237話、不気味なリーフ 上
午前の試合後に大会運営側から、午後の試合に関する追加内容が発表された。
その内容に俺をはじめ、参加者が目を疑った。
確認した対戦カードには、午後の第一試合が俺とリーフになっていた。
第一試合
◆──黒騎士──◆対◆──リーフ──◆
第二試合
◆──フライ──◆対◆──デジール──◆
第三試合
◆──ウィル・アクシオン──◆対◆──メフィス──◆
しかも、第一試合と第二試合の勝利者が戦った後に、第三試合の勝者と戦う形でトーナメント表が作られている。
発表されたトーナメント表を見て、会場内からは声が漏れ出していた。
「見ろよあれ……王族派の代表と教会の代表に有利すぎるよな」
「しーっ! メフィス様は前回の優勝だから、分かるけど、負けたウィル様があの位置はおかしいわよね?」
「同じ教会派でも、権力の差ってやつだろうな……」
「どちらにしても、最終試合はメフィスに決まりだろうがな」
そんな声に俺も同意だ……と言っても、十中八九、メフィスは巻き込まれた側だろうなぁ……
あの堅物は、面倒を避けるが、楽だからって、ズルをするタイプじゃないだろうしな。
“噂をすれば影”なんて言葉があるが……メフィスが俺の元にやってくる。
その表情ときたら、徹夜で並んで買おうとしたゲームが自分の目の前で売り切れた時の転売ヤーくらいには、怒りに満ちているように見える。
「顔が怖いぞ?」
「分かりますか……えぇ、分かりますよねぇ、我輩の怒りが! あのような無様な対戦表に刻まれた卑怯にして、無粋な策に名を使われているのですからねぇ!」
「落ち着けって、天下のメフィスさんが、イライラでそんな表情してたら、ルフレ殿下が心配しちまうぞ?」
「わかっていますとも! 我輩は謝りに来たのですよ。貴方方が真剣にやるべきことを成すために参加した大会をこんな形で汚してしまっている事実を」
「はぁ、真面目だな……俺の目的は少しずれたから大丈夫だよ。さて、試合前に一服してくるよ……負けられない戦いってやつだからさ」
「貴方がそこまで口にしますか? 珍しいですなぁ……」
「俺は油断して何回も煮え湯を飲まされてるからな、でも、今回は逆にしっかりと調理してやるつもりだ。俺の故郷には、“食らわば皿まで”って言葉があるからな」
「意味がわかりませんが、一つ忠告を差し上げましょう、あのリーフという女は女神フライに似た何かを持っているように感じますなぁ」
「お生憎、俺もさっき似た話を聞いてきたばかりだ。だからこそ、しっかり見極めて、捌いてくる──なんてな」
試合前の控え室で鎧を着てから、煙草に火をつける。
俺は1人、リーフとウルグの試合を思い返していた。
「なんで、あんな言い回しをしてたんだかな……強い奴の思考回路ってやつは本当に謎だらけでイヤになるなぁ──ふぅ……」
俺の中で引っ掛かるのは、ウルグがなんでいきなり、弱くなったように感じたかだった。
調理用ゴーグルをつけないまま観ていた試合だったが、それでも目で追える試合だったことは間違いない。
むしろ、闘志を奮い立たせた戦士が弱くなるなんて、あるのだろうか……
どんなからくりだよ……
わかんねぇなぁ……
煙草が三分の一まで吸い終わると同時に、試合前の鐘が鳴らされる。
俺は吸い殻を“リサイクル袋”に入れると頭にヘルムを被り、ゲートへと向かう。
大歓声に迎えられながら、リングに向かうと既にリーフが中央で俺を待ち構えていた。
「やっと来ましたね。貴方がまた、時間を守らないんじゃないかとヒヤヒヤしてましたよ」
軽い口調で笑みを浮かべるリーフ。
俺はその無邪気にも見える笑みを浮かべる少女を全力で倒すために、ない頭をフル回転させていた。
「無言ですか? 悲しいなぁ、戦うならお互いに本気になってやらないと、貴方が勝てるようにね……」
やはり、違和感しかなかった。なんでコイツは自分が負けるかもしれないって言い方をしてくるんだ?
