231話、試合開始。フライ 対 ポワゾン
会場からミクロ・フォーノの声が飛び交う最中、控え室に兵士がやってくると「リングへお願いします」と告げられる。
ゆっくりと兵士の後ろについて、通路を進み、リングに続くゲート手前で止まり、自分が呼ばれるまで待機する。
待機している間も俺の正体を知らない嫁ちゃん達からは警戒と敵意の視線が向けられるため、本当に心が折れそうになる。
試合前から別の意味で、ハートブレイクしそうなんだよな……
そうして、次々に試合を勝利した順に名前が呼ばれ、最後に俺の名前「黒騎士」が呼ばれる。
深呼吸してから、ゲートを抜けリングに上がる。
昨日同様の、いや、それ以上の熱気に包まれた会場から鼓膜を震わせるような声と声援が混ざり合っていく。
さながらビッグアリーナや武道館のライブにでも紛れ込んでしまったんじゃないかと錯覚する。
大歓声に見守られながら、選手としてリングに立つと選手紹介が簡単に行われる。
嫁ちゃん達とウルグが王国派でも教会派でもなく冒険者ギルド側でもない事実に会場がざわめいた。
ちなみに俺はと言えば、ヒヒ様の派閥として紹介されることになった。
それとは真逆にフード姿の女性が名前をリーフと名乗り、教会派の大司教である1人、ミトロ・ジーア派の選手だと会場に告げていく。
それには嫁ちゃん達も驚きを顕わにしていたが、何よりも俺達が王都に向かった際に先に向かうと口にしたリーフから強さは感じなかった。
ただ、現実は逆で強者として大会のリングにリーフが立っている。
「考えるだけ、アレだな。さて……問題はトーナメントの第一回戦だな」
フライちゃん対ポワゾン戦だ。
この2人は普段から、争うようなことはしないし、なんなら喧嘩すらしない。
さらに言えば、戦闘スタイルも近接型がフライちゃんで、基本が遠距離の万能型がポワゾンって感じだろう。
「さァ! 皆様、お待たせいたしました……今より、トーナメント第一試合の開幕だぁぁぁッ!
最初の対戦カードは、麗しき美少女、フライ選手!
対するは、メイド姿で登場! 私も含めて、リングのすべてを痺れさせる冥府のメイド、ポワゾン選手!」
2人がリングにあがり互いの顔を確認していく。
予選と言っても過言じゃない大会一日目は、控え室で待機していて見損ねたため、今回は見逃すわけにはいかないな。
向き合った2人が軽く挨拶を交わすとすぐにフライちゃんが戦闘態勢に入る。
最初から錫杖を取り出し、片手を前に後ろ手に握り、足を前にするといつでも踏み込めるように姿勢を低くする。
それに対して、ポワゾンはいつもと変わらずに姿勢を正すと両手を伸ばして、初撃を誘っているように見える。
緊張の幕開けとなった第一試合の初動は、誘いにのったフライちゃんからだった。
「いきますよ!」
掛け声を合図に一瞬で風を切り裂くような音が鳴り、次の瞬間、ポワゾンの前に移動したフライちゃんが錫杖を腹部に目がけて打ち放つ。
その動きに対して、ポワゾンがバックステップで後方に下がると同時、太ももに忍ばせていたナイフを投げ放つ。
顔面に目がけて放たれたナイフを素早く錫杖を使い叩き落としたフライちゃんに布袋がさらに投げつけられる。
しかし、それを打ち落とすことなく、フライちゃんは回転すると同時に錫杖の先端で布袋を引っ掛けると中身をこぼすことなく、ポワゾンに向けて投げ返す。
返された布袋を避けたポワゾンは既に風魔法の詠唱を終わらせており、そのままフライちゃんへと撃ち放つ。
風の刃が無数に飛び交う中をフライちゃんが駆け出してポワゾンへと迫っていく。
「やりますね、ポワゾン!」
「フライ様にお褒めいただき、ありがたく思います。どうでしょうか? 勝利を譲っていただけたら嬉しいのですが?」
