233話、ドーナ 対 キンザン 視線の矛先
いつも、読んでいただきありがとうございます。あまり前書きを入れるのはあれですが、大会編も中盤が終わり、皆様に支えられている事実に改めて感謝致します。
医務室にミアを運ぶ俺の前に、ヒヒ様が部下の回復師数名を連れて現れた。
「その場でいいから、娘を寝かせな! ここからはアタシらが引き継いでおく、まったく、無茶するねぇ」
ヒヒ様がそう口にすると回復師達が床に布を広げていく。
そっと腕の中で気を失ったままのミアを寝かせていく。
「すまないが、頼みますヒヒ様……ミアをどうか……助けてください」
「安心しな! アタシらは回復を生業にしてるんだ。むしろ、あのリングは死人は出ないからね。よく見てみな、傷がないだろう?」
そう言われて、俺は布の上に寝かせたミアを見つめる。
冷静な判断ができなかった俺はミアの傷がなくなっている事実をその瞬間に理解した。
忘れていた事実に気づき、泣きそうになる自分がいる。
本当にミアが死んじまうんじゃないかって、不安で仕方なかった。
「だから、あとは任せな。アンタは試合に勝って、メフィ坊に一発かましてやんな。勝ち進めれば当たるだろうからね」
ヒヒ様に背中を押される形で俺はただ、頷くとゲートへと向かって進んでいく。
絶対に勝って、メフィスにこの怒りをぶつける。試合だとか、仕方なかったとかは、なしだ! これは俺が小物だからこその八つ当たりに他ならないからだ。
そう思ってリングに進む俺は忘れていた。俺の対戦相手は、ドーナだった。
「遅いの〜! なんで試合を待たないとダメなのーーー! 来ないなら、ドーナの勝ちなの!」
「いやですから、そのまだ、時間的にですね、勝利報告するには、開始からある程度の時間が過ぎないといけない大会規制がありまして」
試合開始が既に宣言されていたようで、リングでは、待ちくたびれたドーナがミクロ・フォーノ相手に怒りを爆発させている真っ最中だった。
ゲートからリングに移動すると俺はドーナに向けて、頭を下げるような仕草をする。
「遅れて悪かった。許してくれ」
俺の姿と謝罪の言葉が言い終わると、ドーナが両手を組んで睨みつけてきた。
「ふん、ごめんなさいが言えるなら許してあげるの! マスターもごめんなさいができたら、許してあげなさいって絶対に言うから、マスターに感謝するといいの!」
なんか、自分に救われたらしい。ただ、その言葉を覚えて学習しているドーナが偉いと思う。
「ありがとうな。ドーナ」
「アンタに呼び捨てにされても嬉しくないの! マスターに見てもらいたいから、黒鎧と早く戦わせるの!」
黒騎士姿の俺に気づかないドーナから軽く心にダメージをもらいながら、俺とドーナの試合が開始される。
そう思っていたが、ミクロ・フォーノが最初に告げたのは、俺への注意だった。
「試合開始前に、黒騎士選手に大会運営側より、注意が入ります」
ざわめく会場すべてに聞こえるように紙に書かれている内容をミクロ・フォーノが読み上げていく。
「大会側としては、度重なる、乱入行為に対して、これ以上繰り返す場合は、大会規制により、参加の取消しとする。死なないための措置を有したリングでこれ以上の勝手をしないように──とのことです……」
俺はなぜか、反省よりも、“死なないんだから黙って見ていろ”と、ミアの試合を止めたことが間違いだと言われた気がして、怒りが込み上げてきていた。
「本当に死人が出ないんだな?」
そんな問い掛けを、俺は大会運営側が待機する上段を見上げて口にしていた。
上段から顔を出した男が身を乗り出すようにして、俺を睨みつけてくる。
「キサマ! 何度も大会のルールに違反した挙句、許された事実に感謝どころか、今の質問とは、失礼であろう!」
「俺は本当に死人が出ないのかを聞いているんだ!」
「出るわけがなかろう! リング内にいれば安全は守られているのだからな!」
「そうか……」
俺はたぶん、冷静じゃない。むしろ、試合の雰囲気にあてられてるのか、ミアのことを放置してろと言われた事実に怒っているのか、それも分からなかった。ただ、一つ言えるのは、我慢の限界だということだった。
「悪い、ドーナ……アイツをリングに引っ張れないか」
「なんで! ドーナがそんな真似しないといけないの!」
