235話、リーフ対ウルグ、不気味なリーフと緊急事態
ニアの涙をしっかりと受け止めながら、前半戦となる残り二試合を眺めていく。
相当悔しかったんだろうことは口に出すまでもない。
観覧席に移動する形になった俺達は、ベリーが行う屋台までやってきていた。
屋台は昨日と違いベリーが1人で回しているようで、他の嫁ちゃん達の姿はなかった。
「何キョロキョロしてるのよ?」とベリーが声を掛けてきたので、俺はニアと合流して、様子を見に来たことを伝えた。
「みんなはどうしたんだ?」
「皆は、ミアの様子を見に行ってるわよ。メフィスの奴、絶対に許してやらないんだから!」
ラビカラのスタミナ炒めを苛立ちながら作るベリーに何も言えなかったが、とりあえず、ミアが無事である事実をしっかりと伝えていく。
ただ、ベリーは既にミアの無事は知っていたため、あの時、医務室からはフライちゃんの声のみが聞こえてたけど、もしかしたら、その時には、みんなもミアの様子を見に行ってたのかもしれないな。
「ニアは残念だったわね。でもあの戦いはしょうがないわね」
「にゃにゃ……ニアが弱いから負けたのにゃ……」
「何言ってんのよ? あんなスピードの攻防を会場に見せつけて、弱いもヘッタクレもないじゃない。私なんか、途中から目で追えなかったもの」
「にゃ? そうなのかにゃ!」
ベリーに視線を向けたその瞳が次に、こちらへとスライドする。
しっかりと頷いて、嘘偽りなく声にして伝える。
「確かに“調理用ゴーグル”でも、最後の方は追えなくなってたな。そんな攻撃に対応して、さらに反撃までしたんだから、ニアはすごいと俺は思うんだよな」
素直な感想だった。しかも、目で追えたとしても、その攻撃速度に俺だったら、反射速度的に追いつくなんて無理だ。運動神経も瞬発力にしても、絶対無理だろう。
だから、シンプルにニアはすごいと口にしているんだろうな。
そうして、ニアの笑顔が戻ってくると同時に、リーフとウルグの試合が開始された。
試合を見ながら自分の目を疑う事になる。
大剣を振り下ろすウルグの力強い一撃、そんな鉄の刃をフードから見えた細腕で軽々と指で摘んで見せたのだ。
俺が最初に出会った頃に感じたリーフの印象は、弱々しく、逃げることに必死な女の子ってイメージだったように感じていた。
ただ、今のリングに立つ彼女は、つかみどころのない不気味な存在に映ってしまって仕方ない。
そして、目の前で起きている現状がその考えが正しいと示すように、リーフ有利の試合展開になっている。
「ふざけんなッ! なんで、う、動かねぇんだよ!」
声を荒らげながら、大剣を押し込もうとするが、その掴まれた切っ先が動く様子もなく、まるでウルグが手を抜いているんじゃないかと疑いたくなる程だった。
「やめませんか? あの、アナタだと、あまり言いたくありませんが、多分……私の力には敵わないと思うんですよね……」
挑発にも似たその言葉にウルグの眉間がピクつくと、大剣が僅かに押し込まれるようにして動いていく。
「ちょ、本当に諦めが悪いですね、勘弁して貰えませんか? 無駄に力を使いたくないんですが、やっぱり難しいですか?」
「たりまえだ、ボケッ! 狼人族の誇りにかけて、アンタは……ぶっ潰して、生意気なその口を聞けなくなるようにしてやるからな!」
歯を食いしばり、睨みつけるような眼光を向け、その額を大剣に向けて、自ら叩きつけていく。
「ウチら、狼人族は石頭なんだよ! うらァッ!」
大剣に頭突きの威力が加わる度に、間違いなく、リーフの掴んでいた指から大剣が少しずつ押し込まれていく。
「危ないじゃないですか……何を考えてるんですか? 私が負けちゃうじゃないですか〜ふふっ、形勢逆転ってやつですか?」
「当たり前だ! アタシらみたいな連中は、力しか信じないし、なんなら、話し合いなんてのが大嫌いなんだよ!」
更に強い頭突きで大剣を押していく姿に俺は言葉を失ってしまった。
