257話、うるさい猫の檻
ブルーノの案内で向かう先には、やはりと言うべきか、複数の警備兵の姿があった。
そんな男達は武器を手に仲間だったはずの警備兵達を縛り上げている真っ最中だった。
「く、裏切り者が! 警備兵団としての、誇りを失ったか!」
服装が立派な老人が必死に訴えるが、縛る側の男達はそれを面倒くさそうに聞いているばかりで手を止める気はないらしい。
「うっせぇ! 安い給金で今まで働いてやったろ? それに、この国は終わりだよ。警備兵団も終わりなんだよ」
その会話が耳に入った瞬間、ブルーノと途中で合流した警備兵達が一斉に駆け出していく。
「ふざけんなッ! 警備兵団の恥さらしがぁぁぁッ!」
ブルーノの声がこだますると同時に、裏切った男達が次々に倒れていく。
幸いだったのは、ブルーノ達も命まで取る気がなかったことだ、危うく、娘達に──いや、口に出すのは良くないな。ショッキング映像を見せずに済んだ事実をよしとしよう。
さっきの縛られてた爺さんは警備兵団の長官らしく、早い話がこの本部のトップらしい。
「すまない……確か、君は?」
「ハ! 自分は[カエルム]より、大会中の警護増援命令により、派遣されたブルーノであります! 階級は警備兵団 団長であります!」
「助かったよ。他にも多くの部下達が捕まっている……部下の命を盾に何も出来なんだ……」
そうして、話していく中で、牢屋には警備兵団の団員達も拘束されていることが分かり、俺達は急いで移動を再開する。
結果的に複数回の戦闘はあったが、ドーナやアクティ、デジールにリーフとナズナ達の力を借りながら、一気に敵を無力化することができた。
情けないが、ドーナの参戦が大きいのは事実だ。俺も戦うが、やはり、竜切り包丁だと狭い通路では厳しく、今はマグロ包丁に武器を持ち替えている。
石造りの壁が続く通路の先に見えた地下への階段を見つめる。
敵に注意しながら慎重に進んで行く。階段出口を曲がった左側に見える灯りを前に俺達は一旦、停止する。
管理部屋であろう、部屋からの灯りに映る5人ほどの影と男達の声、影の様子から椅子に座り、雑談をしてるらしい。
「しかし、楽だったな?」
「だな、なんせ、敵味方関係なく王都に集まれたからな……ひひひ」
「まぁ、警備兵団に俺達みたいな奴らが紛れるなんて思わないだろ?」
どうやら、王都に集められる警備兵団の団員に成り済まして潜入したことがわかった。
転送陣を使うような遠い街からの警備兵は無理でも、馬車などを使う者達は可能だったらしく、馬車を襲った際の話で盛り上がっている。
「おい、ブルーノ、今は我慢してくれよ……」
「わかってるさ、兄弟、ただ、あいつらは許さねぇがな」
そうしていると、奥の扉が開かれ、さらに3人の男が管理部屋に戻ってくるのが見えた。
「今だな、ドーナ、奴らの動きを封じてくれ……そしたら、一気に突っ込むぞ」
「わかったの〜」と返事が返ってきたと同時に、ドーナが8人の影を縛る。
「なんだ!」という、男の声を合図に一斉に飛び掛かり、俺達は数十秒で男達8人を無力化することに成功した。
地下牢に入ると、階段から近い方は本当にゴロツキばかりに見えたので、中を見るのをやめて進んでいくと、不意に叫び声が向けられる。
「ニャニャニャ! 長殿!」
「ホントだにゃ! 若殿だにゃ!」
「ニャンと! 娘の婿殿かにゃ! 助けるにゃ!」
まだ、中間にも届かないあたり、前回のことを考えれば、まだ一般人拘留者の位置なんだが……
視線を向けた先には、ニアのパパさん、つまりは猫人族の長と他複数の猫人族の方々が牢屋に入れられていた。
「なにしてるんですか……また、揃いも揃って……」
「おお、助かったにゃ。早く出して欲しいのだにゃ! この檻と床が、力を吸い取るせいで抜け出せなくて困ってるにゃ!」