「面白い冗談ですが、それはできない相談ですね!」
フライちゃんの錫杖がポワゾンを捉えると同時に二本のナイフをクロスさせて、攻撃を防ぐポワゾン。
2人の激しい攻防に、会場からは逆に声が消え去ってしまっている。
声に使う神経を目に全力で使い、耳をすませて、一撃と一撃、武器と武器がぶつかる音の一つも聴き逃さないと言わんばかりの雰囲気に俺は軽く身震いしてしまった。
嫁と嫁が本気で戦う姿がここまで恐ろしいなんて、考えたこともなかった。
不謹慎だが、あの戦闘に巻き込まれたら、骨まで粉々になってしまうと素直に思ってしまうからだ。
初撃を見れば、フライちゃんが有利に見えた試合は、攻撃手段の多さと、計算された防御力を発揮するポワゾンが一枚上手にすら見える。
ただ、これで終わるようなフライちゃんじゃないって事実は俺や嫁ちゃん達、そして、対峙しているポワゾンが一番よく知っている。
そして、互いに距離を取った瞬間、ポワゾンがメイド服のエプロン部分につけられた紐を手早く外す。
外されたエプロンが一瞬で細長い筒に変化すると地面に向けて叩きつける。
カンっ! と鉄パイプを地面にぶつけたような音が鳴ると、エプロンだったはずのそれは武器へと姿を変えていた。
白い鉄棒を握り、駆け出していくポワゾン。
真っ向からそれを受け止めるフライちゃんの錫杖がぶつかり合った瞬間、誰もが予想だにしないような光景が広がった。
ポワゾンが操る鉄棒の先端が錫杖とぶつかったと同時に白い粉塵を撒き散らす。
その瞬間、ポワゾンが力を抜いたように、後ろに吹き飛ばされる──それと同時にポワゾンの手から火炎魔法が放たれる。
火の玉が粉塵に触れた瞬間だった。
“バンッ!”と音がなった瞬間、“ボンッ!”と凄まじい爆発が起こった。
爆風に俺は手を前に出して、守りの体勢に入る。
リングが粉塵に包まれ、フライちゃんとポワゾンが心配になり、飛び込もうとする俺がいた。
それを側で試合を観戦していたミア達も同様で、身を乗り出し、飛び込む寸前だった。
そんな俺達の気持ちを吹き飛ばすような大声がリングから響いていく。
「この程度で、わたしを倒すつもりですか、ポワゾン!」
リングには、無傷のフライちゃんと爆風によりメイド服をボロボロにしたポワゾンの姿があった。
「フライ様、さすがにそれは、やりすぎではありませんか?」
「愚問ですね。わたしに手傷を負わせたいなら、接近戦をオススメですよ」
「それこそ、悪夢のような結果にしかなりません。フライ様には毒も無意味でしょうに、本当に理不尽ですね」
「まだやりますか? やる気なら相手になりますが? ポワゾンどうしますか」
「ワタシの負けで構いません。相手が悪過ぎて、本当に落ち込みそうです──ご主人様のためにも、優勝という名の勝利をお願いいたします」
「任せるのです。必ず勝ってみせるのですよ」
ポワゾンが降参を認めた瞬間、会場からは、風船が破裂したかのような歓声が巻き上がった。
俺は2人が無事な事実に安堵していた。
2人がリングから移動するとミア達が駆け寄り、2人に声を掛けていた。
本来なら俺も混ざりたいが、今は無理な事実に現実は世知辛いと改めて感じる。
・第一試合〇──フライちゃん 対 ポワゾン──✕
・第二試合◆──メフィス 対 ミア──◆
・第三試合◆──ドーナ 対 黒騎士──◆
・第四試合◆──ニア 対 デジール──◆
・第五試合◆──リーフ 対 ウルグ──◆
・第六試合◆ウィル・アクシオン 対 アタンティフ・ヴァールハイト──◆
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




