253話、朝の一時に団欒を
朝の目覚め、それは一日の始まりだ。清々しい朝の空気が、開かれた窓から室内に流れ込んでくる。
僅かに冷えた空気が吹き込み、肌寒さを感じる中、俺は伸びをして起こしに来てくれたポワゾン達に視線を向ける。
「うぅ〜ん、おはよう、朝は寒いなぁ」
「おはようございます。ご主人様……」
「「主様! おはようございま……す」」
挨拶と同時、部屋に起こしに来てくれたポワゾンとペコとグーの3人が固まった。
それと同時に、ミアとニアが慌ただしく部屋へと駆け込んでくる。
「オッサン! 今みたら2人が……」
「大変だにゃ! キンザン、いないのにゃ!」
視線の先、眠気眼を擦りながら見てみると、ベッドの端でナズナとリーフが互いを抱きしめるように眠っている。
ん? 俺は昨日確かに、1人で寝たよな……嫁ちゃん達と寝たかったが、娘2人の教育のために夜は別々にって、話をして……
「なんで、2人がいるんだ?」
「それはワタシ達が聞きたい質問です。ご主人様……まさかとは思いますが? 優しさに漬け込む外道のような真似はしていないですよね?」
咄嗟にナイフを抜きながらの質問に全力で首を横に振る。
ミアが慌てて間に入ってきてくれた。
「待てって、ポワゾン落ち着いて、さすがに思考がおかしいって!」
ミアが止めに入ってくれたが、危うく俺の大切な何かを失うかと思った……
「ふぁ……皆朝から賑やか。ナギは眠い……」とナギも部屋にやってくると、俺のベッドに眠る2人の姿を見て、優しい笑みを浮かべた。
「2人が寂しがってたから、ナギが夜に連れてきた。よく寝れたなら良かった。マイマスターはパパだから、子守りは仕事」
その一言に全員が呆気に取られ、ポワゾンがナイフを太もものホルダーにしまうと、ナギに軽く注意をしていく。
「なんで? マイマスターと寝たら、幸せって、2人が言った? なんで寝たらだめ?」
「違うのです。寝るなら最初から寝るべきで、いきなり居なくなるとミアやニアのように探す人も出るのです、わかってください」
「ナギ、悪かった? なんかごめん、マイマスターに会いたがってたから2人を連れてきた、反省」
ナギなりの優しさだったんだな。まぁ、それはいいが……
「ポワゾン、何いい話の雰囲気で終わらせようとしてんだよ……絶対に駄目な方で疑ってたろ?」
「お言葉ですが、ご主人様……普段の行動や今までの行いから考えて予想すれば、あり得るかと……ナズナとリーフはワタシの娘になった以上、ご主人様でも、手を出すなど許しません」
「出してないから! それに、もし2人が嫁に行くなんて話をしてたくせに、よく言うよな?」
「大丈夫です。仮にそんな輩がいれば、“狩り”で、しっかりと試させてもらいますので」
「なんか、言い回し違う気がするが……」
ナズナとリーフの旦那になる奴は死ぬ気で生き残るしかないらしいな……
そうして、賑やかな朝が始まるとすぐに俺は自室から追い出された。
理由は2人の着替えのためらしい。ポワゾンが言うには「女性が寝衣姿を見せては良くない」ってことで、俺が追い出された。2人の服が運ばれていく。
服は昨晩、ポワゾンが縫い合わせて作ったものらしい。チラッと見えたが、気合いの入った可愛い服だった。
白い生地に黒いレース、世にいうフリフリなやつだ。男からすると、やり過ぎなくらい可愛い服ってやつに見えるんだが……
「可愛い! 見てくださいナズナちゃん、お姫様の服ですよ」
「お、おち、落ち着いて、リーフちゃん……わかるから、でも……着ていいの……かな」
室内から聞こえる2人の嬉しそうな声と動揺、それに対して優しい声で嫁ちゃん達が返事をする声。
こりゃ、長引くな……はは。
ポワゾンもみんなも、2人が大好きなんだと素直に笑みがこぼれる。