まるで、何が起こるか予想できてるみたいな喋り方が本当に嫌いな上司にそっくりで嫌になるんだが。
「さぁ、試合を楽しみましょうか、御強い貴方なら、きっと私を驚かせてくれますよね?」
「無駄話はここまでにしよう……俺は俺がやれるだけのことを普通にやるのみだからな……」
「無駄話ですか、悲しくなりますねぇ? 楽しむことは素敵ですよ。貴方はきっと私よりも強いでしょうし」
リーフの言葉は相変わらずだったが、俺は試合開始の合図を待ち、鐘が鳴らされたと同時に距離を取られる前に魔物包丁を握った手で速攻を仕掛ける。
距離が近い状況での斬撃、避けられても踏み込めば、勝機が見えるだろうと切りかかった瞬間だった。
俺の握った魔物包丁から、重量という概念が消え失せたように軽くなっていた。
「びっくりです! こんなに重たい物を私だったら、そんな風に扱えませんよ。持ち上げることすらできないです」
軽々と指で掴む様子はウルグの試合を再現しているようにすら感じられた。
その表情に浮かぶ笑みがニンマリと口角をさらに押し上げ、まるで飲み込まれるんじゃないかと錯覚するような恐怖を背筋に感じさせる。
「武器を離して逃げないんですか? 武器が無いと勝てませんもんね? 凄い力ですね……怖くて泣きたくなりますよ」
なんだ、腕の力が、魔物包丁を握る手が痺れてきやがる……
「何もしてないって顔して涼しげだな! さっきから、俺を怒らせたいのか?」
俺の問い掛けに初めて、リーフが余裕を浮かべていた表情を変化させた。
苛立ちからなのか、少し呼吸が早まっているように見えるが、俺はそんなリーフが不可解で仕方なかった。
「ははは、熱くなりすぎましたね、判断を間違えたかと思いましたよ。貴方の話を聞いているとうっかり、負けてしまいそうです」
ただ、単純な押し合いになっていた戦況が僅かに動き始めていく、最初は驚かされたが次第に痺れが無くなり、力が戻っていくのがわかる。
「なんなんだ、お前!」
「なんなんだって? 何の話ですかねぇ、分からないことも分かれば結果的に助かるんでしょうが……勝機はきっと見つかりますよ」
「それだよ! その喋り方だ! なんでそんな面倒な言い回しをしてくるんだって聞いてるんだ」
「気になりますか? 戦いを止めてまで知りたいのですか? もし貴方が勝利したならその時にでも話すかもしれません、貴方が勝てればですが……」
そう口にした瞬間、今までと違うリーフからの鋭い動きによる拳が俺に向けて放たれる。
片手に武器を握られた状態からの拳にも関わらず、ありえない速度と力により、鎧を次第に歪めていく。
そして、ただ笑うだけのリーフは先程までの軽口が嘘のようになくなり、俺に向ける瞳は恨みがわしいものに変化している。
リーフの拳が俺に命中すると同時に魔物包丁を一度、【ストレージ】にしまう。
勢いのまま、リングの中央から端ギリギリまで飛ばされた俺は既に後がないことを悟っていた。
諦めたくない気持ちが悔しさでいっぱいになるも、今俺がやるべきことは“ただ一つ”だと理解していた。
情報収集と次に繋げるための一手を手に入れる、それだけに俺は集中する。
「あれれ? また黙りですか? 私と喋るのが嫌ですかぁ〜? それとも、私が嫌いで嫌いで仕方ないんですかねぇ、あはは!」
嫌いで嫌いでって、好きだからに決まっ──なんで、俺が、リーフを好きだなんて、思ってんだよ……
「どうされました? あ、もしかして、憎しみすぎて、頭が冷静になりすぎましたかぁ〜 なんなら、黒騎士様が勝ちを宣言してくれても構いませんよ?」
「俺の負けを──」次の瞬間、俺は自分の顔面に全力で拳を叩きつけていた。
「な、何をしてるんですか! アナタ……」
「やっと……少しだけだが、見えたよ……」
考えを口にせずに、そう語った瞬間、リーフは忌々しいモノを見つめるような視線を俺に向けてきていた。
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