241話、屋台は美味しく、楽しく、元気よく?
最終日の第二試合までが終わり、次が午前中の最後の試合になる。
そして、俺はなぜかベリーの屋台を手伝い、鉄板と向き合ってヘラを必死に動かしていた。
「おーい! 旦那様! 次はヤキソバ3人前入るぞ!」
「マスター! ベリーちゃん、ヤキソバとスタミナ炒め、オクのみ焼き、全部2人前なの〜!」
「オッサン、できた商品から詰めてくよ、あと、ボクが運ぶからナギは会計をよろしく」
そう、俺は今、黙々と焼きそばとお好み焼き(オクのみ焼き)を焼かされている。
理由としては、俺が黒騎士だってことがバレたからだ。
なぜバレたかと言えば、フライちゃんとデジールの戦いを観戦し終わった直後まで話が巻き戻る。
△△──三十分前──△△
フライちゃんの圧勝で終わった試合、俺は改めて、その凄さを感じて身震いする中、膝の上に座っていたミア達がベリーの元に駆け出していく。
「ミア、どうしたんだ?」
「ん? ベリーとの約束でさ、ボクらは試合中が休憩時間なんだよ。だから今から屋台の手伝いってワケ」
「そうだにゃ〜、あんまり話せなかったけど、夜にまたお話するのにゃー!」
「ドーナはマスターといるの〜!」
「ダメだよ!」
「ダメにゃ!」
ミアとニアに連れてかれるドーナ、その時にまさかの発言が飛び出してしまったんだよな。
「むぅ! マスターとドーナには、誰にも言えない秘密の関係があるの、だから離れたりしないの〜」
なぜかドヤ顔で2人に視線を向けると、影から出した頭をポワゾンが容赦なく掴み上げる。
「ドーナ……それは素敵な、素敵なお話しですね? なら、ゆっくりと話を聞かせてもらいたいので、屋台を手伝いながら、聞かせていただくとしましょう……行きますよ」
「やぁなぁのぉぉぉーー!」
引きずられるドーナに俺があらあらと視線を向けると、ドーナが俺に助けを求めるような視線を送ってくるが俺は静かに頷いて見せた。
「いいから行くよ? ボク達も頑張るからさ」
「そうにゃ、働かないと、ご飯抜きだにゃ〜」
「マスター助けるの! ドーナが連れてかれちゃうの〜」
そんな3人に俺が「頑張れよ!」と手を振った瞬間、それに拗ねたのか、ドーナは大声で逆襲に出てくるなんて俺は考えもしなかった……
「助けてなの〜黒騎士〜! ドーナが連れてかれちゃうの〜!」
わざとらしく、だが、間違いなく“黒騎士”と口にしたドーナに慌てて立ち上がった瞬間、なぜか2人から睨まれ、ドーナはしてやったりと笑いやがった。
「どういうことかな、オッサン? とりあえず、話してもらおうか?」
「そうにゃ! 分かるように説明するにゃぁ!」
2人がドーナを離して、詰め寄ってくると、3人を呼びに来たポワゾンとミトも追い打ちを掛けるように話に乱入してくる。
結果的に誤魔化せず、黒騎士の正体が俺だとバレてしまった。
そんな話をベリーは笑いながら「私は最初から知ってたわよ?」と口にして、ドーナも加わり、軽い言い合いになり、結果……俺が悪いって話で収まった。
その為、試合中にも関わらず、俺は必死に熱い鉄板と向き合うことになった。
熱気とソースが絡み合う野外の戦場、俺がやるはずだった“揚げもんフェスティバル”を軽く思い出してしまう。
「あの時にもし、成功する未来があったら、こんな風にみんなに会えなかったんだろうなぁ……」
鉄板に流れるオーク肉の脂がジューっと音を出す中での呟き、改めて、俺は幸せなんだと感じていた。
「キンザンさん、手が止まってるわよ! オクのみ焼きの追加を急いで」
「悪い、すぐに二枚あがるよ」
「ふふ、なんか楽しいわね。夫婦で屋台なんて」
改めて、ベリーから“夫婦”と言われると少し照れくさい。
実際、俺は嫁が多いが、普通なら1人を愛すのが当たり前の世界から来ているため、夫婦って言葉を口にできないでいるからだ。
「なんか、照れくさいな」
「なに赤くなってんのよ? ほら、どんどん焼くわよ!」
俺達が必死に鉄板と向き合う中、リングでは、メフィスとウィル・アクシオンの試合が開始されている。
本来なら、応援の一つもしてやりたかったが、それも無理そうだな……
