255話、走り出した先
俺は今の状況が理解できずにいた。一つわかってるのは、俺の大切な家族がコロシアムの中に囚われた事実と、王都で教会派の1人、アルノ・マーレによる謀反が起こった事実だった。
一国──いや、大陸を揺るがす程の謀反なんて、成立するはずがないって考える俺の頭が平和すぎるのか、確認しないとならないよな……
「なぁ、デジール……聞いていいか」
「え、何をだ!」
「このバッカス大陸ってのは、連合国みたいな感じなのか?」
「聞いてる意味がわからないな、バッカス大陸王国は王を中心にする大国だ、分かりきったことを聞くな」
「えっと、悪い。バッカス大陸王国は、いくつの国を集めて一つの国になったのか、教えてくれないか」
俺が聞きたかったのは、単純にこのバッカス大陸王国という存在が初めから一つの国じゃなかったであろう事実と、実際はいくつの国が集合した結果、できた国なのかだ。
「そう言われても、今となってはわからない……大陸王国に属さない小国もあるし」
「まぁ、そうだよな、つまり、アルノ・マーレには、後ろ盾がいるってことになるよな……」
「まさか、他の小国が関与してるってのか?」
「正直、わかんねぇけど、少なくともこれだけ派手にやるんだ。異世界なら、複数の貴族達も関わってるかもな」
「そんな……私は教会本部に向かう……何が起きているか、調べないとだし、可能なら止めないと!」
拳を握りながら、覚悟を決めた表情を浮かべるデジールに俺は首を横に振った。
「やめた方がいい……俺の意見になるけど、アルノ・マーレって奴は多分、教会側にも手を回してるかもしれないって、むしろ、回すと思う」
デジールに睨まれたが、納得したのか下を向く。
その間も周囲では、コロシアムの異変に集まる人々が赤い壁を壊そうと手当たり次第に椅子や石を叩きつけている。
「キンザン殿! ご無事でしたか!」と突然背後から声を掛けられ、振り向く。
そこには俺の知る人物が立っていた。砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]で警備兵団をしていた元団長、アクティだった。
「アクティさん、無事だったのか」
「あぁ、大会も終わって、キンザン殿達に挨拶だけして、[ガルド・ゼデール]に戻るつもりだったが、まさかの事態みたいだな」
「ちょっと、誰よ、この人?」
デジールが質問してきたので、アクティについて軽く説明していく。
「キンザン殿、どうする? 考えがあれば教えて欲しい」
アクティの言葉に俺は、どうするべきかを悩んだ。一番は嫁達の救出だが、その手段が今はないからだ。
少なくとも、内側と外側から打撃を与えている人達が複数いるが、壊れる様子がないからだ。
何より、日没までというタイムリミットがあることが一番の問題だと思っている。
「俺達で、できることをやるしかないのは、わかってるんだ。ただ、その方法が……」
「キンザン殿、一旦、教会に向かわないか?」
デジールと同様の意見をアクティに言われ、俺は同じように説明をしていく。
「違う。王都には古く使われてない教会があるはずだ」
アクティにそう言われデジールが不思議そうに問いかける。
「古い教会跡なら確かにあるけど、何する気よ?」
「デジールさん? で、いいかな、分からないか。教会には転送陣があるはずだ」
「あったとしても、使うには神官が必要なの。それに、神父も神官も使われていない教会にはいないのよ! ましてや、王都の教会には転送陣は設置されてないんだよ」
「確かに王都にはないのかもしれないが、それでも、キンザン殿は普通に使うからな、だから、何らかの方法で使えると思うのだが?」
アクティさんとデジールが口論になりそうだが、時間が無いため、俺達は一旦、教会跡地に向かうことにする。
少なくとも俺にそんな力はない。ただ、フライちゃんが王都にいるなら、もしかしたらと考えてしまっている。
突然の事態にナズナとリーフは、俺にしがみついているため、2人を脇に抱えて走っていく。
絵面的には、人攫いみたいに見えるが、2人は状況が分かっていないせいか、少し楽しそうにしているので、周囲から誤解はないだろう。
そうして、人気がなくなった路地の先に教会だったであろう木造の古い教会が見えてくる。
