245話、暗闇の中のリーフともう一人?
リーフをベッドに寝かせるように言われ、俺はエトランジュに言われるがままに従っていく。
ただ、ここから何をするのかは聞いていないため、次の指示を待った。
俺の傍で、ミトロ大司教とヒヒ様が何かの魔法だろうか、耳馴染みのない長い詠唱を淡々と口にしている。
結局、この状況で俺とデジールだけがやるべきことが分からないでいた。
そんな時、ヒヒ様達の詠唱が終わり、それと同時に俺とデジールの足元が眩い光の円に包まれる。
目が開けられるくらいまで光が弱まった時、俺とデジールは互いの腕が光の鎖で繋がれていることに互いを見合わせてしまった。
「なんなんですかコレ! なんで、私が繋がれてるんですか?」
「落ち着きなさい、どちらかが危なくなったら、片方が必死に抵抗するように。デジール、そいつを絶対に連れ帰ってきなさい!」
エトランジュがゆっくりとデジールに告げると、次に視線を向けられたのは俺だった。
「アンタが始めたことに、この場の全員が協力してるんだ、デジールを絶対に連れて帰りなよ! てか、2人でちゃんと帰ってきなさい。いいわね」
エトランジュの言葉に俺とデジールが互いに視線を合わせる。
「返事は?」
「「はい!」」
「さて、話は決まったんだから、ちょちょいっとやるわよ! 取り敢えず、胸に手を当てて、目をつぶりなさい」
「え!」
「へ!」
互いに驚きながらも、俺は深呼吸をして、リーフの服の上に手を置いた。
無我の境地……無我の境地……煩悩退散!
俺がリーフの胸部に手を置いた瞬間、目を瞑ったままの俺は、突然走った耳に酷い痛みを感じ、目を開いた。
耳を片手で摘み、反対の手で拳を握るエトランジュさんの姿があり「誰が女の子を触れって言ったのよ!」と本気で怒られてしまった。
どうやら、自分の胸に手をあてるのが正解だったらしく、俺は状況判断を間違えてしまったらしい。
いや、あの言い方だと分からないだろう! そんな言葉は死んでも言えない鋭い視線が突き刺さるため、すべてを呑み込んだ。
「まったく、本当に男ってのは、仕方ないわね。早く胸に手を伸ばして、あと、こちらとあっちでは時間の流れが違うから、焦らなくて大丈夫よ。しっかり帰ってきなさい」
時間はこちらの一秒が一日っていう、逆浦島太郎みたいな流れ方らしい。ただ、そうなると本当にリーフの精神が心配になる。
次は間違えずにしっかりと胸板に手を当てる。それを見たエトランジュが頷くようにして、目を閉じたのを見て、俺も緊張しながら身構えていた。
「さぁ、いくわよ──魂の器を重ねていくから、リーフを想像しなさい。分かったわね」
すぐに言われた通りにリーフの顔を見て、目に焼き付けながら、頭にイメージを伝達していく。
少しSF映画で見たような光景が俺の目の前に広がっている。いや、SFファンタジーって言うのか? 映画のジャンルなんて分からないが、眠り続けるリーフを助けたいと強く願う。
次の瞬間には、俺は真っ暗な何もない世界に転がっていた。
情けない体勢で膝と頭が地べたについている体勢からゆっくりと手を伸ばして起き上がる。
「立ったまま、来たかったな……」
すぐに視線を左右に向け、俺のすぐ側に同じような体勢のデジールの姿があり、傍から見たその姿の情けなさに色々と考えてしまった。
起き上がり、俺の存在と視線に気づいたデジールが俺を睨みつけて「ガルル」と言わんばかりに怒りを顕わにするが、これは俺のせいじゃないため、八つ当たりにも程があるだろう。
「大丈夫か、手を貸すか?」
「大丈夫だよ! それより、ここはどこだよ、なんでこんなに薄暗いんだよ……私もエトランジュ様の世界に入ったことあるけどさ、こんな……」
デジールの言いたいことは分かる。俺も前にフライちゃんが女神の座を失った時に白い世界が黒く染まったのを経験している。
「これが、管理者としての立場を失った女神の部屋の成れの果て……いや、違うな、力を引き継いだ後の光景ってやつだな」
成れの果てなんてのは、落ちぶれた相手に使う言葉だが……確かに名も無き神ってやつはそうなんだろうが、フライちゃんが同じ世界にいたのに、落ちぶれたなんて、俺は口が裂けても言いたくない……
