24話、100年の交渉・フライからのプレゼント
副ギルドマスターの老婆が正面に腰掛けると1枚の紙をテーブルに置く。
「不躾で悪いね。今回はギルドが世話になったね、改めて礼を言わせておくれ」
丁寧に頭を下げられた後に交渉が始まる。
何故、ギルドから交渉を頼まれたのかと言えば、俺が無駄に使いまくった回復ポーションが一番の理由だった。
「ギルドとしても、アイテムを惜しげも無く使った事により冒険者達の命が救われた事実は報告で理解しているんだよ……ただねぇ」
冒険者に使用された回復ポーション分の支払いをしたいと言う内容だったが、問題があった。
冒険者に使用された回復ポーションの本数が多すぎたらしい。
「確かに、必要な本数を全力で傷にかけたり、飲ませたりしたからな……」
「そこなんだよ……回復ポーションなんて、1本で大銀貨3枚(6000リコ)、冒険者が本当にギリギリの時に使うような代物だからね……流石に7パーティーで平均、35人だとしても、一人3本……」
副ギルドマスターが溜め息を吐いた。
「つまり、あれですか……馬鹿げた額になってるんですよね?」
単純計算で、金貨63枚(126万リコ)になる。普通に考えたら、ありえない金額だ。しかもそれをあったばかりの冒険者にも使っているんだからな。
「えっと、あと問題がまだあるとか?」
「はあ、そうさね……問題と言うより、どうしたらいいかって話なんだよ……」
俺が作って振舞った料理についても、報告が上がっていたらしい。
「コカトリスの味がした」
「食べた事のない味のスープだった」
「混じりっけのない小麦粉を使ってた」
「高級宿でも食べた事が無い」
「っと、まぁ、こんな話をされたら、予想ができなくてね、直ぐに『調理師ギルド』に職員を走らせたんだ……」
ああ、それはマズイなぁ……なんて言われたか聞きたくないな……
「結果はどうだったんですか?」
何となく聞いてみると副ギルドマスターは困ったように眉間にシワを寄せた。
「丁寧に『調理師ギルド』のマスタールンダが出てきて、褒めてたそうだ……「惜しげも無く最高食材を使う」ってね……」
ははは、そう言われますよね……なんか申し訳ないな。
「ギルドとしても、誤解で敵対なんて、したくないんだがねぇ……流石に、推定で金貨300枚、更に増えるとなると……はぁ」
なんかすげぇ額になってるな……とりあえず、金貨300枚が確定してるのが問題みたいだな。
「なら、貰わなくても大丈夫ですが?」
「そうもいかないんだよ。対価はしっかり払うのがギルド側のルールだからね」
俺は悩んだが、先ずは払う気があるのに払うことが問題と言う理由を聞いてみる事にした。
「まず、根本の問題点がわからないんですが?」
副ギルドマスターが話した理由を聞く。
ギルドは今回の討伐に5日で1パーティーあたり、金貨1枚と討伐個数で上乗せとしていた。
全てのパーティーが討伐個数を合わせても金貨10枚程度しか稼げていないのだ。
現場にいたパーティーは納得するだろうが、他のギルドに在籍する冒険者からはそうは見られない。
確かに、ギルドが裏で結託してるようにみえるかもな……
「なら、俺達には金貨5枚、残りをこっから先の税金としてギルド側で差し引いて貰えますか?」
「はぁ? なんだいそりゃ、そんな馬鹿な話は初めて聞いたよ、金貨を税金として引くのかい?」
直ぐに副ギルドマスターは計算を始める。
「年間の冒険者の税金は、金貨1枚程度で、それ以降は免除になる、普通に考えたら、300年は免除になっちまうよ?」
「それは金貨300枚が支払いの場合ですよね?」
俺は営業スマイルで副ギルドマスターに話しかける。
「確かに、推定だが、それ以上なのかい?」
「そこは内緒ですが、少し待って貰えますか?」
俺は応接室の隅に移動すると【ストレージ】から調理台とカセットコンロ、鍋、水、春雨、コンソメ君、鶏ガラスープの素を取り出し、直ぐに火にかける。
数分で沸騰したお湯に鶏ガラスープの素を入れて、混ぜていく。
最後に塩コショウで味を整える。
「春雨は、今回はオマケで入れたものですが、使ったスープです。食べてみてください」
「あ、ああ、頂くよ……」
恐る恐る、コンソメ入り鶏ガラスープを口に運ぶ。
「これは……言いたいことはわかったよ。幾らなんだい?」
「俺を含めた『チームフライデー』のメンバー6人分の税金を100年免除でどうですか?」
「本気でいってるのかい?」
緊迫した空気が流れる。
「違う条件にした方がいいですか?」
「いや、それで構わないなら、ギルドとしては、助かるよ。コカトリスの毒を完全に消して、臭みすらない、こんな物を食べようと思ったら金貨が幾ら必要か……恐ろしい話だよ」
話がついてから、契約書を作成してもらい、俺もそれにサインを済ませる。
「なら、今からになりますがまだ時間はありますか?」
「時間かい? そりゃ、ギルドは今日は徹夜になるだろうさ、オークジェネラルの件で大騒ぎだからねぇ」