額からは、既に流血があり、痛々しい姿が会場全体に伝わるのがわかる。
「意味がわかりませんよ、なんでそんなに頑張るんですかねぇ、これじゃ、私が負けちゃいますよ」
「負けやがれ、不気味やろうが! アタシが絶対に勝てるって信じてるからに決まってんだろうがァァァッ!」
ウルグの叫び、ただ、次の瞬間、俺も会場で試合を見つめる観客にも理解できないような光景が広がっていた。
先程の言葉がまるで嘘だったように、ウルグが押され始め、大剣の一振一振がまるで、力を失ってしまったんじゃないかと疑いたくなるほど、リーフにあしらわれていく。
横薙ぎ、振り下ろし、切りつけ、すべての斬撃という斬撃が通用しないとわかったウルグが最後に見せたのは、大剣を捨てた肉弾戦だった。
掴みかかると同時にウルグが鋭い牙を全力でリーフの肩に突き立てる。
「凄いですね……獣かと思ったら戦士ですもんねアナタに敗北はありませんよね、怖いですねぇ」
そうリーフが口にした瞬間、ウルグの牙や歯という歯が突然、吹き飛ばされる。
自分でも何を見ているのか、なんでそうなるのか、分からない恐怖が背筋を凍りつかせていた。
慌てて駆け寄るミクロ・フォーノが、ウルグの状態を確認すると、すぐに首を横に振る。
「試合続行は無理ですね、勝者はリーフ選手! すぐに回復師を! ウルグ選手を医務室に!」
そんな声が俺の耳に入ってきて、我に返る。
ウルグは間違いなく優勢に戦える状況に試合を持っていっていたはずだ……なのに、いきなりあんな……
俺の中で腑に落ちない疑問が無数に思考を支配していた。
確かに、最初はリーフに驚かされたが、その後は、ウルグが大剣で押していたはずだった……何が起きたんだよ!
考えながらも、俺はベリーにニアを任せて、医務室へと急いでいた。
ウルグが死なないのは、分かっているし、傷も塞がる。
むしろ、試合前と変わらない状態であることは過去の試合が証明しているのに、嫌な胸騒ぎが収まらなかった。
医務室には、ミア達がいたが、入って早々に暗い表情を浮かべている。
「ミア、すぐに来れなくて、悪かった。みんなもごめんな、あとウルグが来なかったか?」
「オッサン、すぐに来なかったのは、ドーナから、色々してたって聞いたから大丈夫だけどさ……ウルグの奴、どうしたんだよ……」
ミアのただならぬ雰囲気に俺は不安がさらに増していく。
「ウルグがどうしたんだ?」
嫁ちゃん達が、視線を向けた先には、カーテンで仕切られたベッドがあり、そこでは回復師達が慌ただしく、回復魔法を掛けていた。
「なんでだよ! 傷は治るんじゃなかったのかよ……」
「あ、オッサン……違うんだよ、あの人達は傷を治してるんじゃなくて、ウルグを治そうとしてるんだよ」
言葉の意味が分からなかった──だから、俺はカーテンに手を掛けてゆっくりと中を確認する。
ベッドの上では、ウルグが幼い子供のように泣きじゃくっており、あまりの声に防音の魔導具が設置されている状態だった。
「おい、なんだよこれ……」
そう口にした瞬間、すぐ側で俯く2人の狼人族が視界に入る。フェイとファンだった……。
姉と慕うウルグの変わり果てた姿に身を震わせて動揺しているのが分かった。
「なんでこんな……」
つぶやいた言葉に背中側から返事が返された。
「きんざんさん、これは多分ですが、わたし達側の力だと思います」
小さな呟きはフライちゃんの声だった。
・第一試合〇──フライちゃん 対 ポワゾン──✕
・第二試合〇──メフィス 対 ミア──✕
・第三試合反則負け✕──ドーナ 対 黒騎士──〇
・第四試合✕──ニア 対 デジール──〇
・第五試合〇──リーフ 対 ウルグ──✕
・第六試合◆ウィル・アクシオン 対 アタンティフ・ヴァールハイト──◆
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