「本当にやな雰囲気、なんかこっちまで参っちゃう感じするわね」
「それには同感だな。早くリーフを探そう、そしたら、戻って全部解決だろうしな」
「そうね、で、戻り方ってどうやるの?」
「え、いやいや、エトランジュから、なんか聞いてないか?」
「エトランジュ様からは、何も聞いてないわよ?」
そこから互いに帰り方が分からない事実が明らかになり、俺達は少しの間、頭を捻ることになるが、今は考えるより、リーフ救出を優先することになる。
とりあえずは、身軽になるため、着ていた鎧をすべて外していくことから始める。
俺が鎧を脱いぎ、料理用の服装姿が顕わになると、なぜかデジールから、変なものを見るような少し悲しい視線を向けられたが、俺はこの服装(調理服)もだが、【調理器具マスター】が使えないと鎧なんかで戦えるわけがないんだし仕方ない。
「やっぱり、アンタって変なやつだよね……わかってたけど……」
「これが俺の戦闘着なんだよ。まぁ、理解して欲しいわけじゃないけどな」
しばらくして、暗闇の世界を無策に走ることになっていた。
軽く話した結果、まずは情報を手に入れようという結論に至ったからだ。
終わりが存在するか分からないこの空間をそんな風に進めば、ただ体力を失うだけになるだろうが、目的地が分からない今は走るしかないとデジールにゴリ押しされてしまった。
そのため、走りはするが、デジールに頼んで話せるくらいのペースに速度を抑えてもらうことにする。
「おい、デジール、どうするつもりだよ?」
「……」
「おい? どうしたんだ」
「ずっと思ってたんだけどさ! 馴れ馴れしくない! アンタと私は友人でも知人でもないんだからさ!」
その言葉に俺は急に距離感を間違えてた事実に気付かされる。
そうだよな……よくよく考えたら、俺はおっさんだし、若い子に馴れ馴れしいのはダメだよな……
「すまなかった。許してくれ、デジールさん。相談したいんだけど、話を聞いてもらえないかな?」
「……」
無視はさすがに心にくるんだけどな……
「いきなり、口調を変えるのやめろよ! なんか調子狂うじゃんか……今まで通りでいいし、自己紹介くらいしろって話なだけだし」
あ、この子、ツンデレだ……いや、ツンツンか? なんかミアとあった頃を思い出すなぁ。
「おい! 聞いてんのかよ」
「あ、悪い悪い、なら、改めてになるが俺は『フライデー』のキンザンだ。一応、調理クランのマスターとして活動してるんだ」
「はぁ! 調理クランって、つまり本当に料理人のクランなのかよ! ふざけた嘘つくなよな」
「いや、まじなんだが?」
「あのフライってのも、アンタの部下だってのかよ!」
「フライちゃんは嫁だな?」
「うわ、マジに引くわ……あんな子供を嫁とかアンタ最低だな……」
デジールから本気の嫌悪を向けられ、俺の心が砕けそうになるが、砕けたら、嫁を否定するみたいで嫌だ。
「フライちゃんは、子供じゃないし、俺もフライちゃんを愛してるんだよ。見た目で判断すると目が曇るぞ?」
そこからは、俺の発言に否定をぶつけるデジールからゴリゴリに心のHPを削られる時間になった。
おっさんはメンタル強くないと駄目なんだと改めて理解した。
そうして、走り続けた先に今まで何も無かったはずの空間に僅かに揺らめく人の姿が目に入ってくる。
天井がないはずの漆黒の空間で天から伸びる複数の真っ赤な鎖に体を支えられた少女──修道着姿に試合で見たその顔はリーフだった。
ただ、一つ違うのは、俺の知るリーフは成人していたはずの女性だったはずだが、目の前に鎖に体を預けて眠る女性は少女だと言うことだ。
俺が傍まで近づき、手を伸ばそうとした時、不意に声が掛けられる。
「触るな! あたしのリーフに触るなァァァ!」
声のする方向に視線を向けた時、俺の目に小人? と言いたくなるような黒いフードで顔を隠した女の子だろう存在の姿が入ってきた。
誰だ……なんで、リーフ以外の子がいるんだよ?
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