238話、不気味なリーフ 下
本日二回目の投稿になります。
「見えた……ですか? 何がですかねぇ」
「お互いに探り合いみたいな会話にも疲れたからな、リーフ、お前の力は“言葉を反対にする能力”なんだろ……違うか?」
俺の言葉が正しいかどうかは、リーフの動揺と表情が教えてくれた。
「面白い推理ですね……言葉をですか? だとして、何があるって言うんですかね?」
「俺(日本時代)の上司に、嫌味をわざと逆さ言葉で言ってくる奴がいてな……似てんだよ、言い方も人も小馬鹿にするような態度もな」
「単なる、喋り方の癖で……ふふ、あはは、ははは、本当に退屈させない人ですね」
「認めても、認めなくても構わないさ、やるならしっかりとだよな。ブラック企業戦士の真骨頂ってやつだな」
再度、苛立ったような表情で睨みつけてくるリーフだったが、先程までの余裕がないのも理解できた。
「焦るなよ……リーフ、お前ならできるさ、誰もが認める最高の形で試合を彩るだろさ」
「な、貴方ほどじゃないですよ! 本当に扱い易い人なら苦労もしないんでしょうがね」
駆け出して、向き合いざまに魔物包丁を振り下ろすと同時に、リーフは悩まずに回避を選択する。
俺はそのまま、追い打ちを掛けるように振り下ろした刃を振り上げると遠心力を使い、横薙ぎに振り抜いていく。
「当たりそうですよ! 避けれないかと焦りますね……つまらない戦いになると思いませんか?」
「大丈夫だ。お前のスピードなら絶対に当たらないし、なんなら、反撃されたらって思うとヒヤヒヤだよ」
俺は言葉遊びを楽しんでいた。真面目な戦いの中で、楽しむ自分がおかしいことは重々承知しているが、リーフの力なのだろう、内側から湧き上がるワクワクが抑えられなくなっていた。
「ッ……反撃したいですが、当たりそうなんですよね、なので……」
リーフが語り終わる前に俺は「動けるのはさすがだな」と早口で返す。
その瞬間、僅かにリーフの動きが停止したのを俺は見逃さなかった。
脇腹に目がけての横払いがぶつかった瞬間、リーフが「あたる!」と恐怖に満ちた表情を浮かべる。
刃がわずかに触れた瞬間、空中を素振りするような感覚が腕に伝わる。
「ギリギリ避けられたみたいだな、でも急ぎすぎじゃないか!」
避けたはずのリーフが再び、動きを鈍らせた瞬間に、追撃を掛ける。
「な、あ、うわぁぁ!」
リーフが喋るより先に、俺の刃が地面を抉る。
「大丈夫だよな? 得意の話術が使えるか知らないが、まだまだだな」
「なんで、なんで、裏返らない……オマエの言葉はなんなんだよ!」
「知らないなら、教えてやっても構わない。役に立つか立たないかも関係ない……これは“イヤミ”だよ」
単純な話だった。俺が違和感を感じていた正体は、他人からのイヤミだったんだ。
知らない人間や浅い仲の人間からのイヤミは嫌になるよりも、不快感や違和感を感じる。
俺が上司から言われ続けた褒めるタイプの嫌味をわざわざ、思い出させてくれたリーフには、トラウマ級のお仕置きが必要だろうし、ウルグにしたことも考えたら、やはりやるしかないだろう……
今だけは、罪悪感も人としての尊厳も捨ててやるよ!
