258話、牢屋の先に
「さて、このまま、俺達は先に進みますが、皆さんはどうしますか?」
俺の言う“皆さん”とは、助けたばかりの猫人族達だ。ニアのパパさんも居るため、一応、確認しておくことにする。
嫁の親と揉めないのは、家庭円満の秘訣だからな。
「ふむ、ニァ達は、まずは武器庫に向かうにゃ、武器がないと、ニァ達は力不足だからにゃ〜」
「分かりました。ですが、絶対に建物の敷地から出ないようにしてください。実際に外は今も敵味方がわからないんで」
「わかったのにゃ! みにゃ! 娘婿の言葉を忘れたらダメにゃ! 武器庫に急ぐにゃ〜」
猫人族が走る姿って、無駄に賑やかなんだよな……
「さて、俺達はこのまま、先に進むとしよう、多分、奥が本命だろうからな」
牢屋を進むと、やはりと言うべきか、なんでこうなるかなって……そんな言葉が頭の中でループしていた。
「あ、主殿……まさか、助けに来てくれたのか……」
「居るかもとは思ってたよ。昨日から姿が見えなかったしな、お前らが挨拶もなく旅立つなんて思えなかったからな」
俺が居ると思ってた味方、それはウルグ達、狼人族だ。傭兵団としても活動しているウルグ達が昨晩も誰1人顔を出さなかったからだ。
ウルグの精神が戻った事実もあるため、姉妹のフェイやファンなんかは、義理堅い性格で絶対に挨拶に来るはずだと思っていたし、なんならウルグ本人もそのタイプだ。
そんな人懐こい狼人族が誰も姿を現さなかったからこそ、俺は囚われてるんじゃないかと、考えていたが、ドンピシャだな。
「主様、姉様の礼も言えずに申し訳ありません」
「アタシ達は感謝してます。昨日にいきなり、呼びされて、こんな結果になってすみません」
ファンとフェイの言葉に俺は「むしろ、無事で良かったよ。気づくのが遅れて悪かったな」と伝え、檻の奥に移動させる。
そこからは、猫人族の檻を壊したのと同じ方法でウルグ達を解放していき、ウルグ達にも武器庫を目指してもらうことにした。
「あ、主殿……アタシ達の後に連れて来られたやつが奥にいる。助けるかは主殿が決めるんだろうけどさ、ちなみに、いるのはあの聖騎士だよ……じゃ、また後で」
去り際のウルグの言葉に俺はそのまま一番奥の牢屋へと向かった。
奥に向かうにつれて、灯りの役割を果たす魔石の魔導具数が減り、視界が闇に包まれていく。
ウルグの言葉がなかったら、間違いなく引き返していただろう。
一番奥に見えてきた、鋼鉄の扉。扉の周りも壁が作られ、完全に内部が外から確認できない作りになっていた。
「おい! 誰かいるか」
できる限りの声で質問するが、何も声が返ってくる感じはない。
悩んだが、一旦、扉を破壊することに決めて、容赦ない一撃をドーナが放つ。見た目と違いあっさりと扉が倒れる。
部屋の中には酷い傷のまま放置された男が力なく壁に繋がれていた。怪我の状態を見ても、捕らえられていると言うよりも、放置されているというべきだろう。
俺は手に握った魔石ランプを男に向けて、顔を確認して驚いた。
「ウィル・アクシオンか、なんでお前がここに?」
俺の後ろから娘達が顔を出すと、「ひぃ!」「痛そう……」と、声を出したため、すぐに視界を隠す。
「悪いな、治療するから、少し待っててくれ……」
娘達が心配そうに俺の顔を見てきたので「ドーナ、2人を頼むよ」というとドーナは頷いてくれた。
ウィルの傷は酷く、回復薬を使ってもちゃんと回復するかわからない傷……傷というには酷過ぎる重傷だった。
誰も見ていないことを確認してから、俺はウィルの鎖に繋がれた腕を切断した。
わずかに反応があるが、それでも動かないウィルを床に寝かせてから、“癒しの滴”を“買い物袋”から取り出して、ウィルの全身にかけていく。
若干の息はあるが、既に飲める状態じゃないのは素人目でも明らかだったので仕方ない。
本当に嫌な作業だよ……食材以外に刃を入れないとならないなんてな……
内側から吐き気を感じながら、欠損部位が再生しているかを確認していき、再生する事実に安堵した。
「これで、戻らなかったら……罪悪感半端なかったな」
