程度だろう。
「ふぅ、皆、頼む……動くぞ!」
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