扉などには木の板が張り付けられているが、木材自体は新しいものに見える。
木板を外し、中に踏み込んだ時、俺達は絶句した。
外見と違い、まだ新しい斬撃による傷や棍棒で壊された跡が残っている教会内部、女神像が置かれているはずの部屋は床から天井まですべてが無残に崩され、女神像は原型が分からない状態に壊されている。
「こりゃ、酷い……」と俺は呟いてしまうほどの光景が広がっていた。
「本当にひどいですね。女神像にこんな真似をするなんて、キンザン殿。どうしますか?」
「アクティさん、俺達が考えるより、ずっと前からこれ、計画されてたと思うか……」
「はい、少なくとも、反旗を翻すとなれば、根回しや裏での取り引きが絡みますから、どれだけの者が加担してるか分かりません」
「なら、逆に考えたらさ……都合が悪い奴らってどこに捕まってると思う?」
「……それは謀反に参加しなかった貴族という意味ですか?」
「いや、一般人や力がある奴ってことかな、俺は警備兵団の屯所に向かうべきだと思うんだ」
「ん? なぜですか」
アクティさんが質問を返すと同時にデジールも俺に視線を向ける。
「前に[ガルド・ゼデール]で地下に伸びた牢屋があっただろう、あの時も大勢の有力者や反対派が捕まってたんだ」
俺は過去の[ガルド・ゼデール]での経験を話し、この騒ぎが起こる前、つまりは警備兵団に各街から有能な警備兵団の隊長格が街の防衛に集められている事実を話した。
「つまり、警備兵団の王都本部でも同じことが起きていると?」
「アクティさんの言う通りだと思うんだ。一部なのかはわからないけど、少なくとも可能性があるかな」
そこまで話して、俺達は教会跡地を離れる事にする。
新たな目的地は警備兵団の王都本部になり、急いで動き出す。
太陽はまだ、真上に辿り着いていない事実に安堵しながらも時間が過ぎる感覚と自分の力の無さを感じて仕方ない。
街中は不安と混乱で溢れているし、略奪行為も始まっているように見える。
「やっぱり、おかしいよな……」
「おかしいって、何が……」と脇に抱えられたナズナが聞いてくる。
「あぁ、本当なら、警備兵の人達が助けに来てくれるはずなんだよ。それがいないからかな」
「仕事サボってるの……かな? 悪い子だね……」
「だな、ナズナのいう通りだね」
走りながらの会話だったが、本当に警備兵団の姿がない。なんでだよ……最悪な展開になり始めてないかこれ……
不安を感じながら、警備兵団本部に辿り着いた時、俺達の目に信じられない光景が入ってくる。
警備兵団の門が壊され、その周囲には倒れる団員の姿、そして、聖騎士であろう騎士達が本部を襲撃している真っ最中だった。
何より不思議だったのは、警備兵団側からも警備兵への攻撃をする者がいた事実だった。
警備兵団の団員達が警備兵と聖騎士により、攻撃され、敵味方が判断できないままにやられる姿に俺は絶句した。
「やっぱり、そうなるよな……俺の悪い感はなんでいつも、当たるかなぁ……」
「2人とも、悪いな、少し待っててくれるか、パパな、やらないといけない事があるんだ」
「え、パパ……」
「パパ、ダメだよ、危ないよ」
不安そうな2人の顔を見て、できるだけ笑って見せる。
大人の、いや、娘達のための強がりってやつだろうな。
「デジール……アクティ、2人を頼めるか……」
「は? なんで、1人で突っ込む気なのよ、私も行くわよ」
デジールの発言にアクティが待ったをかける。
「いえ、ここはデジールさんに2人を任せます。2人のことを知ってる人の方が適任なので」
アクティはそう口にすると頭を軽く下げた。
俺は手早く、今着ている服の上から、コック用の服を身につけていき、【調理器具マスター】を発動させる。
「悪いな、アクティさん。頼むよ」
「相変わらずですね、今更ですが、アクティと呼んでください。キンザンオーナーは[星降る砂漠亭]のオーナーですからね」
「いきなり、オーナー呼びはなんか、あれだな」
「事実ですから、それにその方が呼びやすいですが、ダメですか?」
「好きに呼んでくれ、さてと……アクティ、いくぞ」
俺達は互いに確認するように頷くと駆け出していた。
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