怒りに任せて、牢屋を叩く姿になんとも言えない状態であり、頭に浮かんだ言葉はペットショップとは絶対に言えない。
「なあ、ブルーノ、これ開けられるか?」
「あぁ、だが、鍵の数が多くてな、しかも番号がないから一本、一本を試すしかないぞ?」
鍵について、ブルーノは仮に本部が襲撃を受けた際に脱獄を塞ぐため、鍵の形は同じデザインで、番号は付けてられていない、普段から使う“鍵番”という、職の存在が管理してるため、本来は問題ないらしい。
時間が掛かるなら、壊したいとも思ったが、牢屋には術式が刻まれているらしく【斬撃無効】【打撃無効】【攻撃魔法無効】と無効シリーズのオンパレードだった。
誰だよ、こんな面倒なもん作ったの……ったく。
「パパ? あたしと……リーフちゃんで何とかできる……たぶん」
ナズナの言葉にリーフも“うん、うん”と頷くので、とりあえず、話を聞いてみることにする。
子供の話を聞くのは大切だ。話を聞かない世界は多分、子供にとって辛い世界になるからな。
「えっと、あたしと……リーフちゃんなら【反転】で……何とかできる……」
「パパ、私達にやらせて、頑張るから」
「わかった。なら、鍵が見つかるまでお願いしようかな? 頼めるかい」
「「はーい!」」
2人が牢屋の前に並ぶと中の猫人族から「だれにゃ? それよりも早く出すにゃ!」と言いたい放題なので、俺は厳しい表情を浮かべる。
「いいから、牢屋の奥に移動してくれますか……? あと、一言も喋らないようにお願いしますよ」
怒気を少し強めに俺がそう口にすると、大人しく従い、牢屋の奥に移動してくれた。
「いくよ、ナズナちゃん!」
「う、うん! やるよ……リーフちゃん、スキル【反転】」
「私は弱いから、何も壊せない。壊せないから牢屋は無傷、でも、おてては怪我しちゃうかも……」
相変わらず独特だが、ナズナの【反転】が発動してるからだろう、凄い魔力の塊が拳に集まっているように見える。
「牢屋を……対象に【反転】……」
俺はナズナの言葉に疑問を感じたが、今、質問すると邪魔してしまうため、黙っていることにした。
ただ、空気を読めないのか、猫人族の連中が「何を言ってるにゃ!」と声を出し始める。
「そうにゃ、嬢ちゃんみたいな弱そうな子じゃ無理にゃ!」
「だにゃ、怪我して失敗するだけにゃ!」
この猫どもは……
あまりのイライラに拳を握るが、次の瞬間にはそれはいらなかったことに気付かされる。
“ズガガンッ!”と地響きのような音が鳴り響き、鉄格子が豪快に倒れていた。牢屋の前には拳を突き出した状態のリーフがにっこり笑みを浮かべている。
「パパ! やったよ!」
「よかった……できたね……リーフちゃん」
「2人とも怪我はないか?」
俺の心配を笑顔で「「ない」」と答える2人に俺も笑みを浮かべていると、逆に猫人族側からは悲鳴のような声が聞こえてきた。
「にゃ! なんでだにゃ!」
「ニャア達より、強いにゃ!」
時間が無いから、とりあえず、軽く説明を済ませ、今の王都がどうなっているかを話していく。
「そんなの知らないにゃ! 王都の王様が誰でも関係ないにゃ!」
「人族の争いにゃ、にゃあ達、猫人族が加担する理由がないのにゃ」
こいつら、やっぱり出すんじゃなかったかな……
ただ、ここでリーフが泣き出してしまった。
「出して、あげたのに……ママ達の味方してぐれないのぉ……ニアママと……同じだがら、がんばっだのに」
「リーフちゃん……泣かないで、泣いたら……あたしも、なきたくなる……よ」
2人が泣いたタイミングで俺は赤い球体にニア達が閉じ込められている事実と、2人が俺達の娘になった事実を伝える。
結果的に猫人族からの謝罪と協力を約束させることになったので、今回は許すことにした。
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そろそろ料理したい……牢屋じゃ無理か




