248話、キンザン、パパになる?
俺とデジール姿のエトランジュが睨み合うような体勢になってしまった。
「分からないわね? なんで邪魔をするのかしら?」
「いや、当たり前だろ! こんな小さい子を見捨てるほど、酷い性格じゃないんでな!」
エトランジュは、訳が分からないというような顔を浮かべ、逆に俺のセリフを聞いたリーフがボソッと「キンザンさんは、酷いことはすると思う……」と、俺の顔を見ている。
心当たりが無いとは言えないため、申し訳ない気持ちになりながらも、エトランジュの動きを警戒する。
「バカなこと、言ってないで早く済ませるわよ? 2人を連れて帰りたいんじゃないわけ?」
「連れて帰るつもりだよ……ただ、殺すなんて真似はさせらんないんだよ」
「……」
「……」
「誰が殺すなんて物騒な話になるのよ? なに、アンタってば、想像がサイコパスすぎて……さすがに引くわよ……」
「いやいや、俺をサイコパス扱いすんなって、だってさっき、消すとか言ってただろうが!」
「言ったわよ? 名前を消さないと、こっちも天界に対して示しがつかないの、当たり前じゃないの? 何を慌ててるわけ」
「天界の常識なんか知らねぇよ! はぁはぁ……とりあえず、ナナカミに酷いことはしないんだな?」
「そうよ。えっと、名も無き神。こちらにきなさい。アナタに名前が与えられたのは嬉しいことだけど、天界はその流れを恐れたの、欠片として生まれたアナタも例外じゃないわ」
エトランジュはデジールの姿なのにも関わらず、凄まじい圧迫感と鋭い視線が向けられる。視線の先には立場の違いもあるのか、ナナカミは微動だにせずにただ、下を向いていた。
「アナタの名を天界の権限を借り受け、代行し、今行使します。拒否することは許しません……同意も求めません。女神として生まれた運命を受け入れなさい」
手を伸ばし、ナナカミの額に触れられた指、俺はその流れを見守ることしかできなかった。
心配していたが、意外にもあっさりとエトランジュは指をナナカミの額から外し、何事も無かったかのように「ふぅ」と息を吐き、俺に視線を向けてきた。
「ほら、大丈夫でしょ? あと、新しい名前を与えてあげなさい。アタシが与えると不味いから、アナタが最後まで責任を負いなさい! どら焼きに誓ったのだから!」
エトランジュのやつ、どら焼きを儀式の道具みたいにしてないか?
そんな考えと同時に新しい名前を考えることになり、俺は悩んでしまった。
悩んだことに気づいたのかナナカミが俺のズボンにしがみついてくる。その表情はどこか不安そうで悲しそうだった。
言うなら、風が吹いたら吹き飛ばされてしまうような印象すら感じてしまう。それでもしっかりと俺に掴まる姿、反対側の足にしがみつくリーフ、俺は2人を交互に見つめていく。
「なら、新しい名前はナズナにしよう、色々考えたけど、一番似合う気がするんだ。嫌かな?」
その場で向き直り屈んだ体勢で俺はナナカミに質問してみる。悩むような仕草を見せたが、小さく「名前に……その、理由とか……ある?」
純粋な質問に俺は少し照れくさいが、素直に教えていく。
「ナズナってな、植物の名前でもあるんだよ。その花は小さくて可愛い花を咲かすんだ。そして、ナズナはどんなに大変な土地でも生き残る強い生命力があるんだよ」
「あたしに……そんな風な力、あるかな……」とモジモジしながら、聞いてきたので、俺は言葉を続けた。
「それに、ナズナには薬にもなる優しい植物でもあるんだよ。リーフって名前も俺の故郷だと植物に繋がるから、お揃いになれるしな」
「リーフと? お揃い……」パァッと明るくなる表情に俺は最後の言葉をゆっくりと口にした。
「あと、ナズナには、“ナデナ”って呼び方が変化して、ナズナになったって話もあるんだ。撫でたいくらい可愛いなんてピッタリだと思わないかな?」
「あ、あたし、か、可愛い……かな」
こうして、話し合った結果、ナナカミが納得してくれたため、改めてナズナと名前が変更されることになった。
ドーナの時は、うっかりと名付けをしてしまったためか、今回の名前を決めるって行為は、本当に考え深い経験をしたと思う。
「しみじみしてるところ悪いんだけど、そろそろ、全員戻りなさい。名も無き神から、名を失った神になったんだから、この空間は消滅するわよ」
その言葉に俺は2人を抱える。よく見れば既にエトランジュを中心に魔法陣が広がり、光が点滅している。
「2人とも絶対に離すなよ!」
魔法陣に飛び込んだ瞬間、眩い光、僅かな浮遊感が全身を包み込むと同時に重量を感じながら、医務室の中で俺は目を覚ます。
俺が起き上がると、横に抱えていたはずのリーフの姿はなく、ベッドに横にされたリーフが確認できた。その身体は空間内で見た幼いものに戻っているのがわかった。
そして、俺の腕の中には小さくダークブルーの髪の毛を肩まで伸ばしたチビッ子、つまり、ナズナがしっかりとしがみついている。
リーフがすごい勢いで起き上がると、俺とナズナに向かって、涙を流しながら飛んでくる。
当然ながら、避けたら、リーフも怪我をするだろう、ナズナに激突しても、怪我をするかもしれない……
選択肢は1つだな。覚悟を決めた俺の腹部に、見た目がちんまりなリーフが飛んできて、盛大にボディープレスを体感することになる。
大人だから耐えられるかって話になれば、確かに耐えられるが、全力のボディープレスってやつを、動けない状態で食らうのはマジで話が違うんだよな。
「ぐふぉっ!」
綺麗に決まった一撃をしっかりと受け止め、2人を抱きしめて頭を撫でる。
「よかったよぉぉ、ナナカミ様がいるよぉぉ!」
「だ、だめだよ……鼻水と涙、キンザンしゃんについちゃう……拭かないと……あと、名前、ナズナになった……よ」
そんなやり取りを俺の腹の上でしている2人を見て笑ってしまった。
「あはは。2人とも、本当に無事でよかったよ。あ〜疲れた。でもよかった……」
俺達が戻ってからこんな感じだったからなのか、ヒヒ様が悪い笑みを浮かべながら「まるで親子だねぇ」と呟いた。
その言葉に反応したのはナズナだった。
「キンザンしゃんと……親子? 嬉しい……なら、ナズナとリーフのパパ……だよね?」
「リーフにも、パパが! いいんですか」
「だって、親子って……言われたから、それなら……凄く嬉しい……」
会話が俺を置いてけぼりに話が進んでいく。
逆に断れる雰囲気などなかった。
そんな時、エトランジュが会話に参加してくると、呆れたように言葉を掛けてきた。
「盛り上がってるけど、アタシも言わないといけないことがあるよね? 名も無き神、今はナズナだったわね? アナタはアタシの管理下になったわ。そこでなんだけど」
エトランジュはヒヒ様よりも悪い笑みを俺に向けてくる。
「アナタには、選択肢があるわ」
口にした選択肢は2つ。
1つ、エトランジュと共に行動を取り、随時監視下に置くやり方。
2つ、代理人に管理を任せ、全責任を負う代わりに、代理人と生活するやり方。
そして、俺が代理人に指定された瞬間、2人は俺の足にガッシリと掴まると「「パパッ!」」と口にした。
この瞬間、俺には血の繋がらない娘が2人できたのだった。
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