そうして、階下に向かい、厨房を見れば、ベリーが朝食のためのサラダ作りをしており、フライちゃんがパンを切り、ドーナが皿を並べてくれている真っ最中だった。
「みんな、おはよう」
「マスター。おはようなの〜」
皿を並べ終わったドーナが俺目がけて飛んできたので、しっかりと受け止めてやる。
「朝から元気だな」
「そうなの! ベリーちゃんとフライちゃん以外の皆は、今はいないの、だからドーナが手伝ってるの!」
軽くプンプンしているベリー。
「ドーナ、サラダも運んでくれる?」と言われると「はーいなの〜」と走って移動していく。
朝食の準備には人が足りているようなので、1人、庭に出て“買い物袋”からホットの缶コーヒーを取り出して“カポっ”とプルタブを押し上げて、開けていく。
缶コーヒーを飲みながら、片手に煙草……朝の優雅な一時ってやつだ。
そういえば、“プルタブ”って言い方は、正式な名前じゃないって聞いたけど、なんでプルタブで覚えちゃったんだっけか……
多分、俺が古い人間だからだろうなぁ、ガキの頃って、缶の開封口が取れるのが当たり前だったしな……
それに“ステイオンタブ”って言葉が、言い難いのも悪いよな……だから、結局、簡単な方を覚えちまうんだよな。
そんな過去の記憶、いつか、薀蓄として使おうと暗記したかすかな知識だ。
まぁ、異世界にきた今となっては、缶コーヒーを一つ取っても、未知の存在扱いだから、本当に使う機会は無くなったがな。
俺に才能があれば、ここで一句なんてのも、いいが……文才は皆無だからやめておこう。
そうして、目を瞑りながら、あれよ、コレよ、と考えていると、不意に俺に向かって走ってくるナズナとリーフの姿が見えた。
「パパ〜見てみて、ナズナちゃんとお揃いです」
「パパ……似合うかな……リーフちゃんみたいに可愛い?」
足にしがみつかれ、驚く反面、手早く煙草を“リサイクル袋”へと放り込んでいく。
「2人とも、改めておはよう。可愛すぎて、天使が走ってきたかと思ったぞ」
2人の頭を撫でてやりながら、服を褒めてやるとポワゾン達も庭にやってきた。
「ご主人様、煙草を捨てられた判断は正しいですね。ですが、2人の服には風魔法の術式を編み込んでありますので、真横で吸われても大丈夫です」
「いや、あの、それは人として……」
俺が慌てるように手を前に出すと、ポワゾンは何が気に食わないのか? と言うように小首を傾げ、俺を見つめていた。
「ご主人様、好きな物を我慢する仕草や、慌てて隠す仕草は、教育に対してあまり良くないかと……2人には、ご主人様のありのままをお見せください。宜しいですね」
「でも、煙草はなぁ……」
「ですので、2人の服には風魔法を、つまりは煙草の煙、麻痺毒、毒煙、すべてのものを風により遮断するので、むしろ、遠慮は不要です」
自信満々のポワゾンの言葉の先にある瞳が“とりあえず、一服してくださいませ”と囁いているようだった。
こうして俺は、朝の至福が緊張と罪悪感の一服になるが、ナズナとリーフの2人に煙草の煙が向かうことはなかった。
ポワゾンが笑いながら「これなら、ご主人様も気兼ねなくいられますね」と囁いてきた。
「ありがとうな、ポワゾン」
「はい、ですが、ワタシの作った服以外の時は、控えてください。約束ですよ?」
最後のポワゾンとの約束は絶対に守ろう、母は強しって言葉があるが、嫁は怖しのがあってる気がするよな……
「わかってるさ、さて、朝食を食べたら、フライちゃんの大会優勝の授与式だから、急がないとな」
俺達は庭での家族タイムを中断して、朝食を食べに向かう。
俺の朝にささやかな幸せが増えた瞬間だった。
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