ミクロ・フォーノが元気に声を張り上げてるし、どちらにしても一方的な試合になってんのがよくわかるなぁ。
「ここで、メフィス選手が動いたァァァッ! 華麗な剣撃を寄せ付けず、回避に専念していたメフィス選手からの強烈な一撃だぁぁぁッ!」
一瞬の閃光が輝き、突風が吹き荒れ、屋台をペコとグーが大盾とガントレットで粉砕していく。
他の屋台は可哀想だが、ウチは無事だな。
「ほい、焼きそば3人前な。ベリー、ラビカラ揚げるの手伝うか?」
「大丈夫よ。ただ、スタミナ炒めのニラもどきが少ないわね? 頼めるかしら?」
「わかった。ミト、悪いんだが焼きそばの続きを頼む」
「仕方ねぇな、やってやるよ」
ニラもどきを刻みながら、再度、メフィスの攻撃魔法が炸裂すると粉塵が舞い上がる。
そんな粉塵をドーナの影がすべて包み込んでから、ドヤ顔を向けてくるので、俺も微笑み返していく。
試合自体はあっさりとメフィスの勝利に終わり、俺達の屋台版『フライデー』もしっかりと儲けさせてもらう結果になった。
「儲けておるようじゃな! キンザンよ。話はヒヒ婆から聞いたぞ!」
まさかの声が俺に向けられ、ゆっくりと振り向いた先には、ルフレ殿下とエオナ中佐、他数名の兵士の姿があり、俺は頭に“癒しの滴”というワードが浮かんでいた。
「ル、ルフレ殿下、あの……」
「あぁ、よいよい、責めたり、捕まえにきたわけじゃないのだ。それに余がいくら凄くとも、主と嫁らを相手に勝てる未来など微塵も見えんからな……」
渋い顔で、両手を組んでいるルフレ殿下がチラッとエオナ中佐に視線を向けるが、向けられた直後に首を左右に勢いよく振るエオナ中佐を見て、ため息を吐いていた。
「わかったであろう、メフィスも試合で同行しておらん今、お主らに喧嘩を売るなど、余だって死んでも御免じゃ」
「はは、なんかすいません、それじゃあ、なんで?」
「愚問じゃな、キンザンよ! 余は屋台の“ヤキスバ”と“オークの焼き”を食べに来たのじゃ!」
「殿下、ヤキソバとオクのみ焼きかと……」
「なに! 余が聞いていた名前と違うのか!」
ルフレ殿下とエオナ中佐の漫才のような会話を聞きながら、買いにきてくれた二品を手早く調理していくことにする。
「殿下? トッピングもありますので、先に会計をお願いできますか?」
俺の一言に、周囲の観客がざわめき、聞き間違えかと俺に視線が集中する。
「そうであったか、先に支払いをすればよいのだな? して、トッピングとはなんじゃ? キンザン、余に教えよ!」
「トッピングは、焼きそばなら、紅生姜、青のり、辺りで……オクのみ焼きなら、マヨ、鰹節、青のりって感じですかね?」
「よく分からぬ、エオナよ? 分かる名はあったか?」
エオナ中佐は首を横に振ると質問をして口にする。
「キンザン殿? そのトッピングとやらを無しにしたら、どうなるのですか?」
「トッピング無しはシンプルにソースのみかな、まぁ、美味いけど。全部のせでも値段は変わらないから、トッピング有りがオススメかな?」
「余は、全部のせじゃ! エオナも同じ物を頼むのじゃ! キンザンよ? 二つを半分に切ってもらえぬか?」
「え、できますが……」
「うむ。毒見をせねばならなくてなぁ、余としては、キンザンの料理に信頼しかないが、立場があるでなぁ、なので! 見た目はそのままに半分にしてもらいたいのじゃ!」
俺は笑いながら、焼いた二品を目の前でヘラを使って、半分にカットしてから紙トレーに乗せていく。
屋台の目の前に空いている席に座るルフレ殿下に「熱いからフーフーして冷まして食べてください」と注意も忘れない。
ただ、その発言にも周囲からはドン引きの視線と世間知らずに向けられる冷たいものを向けられてしまった。
まぁ、ルフレ殿下とエオナ中佐が互いに交換してから、冷ましながら食べた後の笑顔を見ることができたのでよしとしよう。無邪気な笑顔と“美味い”があれば、問題ないって話だよな。
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