「まだ、やれるんだろ? それとも、さっきまでのが全力だったなんて言わないよな?」
「バカにするなよ……」
すぐに立ち上がったリーフが両手に拳を握る。
「弱すぎる自分の拳が嫌で嫌で仕方ないよ……鉄も貫けないし、骨も砕けるかもしれないです……痛みも耐えられないかもしれません!」
言葉と裏腹に笑うリーフ、ただ、その言葉が【スキル】を発動中だと俺に確信をくれた瞬間だった。
「言葉遊びってのは、こうやってやるんだよ──“強がってチビんなよ?”ってな」
一瞬で、リーフの表情が赤面していき、足がビクついていくのが分かった。
それを合図に、リーフの拳が下半身を隠すようにシャツを下に引っ張り震え出す。
一雫の水滴が、リングに広がった瞬間、【ストレージ】から白煙を取り出して俺とリーフを覆い隠すように展開させる。
「……来るな、来るな……見るな、バカ……」
震えた声に俺を止める力はない。
「どうだ? 感情や身体の自由を奪われた感想は? 自分が自分じゃなくなるみたいだったんじゃないか?」
俺は自分自身が、リーフを一瞬でも好きだと感じた瞬間に違和感と混乱を感じながらも、間違ってないと信じきっていた事実を思い出しながら、言葉を続けた。
「わかっただろ……お前の力は強すぎるんだよ。凄い力なのも理解してやりたいが、人を弄ぶ力ってのは、危険なんだ。少しは反省しろ?」
リーフの足元に【ストレージ】から粉塵の粉を取り出して撒いてやる。
少なくとも俺以外には、リーフの醜態は晒されないだろう。
「ふ、ふざけないで……こんな、ごんなごとして……許さないんだから……」
次第に白煙が消えると向かい合う形になった俺達の姿がリングに現れる。
その時、リーフが再度スキルを使用したのか、口を開く「アンタは──」と口にした瞬間だった。
「これはいったい! 両者無傷でリング中央での睨み合いだ! あの白煙の中での痛み分け!」と、大音量のマイクパフォーマンスが割り込んできたのだ。
「え?」
「は?」
俺達は同時に、声を出していた。いや、その言葉すら、互いに向けたものではない、場外に向けて吹き飛ばされる自分達に向けた言葉なのだから。
次の瞬間、俺はひどい衝撃が全身に走り、背中と頭部をフライパンで全力で殴られたような痛みの中で意識を失った。
最後の瞬間、耳に響いた声を俺は忘れないだろう──
「両者場外! まさかの勝者なしの引き分け試合になってしまったぁぁぁッ! 前代未聞の番狂わせ、誰が想像したのか女神の悪戯、2人仲良く敗北だぁぁぁ!」
─────
───
──
俺が目を覚ましたのは医務室ではなく……ヒヒ様と他数名の回復師が待機する別室だった。
ベッドの横に視線を向けると、リーフも同様に横になっており、何がなんだか、理解できない状況に困惑してしまった。
「ヒヒ様? これはいったい?」
問いかけに対して、冷ややかな目を向けてくるヒヒ様がゆっくりとこちらに歩いてくる。
「ったく、アンタって男は、はぁ……いや、まずはアンタは負けた。その事実を教えておくよ」
「はい、最後の瞬間にハッキリと聞こえてたんで、ミクロの奴が敗北を宣言したのはわかってます……」
「なら、話が早いね。まったく、アンタの負けが意味することが分かるかい?」
ヒヒ様の言葉に俺は下を向くことしかできなかった。
「すみません……“癒しの滴”まで使ってもらったのに……」
「そうじゃない……アンタは大穴の筆頭だったんだよ、たく、アンタに賭けた掛け金がパアだよ! アタシは損するのが嫌いだってのに……ったく」
ん? 負けたことを怒ってるのは間違いないが、理由がなんか……
「あの、派閥的に負けたから、怒ってるんじゃないんですか……?」
「ん? 派閥的にって、最初からアンタが優勝するとは考えてないよ。ただ、次の試合までは勝つと思ってたがね、それよりも、あの娘についてだ」
ヒヒ様がリーフに視線を向ける。
「アンタらが意識を失った途端、医務室から知らせでね、ウルグって狼娘が正気を取り戻したらしいって話さ、いったい、何が起きてんだい?」
「それについては、大会後に話す形でもいいですか? 今は俺にも色々と分からなくて」
「はぁ、わかったよ。ただ、あのリーフって娘は、アタシが預かるよ。文句はないね?」
ヒヒ様に言われた言葉に俺は仕方ないと思いながら、頷いた。
第一試合
✕──黒騎士──◆対◆──リーフ──✕
第二試合
◆──フライ──◆対◆──デジール──◆
第三試合
◆──ウィル・アクシオン──◆対◆──メフィス──◆
残る試合は蓋を開けてみれば、二試合となっていた。幸か不幸か……俺とリーフがダブルアウトした結果、まさかの試合そのものをシンプルな形へと変化させてしまっていた。
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