それを聞いて直ぐに俺は大鍋を取り出し、副ギルドマスターに料理の許可を貰うとオークのすり身と玉ねぎ、春雨を更に加えて、鶏ガラスープとコンソメをたっぷり使ったスープを作っていく。
「ギルドの皆さんで食べてください。勿論、冒険者側には内緒でお願いします」
「いいのかい? それに対しては、支払いが出来ないよ?」
「構いませんよ。それに食べた方が、職員側も納得いくでしょうから」
「若いのに、よくできてるね……有難く頂くとしよう」
その後、応接室には見張りが立てられ、代わり代わりに職員達がスープを食べては歓喜の声を上げていた。
流石に途中から、俺も疲れたので「後日、鍋を取りに来ます」と伝えてその場を後にした。
ギルドの酒場側に移動すると嫁ちゃん達が席に座り、エールとワインを手に楽しそうに雑談をしていた。
近くに向かって歩いていくと「オッサンは他の女に手を出しすぎだ!」っと荒れた声が耳に刺さる。
「そうにゃ、最初はヘタレだったのにゃ、今はガンガンだにゃ! それなら、ニア達にガンガンして欲しいにゃ!」
とんでもなく、酔ってやがる……
「分かるけど、キンザンさんは、釣った魚に餌をあげないタイプなのかしらねぇ」
「ご主人様は、種馬ですから、仕方ありません」
「マスターはお馬さんなの!? 魚ってなんの話なの!? 分からないの〜!」
あー、胃が痛い、なんか、胃がキリキリしてきた。
俺の胃が限界を迎える前に何とかしないとダメだ!
「戻ったぞ!」
俺はなるべく聞いてなかったという素振りで営業スマイル全開で声をかける。
そこから、酔っ払いな嫁ちゃん達を何とか屋敷に連れ帰り、ソファーに全員を座らせてから、1人づつ、お姫様抱っこで、ベッドに寝かせていく。
「オッサンの……バカァ……」
どんな夢をみてるんだか、泣きそうな顔しやがって……
俺は1人1人の頬に軽くキスをしてから寝室を後にした。
1人でリビングのソファーに座り、煙草に火をつける。 軽くヤニを吸い込み、煙を吐き出してから灰皿に煙草を置いていく。
静かな空間で軽く考えながら“買い物袋”からホットの缶コーヒーを取り出して飲んでいく。
「あつ、はぁ……なんか、凄いことになっちまったな……」
〘本当に見ててびっくりですね……〙
俺の頭に直接、声が響いた瞬間、辺りを見渡す。
〘目を瞑ってくれたら見えますよ?〙
言われるままに俺は目を瞑る。
暗闇から光の世界に瞬間移動したような感覚になり、俺の瞼にフライちゃんが姿を現す。
「フライちゃん、久しぶりだな」
〘そうですね。因みに今も声は現実では出てないですから、大丈夫ですよ〙
どうやら、俺は喋ってるつもりでも、心の声らしい。
「いきなり、喋りかけられてびっくりしたよ。どうしたんだ?」
〘はい、実は本日でキンザンさんが其方に行ってから28日が経ちましたのでコンタクトを取って見ました〙
「そうだったのか、そんなに経つのか……」
〘台風みたいな人生ですね……この短期間に、あんなに女性と……あんな事を、本当に見ててびっくりしました〙
両手で顔を押さえながら俺を真っ赤になって見ているフライちゃんの姿があった。
「そんな風に言われると照れるんだけど……」
〘で、ですよね! すみません〙
相変わらず、安定の可愛さに不思議と懐かしさを感じてしまう。
〘あ、大切な事を忘れてました。無事にこの世界を楽しんでくださってるみたいなので、プレゼントがあったんですよ〙
「プレゼント?」
ドヤ顔のニコニコで俺の目の前に出されたのは、“買い物袋”の柄違いだった。
なんとも言えないと言った顔をしていたのか、フライちゃんが慌てて説明をしてくれた。
〘凄さが分からないみたいですね、すみません。これは“リサイクル袋”ですね〙
“リサイクル袋”は、“買い物袋”の反対バージョンでいらない物を入れると硬貨になって出てくるらしい。
「なんか凄いな、本当にプレゼントでもらって大丈夫なのか?」
〘はい、大丈夫です。これからも頑張ってくださいね〙
会話が終わり、別れの挨拶を済ませた瞬間に俺の意識は現実へと戻された。
どれくらいの時間が過ぎたか分からないが、テーブルに置かれた灰皿には、未だに燃え尽きていない煙草があり、未だにホットの缶コーヒーからは弱々しい湯気が上がっている。
「夢だったのか……」
随分と話していた感覚だったが、一瞬だったのだと改めて状況を頭で整理していく。
しかし、それが夢じゃなかったことは既に分かっていた。
俺の手に握られていた“リサイクル袋”を再確認する。
「とりあえず、試して見るか……」
俺は【ストレージ】に溜まっていた不要な物や処分したかったゴミなどを一気に“リサイクル袋”に入れていく。
“リサイクル袋”が一瞬、膨らみ縮み出すと袋から1枚の銀貨が落下する。
どんな物でも回収してくれるみたいだな……コイツは使えるな。
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