そこで俺達は、ウィルが目覚めるまで待つことにした。時間は惜しいが、何よりもウィルほどの聖騎士がなんでこんな姿になっているのかが気になる。
気分が冴えないまま、時間が過ぎる中で、猫人族と狼人族達が大量の武器とボコボコにされた男達を担いで戻ってきた。
「主殿! 戻ったぞ!」
ウルグの声が聞こえ、俺は想像できたが、ボコボコにされた奴らは何なのかを聞いてみる。
「こいつら、いきなり攻撃してきたから、とりあえず、ぶっ飛ばしただけさ!」
「そうにゃ、ニァ達にも剣を向けたから、しっかりぶっ飛ばしたにゃ!」
普段は仲が悪いが、こんな時だけは仲良しだな……
「まぁ、こいつらは牢屋に入れとくとして、武器が手に入ったなら良かったよ」
会話をしていると“ぐぅぅぅ”と音がなる。
「あ、悪りい、バタバタで朝飯食ってなかったからなあ」
そう、ブルーノが口にすると、ウルグ達も同様に渋い顔を浮かべていた。
「そういえば、昨晩から飯が来なくなってたから、アタシ達も腹が空いたねぇ」
緊張から解放されたからなのか、全員が空腹を感じてるように見えた。
「はあ、なら待ってくれ、手抜きになるから、文句は言うなよ?」
俺はすぐに【ストレージ】から魔導コンロ、2台とカセットコンロ2台を取り出して鍋に水をいれて沸かしていく。
大人数のため、レトルトカレーを茹でる際に三つの鍋を使い、残り一つに肉とキャベツ、薄切りの人参などを入れて、コンソメを加えていき、ポトフもどきを作っていく。
手抜き過ぎるが時間がないため、許してもらうことにして、“買い物袋”から、スーパーのご飯パックとポトフもどき用の使い捨ての器を取り出して装っていく。
レトルトカレーのかけ方を教えて、各自でかけてもらう、基本は渡すだけの作業になるが、十分近く大量にカレーパックの湯煎を繰り返すのも意外と大変だな。
「主殿、ありがたくいただくぞ!」
「ニャニャニャ、美味いにゃ! 婿殿は天才だにゃ!」
僅かながらの食事時間を楽しんでもらい、皆がガツガツとレトルトカレーとポトフもどきを食べる最中、ウィルが目覚め、食事が食べれるかを確認して食事をしてもらう。
「すまない、慈悲に感謝する……それより、なんでお前達がここにいるんだ?」
当然の質問に俺が今の状況、つまりはアルノ・マーレの謀反について説明すると、ウィルが渡した使い捨てスプーンを握り砕き、怒りを顕にする。
「あの野郎! 教会の名に泥を……」と怒りを爆発させそうなので、俺は待ったをかける。
「うちの娘達もいるんだ。興奮すんなよ? まずは食べろよ」
そうして、落ち着かせると俺は次の流れについて説明をしていく事にする。
「わかると思うが、警備兵団側にも裏切り者がいたくらいだから、既にとんでもない数の敵がいる筈なんだ、何か、いい方法はないか?」
「……いや、方法と言われてもな、教会本部がどうなったか気になるが、今の現実なら、向かうだけ無駄だろう、部下達もアルノ・マーレに従ってるだろうしな」
ウィルの意見を聞いて、俺達は多少悩まされた。
今の戦力を改めて考える。
猫人族──30人
狼人族──38人
警備兵団──42人
他に俺、ドーナ、デジール、アクティ、ブルーノ、ウィル、娘ちゃん達は戦力扱いにしたくないが、ナズナ、リーフ。
つまりは、戦力は120人にも満たない。そして、戦うことだけを考えるわけにいかないのも事実だからな。
警備兵団の人達は、街のために動くだろう……つまり、王城に向かえるのは、70人程度しかいない……
ゲームだとしても、勝ち目が見えない戦いだ……
「マジに八方塞がりだな……どうするか」
悩む俺にデジールが「冒険者ギルドってどうなってるのかな?」と口にした。
もし、仮に無事なら、冒険者ギルドに助けを求めるのも有りかもしれないのか、分からないが強力者を集めないと……時間がない。
警備兵団本部の外に出た時、既に太陽は真上になろうとしていた。
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