「頼む、ミアを助けた事実を無視しろなんて、言う奴を許せないんだ」
後に気づくが、やはり俺は冷静じゃなかったらしい……なんせ、黒騎士の姿で俺は、キンザンとしてドーナに語り掛けていたんだからな。
「なんなの、なんなの! 本当にわけが分からないの! アァァァ、イライラするの〜! アイツをリングに連れてきたらすぐに戦うの!」
「約束する。頼むよドーナ」
「ドーナを呼び捨てにしていいのは、家族のみんなだけなの!」
怒り心頭のドーナが影を伸ばす。伸ばされた影が会場の上段にいる大会運営の席まで伸びていく。そして、俺に対して、声を上げた男の体まで届く。
次の瞬間、男が浮かび上がる。正確には、影に掴まれてリングまで引きずり出されていく。
「な、なんだ! や、やめろ、うわぁぁぁ!」
突然のことに情けない声を上げる男、そんなことなど知らないと言わんばかりにドーナは男をリング中央、つまりは俺とドーナが向き合うど真ん中に連れて来てくれた。
「貴様ら! 大会運営を任されている私に向かって、こんな真似をしてただで済むと思うなよ!」
「悪いな、俺はこの行為で出場停止になっても構わない。ただ、ミアを助けたことを否定されて怒ってるだけだからな」
俺の言葉に大会運営の男は鼻で笑うと睨みつけるように視線を向けてくる。
「わかってないようだな! 今、お前が何か問題を起こせば、コロシアムを守るために配備された王国騎士団と教会の聖騎士を同時に相手することになるんだぞ!」
「だから、認めろってのか? ミアを見捨てるのが正解だって、認めろって言ってんのか!」
「ひっ! だ、誰か助けを、この男を取り押さえろ!」
その声と同時に俺も自分の出せる最大の声量で声を出していた。
「ミアの傷ついた姿を見て! 黙って死なないから、意識のない状態でも見てろって奴がいるなら、出て来い! 本気ですり身にしてやんぞ!」
「……」
「……」
すべての音が消え去っていた。むしろ、僅かな音すら、俺を否定するんじゃないかという空気が一瞬で、リングから会場のすべてに広がって行くような雰囲気に、ただ、静寂がこの場を支配していた。
「アンタは言ったな? 死なないから見てろって……なら、死なないから、俺が何にしても問題ないよな?」
俺は即座に【ストレージ】から魔物包丁を取り出すとその武骨な鉄の塊を天高く放り投げる。
「──具マスター】、解除」と呟く。
先程まで軽々と放り投げられていた魔物包丁が本来の重量を取り戻すと同時に、風を切り裂きリングに突き刺さる。
激しい落下音と共に男のいた位置から数メートル先に突き刺さり、リングに亀裂を作り出す。
「あ、ああ、アァ……」
「怖いだろ? 死ななくても、当たれば痛いし、死ぬ程怖いよな……それでも俺の行動を否定するなら、次は当てるぞ?」
そこまで口にして、なぜか、ドーナが俺の前に立って、両手を広げる。
「ダメなの、ドーナが負けでいいの。だから、マスターは、それをやったらダメなの」
小さな声だった。俺にだけ聞こえるような小さな囁きでそう口にした。
「……悪かった。ごめんな、だから泣くなよ。もうしないから」
「うん……マスターは、そんなことしたらダメなの」っと口にしてから、ドーナは「ドーナは負けましたなの!」と宣言をする。
誰もが状況を理解できないまま、次にドーナが行ったのは、口にするのもおぞましいような男へのお仕置きだった。
ミクロ・フォーノもマイクを使っていないため、俺とお仕置きされている男だけに聞こえた一方的な会話。
「アンタがマスターを怒らせるからなの! 悪いやつは嫌いなの! 嫌いなの! 嫌いなのォォォ!」
さすがに数回目のクラッシュで俺はドーナを抱えて、リングを後にした。お仕置きされた男は悪夢に魘されるだろうが、正直、ざまぁっと思ってしまう俺も同罪だな。
・第一試合〇──フライちゃん 対 ポワゾン──✕
・第二試合〇──メフィス 対 ミア──✕
・第三試合反則負け✕──ドーナ 対 黒騎士──〇
・第四試合◆──ニア 対 デジール──◆
・第五試合◆──リーフ 対 ウルグ──◆
・第六試合◆ウィル・アクシオン 対 アタンティフ・ヴァールハイト──◆
読んでくださり感謝いたします。
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